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【はじまり~別れ】

「こちらはスレーン王国の国兵である!今すぐにドアを開けろ!さもなくば相当の処罰が課せられるぞ!」


三人の鎧を着た兵士が家の前に佇み、一人の兵士が大きな声でドアを叩く。スレーン王国はスレーン王が支配する王国であり、ここヌタの森も当然スレーン王国領土である




ギシシ…

「すまない…飯を食べてる途中だったんだ」


ドアが開き現れたのは巨大な筋肉を携えたマッチョ(トライン)であった


「「「おッ…オーク!!!!!????」」」

驚きのあまり兵士たちは剣を抜く

「いや落ち着け。よく間違われるが人間だ」


兵士はじっとトラインの顔を見つめる


「なんだ人間か…驚かせやがって」

「で、なんの用だ?こんな場所に兵士が来るなんて初めてだぞ」

「我々だって好きでこんな田舎に来た訳では無い!ある獣人を探してる。四人組の獣人だ。現在、奴隷商から逃亡している…この近くで目撃情報があった、何か知ってれば直ちに告白しろ。もし虚偽の発言をすれば監獄行きと心得たまえ」



きっと獣人とはマーリン達のことだろう。マーリン達は奥の部屋に匿っている。兵士の声に震え縮こまり、耳は下に垂れ下がっていた

「なぁマーリン?不味いんじゃねーか?」

「なにがだ」

「なにがってトライン(あいつ)が俺たちを差し出すかもしれねぇってことだよ」

「まさか…トラインさんが?そんなことする人とは思えない」

「いや裏切るかも…あの人間離れした巨体ですっかり忘れてたけど…トラインだって人間族よ……人間は信用出来ないわ」


マーリンは冷や汗をかく、さらにシーリンは詰め寄る

「あなただって分かってるでしょ?人間たちが私たちに何をしたのか……裏切る可能性は十分にあるわ」


カリンダは不安になりマーリンの服を強く掴む

「大丈夫だカリンダ…大丈夫」


刻々と時間が刻まれる…



だが一向に何も起きない


「にしても長いわね…何してんの?」

兵士を追い返すにしてはあまりに長い時間であった


「もしかして…本当に裏切ったんじゃ…」

「そ、そんな…」

「なぁ?あの窓から外の様子が見えないか?」


レクゼが木作りの窓を指さす


「俺が覗いて確認してやるよ」

「気をつけろよ」



レクゼが窓をゆっくり開き外の様子を伺う





「おいおい…嘘だろ…?」


「どうした?何があった?」

「来いよっ お前らも見てみろ」





他三人も同様に窓に近づき外を覗き込む





「フゥゥゥゥゥウウウウン!!!ハァハァハァ…フゥゥゥウウウウウウウウン!!!!!ハァハァハァ…フゥウウウウウゥゥゥウウウン!!!!!」


巨大なマッチョ(トライン)が巨大な鉄の(バーベル)でベンチプレスをしていたのだ



兵士がそれを物珍しく眺める

「うげーなんて奴だ!化け物かお前!」

「俺たち三人でも持ち上げられなかった鉄の塊を簡単に持ち上げたうえに上下運動とは!」

「なんだあの胸!まるで山脈だ!オークなんか目じゃないぜ!!!」


ドカン!!!!!

「どうですか!この筋肉!大胸筋!パンクアップしてるでしょう!?」


血管が浮き出た大きい大胸筋を兵士にまじまじと見せつける


「パン?はよく分からないが面白い物を見せてもらった!ギャハハ!俺たちはもう行くよ!邪魔して悪かったな!」




兵士たちは満足そうにしながら、その場を去っていく。兵士が見えなくなったのを確認するやトラインは家に入り、マーリンたちを呼ぶ

「安心しろ!もう兵士は行った!」


マーリン達が奥の部屋から出てくる

「あ、ありがとうございます!…な?言っただろレクゼ!裏切る人じゃないって!」

「あ、あぁ俺が間違ってたよ…」


今にも泣きそうで不安がってるカリンダを見たトラインは声をかける


「安心しろカリンダ。ここにいる間は俺が必ず守る。ここ筋肉に賭けてだ!約束しよう」


カリンダはトラインを見つめる。その瞳に映るマッチョは不安で異質な存在と感じながらと妙に安心感と信頼感があった

そしてカリンダの胸が大きくトキメきポカポカする。カリンダにとって初めての感覚であった




「なぁ?マーリン、失礼でなければ事情を聞いても構わないか?」

マーリンは他の三人の顔を合わせ頷き合う

「…………はい…トラインさんには全て話します。なぜ兵士に追われているのかを…」


トラインとマーリンはテーブルを挟んで座り、事の顛末を説明した



______________________________




現在スレーン王国はスレーン三世が支配しており、八大神の一人〝オルドゥイン〟を一番信仰神として崇めている。オルドゥインは人間を創造した神とされており、人間という形は神が与えた最高の贈り物と考えている


「ご存知の通り、人間が誕生したときは獣人族もリザード族、オーク族などの亜人もいませんでした。ではなぜ亜人が誕生したのか…それは私たちの先祖…つまり獣人族やリザード族も元は人間だったのです」


古の時代、一部の人間は過酷な環境の適応や優れた能力を手に入れるため、自分の体を魔法によって変化させた。


ある者は獣のような能力を…ある者は巨大な力を…ある者は水中で息が出来るよう


そうやって生まれたのが亜人である


「神が与えた人間の器を魔法によって変えることは冒涜である、それがスレイン王の考えなのです。魔法によって姿を変えた全ての亜人は人間に劣る存在であり、奴隷にしたり虐殺をおこなっても構わないと考えてます」


レクゼが膝を大きく叩き、悔し涙を見せる

「クソっ!俺たちは普通に生活していただけだ!突然奴らは俺たちの村に押し入り奴隷として連れ去った!」

「私の家族も何人か殺されたわ…」

「私たちは運良く奴隷商から逃げて、この森まで来たのです」


トラインは深く頷く


「なるほど…そういうことだったのか…俺は何も知らなかった…だが無知は最大の罪だ!同じ人間として謝る!申し訳ない!」


ガッとトラインは頭を勢いよく下げる

頭はテーブルを突き破り真っ二つに割れてしまう


「申し訳ないぃぃぃ!!!!!!」

テーブルが粉々に砕けても、トラインは頭を下げたままであった


「かかか!顔を上げてください!!!トラインさんが謝ることではありません!むしろ助けて貰ったのにお礼も出来ず申し訳ないのはこっちです!てか…テーブルがッ!!」


「気にしないでくれ。いつもの事だ…それより、これからどうするんだ?逃げても奴らは追いかけてくるだろう?」


「し…心配は要りません、実はこの森を抜けた先に、オリエルトスの洞窟があります。その洞窟で協力者が待っていて、合流次第に国を脱出する算段となってます」

「信頼出来るのか?」

「えぇまぁ…奴隷商から逃げたあとに知り合ったのですが、大金次第で国外へ逃亡させてくれるプロがいるのです」


「…金?奴隷の身だったのに金の工面は出来たのか?」


「えぇ、我々獣人族が隠してる財産の在処を教える代わりに、国外逃亡を約束してくれました。信頼出来るかは分かりませんが、今の我々にはその人に託すしかありません…」

「そうか…」







あたりは夕焼けのオレンジ色に包まれる頃、マーリン達は家を出てトラインに別れを告げる


「なぁ?もし良かったら、俺が途中まで護衛しても構わないのだが?道中で野盗や魔物がいるかもしれない」

「いえ!そこまでしてもらう訳には行きません。命の恩人を危険な目に合わせる訳にはいかないので!」

「こう見えてもマーリンは一応魔法には長けてるんだぜ、安心してくれ!」

「まぁネズミに食われそうになったけどね」

「余計なこと言うなよ!」

「ふっ」


一同は和やかに笑い合い。そして別れを告げた

「では…気をつけて…」


バサッ

トラインが足元を見ると、カリンダがトラインのズボンをギュッと掴んで落ち込んでた


「こらっカリンダ、そろそろ行かないと!トラインさんに迷惑掛かるだろ?」

しかしカリンダは嫌そうにトラインのズボンを掴んで離さない

「困ったな」「トラインさんに懐いちゃったみたいね」


トラインは優しい声を掛け、カリンダの頭を撫でる

「安心しろカリンダ…俺の上腕二頭筋を見ろ!この筋肉はとても敏感なセンサーだ!」

「…センサー?」

「あぁ!もし何かあったらすぐに俺の名前を叫べ!必ず駆けつける!だから安心して行くんだ」


カリンダはトラインの顔を見つめる

「本当に?」

「あぁ本当だ!俺は必ず約束を守る!この筋肉に誓ってだ!」


カリンダは深く頷く



「うん…分かった…」




マーリン一行は最後の別れを交わし、トライン家を後にする




道中、カリンダはトラインがいた家の方をじっと見つめる

「好きになったのか?」

マーリンがカリンダに問いかける

「え!?い…や!…違う…うぅんでも…」


カリンダは顔を真っ赤にしながらも問いかけに答える


「人間はみんな怖い人ばかりと思ってた…でもトラインは…凄く安心した…ずっとあの場所にいたかった」

「そうか…今はどうだ?不安か?」

「少し…不安…」



不安そうなカリンダにマーリンは語りかける

「安心しろカリンダ…今までだって何とかなったんだ、きっと上手くいく…この国を必ず脱出しよう…二人で安全に暮らすんだ…」


「うんっ…」



カリンダは夕焼けを見つめる。オレンジ色はすっかり鮮やかな赤色に染まり、その赤色はまるで不吉な前兆かのように四人を包み込んでいた

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