【はじまり~食事】
【スレーン王国領】【ヌタの森中心部】【主屋】にて
「怪我はどうだ?」
「はい…なんとか」
負傷したマーリンは治療され腕や胸に包帯が巻かれた
「カリンダの治癒魔法で何とか軽い怪我にまで回復出来た…ありがとう」
4人ともテーブルを囲っており、キッチンの方からはマッチョが料理をしてる音が鳴り響いてる
「俺が近くにいて運が良かった、マグドロスはここでもたまに見掛ける凶暴なモンスターなんだ。数キロ離れた村からも被害が出てるらしい」
4人に背を向け黙々と料理を作るマッチョマン
そのマッチョマンの背中は……
((デカイ!!))
そう思わずにはいられなかった
「なぁ人間さん名前はなんて言うんだ?ほらっ自己紹介してないだろ?」
椅子に腰掛ける獣人の一人レクゼがマッチョに語りかけるとマーリンはすかさず注意をした
「バカ!こっちが名乗るのが礼儀だろ!命の恩人だぞ!」
「あっすまんすまん」
「失礼しました…私は〝マーリン〟あっちの失礼な態度の男は〝レクゼ〟こっちの女性は〝シーリン〟この二人は夫婦なんだ、そしてこの子は私の妹の…」
「カ…〝カリンダ〟ですっ!」
カリンダは顔を真っ赤にしながら挨拶する
マッチョは調理をしながら首を後ろにやり、カリンダにニコリと白い歯を魅せる「いい名前だっ」
カリンダはさらに顔が赤くなる
「重ね重ねだが、本当に命を助けて頂きありがとうございます」
大男はキッチンから大皿を持って出てくる
「いやいや大したことじゃないよ。みんな無事でよかった。俺の名前は〝トライン=メルポン〟 気軽に〝トライン〟と呼んでくれ」
トラインはテーブルにドンと大皿を置いた
「お、美味しそう…」
「すっげー!豪華じゃん!」
「まぁ!美味しそうだわ!」
「凄いですねトラインさん!料理がお得意なのですね!」
食卓には、さきほど絞め殺したマグドロスとは思えない豪華な料理がずらりと並ぶ
【もも肉のジューシー唐揚げ】【蒸した胸肉のゴマサラダ】【血液とあらびき肉と香辛料の腸詰】【柑橘ソースのロースステーキ】【雑穀米の炊き込みご飯】【コトコト煮込みのタンシチュー】
「あぁ一人暮らしだからな、自炊は得意なんだ!遠慮は要らないよ!どんどん食べてくれ!!」
マーリンも席に着くと、4人は一斉に食べだした
その食いっぷりを見るに、マトモな食事を取るのもひさしぶりかのような食らいつきであった
「美味い!」「こんな美味い料理は初めてだ!」「さっきまで俺たちを襲っていた奴がこんなに美味しいとは」
「マグドロスは脂肪が少なめで赤身が多く筋肉質でな、たまに捕れる豪華食材ってやつだ!」
ふとレクゼはキッチンにあるマグドロスの巨大な肉塊を指さす
「トラインさん、あれは保存食かなんかにするっすか?」
「あぁあれな…あれは食べられないんだ。マグドロスの胆嚢の部分なんだが、可燃性でよく燃える。冬の暖房やサウナの燃料に使う予定だ。ちなみにあの塊に火が付こう物なら、この家が吹き飛ぶほどの大爆発が起きるから気を付けてくれ」
「爆発!?おっかねぇ…」
和気あいあいと食事が進む
「一つお聞きしたいんだが、なぜ森で全裸だったんですか?」マーリンの突然の質問にドキっ!とカリンダが動揺する
「お兄ちゃんッ!ななな!何聞いてるの!」
「ハハッ!もしやカリンダ!男の裸を見るの初めてってかー!?」
「コラっあんまりカリンダを揶揄うのは可哀想よ!」
「わりぃわりぃ」
トラインは照れながら答える
「いやぁ恥ずかしい、実は俺はこの森でトレーニングをしててね」
「トレーニングですか?」
「あぁ、俺がヌタの森のど真ん中に家を持ってる理由でもあるんだが、ここはいいトレーニング場になってるんだ。岩を持ち上げたり崖を登ったり、川を泳いだり…裸なのは単純に服が邪魔だし、すぐ【ゴミ】になるからね。それで近所迷惑にならないように森の奥で農業しながら一人暮らしをしてるってわけだ」
「もしやその筋肉はトレーニングで?」
「あぁこの筋肉かい?どうかな?」
「はい!とても素晴らしい筋肉ですね!」
「なんだと…?」
場が瞬時に凍る
「(ど、どうした?ぼく…何か失礼なことでも言ったのか?)」
「ききき、きん、きん、ききき、きき!」
トラインが震え出し、テーブルは地震のように揺れる
「ト…トラインさん!何か失礼なことを!?もし失礼な事を言ったのなら謝りま…」
トラインが瞬時に立ち上がると、その刹那、トラインの服が背中からビリビリと破け散り巨大筋肉の裸体が姿を表した
「マッチョォォォォォ!!!!!!パワァァァァァァ!!!!!!」
「「「えーーーーー!!???」」」
一同は驚愕する
「そんな事言われたら!嬉しいじゃないか!喜びのサイドチェスト!からの~サイドトライセップス!そこからの~」
ガッ!ガシッ!!
「アブドミナル!アンド!サイィ!!!!」
呆然となる4人に構わずポージングを行うトライン
「マーリン!」「は!はい!なんでしょう!?」
「私の筋肉!どの部位が一番かな!?」
「ぶっ部位ですか!?えーと…」
ジーと見ながら考える
「え、えっと…胸ですかね」
「大胸筋か!!!君結構王道を行くねぇ!!!!」
左右の胸が交互にピクピク動く
「シーリン!」「はい!」
「君はどれが一番かな!!」「えっと…お腹?」
「腹直筋か!みてくれこの割れ目!最高だろう!」
シックスパックの山が波を描くように揺れる
「え…えぇそうね…」
「レクゼ!」「おっ俺!?俺はえーと足?」
「太ももとは!結構通だね!!嫌いじゃないよその感性!」
太ももが鉄の様にキュッっと固くなる
「カリンダ!君はどれが一番好きだい!?」
「え?わ…わたし…ですか…?」
カリンダは恥ずかしそうにモジモジしながらも小声で答える
「う…腕…かな…」
その言葉を聞くや、トラインの頭上に衝撃が落ちる
なぜならトラインが一番褒めてほしいところ
それは腕なのだ
「ウォォォォォォォォォ!!!!!」
「え!?急に泣き出してどうしたのですかトラインさん!?」
「俺は猛烈に感動している!!!マーリン!君の妹はなんて素晴らしいんだぁ!!!!」
泣き出すトライン、それをあやすマーリン
その光景を呆然と眺める三人という、何とも異常な空気に包まれる
「きっとよっぽど褒められたことが無かったのね…」
「俺も人間族であそこまでの筋肉は初めて見るぜ、まるでオークやトロール並だな」
「め…珍しいの?」
「えぇそうね、この世界において魔道士こそが最高の存在とされている。貴族や身分の高い人はみんな魔導師を目指すわ。魔道士は筋肉を付ける必要が無い…。筋肉を鍛えるのは平民出身の剣士か荒くれ者ね。そのためマッチョは下等と見なされてるの」
「へぇー…」
カリンダは泣いてるトラインを見つめる
「(きっと苦労したのかな…私たちみたいに…)」
ドンドン!!!!ドンドン!!!!
ふと玄関の方からドアを乱暴に叩く音が鳴り響く
「誰だ?こんな所に来るなんて珍しい」
「開けろ!誰かいるんだろ!!早く出てこい!!!」
ドアの向こうから怒号が飛び出す
「一体誰だ?横柄な奴だな…」
ドアの向こうにいる人が何者なのか…獣人4人は察しが付いた
「兵士だ…!」
「きっと俺たちを捕まえにきたんだ!」
「お、落ち着け!」
「い…いや…いやだっもう、奴隷には戻りたくないっ!」
ただならぬ顔をする4人を見たトラインは状況を察する
「奥に隠れろ…」
「トラインさん…!」
「大丈夫だ…ここは俺に任せろ」