【 これが俺の筋肉道 】
【アケノ山】【山道中】
「終わったのね…」
「えぇ、私の魔法で彼の行動魔法を上書きしました。魔獣たちが一切動かなくなるように…」
「アンタ、ますます怪しくなってきたわ。てかサイキック協会ってなによ?」
「それはまたの機会に話します」
街が大人しくなったことを確認したリドルとエロ―ナは拘束されたグリープの元まで行く
「クソッ畜生!!」
「諦めてください、あなたを国に引き渡します」
「まてっそんなことをしたら…ッ!!」
「えぇ、あなたはスレーン王国の魔術師ですから敵対してるオルバニア帝国に捕まったとすれば間違いなく王国に迷惑が掛かるでしょうね」
「そ…そんなッ!!それじゃ私は終わってしまうッ!!」
「どちらにしても終わりですよ。あなたがなぜ、わざわざ街を襲撃しようとしたのか、大まかに見当が付いてるんですよ」
「なんだってッ!?」
ここでリドルはグリープがなぜ街を襲撃するに至ったのかを説明をはじめた
「当初の目的はカリンダさんの捕獲だけだったんでしょう。しかし途中でアクシデントが起きたのでは?」
「ギクッ…!!」
「アクシデント?どういうこと?」
「考えてもみてください。カリンダさんを捕まえるために、わざわざ王宮魔術師が出向くのは分かります。しかし、たった一人で来てることが謎なんです。普通であれば部隊として何人か連れてくるはずです」
「そういえば他にスレーン王国の人は見てないわね」
「きっと何かのアクシデントに見舞われて他の仲間が全滅したんだと思います」
グリープは図星と言わんばかりの顔をしていた
「どうして全滅をしたのかは分かりませんが、このままカリンダさんを王国へ連れて帰っても王宮魔術師の面子は丸つぶれです」
「なるほどね、だから敵国の街を一つ潰したっていう土産が必要になったってわけね」
「その通りです、完璧な計画のはずだったのに運悪く僕たちがいたことで計画は大失敗ってわけですよ」
「…失敗だと…?フッ!!ハハハハハハッ笑わせるな!!」
グリープは突然おかしくなったかのように笑い出した
「ちょっとコイツなんか笑ってるんですけど!!なんかめっちゃ怖いんですけどッ!!」
「まだ何かあるっていうんですか?」
「クククッお前らすっかり忘れてるようだな」
「忘れてる?なんの話よ??」
「あの獣人娘のことだッバカめッ!!何人かが洞窟に助けに向かったようだが残念だったなッ!!もうアイツらはこの世にはいないぞッ!!なぜならテレブレアは最強の殺し屋にして最強の魔術師ッ!!あとメチャクチャ契約料高かったんだッ!!きっと連中は今頃ズタズタのギタギタにされて鍋の材料にでもなって…」
「おーい エローナリドルー、そっちは大丈夫かー」
トラインの声が聞こえてくる
「あっ!!トライン!!カリンダちゃんッ!!!」
「無事で良かったです」
「え…?そんな馬鹿な!!!」
グリープは首を後ろに向き、この目で確かめた。確かに奥から巨大なマッチョがカリンダ抱え歩いてきてる
「う…うそーん」
「良かったお前らも無事で…」
「カリンダちゃんは無事なのでしょうね!?」
「あぁ気絶しているだけだ。命に別状はない」
「良かった…本当に良かった」
エローナも感極まって涙を流した。リドルはギルドメンバー二人がいないことに気が付いた
「あれ?二人のギルドメンバーはどうしたんですか?ま…まさか」
「あぁ、彼らか……
___二人とも無事だ。一時は死んだかと思ったが、カリンダの回復魔法のおかげで命拾いしたようだ。今は気を失ってるから俺が安全な場所に移しておいた」
「そうですか、何はともあれ全員無事で何よりです」
「でーこれからどうするわけ?このバカな魔法ジジイよ…。トラインもせっかくだから一発殴ったら?こいつのせいで散々な目にあったんだし……」
トラインはグリープを強面で睨みつける
「ヒッ!!!暴力だけはやめてくれっ!!」
だがトラインは微笑む
「ふっ俺は不要な暴力はしないさ。それは【マッチョの掟】に反するぜ」
「でたでた…謎のマッチョの掟」
「まぁ彼は帝国が身柄を引き取るでしょう。少なくともこれから地獄の拷問が待ってるはずです」
「いや帝国に差し出す前に、俺はコイツに聞きたいことがあるんだ」
カリンダをエローナに預け、トラインはグリープの胸ぐらを思い切り掴む
「ひぇッ!!ななな なんだッ!?」
「一つ聞きたいッなぜカリンダを狙うッ!?王宮魔術師をわざわざ派遣するほどの価値がカリンダにあるってことか!?コルシファーは何を企んでるんだッ!!」
「ほう…企みを知りたいと?」
「あぁそうだ!目当ては強力な回復魔法か!?」
「クククク、お前分かってないんだな」
「なんだと…?」
「あの娘の特性が強力な回復魔法だけだと思い込んでるようだな。だがそれは違う、あれは正に神に選ばれた子供だッ!!まさに時代をッ!!世界を変える…ッ!!コルシファー様の崇高な計画を知りたいのかッ!?ハハハッハハハハハハハハッ」
「てめぇ…何言ってるんだ」
「私が死んでもコルシファー様の野望は止められない」
「ちゃんと応えろ!!!コルシファーは何をするつもりなんだ!!!」
先程までの慌てぶりとは打って変わり、何故か余裕を見せ笑い出すグリープにトライン達は不気味がる
「ハハハハハハハハッあひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ」
「こいつ…狂ってやがる…」
「ひゃひゃひゃ…ふぅ……。それにしてもいいのか~?呑気にここにいて」
「どういうことだ?」
「街をよく見てみろーうひゃひゃひゃッ!!」
「…街?」
トラインが街の方を振り返る
「嘘だ…まさかそんなッ!」
「そんな!!なによあれッ!!」
リドルとエローナが騒ぎ出していた
「どうした!!」
「魔獣たちが合体して…巨大な魔獣に…」
リドルの言う通り街の方を見てみると魔獣が次々と合体して1つの塊と化してるのが分かる
「おいジジイっ!これはどういう事だッ!?」
「ククク、ワシの行動魔法が機能しなくなった時の保険さ。一定時間ワシから行動魔法の操作が行われなくなれば、魔獣は周りの魔獣を取り込んで驚異的な進化を遂げる。つまり強大な1つの魔獣になるのさ」
「なんだって!?」
「そうなればもう誰も止められないッ!ワシの命令すら聞かない殺戮マシーンとなるのさ!!」
「本当なのかリドル!?」
「えぇ魔獣研究というのは突き詰めれば限界は無いと言われています。彼が言うような事が起きてもおかしくはありません」
突如、魔獣の轟声の衝撃が山にまで響いてくる
「うっ鳴き声だけでなんて威力だッ」
「ありゃ街の兵士だけじゃどうにもなりませんね」
トラインはすぐさまグリープを問い詰める
「おいっ!!どうやったら止められる!!」
「ハハハッ言ったはずだぞッ!!誰にも止められないッ!!!ワシですら最期の手段として用意して置いたんだ!!ぶっちゃけワシも用意して後悔してるレベルじゃぁあぁッ!!!」
「クソォォォオオオオオッッ!!!!」
トラインはグリープを思い切りビンタして吹き飛ばす。木々に激突したグリープはその場で気絶した
「大人しくそこで寝てろ!!」
トラインはすぐさまエロ―ナの元まで行く
「どうするのよ!!さらに大きな魔獣とかもう終わりよ!!」
「私も先程の魔法で体力がありません…。せめて回復ポーションさえあれば」
トラインはリドルに尋ねる
「リドル、今すぐ俺を街まで飛ばせないか?」
「トラインさんを飛ばす?方法にこだわらなければ物理的に飛ばす魔法はあります」
「魔力が残ってるなら、俺を飛ばしてくれッ!!」
「トラインさんを飛ばす程度の魔力はありますが…、どうするつもりですか?」
「俺があの場に行って…魔獣を倒すッ!!」
今までトラインの突拍子な発言を受け入れてきたエロ―ナも今回ばかりは反対する
「まってッ絶対ダメッ!!あんな巨大な魔獣と戦うつもり!?いくらアンタでも無茶よ!!」
「無茶なのは分かってるさ、だが街の人間で魔獣を倒せる可能性があるのも俺だけだ」
「確かにそうだけど…」
「安心しろ、俺は必ず生きて帰る」
真っ直ぐな目で答えるトラインにエロ―ナは反対することが出来なくなる
「…約束よ。もしカリンダちゃんを悲しませることをしたら私許さないからね」
「あぁ分かってる。頼むリドルッ!!」
リドルは杖を召喚して魔方陣を形成する
「ではトラインさんを飛ばします。その後で私も街へ向かいますから」
「あぁ分かったッ!!」
魔法を唱えるとトラインの体に青いオーラが纏わり少しだけ宙に浮く。リドルも少しばかり苦しそうだ
「あぁ…ちょっと重いですね…」
「知ってるか?」
「何がですか」
「筋肉は脂肪より重いんだ」
「では重いのも無理ありませんねッ!!」
リドルが杖を思い切り上げた。トラインは高速で吹き飛び、弧を描くように街の方まで飛んで行った。徐々に小さな点になるトラインを眺めるリドルとエロ―ナ
「ご無事で、トラインさん…」
「…ねぇリドル、ちょっといいかしら」
エロ―ナが質問をする
「はい、なんでしょうか?」
「思ったんだけど…
___あれどうやって着地するの?」
「あ……」
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【グルメイン】【外壁エリア】
巨大獣の鉤爪による破壊力は地面を抉るほど強烈であり、その威力で周りの兵士たちが吹き飛ぶほどであった。巨大獣は街へ向かおうと進撃するがギルドマスターの強力な防壁魔法によって遮られていた
巨大獣は鉤爪で防壁を攻撃するも弾かれる。しかし徐々に防壁にもヒビが入ってきた
「クッ…もう…限界じゃ……」
ギルドマスターの体力が限界を迎え、防壁魔法が粉々に崩れ去ってしまった
「まっ…まずいっ!!!魔獣が街に入るぞ!!!」
「もうこの街は終わりだぁッ!!」
防壁が崩れたことによって街の人々はパニックに陥った
「逃げろぉおお!!!踏み潰されるぞ!!」
「裏門から外に逃げるんだぁ!!!」
「助けてぇぇぇええぇ!!!」
パニックはコールドが入院している病院にまで届く
「もう重症患者は無理だ!!軽いけが人だけでも連れて逃げるぞ!!」
病室で意識不明のまま眠るコールドに付き添うタルトは、病院の関係者にも退避するように促されるがタルトは頑固として拒否した。眠るコールドにタルトは語り掛ける
「大丈夫ですコールドさん、トラインさんがきっと何とかしてくれます…」
ついに巨大獣は鉤爪で外壁を破壊する。吹き飛んだ瓦礫は壁の傍にあった建物に衝突して連鎖的に崩壊する。その圧倒的な力に兵士やメンバーも呆然としていた
「もう終わりだべ…」
「アドバンテイル級のギルドメンバーでもいればこんなことには…」
「せめて家族が逃げてくれてることを祈るばかりだ…ん?」
「なんだどうした?」
「なんだあれ…人が空から降ってきてる…」
「おいおい…ついに幻覚でも見え始めたか?」
「いやっ本当に人が空に…ッ!!」
兵士が指を差した方向を見ると、確かに何かが巨大獣目掛けて飛んできてるのが分かる
「あれはなんだ?鳥か!?魔法使いか!?」
「いや、違うッ!!…
___〝マッチョ〟だッ!!マッチョが空を飛んでいるッ!!」
「…ッ!?まてッあれはトラインじゃないかッ!?」
「本当だべ!、あれはトラインさんだべー!!」
「そりゃあんな筋肉を持ってるのはトラインぐらいだろ…」
高速で落ちるトラインはどうやって着地しようかと悩んでいた
「(あぁどうしよう、何も考えずに飛んで来たがこのままじゃ地面に激突して最悪の場合 骨折するなぁ………ん?)」
ちょうどトラインが落ちる場所にはお目当ての巨大獣がいた
「よしッ決めたぜッ」
トラインは剣を抜くと巨大獣の首に目掛けて突き刺した。落下の衝撃で首から背中まで斬り落ちることで摩擦で徐々に落下の衝撃を和らげるのだ。突然背中が斬られたことで巨大獣も痛みで声を上げる。無事に落下スピードを弱め着地する
巨大獣は標的を街からトラインに移す。その巨大な風貌は、これまで目にしたトロールやゴライザンですら豆粒に思えるほどであった
「でけぇ…初めてだが俺の筋肉が小さく思えるぜ」
巨大獣は奇声を発すると鉤爪でトラインへ目掛け振り下ろす。トラインが全速力で避けるも強力な攻撃は地面をえぐって揺らすほどであった
「さすがに重たい攻撃だな…だが動きは鈍いッ!!」
トラインは剣を振り下ろし巨大な前足に斬り込む。さらに何発か斬り込んでダメージを負わせるも、巨大獣が倒れる決め手にはならない。さらにギルドマスターから貰った魔式の剣は徐々にガタがきた
「くそッ大きすぎて全ての攻撃が雀の涙だッ!!」
トラインは巨大獣の頭に注目する。やはり弱点である頭を狙うしかない
「うぉぉぉぉぉぉぉぉおぉぉぉおおお!!!!!!パワァァアアァアァァァァァァァァアアアアアァァァア!!!!!!!!!!!!」
トラインは剣を口にくわえると巨大獣の皮膚を掴んで登り始める。その光景に兵士たちは驚愕する
「あ…あいつ何やってるんだ!?」
「きっと頭を狙うつもりだ」
「すげぇッ!!!あの巨大な筋肉を持っていながら軽々とッ!!」
トラインが巨大獣を登る姿はまさにクライミングである
「(クライミングには腕の力だけではなく広背筋や大胸筋が重要になってくる!!農家時代に毎日崖昇りをしてきた努力がここで報われてるぜ!!)」
しかし巨大獣も黙ってはいない。登ってくるトラインを振り払うように巨大な体を揺らす。揺らすと言ってもトラインからすれば、まるで天地がひっくり返るほどの衝撃であった。しかしトラインは自慢の腕力と持久力をもって巨大獣の抵抗を耐える
「(俺が極限まで鍛えた上腕二頭筋と上腕三頭筋は絶対にお前を離さないぜッ!!)」
鍛えられし上半身の筋肉を駆使して登っていく。そしてついに巨大獣の肩までたどり着く
「よしッ次は下半身の筋肉だぜッ!!」
トラインは自慢の脚力で一気に顔まで登っていく。途中で振り落とされそうになっても体幹を駆使して何とかその場を維持した
「(俺は学んでいる!!走る時に必要なのは大腿四頭筋だけじゃない!!ハムストリングスも重要なんだぜッ!!)」
巨大獣の顔まで近づいたトラインは全体の筋肉をフルパワーで駆使して頭頂部まで登っていった。ここまで全身の筋肉を駆使したトラインは【オールアウト】寸前だ
「(パワー温存は関係ねぇッ!!この一撃で決めるッ!!!)」
頭頂部に登ったトラインは疲労しながらも剣を構える。これで決めなければ街も街の人々も終わる。最初で最後の一撃を胸に、全ての筋肉に力を込め剣を振り下ろした
「いけぇぇぇえええええぇえぇえええええええええええええ!!」
だがしかし・・・剣は頭部に突き刺さったが、その頭蓋骨の硬さによって剣は真っ二つに折れてしまう。当然これでは致命傷にはならない。トラインの頑張り空しく筋肉に力が入らなくなった。完全に【オールアウト】を起こしたトラインは膝から崩れる
「クソッここまでなのかッ…」
巨大獣が頭を揺さぶるとトラインは為す術もなく振り落とされる。受け身も取れないために、このまま落ちれば命の保証は無い。仮に無事に落ちたとしても巨大獣に踏まれるだけだ
だがそれでも…トラインは諦めなかった
「動けッ!!俺の筋肉ッ!!!」
オールアウトして動かない筋肉に必死で命令をする
「頼むッ!!動いてくれぇぇぇえ!!!」
しかし無情にも巨大獣は落下中のトラインを見逃さなかった。鋭い鉤爪はトラインへ目掛けて襲いかかる
「俺は絶対にこんな所で死んじゃいけねぇんだッ!!みんなが…カリンダが俺を待ってるんだぁぁぁあ!!!」
巨大獣の鉤爪が間近まで迫った次の瞬間、巨大な火球が巨大獣の腕へ目掛けて落とされる。その反動により鉤爪はトラインをギリギリ掠める形で振り落とされた
「なんだッ!?」
気づけばトラインは、自分の体が上昇していることに気がつく
「どういうことだ!?体が浮いている」
「ふぉっふぉっふぉっ…それは浮遊魔法じゃよ」
声の方に振り向くと、そこにはギルドマスターがいた
「あんたは…!ギルドの偉い爺さんじゃねーか!!」
「ふぉっふぉ、まさか筋肉を駆使して頭頂部まで登るとわ、魔法要らずで羨ましいわい」
ギルドマスターはトラインに瓶を投げ渡す
「これは…?」
「ワシが所有する回復ポーションじゃ!しかもただのポーションではないッ!恐らく世界で数本しか無いだろう最高品質のレアポーションでー」
「ありがとうな爺さん!ありがたく貰うぜ!!」
トラインはポーションを一気に飲み干す
「あのぉせめてこのポーションがいかに凄いか知って欲しかったんじゃが…、まぁ緊急事態だし仕方ないのぉ…」
「すげぇ!!なんだか力がみなぎってくるぜッ!!!」
ポーションを飲みきったトラインは力が回復するだけではなく、全身の筋肉がパワーアップしたかのように感じる
「このポーションは回復だけでなく能力増加のバフも掛かるでのぉ。さらに強くなってるじゃろう」
巨大獣は体の構造上、真上を向けれないようである。上空から頭を狙うには絶好のシチュエーションだ
「残念ながら、あの魔獣は耐魔法属性が備わってるようじゃ。わしの全力の火球魔法でもビクともしなかった。もちろん魔獣を倒せる魔法はあるが街を巻き込んでしまう。現状で魔獣を倒して、尚且つ街を救うことが出来るのはトライン!お前さんだけじゃ!!」
「あぁ分かってるぜ 魔獣は魔法に強いぶん、物理にはめっぽう弱い。俺の全力のパンチなら魔獣を倒せる!!」
トラインはギルドマスターに指示して限界の高さまで上昇してもらう
「こんな高さから本当に落として大丈夫かい?」
「あぁ、少なくともあの頑丈な頭蓋骨を割るには落下の加速も必要になるッ」
「ふぉっふぉっふぉ、やはりお前さんは素晴らしい!!わしはお前さんを気に入ったぞッ!!」
トラインは両手を使ってきっちりと目標を見定める。巨大獣は文字通り巨大だが対して頭は小さめだ。落下する場所が誤れば頭蓋骨に着地せず、地面に落ちるだろう。文字通り一発勝負であった
___時刻は気づけば明け方となっていた。月は沈み太陽が昇りかけている。朝の光が照らされ巨大獣の頭が正確に捉えることが出来た
「見えたッ!!ここだッ!!」
「…覚悟は良いか!?」
「あぁッじいさん頼む!!」
ギルドマスターはトラインの浮遊魔法を解除する。トラインは空気抵抗をなるべく抑えるため頭を真下にしてそのまま急降下していった。その光景は街に向かう途中のエロ―ナとリドルも目撃した
「ちょっとあれって…トライン!?」
「まさか、魔獣の頭に目掛けて落ちてるのですか?凄いですね…」
「…?。‥‥トライン…?」
エロ―ナにおぶられていたカリンダが目を覚ます。三人はトラインが巨大獣目掛けて落ちていく光景に目を丸くする。さらに外壁で見守っていた兵士やメンバー達もトラインの行動に驚愕していた
___トラインは巨大獣の脳天へ真っ直ぐ落ちていく。少しでも場所が誤れば当たることはない。慎重に体を調整しながら頭の位置を目指す
しかし巨大獣は何かを察したのか大きく動き出す
「ッ!?…まずいッ動かないでくれッ!!!」
巨大獣が大きく動けばトラインの落下範囲から大きくずれることになる。しかし巨大獣は街を目指して動き出そうとしていた
「くそッ!!ここまでなのかッ!!」
しかし突然、巨大獣の動きが止まる
___なんと兵士やメンバーがロープを駆使して巨大獣の動きを止めていたのだ
「魔法が使えるものは縄を魔獣の足に括りつけるのだ!!他の者たちはとにかく引っ張れ!!全員で協力して魔獣の動きを止めるのだッ!!」
「み みんなッ!!」
「一人だけカッコつけるのはダメだぜ~トラインッ!!」
「おうよっ!!俺たち兵士やギルドメンバーだって街を守るんだッ!!」
「いけぇぇえぇえ!!マッチョぉぉおお!!」
しかし巨大獣は必死の抵抗をみせる、拘束していたロープが次々と引きちぎれていった
「クソっやはり俺たちだけで動きを止めるのは難しいか!…?」
「大丈夫ですッ私もいますッ!!!」
突如として巨大獣の真下に魔方陣が描かれる。そこから鎖が出現して巨大獣を拘束した。それはリドルの拘束魔法であった。しかしこれでも巨大獣の動きを完全に封じ込めるのは厳しい
「やはり魔力が残り少ない私では力不足ですか…」
「ほう…上級の拘束魔法か、ならワシも力になろう」
「…ッ!?ギルドマスターッ!?」
なんとギルドマスターもリドルに加勢したのだ。ギルドマスターの協力の甲斐あって、巨大な魔方陣が描かれる。そこから数えきれないほどの鎖が出現し巨大獣を縛り付けた。巨大獣は轟声をあげ抵抗をするが身動きが全く取れない。まさに今がチャンスである___
「いけッ!!トライン!!」
「勝てットラインッ!」
「トライン…」
「「「「トラインッいけぇぇえぇええええッ!!!」」」」
全員の想いが一つになる
「あぁ伝わってくるぜッ!!みんなの声が…俺の筋肉になッ!!!!」
トラインは拳に、そして全ての筋肉に力を込める
「オーガルさん!!…ラフィーナッ!!…カリンダ エロ―ナ リドル タルト コールド マーリン レクゼ シーリン!!みんなッ!!!」
今は亡き者達、旅で出会った人たち、そして今いる大切な仲間。そのすべての人々の想いに応えるために。トラインは大きく構え、全力で振りかぶった
「これが俺の筋肉道だぁぁああぁあぁあぁあぁあぁぁぁああぁぁああぁ!!!!!!!!!」
巨大な破裂音は街全体に鳴り響く。巨大獣はうなり声を発すると静かにその巨体が灰のように崩れていった
「…勝った?」
「ど…どうなんだ?」
最初は疑心暗鬼だったみんなも巨大獣の崩れていく姿に、次第に勝利を確信する
「「「「うおおおおおぉぉぉぉぉおお!!!!!!」」」」
「勝ったぞ!!俺たちは勝ったんだ!!」
「やったぞ!!トラインがやってくれた!!」
兵士とメンバー達が喜び合う中、エロ―ナとカリンダだけは険しい顔でいた
「トラインは!?あの筋肉バカはどこよッ!!」
「あっいたっ!あそこだよ!!」
巨大獣の崩れる残骸のなかにポツンと巨大なマッスルボディーがみえてくる。しかし様子がおかしい
「まさかアイツッ気絶してるんじゃないの!?」
「そんなッ!!」
カリンダとエロ―ナはすぐさまトラインの方へ向かう
「トラインッ!!!!」
「起きてットライン!!」
しかしトラインは寝てるのではない。またオールアウトを起こしていた
「ははは、二回連続は初めてだぜ…」
落ちていくトラインの真下にエロ―ナとカリンダが構える
「トライン!!私たちが受け止めるわ!!」
「私も…ッ!!」
「ば ばかッ!!俺なんか受け止めたら潰れてッ!!」
注意するも間に合わずトラインはエロ―ナとカリンダ目掛けて落下した。当然、無事では済まないはずだが、なぜかカリンダがトラインを受け止める
「カリンダちゃん!?」
「嘘だろカリンダ!!?まさかお前も強靭な筋肉を!?」
「うそっ私もトラインみたいなマッチョにっ…!?」
「いやいや…、私の浮遊魔法です。間に合ってよかった」
よくよく見てみるとトラインの体に魔法が掛かっていることに気が付く。トラインはゆっくりと地面に降ろされた
「ふぅ…一時はどうなるかと思ったが、みんなに助けられたぜ。みんなありがと…」
突然カリンダがトラインに抱き着く
「おいっカリンダ…どうしたんだ?」
「うん・・・私うれしいの。またこうやってトラインに会えて…」
「言っただろ?お前をもう一人にはさせないってな」
トラインとカリンダの光景にエロ―ナも少し羨ましがる
「諦めましょう。トラインさんとカリンダさんの間には入れません」
「分かってるわよ…ふッ
__でもなんでかな。羨ましいのと同時に、凄く嬉しがってる自分がいる…」
「それが愛ってものですよ…愛の形は…ひと…それぞ…れ」
「え?リドル!?」
なぜか突然、リドルも倒れ込んでしまった
「ちょっとインテリ眼鏡ッ大丈夫なのッ!!?」
「はははッどうやら私もオールアウトしましたよ…変な感覚ですねッははははっ」
___こうして魔獣襲撃事件、およびカリンダ誘拐事件は無事に幕を閉じる。負傷者は多数出たものの奇跡的に死者は一人もでなかった。そのため後にこの奇跡的な出来事は神話として後世に語り継がれることになるのだが、
___それはまた、別のお話で・・・