【死の暗雲】
~これまでの登場人物~
〝主要人物〟
【トライン・メルポン】__本作の主人公であり、正義感に強く困ってる人をほっとけない性格。筋肉をこよなく愛する筋肉マニアであり、自身も筋肉を極限まで鍛えている。料理や工作(DIY)が得意で元農家なので知識が幅広い。現在は自身の筋肉を極限まで鍛えるために筋肉の楽園【ゴールドマッスル】を目指して旅をしている。その巨体ゆえに他種族と間違えられることもある
【カリンダ】__獣人族の女の子。スレーン王国にて獣人差別による奴隷売買から兄と共に逃げる。道中でトラインに助けられたことで、初めて人間に好意を持つようになり、兄が亡くなった後はトラインと共に国外逃亡をし、現在はトラインと共に旅をしている。強力な回復魔法を発動できる能力を持っているが、本人は全く気付いていない模様。裁縫がプロ級の腕前
【エローナ】__エルフ族の女性。ギルド所属の剣士(しかし剣の腕前は最低)。トラインに助けられて以降、共に旅をしている。口は悪いが義理や人情に熱く、優しい一面がある。とても賢いためトラインの暴走を止める役割を担っているが、時々、振り回されることも(基本振り回されてる?)…密かにトラインに恋心を抱いているとかいないとか…真相は分からない
〝その他の登場人物〟
【タルト・テリーヌ】__人間族の少年。グルメインのレストラン・タルトールの若きオーナー。有名シェフであった父の跡を次ぐも、料理の才能はゼロ。そのため経営を中心にサポートしている。元気で明るい反面、悩みを一人で抱え込む性格でもある
【コールド】__オーク族の男性。ガチムチ体型。レストラン・タルトールのシェフ。厳つい風貌で巨大な体に似合わず、とても人見知りで無口な性格。しかし料理の才能は天才的であり、タルトに一目置かれている
【リドル・テクスチャー】__人間族の青年。メガネを掛けエリートの様な風貌。魔力が非常に高いこと以外は謎に包まれており、トラインとは真逆の性格。礼儀が正しくて几帳面であり、知識も長けているようだ
【コバル】__人間族の男性。肥満体型で低身長。タルトールのライバル店、レインパールの副店長。店長であるガジルに忠誠を誓っており、タルトールを毛嫌いしている。
【ガジル】__人間族の男性。細身長身。レインパールの店長兼経営者。タルトの父親の一番弟子であり、コールドにとっては兄弟子にあたる。タルトの父親と仲違いになり数年間お店を出ていくが、新たに自分のお店をタルトールの真向かいに建てる形で戻ってくる。本人はタルト達に興味が無い素振りを見せるが…
【コルシファー】__人間族の青年。スレーン王国の王宮魔術師であり、強力な回復魔法を扱えるカリンダを狙っている。トラインを死に際まで追い詰めるほどの卓越した魔術の持ち主であり、性格は冷酷非道で頭脳明晰、策略家でもある
レストラン【タルトール】を人気店に復活させたトライン達はしばらくの間、店の接客を手伝うことになった。新作の看板メニュー〝ホットドック〟がバズりにバズって連日行列が耐えない人気店となり、街一番の注目店舗として脚光を浴びる
しかし…そんな人気店をよく思わない人がいる
タルトールのライバル店【レインパール】の副店長〝コバル〟であった
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【オルバニア帝国】【グルメイン】【裏路地】
時刻は深夜、普段は人で賑わっているグルメインもこの時間帯だけは静寂な街と化していた。コバルが一人裏路地で待っていると怪しい男が近づいてくる
「お前が依頼人か?」
「そう聞くってことは……お前が殺し屋か?」
殺し屋は頷く
「あぁそうだ…金はあるんだよな?殺しは安くは無いぞ」
「勿論だ」
コバルは荷物から大金を見せる
「これは前金だ。殺しに成功すればこれの3倍の報酬を渡す」
「いいだろう…、で?ターゲットは誰だ?」
「レストラン・タルトールのシェフだ。名前はコールドと言う。奴はオーク族だからすぐに分かるだろう」
「了解、で…殺し方はどうする?」
「殺し方は自由で構わん。奴には飲食業界から消えて欲しい」
「いいだろう、あと一つ聞いてもいいか?」
「なんだ?」
「俺以外に殺しを頼んでる奴はいないよな?」
「いや…いない。だがどうしてそんな事を聞く?」
「たまにいるんだよ。俺以外にも念の為に2,3人ってな。そうなると仕事が殺りづらい」
「そういうことか…安心しろ。お前の評判は裏社会じゃ有名だからな。信頼している」
「あぁ、任せろ、少なくとも〝この国〟で俺以上の殺し屋はいない。必ず仕事は成功してやるさ…」
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【グルメイン】【タルトール】【2階住居】
グルメインに朝が訪れる。普段の朝は、店の開店準備などでとても忙しいが、この日はなぜか静かである
そう…なぜなら今日は定休日なのだ
「おはよー」
エローナが起きると、リビングでトラインが日課の朝の筋トレをしていた
「おはようっ!!」
「あんた…休みの日くらいは筋トレやめたら?…って言っても無駄よね」
トラインは筋トレが日課だが、ここ最近は店の仕事が忙しくて筋トレが十分に行えなかった。そのため今日はのびのびと筋トレが出来る
「いやぁ気分がいいぜっ!」
「おはようございますっ!」
何やら慌てた様子でタルトも起きてくる
「おうっおはようっ!そんなに慌ててどうしたんだ?」
タルトは自作したチラシを見せる
「じつは…バイトを募集しようと思うんです!」
「バイト?もしかして接客のか?」
「はいっ!そもそもトラインさん達は旅人ですし!いつまでも皆さんにお店を手伝わせる訳にはいかないので!」
エローナは首を傾げる
「そういえば私たち旅をしてたのよね。お店が忙しくてすっかり忘れてたわよ」
「てことは…今日にもバイトを募集するのか?」
「はいっ!と言いたいのですが…実はその前に皆さんにお願いがあるのです!」
「お願い?」
テーブル席に全員が腰掛ける。タルトは真剣な面持ちで話し出した
「実は…父が最後に残した〝幻のレシピ〟を再現したいのです」
「幻のレシピ?」
「はい…そのためには皆さんの協力が必要です」
「協力?俺たちが料理の手伝いをするのか?まぁ自炊は得意だし構わないが…」
「本当…あんたってその巨体に似合わず、料理や家事が出来て器用よね~」
トラインは怒り出す
「そっ…!それはマッチョの偏見だぞっ!マッチョは体をバランスよく鍛えるために栄養バランスの計算や食事制限、運動管理をなぁ!」
「はいはい分かったわよ…それで?、私たちも料理を手伝えばいいの?」
「いえ、…皆さんには僕の〝護衛〟をして欲しいのです」
「「…護衛?」」
タルトはグルメイン周辺の地図を取り出して説明を始める
「父のレシピを作るためには、ある食材が必要になります…
その食材は【キンカジュウ】という果物で、この近くにある【ギオライ山】の奥深くに生えています。…ですが、その山には凶悪なモンスターが生息しているのですっ!」
「なるほど、そのモンスターに襲われないための護衛か…」
「はい…!これからもっとお店も忙しくなると思います!なのでバイト募集をする前に、私は父の最後のレシピを完成させたいのですっ!、どうか力を貸して貰えないでしょうか?、勿論っ!報酬は色を付けて渡しますのでっ!」
「そうか…まぁいいぞ、護衛程度なら俺でも出来るしな」
「いやトライン…ちょっと待って」
エローナはある事を思いつく
「そうだわタルト!折角なんだからギルドに指名依頼しなさいよ!トラインだって一度もギルドで仕事したことないでしょう?いい機会だわ!」
「「指名依頼…?」」
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【グルメイン】【ギルド案内所】
カリンダとコールドはお店でお留守番してもらい、トライン達はギルドにやって来る。そこでエローナから指示を受ける
「いい?まずタルトがギルドに依頼を発注する。この時、注意しなきゃいけないのは指名依頼にすること。じゃないと他のギルドメンバーに依頼が行く事になるわ
__そしてトラインはタルトからギルド依頼の指名を受けて受理するの。これでギルドでの仕事の受注は完了よ」
「待ってくれ、それだと二度手間になるうえに成功報酬も一割ギルドに取られるんだぞ?やる意味はあるのか?」
「いい?ギルドは仕事回数に応じてもクラスが上がるの。クラスが上がれば、今後のサービスも充実して旅の役に立つのよ。だからギルド契約で依頼をたくさん受けた方がいいし…今後の予習としても丁度いい機会なの」
「なるほどな…」
タルトが受付で指名依頼を発注し、それに合わせてトラインも依頼を受注する
「よしっじゃあ行こうぜ!」
「はいっ!ワクワクしますねっ!」
「一応危険な仕事なんだから気を引き締めなさいよー」
トライン達がギルドを出ようとすると、一人の青年に声を掛けられる
「すいません…少しいいでしょうか?」
声を掛けてきた青年はどこかで見たことがあった
「あれ?お前って確か…」
「はい、私は〝リドル・テクスチャー〟と申します。リドルと気軽に呼んでくれて構いません」
「だれ?トラインの知り合い?」
「あぁ、俺と一緒にギルドに合格した人だ」
「へー…で、何の用なの?」
リドルは礼儀正しく質問に答える
「じつは…あなた方のお仕事に…私もご同行させてもらえないでしょうか?」
「え?つまり…俺たちと一緒に依頼をしたいのか?」
「えぇそうです、私は魔法が得意なのはご存知でしょう?決して損はさせません」
「そう言ってるけど…エローナはどうする?」
「えぇそうね…」
エローナはリドルの雰囲気に怪しさを感じていた。いかにもエリートのような風貌と丁寧すぎる口調のせいだ
「悪いけどごめんなさいね、今はメンバーが間に合ってるの。報酬が欲しいなら他所を当たってくれない?」
しかしリドルは食い下がる
「いえいえ、もちろん依頼料は要りません。ただ付いていきたいだけなのです。当然、自分の身は自分で守るのでご心配なく」
「そうか…そういうことならいいぜ!」
「はぁ!!?」
エローナに引っ張られ、リドルと距離を取りトラインに説教を始める
「ちょっと!アンタ馬鹿なの!?」
「え?何が?」
「何がって…いきなり現れた男がメリット無しに同行したいとか怪し過ぎるわよ!」
「でも彼はただ付いていきたいだけって言ってたぞ?」
「見返り無しに近づくなんて、きっとよからぬ事を考えてるに決まってるのよ!それが相場なの!」
「そうなのかー?」
「もう焦れったいわね!!」
辛抱堪らず、エローナはリドルに直接問いただす
「いいあんた!私はこの〝筋肉ダルマ〟と違って簡単に人は信じないの!アンタの本当の目的は何?答えなさい!」
リドルは愛想笑いを浮かべ丁寧に答える
「まぁ…不審に思われても無理はありませんよね…」
「えぇ私にもちゃんと納得出来る理由を教えてちょうだい!」
「分かりました、ではキチンと説明をします…本当の理由を…」
リドルは真剣な面持ちを浮かべる
「惚れたんですよ。貴方に…」
「え?…」
エローナに向かってリドルは語りだす
「その艶肌、女らしい曲線美と男らしい膨らみを兼ね備えた肉体美!そう…全てが僕の理想なのです!!」
エローナは顔を赤らめ困り顔になる
「ちょ…ちょっとっ困るわよ…!!確かに私は魅力ある女性だしー?自分でも理解はしているわよ?…でも私はもう…間に合ってるし!確かにあなたの顔は悪い顔じゃないわよ?でもタイプじゃないっていうか~…」
トラインは呆れた様子でエローナを見つめる
「(そう言いつつ、めちゃくちゃ赤らめてるじゃねーか…)」
リドルの語りは止まらない
「あぁ本当に…なんて素晴らしいんだ!一目見た時から好きなんですっ!…あなたの…
___その【筋肉】に!!」
「……え?」
「お…俺!?」
リドルはエローナの後ろにいるトラインの筋肉を見つめる
「一目見た時からトラインさんの筋肉に惚れたのです!だから、貴方のご活躍をぜひ近くで拝見したい!邪魔は一切致しません!ぜひ私も一緒に同行させてください!」
エローナは完全に冷めた表情を浮かべる
「あぁ…そういうことね…」
どう考えても嘘くさい理由だ。よりによってこの筋肉に一目惚れする人などいるわけが無い。エローナは当然、断るべきだと思ったが、隣の男はもちろん違う
「お…お前……
___おぉ!!!お前分かってるなぁ!!!」
トラインは歓喜に震え、マッスルポーズでリドルを出迎える
「ぜひ一緒に行こう!!ともに筋肉の魅力を語り合おうじゃないか!!」
「はい!よろしくお願いしますトラインさん!」
エローナは呆れた様子でトラインを見つめる
「(あぁダメだこりゃ…トラインは筋肉に関して我を忘れる…このマッチョは筋肉さえ褒められりゃそれだけで絶大の信頼をおくバカなのよ…、ようは単細胞なのよ…このバカは)」
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【オルバニア帝国】【ギオライ山】
結局リドルも同行することになり、トライン達は目的の食材【キンカジュウ】を探しに山に入る。山といっても、森のように木々が生い茂る森林地帯だ
トライン達は獣道をひたすら突き進む。タルトは果物を入れる籠を背負い、トラインも念の為に鎧を身につけるが、剣は持っていない
「まったく…せっかく剣を買ってあげようって思ったのに、頑なに剣は使わないわよね」
「あぁ俺は剣が苦手だからな、それに俺にはこの屈強な筋肉がある!」
リドルは不思議そうな顔でトラインに質問をする
「あれ?でもトラインさんはてっきり剣の扱いはプロだと思ってましたよ」
「はぁ?どこがよ?私はトラインと旅をしてるけど、コイツが剣を持ってるところなんて見たことないわよ」
「なんで俺が剣の扱いに長けてると思ったんだ?」
「いえ、気のせいだと思うのですが…トラインさんの手のひらのタコ…それって剣ダコですよね?剣を長年扱ってる人でないと付かないタコだと思いまして」
「あぁこれか、これはツルハシや斧を使う時に出来たタコじゃないか?俺は農家時代が長かったからなー」
トラインはそう言って笑みを浮かべる
「そうですよね。すいません変な事を言って…」
エローナが小馬鹿にするように笑う
「ハハハ!バカねぇっ!第一、トラインが剣を扱えるわけないわよ!きっと動いてない敵にも当たらないほどマヌケに決まってるわぁ!ハハハ!」
「(それはお前だろっ!!!)」
トラインは心の中で思い留めることにした。怒られるのが怖いからだ
「そういや…この山に出てくる危険なモンスターって何だ?」
トラインがタルトに聞く
「はいっ!聞いた話には〝ゴライザン〟と呼ばれる肉食の猛獣がいるそうですっ!…と言っても、大きさはマグドロスより小さいと言われてるので、襲われてもトラインさんなら余裕で撃退できると思いますっ!」
「マグドロスなら俺が農家時代に捕まえて食ってた奴だな。なんだ…そんな小さい獣なら余裕だぜ!」
警戒しながら道中を進むが、相反して森はとても静かで平和的であった。しばらく歩いているとトラインが喋り出す
「なぁタルト…」
トラインが真面目な顔でタルトに声を掛ける
「ど、どうしたんですかっ?」
「いや…こんな時しか頼めないと思ってな…歩きながらでいいから聞いてくれないか?」
「はい…」
先程まで明るい雰囲気が一変、なぜだか緊張感に包まれる
「実は…カリンダの事なんだ」
エローナはトラインの言うことを察する
「あぁその話をするのね…」
「え?カリンダちゃんがどうかしましたかっ?」
「あぁ、お前が良ければなんだが…カリンダの面倒をこれからも見てくれないか?」
「え?」
思わぬ提案にタルトの足も止まる
「どういうことですかっ!?」
「…カリンダは元々、獣人差別から逃れるために俺と共に、スレーン王国からオルバニア帝国へ逃げてきた…でも今じゃ差別の心配は無い。追っ手も来ないしな…
__だから俺と共に危険な旅をする必要はもうないと思ったんだ…」
「えぇそうよね、カリンダはまだ小さい。安全な街で暮らした方が絶対に良い…」
「そ、そうなんですか?…」
エローナはタルトと交わした約束を切り出す
「覚えてる?もし人気店になったら、店の売上の一割を私たちにくれるって約束」
「はい…勿論です…」
「その売上をカリンダの養育費に回して欲しいの」
そう…エローナはトラインがこうすることを読んでいたのだった。トラインであればカリンダを決して危険な目には合わせないからだ
「ですが…カリンダちゃんはトラインさんを凄く懐いてますし…」
「お願いだっ!頼めるのはタルトしかいないんだ!この通りだ!」
トラインは大きく頭を下げた
「トラインさん!やめてください!!困ります!!」
トラインは胸の内を必死にタルトに語る
「きっとカリンダなら…同じ境遇のコールドと仲良くやれるはずだ。カリンダは衣服を作るのが得意だ。真面目だからお手伝いも積極的にやるし、きっと損はさせねぇ!だからお願いだ!」
「やめてください!!!」
タルトはそう言うと、トラインの肩に手を置き、深呼吸して冷静に答える
「当たり前じゃないですか…トラインさんの頼みなら…どんな事でも受け入れますよ…」
「本当か?じゃあ…」
タルトは笑顔で自分の胸を叩いて自信を見せる
「僕に任せてくださいっ!カリンダちゃんは責任を持って大切に育てますから!だから安心して…旅を続けてください!」
タルトがそう答えると。トラインは顔を上げ、そしてお互いに握手を交わした
「ありがとう!本当に!」
「えぇっ!でもカリンダちゃんには何て言うんですか?きっと嫌がりますよー?」
「ハハハっ!それはこれから考えないとなっ!困った困った!」
お互いに笑い合う光景をリドルとエローナは傍で見つめる
「何かは分からないですが微笑ましいですねぇ~」
「えぇそうね…
___で?…いつまで仮面を被るつもり?」
「おや?なんのことでしょうか?」
「トライン達は騙せても…私は騙されないわよ。あなたは大きな隠し事をしてる。そんな人を信用は出来ないわ」
「ふふふっ人聞きが悪いですね。あなただって隠し事をしてるでしょう?」
エローナが歩き出す
「いい?もしトライン達に何かあったら、私は許さないから!!」
「えぇご安心ください…」
リドルは不穏な笑みを浮かべながら答える
「ほらっ!トライン、タルト!早く行きましょう!道のりは長いわよ!」
「あぁそうだったぜ!日が落ちる前に早く下山しないとな!」
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トライン達は幻の果物【キンカジュウ】を求めて獣道をひたすら歩く。しばらく歩くと山の中腹に一際目立つ果物を付けた大樹が見えてきた
「ありましたっ!あれがキンカジュウの木です」
「へー不思議な形の果物だな」
タルトは持ってきたロープなどを駆使して果物を採取する。トライン達も手伝いながら周囲を見張っていた。気づけば籠いっぱいに沢山のキンカジュウが積まれる
「よしっ!これだけあれば父のレシピも作れます!」
「一体どんな料理が出来るか…楽しみだぜ!」
「でも、なんか意外とあっさり手に入ったわね…嫌な予感がするわ」
「まぁまぁそんな不吉な事は言わずにっ!あとは下山するだけですしっ!」
トライン達は元来た道を歩いていた
「なんかこう…もっとやばい所だと思ってたのに…これじゃあ普通の森と一緒ね」
「そうですねぇ…、ゴライザンどころか他の動物も見掛けてません…実に不思議です」
「あそう、まぁ何も無いに越したことはないけど」
すると突然、タルトがつまづいてしまう
「痛てっ!」
「おい大丈夫か?」
「あ、はいっ!でもこんな所に窪みがあるなんて…ビックリしました………ひっ!!?」
地面の窪みと思われた物は巨大な獣の足跡だった。タルトは恐怖で後ずさり、リドルは冷静に分析を始める
「これは…間違いなくゴライザンの足跡ですよ」
なんと足跡はゴライザンの物だった。しかし足跡の大きさが明らかにおかしい
「はぁ!?あんたバカじゃないの⁉ゴライザンはマグドロスより小さいって言ってたじゃない!この足跡からして、マグドロスより遥かに大きい動物よ!」
「いえ…これはゴライザンで間違いありません。4本指で足裏の形の特徴もピッタリ一致します…」
「もしコイツが今も山のどこかにいるなら…動物の気配が無いのも頷けるぜ。きっと他の動物もコイツを恐れてどこかに逃げたに違いない…」
不穏な空気が流れる。この山のどこかに巨大なモンスターがいる可能性がある
「とにかく慎重に進みましょう、下山して早急にギルドに報告を…」
すると突如、爆音が山々に鳴り響いた
「なんだ!?」
「あっちから音がしたな…一応行ってみよう!」
音の方へ向かうと、鎧を着たギルドらしき人達が倒れているのが確認できた。傍らでは木々がなぎ倒され、岩などが砕け散っている。トライン達は倒れてる人たちに近寄り安否を確認する
「おいっ大丈夫か!?」
倒れてる男は完全に意識が無い。完全に死体である
「くそっ…そっちはどうだ!?」
「こっちもだめですっ!」
「この人も死んでますね…」
「クソっどうなってるんだ…!」
倒れてる人の中には鎧に大きな鉤爪で付けられた傷も確認できる
「まさか…例のゴライザンの仕業か!?」
するとエローナが大きな声でトラインを呼ぶ
「トライン!こっちに来て!!この人は意識があるわっ!!」
「なに!?」
トライン達が駆け寄って確認すると、男は辛うじて致命傷が避けられており手当をすれば助かる様子だ。とっさにリドルは上級の回復魔法を唱え始める
「【リーリファイス】」
緑色の光が優しく男を包み込むと、男の怪我が見る見るうちに回復するのが分かる
「凄い…あんた上級魔法が使えるのね…」
「えぇギルドに所属するなら回復魔法は必要だと思いましてね…」
男は何とか怪我が治癒するも、歩ける状態ではない
「すぐに山を降りるぞ!まだ近くにいるかもしれない!」
「えぇそうね!」
すると男がトラインの腕を掴んで何かを話そうとする
「どうした?何か言いたいのか!?」
「に、逃げろ……」
「大丈夫だ!俺たちが病院に連れていくからな」
「違う…まだ奴は…
___近くにいるッ!!」
「なに!?」
突如、木々の奥から大きな影が動く。肉食獣らしい巨体がひっそりと獲物に近づくようにトライン達の前に姿を表した
「こいつが…〝ゴライザン〟!!!」
「ギュロァァァォォァァオォォォオオオオ!!!!!!」
トラインの5倍ほどの巨体だろうか。2本の大きな角と無数に生えた牙が猛々しくそびえ、毛も剣山の如く逆立っていた
「今すぐ逃げるわよ!!」
そう言うとエローナは咄嗟に煙玉をゴライザンに当てる。煙が瞬く間に広がり視界が遮られた
「さぁ今のうちにここから逃げましょう!!今すぐギルドに報告するの!」
しかしトラインはゴライザンを前にして戦闘態勢をとる
「バカ言うんじゃねぇ!!このままほっとけないぜ!俺はこいつを仕留める!!!」
「はぁ!!?馬鹿なの!!?ここはとにかく逃げる一択よ!!」
リドルも杖を構えトラインに応戦する
「いえ、トラインさんの言う通りです!この獣は血に飢えています。間違いなく人を求めて街まで降りるでしょう。そうなれば被害は甚大です。私たちがここで食い止めなければなりません!」
「あぁそうだ!こいつは俺たちが止める!!!」
「ギュロォォオオオォオォオオオ!!!!」
ゴライザンの雄叫びが山全体に響き、その衝撃で煙が散る
「エローナ!お前はタルトと共に怪我人を連れて遠くに逃げろ!」
「あぁもうっ!分かったわよ!気をつけてね!!」
エローナとタルトはけが人を背負って全速力で走る
視界が良好になると、逃げるエローナ達を見つけ、それを追いかけるように角を前に突き出して突進をした
「危ないッ!!!」
トラインはとっさに走り出し、ゴライザンの前を塞ぐように待ち構える
巨大な角がトラインを貫こうとするも、トラインは両腕を使って二つの角を脇で挟み込み、動きを封じ込めた
その衝撃は凄まじく、トラインは地面がえぐれる程にしばらく後方へ押し出される
「相手はこっちだろうがぁぁぁぁあ!!!!!」
「グルァァァァアアァァ!!!!!!!」
ゴライザンが動こうと力を込めるが、トラインの屈強な【三角筋】や【大腿四頭筋】の筋肉がそれを許さない
しかしゴライザンも強靭な力で負けじと対抗し、両者互角に力比べを行う
「トラインさん!!離れて!!」
リドルは詠唱を唱えるため杖を構える
トラインもタイミング見計らって、ゴライザンの角を離し、即座にその場から離れる
「【ギガンファイアクス】!!!」
そう唱えると杖から巨大な火の玉が放たれ、ゴライザンは眩い炎に包まれる。
「ぎゅぉおおおぉぉぉおおぉ!!!」
「やったか!?」
___しかしゴライザンの致命傷には至らなかった。それどころか少し皮膚が焦げた程度のかすり傷でしかない
「くっ…毛皮が分厚いんですかね…」
ゴライザンは強靭な鉤爪でトラインを襲う。トラインは必死に避けるが、避けた先の木々や岩が切り崩れる
「なんてスピードと破壊力だ!!!」
咄嗟にリドルも攻撃魔法を唱えるがどれも効果がない
「おかしい…いや…もしや…」
リドルは何かを閃く
「分かりました!これはただ大きいだけのゴライザンじゃないですッ!!」
「おい!それはどういうことだ!!」
「電気や炎、冷気魔法も効かない。これは自然に出来た獣じゃない!誰かが魔法で巨大化させた【魔獣】です!!」
「魔獣だって?なんだそれは!!」
「魔獣とは魔法で獣を変形させたり巨大化させたりする…自然には生まれない生き物の総称です!!」
「つまりコイツは誰かが作った獣ってことか!!」
ゴライザンが大きく前足を広げ、一瞬の隙が出来る。その間にトラインは強烈なパンチを後足に命中させる
「ギュロァォオオオォォォオオオ!!!」
どうやら効果があるようだ。さらにもう一発お見舞いしようとするが、ゴライザンは素早く避ける
「くそっ二発目を与える隙がない!」
リドルはトラインを呼ぶ
「トラインさん!作戦があります!」
「なんだ!?」
「多分、この獣は対魔法に特化してる分、物理的な衝撃には弱いと思います。だからあの獣の動きを止めて、トラインさんが全力でパンチを喰らわせるしかありません!」
「分かった!しかしどうやって動きを止めるっ!?」
「私が全魔力を投じて奴の足元に魔法陣を作って動きを止めます!その隙にトラインさんは全パワーで奴を仕留めてください!それしか勝つ方法はありません!」
「おいそれってまさか!」
「えぇそうですよ…もし失敗したら私達は力を使い果たして動けなくなる…そしたら文字通り【オールアウト】するって事ですよ。この人生にね」
「ハハハ!そりゃ上手いこと言ったな!!よし分かった!!やってやろうぜ!!!」
ゴライザンがこちらを警戒しながらゆっくりと近づいてくる。魔法が当たれば動きを止められるが、ゴライザンはとても素早い。全力の魔法も空振りになる可能性がある
するとトラインはとっさに走り出した。それを追うようにゴライザンも追従し鉤爪で攻撃を行う。トラインはそれを全力で避けながら逃げ回る。辺りの木々が次々となぎ倒され、遂には一帯の木々が全てなぎ倒され散らばってしまった。それを待っていたかのようにトラインが叫ぶ
「よしっ!今だリドル!!!」
「はいっ!!!」
リドルが詠唱をすると、ゴライザンの足元に魔法陣が形成される。ゴライザンは魔法陣から逃げようとするが動けない
そう___
___ゴライザンが自らなぎ倒した木々によって身動きが取り辛くなっていたのだ
見事に詠唱が完了しゴライザンの足元に魔法の鎖が出現し身動きが取れなくなる
「今です!!トラインさん!!!」
「おうっ!!!」
トラインは倒れた木々を乗り越え、ゴライザンに強烈なパンチの雨を浴びせる
「オラァァァァアァァァァア!!!!!!」
「ギュロォォオオオオォォォォオオオオオ!!!!!!!!」
大きくダメージを受けた巨大な獣は絶命し大きな音を立てて倒れ込んだ。もう動くことが無いゴライザンにトラインはフラつきながらも一言添える
「お前の敗因はただ一つ…ハムストリングの筋肉不足と計画無しに攻撃をしてきた事だぜ…!でもいい勝負だった…安らかに眠ってくれ…」
同じくリドルもフラフラになりながら遠くのトラインを見つめる
「はは…やはりすごい人だ…あの全力のパンチでも動けるなんて…私は魔力不足でしばらく動けませんよ…」
トラインがリドルの元まで駆け寄り感謝の述べる
「ありがとうリドル。お前がいなきゃ勝てなかった」
「言ったでしょ?〝決して損はさせない〟って…」
「あぁ…それどころか大得だぜ!」
丁度その時、エローナの声が聞こえてきた。どうやら援軍を連れて戻ってきたようである
「トラインー!兵士や屈強なギルドメンバーを連れてきたわよー!!もう安心よー!!」
しかしとっくに終わっている。そんな事とは露知らず、エローナは心配な面持ちでトラインを探していた。そんなエローナを見て安堵をしトラインは座り込む
「ハハハ来るのが遅いぜ」
「えぇ…本当に…」
トラインは先程のリドルの解説を思い出す
「そうだ…あの獣は魔法で巨大化させられたと言ってたな?つまり獣を巨大化した魔法使いがいるってことだろ?」
「えぇそうです、でも…あの大きさまで巨大化できる魔法…きっと最上位の魔法を使ったんでしょう…それこそ【王宮魔術師】クラスの魔法使いしか唱えられない魔法です…」
「王級魔術師か…」
トラインは〝コルシファー〟の事を思い出す。コルシファーとは【スレーン王国】でトラインを死の間際まで追い詰めた王宮魔術師であった
そのためトラインは王宮魔術師の手強さを身に染みて知っている。コルシファーと同じような強力な魔術師がこの近くでゴライザンを魔獣化させた可能性がある。理由はどうであれ、これはとても由々しき事態であった
「なるほどな…こりゃなんだか暗雲が立ち込めてきたぜ…」
時刻は夕暮れを迎える。タルトールに帰る頃には日は完全に落ちている頃だろう。これからギルドへの報告や、病院の検査などが待っているからだ
______________________________
【グルメイン】【タルトール】
「トライン遅いなー…」
カリンダがコールドと夕飯の支度をしながら、そう呟いた
「……心配なのか…?」
「うん…それもあるけど…」
カリンダはボールいっぱいのポテトサラダを笑顔で見せる
「きっと疲れてるだろうからっ!いっぱい食べて元気になって欲しいんだー!」
普段無表情なコールドも笑みを浮かべる
「お前は本当に…トラインが好きなんだな…」
「うん…世界一好き…それに…」
カリンダが悲しい表情で俯く
「もしかしたら…トラインと一緒にいられるのも…あと僅かかもしれないし」
「……?それは…どういうことだ…?」
カリンダはポテトサラダを皿に盛り付けながら答える
「トラインは優しい人だから、きっと危ない旅に私は連れていかないと思うの…きっとこの街に置いていくと思うんだ…。この街は平和だから…」
「そうか………ならこの家に入ればいい…俺たちはお前を心から歓迎する……」
「ありがとうコールドさん」
____日は完全に沈み、辺りは暗闇に包まれる
タルトールの玄関には見慣れぬ不穏な影が立つ
そう…コバルが雇った殺し屋であった
殺し屋は鍵をこじ開けるためドアノブを壊そうとする
「ん…?」
だがドアに鍵が掛かっていないことに気がついた
「不用心だな…だがまぁ都合がいい。鍵を壊す手間が省けた」
殺し屋は玄関を通って居住区がある2階に向かう、恐らく夕飯の支度をしてるため、ターゲットはキッチンにいるはずだ
殺し屋はひっそりとドアを開け中の様子を伺う
「(なんだ?…やけに静かだな)」
ドアを開けて中に入る
「おい…これはどういうことだ?」
なんとキッチンには___
__血だらけのコールドが倒れていたのだ
「……なぜターゲットが倒れている…事故でも起きたのか?」
すると背後から声が聞こえてくる
「あら~見られちゃったぁ~♡」
「!?」
そこには黒いフードを被った女がテーブルに座っていた。傍らではカリンダが眠っている
「(馬鹿な!俺は気配を読んでいたんだぞ!なぜ、この女に気付かなかったんだ!?)」
殺し屋は危険を察知しナイフを構える
「お前は誰だ?」
「まぁ♡レディーから先に名乗らせるなんて~イケナイお・と・こっ♡……で、そういうアンタこそ誰よ?」
「俺か?俺はまぁ、名の通った殺し屋ってところだ…」
「あぁ~なるほど…私の同業者ってわけね」
「同業者?てことは、お前も雇われたってことか?」
「まぁねぇ~♡」
女は寝ているカリンダの髪をそっと撫でる
「(おかしい…コバルは他に殺し屋は雇ってないと言っていた…もしや奴が嘘をついた?いやそれとも偶然ターゲットが重なっただけなのか?)
殺し屋は女を問い詰める
「お前は誰に雇われた?」
「ハハ~♡教えるわけないじゃんっ♡守秘義務?ってやつかなー?知らないけど♡」
殺し屋は目の前の女がヤバいことに気がつく。間違いなく刺し違えれば自分の命も危ない
「なぁ?…俺は別にアンタとやり合うつもりは無い。自分で言うのもなんだが、俺はこの国1の殺し屋だと自負している。だから殺り合えばアンタも危ないのは分かるだろう?」
「へー国一なんだ~♡」
「あぁ…だから…
背中に隠してるナイフを閉まってくれないか?」
女はナイフを握って背中に隠していた
「あぁ~バレちゃった♡…あなた結構やるじゃない…」
「そうだ…俺もこの業界は長いからな。だからお前だって怪我はしたくないだろう?」
「あぁ~確かにそうね~…」
女の顔から笑顔が消える。その目は明らかに人を何百人も殺してきた目だった。殺し屋は一刻も早く、この現場から立ち去るべきだと直感で理解する
「よしっ俺の目的はそこにいるコックを始末することだった。お前が殺してくれたのなら…俺はお前の邪魔はしない…大人しく立ち去るよ」
「あーうん…」
「よし…俺はもう行くからな…」
女に注意をしながら後退をする
「あー…面白くないわね…あんた…つまらない」
「なに?」
次の瞬間、殺し屋の肩にナイフが刺さっている事に気がついた
「がっ!!」
殺し屋はすぐさま、肩のナイフを抜き取り女に向かって投げる
女はそれを軽く避けるも、その隙に殺し屋はナイフを持って瞬時に女に飛びかかる
__しかし、殺し屋はすぐに【片腕】が斬られた事に気がついた
「なんだと!!?」
殺し屋はすぐに距離を取る。片腕の健が切られたのかピクリとも動かない
「お前っ!何をした!?」
女はため息をつく
「今日も私を安らかに殺してくれる人はいないのね…」
「質問に応えろ!!」
女は不気味な顔で嘲笑う
「ふふふっ♡一ついい事教えてあげる…」
「あぁ!?」
「アンタがこの国で一番の殺し屋なら…私は世界一の殺し屋よ」
「この戯けが!!!!」
殺し屋は片腕で投げナイフを投げる。女はナイフを受け取るも、それは囮だ。殺し屋は瞬時に女の懐に潜り込んだ
「俺が一番だぁぁああ!!!」
殺し屋はナイフを女の溝内に突き刺す
__しかしナイフは弾かれてしまった
「なに!!??」
「【コウカレンド】、上級魔法で私の服を硬化させたの。そしてあんたはもう死んだも同然…」
気が付くと殺し屋はもう片方の腕も斬られ、瞬時に吹き飛ばされる。女は数十本のナイフを両手に持ち、足音も立てずに高速で殺し屋の方へ向かう
「高度な魔法…類稀な暗殺術…まさかお前はっ!!!」
大きく血柱が飛び散り天井が赤く染まる。殺し屋は致命傷となる一撃を加えられ、その場に倒れ込んだ
「ぐっ…がぐぐっ…」
殺し屋はまともに息をするのもままならず苦しんでいる。女は男に近づいて真顔で話しかける
「知ってる?…人を沢山殺した人間っていうのは安らかに死ぬことは出来ないんだって…。どんな人生を送ろうと…必ず苦しんで息を引き取る…なんだか悲しいね…」
「ぐ…グブグ……っ!」
殺し屋は苦しみ悶えながら身体中から血を垂れ流してる。それでも女は喋り続ける
「でも…私はそんなのは嫌。痛い思いをして死にたくはないの。だから私は…
死ぬ時は痛みも無く……一瞬で死にたい…
だから私は〝強い人〟に殺されたいの。圧倒的な力を持った人に……痛みも感じない位の一撃を喰らって絶命したぃ…♡
あっ…でも自殺は嫌よ?だから無謀な勝負はしないの…王宮魔術師の〝コルシファー〟やアドバンテイル級のギルドメンバーと勝負するなんて自殺行為だからね…
私は…勝てるか勝てないかも分からない。そんな得体の知れない人間と戦いたい。そして圧倒的な力を見せつけられて…、それでも退くに退けない状況の中で…痛みも無く一瞬で殺されたいの…ふふ♡」
女は自分が殺される妄想を楽しんでいた。体が小刻みに震え、吐息が荒くなる
「でも貴方には無理ねー♡。私を殺すどころか…ナイフ一本も届かないんだから♡…私の理想の人とは違う…あっ…」
女が気づいた時には、殺し屋の目から光が消えている事に気が付く。女は静かに立ち上がって、テーブルの上で眠っているカリンダに声を掛けた
「じゃあ…そろそろ行きましょうか、カリンダちゃん…♡
貴方を待ってる人が居るからね…♡」
女は不気味な笑顔を浮かべた