【潰れかけ!?寂れたお店を復活せよ!】
___【オルバニア帝国領土】【グルメイン】
無事ギルドに合格したトラインは、合格祝いのためにエローナに連れられ飲食店街を闊歩する
時刻はお昼頃、飲食店街は多くの人々で賑わっていた。エローナはひたすら飲食店を吟味している
「食べられるならどこでもいいぞ?そんなに気張らなくてもさー」
「ダメよっ!いい?ここはグルメの街〝グルメイン〟!美味いお店が沢山ある街なの!せっかくだから良いお店を見つけて美味しい料理を経験しないと人生損するわよ!」
「お腹すいた……」
トラインが1軒のお店を指差す
「あの店にしようぜ?小綺麗だし」
「……あの店はダメよ」
「なんでだ?」
「よくご覧なさいよ。黒でシックな外観、ステンドガラスの出来栄え、客の服装の豊かさ……」
「つまり?」
「つまり高級店ってわけ。私たちの持ち金じゃ到底食べられないほど高額よ」
「じゃーあっちは?」
「あっちも高そう……って言うか中心街だから高級店ばかりね……もっと外れを目指しましょう!」
中心街から少し離れると、いかにもリーズナブルな大衆店が軒を連ねていた
「さぁどこで食べようか」
「トライン!あっちのお店も美味しそうだよー」
「ここのお店も行列が出来てるわね……まぁ昼過ぎだから仕方ないわね……」
店を物色しながら歩いていると、トラインは何かを踏む
「グエッ」
「ん?なんだ?」
トラインは足元を見る。なんと赤髪の少年を踏んでいたのだ。しかも少年はぐったりとし意識が朦朧としている
「……え?」
カリンダとエローナは騒ぎ出す
「トトト トライン!?そんなぁ!」
「あぁ…あんたねぇ!!いくらお腹減ってるからって人を踏み殺したわけ!?最低ね!!」
「ちちちっ!違う!俺のせいじゃない!!……てか大丈夫か少年!!!」
トラインは少年を抱きかかえ揺する。少年は意識があるようだ
「………………た」
「え?どうした!?もう一度言ってくれ!!」
「お………………た」
「なんだ!?俺に出来ることなら何でもするぞ!!」
トラインは朦朧としている少年に必死に呼び掛ける
「お……」
「お?」
「お……
お腹すいた」
「……え?」
予想外の発言に戸惑う
「まさか、腹が減って倒れてるのか?」
「は……はい……何か食べ物を……」
「そうか、それなら踏んでしまったお詫びに俺たちと飯でも食べるか?俺たちは丁度お店を探していたんだ」
その言葉を聞くと、急に少年は元気よく立ち上がった
「それならっ!いいお店がありますよぉ旦那ぁ!!」
先程の憔悴しきった少年が一転し、とても快活な様子へ変貌する
「お、お前……体は大丈夫なのか?」
「平気です!それよりもお店を探してるんでしょ!?ささっこちらへ!いいお店があるんですよ!!」
少年はトライン達を無理やりどこかへ連れていく。その様子を街の住人達が目撃していた
「また〝タルト〟の奴。いつもの手で客を引っ張ってやがる」
「あいつはいつも倒れたフリをして客を無理やり自分のお店に連れていくんだ。懲りない奴だぜ……」
「まぁそうでもしないとアイツのお店は終わるからなぁ」
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少年に連れられてしばらく歩いていると、商店街の中に一件のお洒落な佇まいの飲食店が見えてくる。その店は長い行列が出来ていた
「まぁ!結構いいお店じゃない!」
「美味しそうな匂いもするな!」
「いい匂い~お腹空いた~」
「いえっそっちのお店じゃないですよ。私が紹介したいのはこっちです!」
少年が指を差したのは、その飲食店の真向かいにあるお店だった
「ここだよ!ここの料理は絶品なんだ!」
「う…嘘でしょ……?」
「マジで言ってるのか?」
「こ……怖い……」
そのお店はいかにも閑古鳥が鳴いてそうな寂れた店であった。蜘蛛の巣が張り巡り窓はヒビ割れ、店内は薄暗く不気味な雰囲気を醸し出している
「まるで幽霊屋敷ね……」
「怖いよトライン……」
「大丈夫だ……俺の筋肉が付いてる…」
トライン達は店内に案内され、テーブル席に座らされる。他の客は誰もいない。テーブルの上にはロウソク一本が明かりとして置かれていた
「暗くてごめんね!ロウソクを買うお金も無いんだ!」
少年の発言が気に掛かる。まるで店側の人間のような喋り口だ
「ちょっと待て……もしやここはお前の店なのか?」
「まぁまぁ!小さい事は気にしないで!」
エローナとトラインは全てを理解した
「あぁ…そういうこと……私達はまんまと策に嵌められたようね」
「ねぇどういうこと?美味しい料理あるんだよねトラインっ!私お腹すいちゃったよ~」
少年はトライン達の不安などを気にも止めずにメニューを出してきた
「はいっ!どうぞっ!」
渡されたメニューを確認する
「まぁ値段は安いのね……ってあれ?」
「おいこれ〝シェフのオススメ〟しか乗ってないぞ!」
「他の料理は?」
「えへへごめんなさいっウチのメニューはそれしか無いんだ~」
「メニューの意味が無ねぇ!」
「まぁまぁ!小さいことは気にせずに!ではシェフのオススメ3人前ですね!すぐ作るのでお待ちください!」
赤髪の少年は厨房へ入っていき、客席側はトライン達だけとなる。そこそこ広い店内を見回すと、薄汚れてカビの匂いが立ち込める。ほとんどのテーブルや椅子が埃を被っており、天井は蜘蛛の巣がビッシリと張り付いている。幽霊が出てきそうな雰囲気だ
「怖いよ…トライン……」
「安心しろ……俺の筋肉が付いてる!」
「あんた筋肉に頼り過ぎよ!」
料理が来るまでトライン達は大人しく座っていた。今、トライン達が一番気にしていることは、これから出てくる料理の事である
「こんな場所で出てくる料理、一体どんな料理なのかしら。下手すりゃカビの生えたパンとか腐りかけのシチューとか出てくるかもね」
「おいおい、ここは飲食店だぞ?そんなはずはない!……はず……大丈夫だよな…?」
これから出てくる料理に不安を感じる。料理を待つ時間が長ければ長いほど、次第に不安が大きくなり耐えきれなくなる
「もう無理よ!今すぐ逃げましょうよっ」
「あぁ あの少年には申し訳ないが…」
「嫌な予感がするよぉ~」
一同は店を出ようと立ち上がるが……
「おまたせー!」
少年が料理を運んできた
「あれ?皆さん立ち上がってどうしたのですか?」
「いや……別に……」
トライン達はまた席に座る。その顔は絶望と覚悟を決めたような顔であった。普段強気なエローナも店の雰囲気に押しつぶされ、黙っている
「さぁ!こちらがウチの料理だよ!是非ご賞味あれ!」
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【野菜と肉の煮込みスープ】【オリーブソースのクルトンサラダ】【鳥脚のスパイス唐揚げ】【麦米のミルクリゾット】【果実ソースのミルクプリン】
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店内の雰囲気とは裏腹に、料理はとても美味しそうであった。次第に店内も良い匂いが立ち込めてくる
「み 見た目だけなら美味しそうね」
「匂いも良い、おいしそう」
「鶏肉だ!タンパク質!!」
「さぁどうぞ!食べて食べて!」
料理に不安を感じるが、一同は腹が減っていた。食欲がそそる香りに我慢できなくなり、恐る恐る料理を口にする
「お……美味しい!」
「凄いっ絶品だわっ!箸が止まらない!」
「美味しい~」
__スープは野菜の甘さと肉の脂身が程よく溶けており、黄金色の油が輝いている
__サラダもシャキシャキで、クルトンの固い食感のアクセントとオリーブソースの爽やかな香りが見事に調和しており
__鳥脚のスパイス唐揚げは、外はカリっと中は肉汁が溢れジューシー、ピリッと辛いスパイスの刺激が食欲を唆る。
__リゾットはミルクとハーブの風味が味わい深く、熱々でねっとりしたソースの中に麦米独自の食感が、後味をスッキリさせていた
__プリンには粘力があるミルクカラメル風味に、果実ソースの酸味が絶妙にマッチして、別腹を刺激する
ほっぺたが落ちるほどの美味しさに無言で食べ進める一同、それを笑顔で少年は見守っていた。皿が空になる頃には腹もはち切れる勢いだ
「いやぁ美味しいかった。俺の筋肉も喜んでいる」
「これがグルメインの料理、流石ね」
「人生で一番美味しかったかも…もう食べられないよ…」
「それは良かった!うちの料理は値段は安いけど、味は絶品なんだよね!」
トライン達は満腹で幸せな気持ちに包まれる、しばし完食のひと時を過ごしていたが、時間が経つにつれ、このお店に疑問を持ち始める
「それにしてもおかしい。こんなに安くて美味しい料理なのに何で客が一人もいないんだ?」
「本当よね。いくら他のお店が沢山あるからって、この店だけ客が居ないのはおかしいわよ」
それを聞いた少年は興奮気味になる
「聞いてくれますか!?旅人さん!!このお店の悲惨な現状の理由を!!いやっ是非聞いてください!!」
少年は興奮で目が血走っていた
「分かった分かった。とりあえず座ったらどうだ?その方が落ち着くだろう……」
「では遠慮せずっ!」
少年は座って自己紹介を始めた
「申し遅れました!僕の名前は〝タルト〟と申しますっ!この店のオーナーをやっています!」
「オーナーだったのか……昔からこんなに閑古鳥が鳴く様なお店だったのか?」
「昔はこんな悲惨な状態じゃありませんでした。この店はグルメインでも一番繁盛していると言っても過言じゃない。老若男女に愛される人気店でした……」
「一番繁盛していたって?なんでここまで寂れるわけ?」
明るかったタルトが、ここで初めて暗い顔を見せる。そして、このお店の過去について説明を始めた
このお店の名は【タルトール】オルバニアの南部地方の料理などを提供する人気レストランであった。当時のオーナーはタルトの父親〝トールダス〟。グルメインでは知らぬ人がいない有名シェフであり料理の腕も一流である
「僕の父は一流の腕にも関わらず、値段も低価格でファミリー層向けの大衆料理を提供していました。僕は父に聞きました、なぜもっと値段を高くしないのかと。そしたら父は答えました」
【「俺は金持ちになりたくて料理人を目指したわけじゃない。俺は……俺の料理で多くの人を笑顔をしたいのさ!」】
タルトは棚に置いてある父親の写真を見つめる
「僕はそんな父にとても憧れていました。それと同時に僕はこの店を一生守っていくと誓ったのです」
「その…お父さんは?」
「亡くなりました、病死です。僕は父の跡を継ぎ、この店のオーナーになりましたが……残念ながら僕に料理の才能はありませんでした……そこで〝父の弟子〟と共に店を存続させようと決めたのです」
「お父さんのお弟子さん?」
「あぁ まだ紹介していなかったですね!こっちに来て!皆に挨拶してよ!」
厨房から一人の男が現れる。その男は体格が大きく、コックコートからもはみ出るほどのガチムチ体型であった
その男を見てトライン達は驚愕する
「オ……オーク!!?」
その男は〝オーク〟であった。オークとは体格が大きく筋肉質で武闘派の種族である。特徴的なのは下顎に生えてる大きな2本の牙だろう。たびたびトラインと間違われる種族でもある
「こ、これが!本物のオークか!?凄いぞ!確かに筋肉が凄い!」
「凄いっ、確かにトラインそっくりな体だねっ!」
「こうやって見ると、トラインの方が筋肉は化け物よね……」
オークは自己紹介を始める
「は……初めまして…………俺は……〝コールド〟……です……」
トラインはすさかずコールドを質問攻めにする
「君の筋肉はどうやって鍛えてるんだい!?一番好きな部位は!?こんど一緒にトレーニングしないか!?君は才能が素晴らしいね!!!」
「え……いや……その……」
タルトが割って入り説明する
「ごめんねトラインさん。コールドさんは見ために寄らずとてもシャイなんだ!その位で許しても貰えないかな?」
「そうか済まない、久しぶりに俺と同じ筋肉質な男性に会えてつい興奮してしまった」
トラインは自分を落ち着かせ、席に着く
「でも彼の料理の腕はピカイチなんだ!それにグルメインでオークのシェフは彼だけなんだよ!」
「オークの料理人って珍しいのか?」
「少なくとも、オルバニア帝国でプロのシェフをやってるオークは彼くらいじゃないかな?」
「タルトは料理をしないのか?」
「僕には料理の才能はありません……この店の料理は全てコールドさんが作っているんです!」
トライン達はコールドに感謝を告げる
「とても美味しい料理だったよ!今まで食べた料理の中で一番美味しかった!ありがとう!」
「美味しかったです!」
「絶品だったわよ!凄いじゃない!」
「そ……そうか……こちらも食べてくれて…ありがとう……」
無表情なコールドは、少しだけ照れを見せた
「でも尚更分からない。なんでこのお店に客がいないのか、値段も安くて味も絶品なのに」
「それは、向かいにあるお店と関係があります」
タルトは窓に向かって真向かいのお店を指差す。店に入る前に見掛けたあの行列店であった
「あの店か…。かなり繁盛しているよな」
「父が亡くなった後もお店の味はコールドさんが受け継ぎそこそこ繁盛していました。しかしあの店が出来てから状況はガラリと変わったんです」
「確かにあの店は結構繁盛してるけど、まさか客を全員取られたってこと?それだけの理由じゃないわよね?」
「もちろんです。あの店が出来てからも私の店はそこそこ繁盛していました。しかし、ライバル店でもある〝あの店〟は私たちの店のイメージを悪くするために、ありもしない悪評をクチコミで流行らせたのです」
「なるほどな、だから客が来なくなったってことか…」
「え?トラインどういうこと?」
トラインはカリンダに分かりやすく説明する
「悪い噂を流してこの店のイメージを悪くすれば、いずれこの店の客は全員来なくなって、ライバル店を潰せるって訳だ…そしてお客さんは自分のお店に来てくれるってことだよ」
「そうなんだ……それは酷い……」
「でもイメージを悪くする噂ってなに?」
「はい…例えば…
〝あのお店の料理には虫が混入している〟
〝キッチンにはネズミが住んでおり食材を齧ってる〟
〝料金が高くてぼったくり〟などです……」
「酷い!完全に営業妨害じゃない!」
「まだこれだけなら良かったですよ……客が来なくなる一番の決定打になったのは……やはりコールドさんの悪評ですかね……」
「コールドの?」
「はい、〝あの店のオークは人を殺した事がある〟とかですね、勿論そんなのはデタラメです」
「酷すぎる!そんなことを言うなんて!」
「そんな馬鹿みたいな噂を誰が信じるわけ!?」
「ですが、オークがシェフをやっているのも珍しいうえに、その見た目も厳ついためか客は噂をすんなり受け入れてしまいました。結果、誰一人として店に寄り付かなくなり、今日みたいに無理やり旅人を勧誘しないと明日にでも店が潰れてしまうほどに寂れてしまったのです」
衝撃の話に開いた口が塞がらない。そして、ここまでやるライバル店に疑問を持つ
「でも、なんでそこまで陥れようとするわけ?いくらライバル店とはいえやり過ぎよ!それって普通のことなの?」
「そ それは……」
タルトは下を俯いて黙ってしまう。重たい空気が流れるなか、見兼ねたコールドがタルトの肩に手を置いて落ち着かせ、ようやく口が口が開いた
「それはあの店のオーナー〝ガジル〟が……
僕の父の【一番弟子】だったからです」
「一番弟子?つまりコールドの兄弟子ってことか?」
「でも弟子がなんで師匠のお店を潰そうとしてるわけ?」
「それはガジルと父には、ある〝確執〟があるのです」
「確執…?」
「父は値段の安くて美味しい料理を……反対にガジルは料理の味に釣り合う高価格な値段に変えるべきだと考えてました。結果的に父は二番弟子のコールドを店の料理の跡継ぎにしたんです。きっとガジルはその事を恨んでいるんだと思います…」
「確かに一番弟子の自分を差し置いて、二番弟子を跡継ぎにされたら恨むのも無理はないか」
「跡継ぎがオークだったことも影響が大きいと思います…この国では少なからずオークを差別する人も多いので」
「酷い……」
カリンダはコールドの事が、他人事では無いように感じた。自分も差別され悲惨な運命を辿った過去があるからだ
「それに反発するように…ガジルは店から姿を消しました。そして父が亡くなってしばらく経ったある日、ガジルは戻ってきました。真向かいにお店を建てて…」
「そして復讐をするように悪い噂を広めたと言うことか……それは酷すぎるな……」
「はい あっすいませんっ!旅人にこんな事を言っても困るだけですよねっ!ごめんなさいねっへへへ」
タルトは作り笑顔で誤魔化し、重い空気を変えようとする。しかし笑顔には愁傷を感じざる負えない
「コールドさんもごめんなさいっ!僕のワガママに付き合わせちゃって、本当ならすぐにでも店を畳んだ方がいいのは分かってるんですけどっ……」
「大丈夫だタルト……俺はこの店でお前と共に働けて幸せに思ってる……」
コールドはタルトを励ました。一方でエローナはある事を危惧していた。それは、この悲惨なお店の現状を目の当たりにして、あのマッチョが黙ってるわけがない……ということである
「なぁタルト!良かったら俺たちも店を手伝わせてくれないか?」
「「え?」」
「あぁ!やっぱりっ!言うと思ったわよ!!」
突然の申し出にタルトとコールドは驚き、エローナは困惑な表情でトラインに迫り込む
「あんたねぇ…いくらお人好しだからって他人の店の経営に首突っ込むわけ?そんな暇無いでしょう?旅はどうするのよ!?」
「だけどほっとけないぜ!目の前の少年と筋肉が困ってるんだ!俺は何としても彼らを助けたい!いやっ助けないと後悔するっ!俺は助ける!」
カリンダも立ち上がり手を上げる
「私も手伝いたい!このままは嫌だっ!みんなが笑顔になれるよう協力したい!」
カリンダとトラインは目を輝かせてエローナに頼み込む。その眼差しにエローナも折れる
「はぁ分かってるわよ。あんた達はそういう人だしね!仕方がない……私も手伝うわよ!」
「ありがとうエローナ!!ってことでタルト!コールド!俺たちも一緒に手伝うぜ!昔のように繁盛する店に変えようじゃないか!」
タルトは驚きを隠せなかった。なぜなら、これまで店を手伝うと言ってくれた人などいなかったからだ
「そっそれは悪いですよ!皆さんの旅を邪魔する訳にはっ…!僕達は大丈夫ですからっ」
「あんたねぇ、最初に無理やりここに連れてきたくせに、今更大人しくなるわけ?バッカみたい」
「これも何かの縁だっ!是非協力させてくれっ!」
「協力っ協力っ!」
「でも……そんな……」
タルトは申し出を中々受けられずにいた。だがそれを後押してくれたのは共に働いてきたコールドであっ
「いいじゃないか……是非手伝って貰おう……俺達にはもう何も失うものは無いんだからな……」
「コールドさん…」
タルトは考える。店のため、亡き父のため、共に過ごし助け合ってきたコールドさんのため、タルトはお店を何としても復興させたい。少しでも希望があるのであれば猫の手も……いや筋肉の手も借りたい。タルトは立ち上がりトライン達に頭を下げる
「みなさん是非お願いしますっ!!この店を…父の店を助けてください!!」
トライン達は笑顔で頷く
「よしっ!精一杯頑張ろうぜ!」
「やるぞー!」
「はいはい!頑張るわよ!」
「ほんとう……不思議な人達ですね」「」
トライン達の優しさに、タルトは笑顔を見せ涙を溢れ出す。その笑顔は……
【正真正銘】の笑顔であった
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【グルメイン】【飲食店街】【タルトール】
店内の厨房を視察するトライン達。厨房は客席と違ってとても清潔であった。キッチン道具が整理整頓がされており、調理台もピカピカに磨かれている
「厨房は綺麗なんだな」
「はい!どれだけ寂れても一応は料理店ですから!厨房だけは綺麗に頑張ってます!」
「でも客席側は綺麗に出来ないの?」
「忙しくて厨房以外の場所に手が回らないんです…。お金も無いため窓の修繕や、新しいテーブルも買えません……」
「気になったんだが、お金もないのにどうやって食材を仕入れているんだ?」
「はいっこちらをご覧下さいっ!」
タルトは食材が入った箱の山を指差す
「これは傷んだ野菜?こっちは鳥脚ばかりだな」
「見たことがない食材ばかり…」
「形が歪だったり、傷んでる野菜や果物を農家からタダで貰ってるんです。あと他の店で廃棄されるような食材を安く仕入れてたり、賞味期限が間近の食材を貰ったりしてます」
「料理に問題は無いのか?」
「そこは大丈夫ですっ!例えばこれっ!野菜は傷んでる部分を切り捨てれば使えますし、鳥脚は骨と肉を取り除いて、骨は出汁を取るためスープにします。他の食材も様々な工夫で料理に使っているんです」
「本当に凄い努力だ。ますます協力したくなったぜ!」
__一通り厨房を見回したトラインは、これからやるべき事を考える
「調理に関しては全く問題が無い…だとしたら問題は汚い店内や外装だろう……。つまり掃除だ!皆で店を綺麗にするんだ!」
タルトは掃除道具を取り出してトライン達に渡す。5人全員で広い客席の掃除に取り掛かった
「これは時間が掛かるわね…」
「ここも汚い……こっちも凄いことになってる……」
店内に蔓延る蜘蛛の巣やカビや埃を取り除き、棚やテーブルも綺麗に拭く。床や壁はピカピカになるまで磨き上げる。カリンダとトラインは汗を搔きながら雑巾がけをしていた
「ふぅ…雑巾がけって結構大変だね…」
「雑巾がけは全身の筋肉をバランスよく鍛えることができて体幹も鍛えられるんだぜ!掃除も出来て一石二鳥だ!」
トラインはいつものように半裸になっていた。カリンダ達は見慣れているが、タルトは不思議な面持ちで見つめる
「トラインさんって本当に凄い筋肉ですね…でも、なんで半裸なんですか?」
「気にしたら負けよ。トラインはそういう生き物なの。筋肉を見せつけないと仕方がないのよ……」
「店を手伝ってくれたり服を脱いだり本当に不思議な人ですね…」
さらに、梯子を使って店外の外装も綺麗にする。絡まったツタや蜘蛛の巣を取り除いて、看板も綺麗に磨いた。こうして全員で一斉に掃除をしたことにより、客席や外観は見違えるほど綺麗になった
「やっと終わったわね、だいぶ時間が掛かった……」
しかし壊れた窓や椅子の修繕にはお金が必要だ。さらに大きな問題も残っている
「凄く綺麗になったし…これでお客さんも来るかな?」
「いやダメだ、お店を綺麗にしても客はきっと来ないだろう」
「え?なんで?」
このお店の一番の問題は散々積み上げられてきた悪評である。店内や外装を綺麗にしても、悪評がある店には誰も近寄らない。トラインはその事を危惧していた
「このお店の一番の問題である悪評を何とかしない限り…客はいつまで経ってもやってこない」
「そうなんですよね、でもどうすればいいのでしょうか…」
タルトは頭を抱えだす。トラインは自身の経験を語り始めた
「俺は元農家だったんだ。そのおかげで町で一番繁盛している飲食店の人と交友があったんだが、俺はその店主に人気の秘訣を興味本位で聞いたことがあってな……」
「人気の…秘訣?」
トラインは険しい表情でタルトを見つめる
「タルト、大事な話がある。この店に大きく関係がある話だ。オーナーの君が決断する必要がある」
「決断?一体なんでしょうか?」
トラインは衝撃的な提案をした
「タルト、俺はこの店を…
___ぶっ壊したい」
___トライン達が店の手伝いを始めて二日が経つ。店は以前と見違えるほど綺麗にリフォームされており。今日は待望のリニューアルオープンの日であった
カリンダとエローナは可愛らしいウェイトレス姿になる。このウェイトレス服はカリンダが裁縫して作った物だ
「本当に…こんな格好で客を呼び込むわけ?凄く恥ずかしいんだけど…」
「そんなこというなって!!せっかくカリンダが作ってくれた服だぜ!?自信持てよ‼」
エローナはトラインの格好を指摘する
「違うわよッ!!あんたみたいな恰好の男と一緒にいるのが恥ずかしいって話よ!!」
トラインは半裸にエプロンを纏っていた。傍からみれば変質者である
「何を言う!!この鍛えられしパンパンにパンプした上腕三頭筋が似合わないというのか!?」
「そうじゃないわよ!恰好が変態だって話よ!!あんたは店の中の手伝いでもしてなさいっ!」
カリンダはトラインの格好を褒める
「私はトラインの格好、凄く似合ってると思うよ!筋肉大きいしっ!」
「ほらっカリンダだって、こう言ってるじゃないか!なっいいだろう!?俺も呼び込みさせてくれよ~!」
トラインは目を輝かせながら【サイドトライセップス】のポーズでエローナに訴える
「はぁ、もういいわよっはやく呼び込みを始めましょう!これからもっと忙しくなるんだから!」
「うんっ二日間、精一杯頑張ったもんね!きっと上手くいくはずだよっ」
「あぁ あとは俺たちが全力で呼び込むだけだ!!」
時刻は早朝、小鳥がさえずり、天気は快晴、風も心地よく絶好のオープン日和である。朝食目当てに人通りも多くなってくる時間帯であり、他の飲食店もモーニングの準備を始めていた
三人は新しい【タルトール】の店前で全力で呼び込みを始めた