4 最低の恋愛
アスタナ:
さて、人間と悪魔の賭けが始まったけど、メフィストが見せる快楽、その幕開けは色恋沙汰。恋愛は快楽と悲哀のテンプレートだものね。
街中を走るファウスト。メフィストに連れられて行った魔女の台所の鏡に映っていた、美しい女子を捜す。
ファウスト:
……いた!あの!
グレートヒェン:
……何でしょう?
ファウスト:
僕、君に一目惚れしたみたいで……!
(手を握るファウスト)
グレートヒェン:
きゃっ!……はっ、離してくださいっ!!
(手を振りほどいて逃げるグレートヒェン)
ファウスト:
あの子……僕のものにしたい……。
メフィスト:
恋愛にはプロセスが必要なのに、そこをすっ飛ばしてどうするよ?まあ、恋愛を知らないまま生きてきたから仕方ないのかもしれないがな……。
(呆れ口調のメフィスト)
ファウスト:
メフィスト、とにかく彼女を引き合わせてほしい。この手に抱きたい。
メフィスト:
それなら下準備をしっかりし、時間を掛けることだ。例えば何かプレゼントをしたりとか……?
ファウスト:
プレゼント……?それだ!ネックレス、指輪、ブレスレット……。送れるものは何でも送って。
メフィスト:
はいはい。仰せのままに。
(二つ返事のメフィスト)
メフィスト:
……ったく、元気を取り戻した途端に発情しやがって。人間ってのは呑気なものだ。しかし、アレは女を抱ければいいようだ。まあいい、これは楽に勝てるかな?
同じ頃、グレートヒェンの家。
グレートヒェン:
あの人、誰だろう……。あれは流石に驚いたけど、何か……ときめいちゃった……。会いたい……。
流雫:
……血気盛んだよね、ファウスト。
アスタナ:
この行では割愛したけど、設定ではファウストは元々若くなかったの。既に老人よ。ファウストは魔女の台所で、メフィストが魔女に作らせた若返りの薬を飲んで青年になるんだけど、それと同時にまあ……性欲みたいなものも湧いてきちゃって。
結奈:
つまり、盛りが付いてると。
アスタナ:
身も蓋もない言い方をしないの。そして、惚れ薬も混ざっていたから、それにグレートヒェンが引き寄せられたの。
澪:
或る意味、本当に一目惚れだったんですね……。
流雫:出逢い方としては最悪だけどね。まさにワースト・エンカウンター……。
アスタナ:
また作品ネタを……。どっちかと言えば、最低の恋愛かしらね。さて、グレートヒェン。これは渾名で、本名はマルガレーテ。何故そう呼ばれるようになったかは書かれていないハズ。彼女は敬虔なクリスチャンだったの。キリスト教信仰の模範生みたいな人ね。それが、先に言うとファウストに人生を狂わされていくのよ。
澪:
それ、ネタバレでは……?
アスタナ:
ただ、それで彼女は終わらないから。そして、此処からは解説で済ませるけど、彼女への愛に暴走するファウストの狂い方……一言で言えばクソっぷりが炸裂するわね。
流雫:
母さん、割と毒舌だよね……。
アスタナ:
第2部で省略する部分では女神と恋愛するのだけど、そこでも欲を出して失態を犯すから。……話を戻すと、アクセサリーなどをこっそりと贈った後、やがて2人は再会して、初対面の非礼を詫びながら一気に恋愛成就まで持っていくの。
美桜:
流雫と澪も、初対面から一気に突き進んだわよね……。
流雫:
あの時とは性質は違うけどね。
アスタナ:
その後、簡単に言えば、結局ファウストとグレートヒェンは……まあ、セックスまでしちゃうのよ。ただ、その邪魔になるからって母親に睡眠薬を飲ませようとするんだけど、実行役として薬を渡されたグレートヒェンは、分量を間違えて母親を死なせ……。
澪:
聖人みたいなクリスチャンがそうまでして……。
アスタナ:
そして、彼女には兄ヴァレンティンがいたの。自慢の妹を誑かしたファウストのことを何処からか聞き付けて、待ち伏せて決闘を仕掛けるの。そこでファウストが勝つのだけど、決闘は負ければ死有るのみ。……言い方を変えれば、ファウストはメフィストとの連携プレイで、ヴァレンティンを殺すのよ。
澪:
残酷すぎる……。
アスタナ:
残酷なのはグレートヒェン。あれだけキリスト教信仰の模範生だったのに、母を死なせたことや兄を失ったこと、そして何よりタブーだった結婚前の性交に苛まれ、病んでいくの。その結果、次の話で大罪を犯すの。
澪:
悲劇のヒロイン……どころの話じゃないわ……。
アスタナ:
それも、全ては神と悪魔の賭け、人間と悪魔の賭けに翻弄された犠牲者よ。一方、ファウストは決闘だったとは云え、彼女の兄を殺したことに苛まれるの。そのファウストを景気付けようとメフィストが誘ったのが、このグレートヒェンに降り懸かる悲劇、ファウストに襲い掛かる悲恋で最も重要とされるイベント、ヴァルプルギスの夜よ。