2 天上の序曲
アスタナ:
まずは、天上の序曲と云うプロローグから。ルナティックティアーズでは、特にプロローグのチャプターが打たれていないけど、ルナがトーキョーアタックに遭遇する件が相当するわね。
天界。ラファエル、ガブリエル、ミカエル……3人の大天使が神を讃える合唱中……。
メフィスト:
神よ、ご無沙汰を。一ついいですかな?
(神の前に現れるメフィスト)
神:
何だ?言ってみろ。
メフィスト:
人間は、神が与えた理性や知性を、ロクなことに使っていないじゃないですか。挙げ句、自分たちは他の動物とは違うと、万能だと思ってやがる。平気で戦争や略奪もしやがる。与えたのは間違いだったのでは?
神:
よいか?物事にはプロセスと云うものが有る。生命も同じ。生まれ、成長し、成熟し、老いて、やがて死ぬ。人間は未だ成長期だ。向上を目指して努力を弛まなければ、やがて報われる。
メフィスト:
そう云うものですかね?
(挑発するような態度のメフィスト)
神:
例えば……ドクトル・ファウストとかな。お前も知っているだろう?
メフィスト:
ファウ……あの学者ですか?そりゃ勿論。でもあれは昔から、何と云うか……。
(訝るメフィスト)
神:
今は混乱した状態で生きているが、いずれは正しい道に導いてやろうと思う。
メフィスト:
正しい道……。
(何か閃くメフィスト)
メフィスト:
……そうだ、俺と賭けをしませんか?ファウストの魂を、悪の道に引きずり込めるか否か。
神:
よかろう。人間は努力する限り迷うものだ。しかし、それでも最後は正しい道に戻る。果たして引きずり込めるかな?
メフィスト:
やってみせましょう。……これで賭けは成立ですな。早速仕掛けますので、これで失礼を。
(立ち去るメフィスト)
結奈:
え?神と悪魔の賭け!?
澪:
そんなので、ファウストの人生はとんでもないことになるんですか?
アスタナ:
そう。驚くのも無理無いわ。因みにドクトルとはドクターのこと。ここでは先生の意味よ。
アスタナ:
伝説に始まる数々の作品のうち、ゲーテ以前……例えば16世紀末に初演されたクリストファー・マーロウの戯曲、フォースタス博士が有名だけど、ファウストが直接メフィストを召還するもの。寧ろ、召還がデフォルトであって、神との賭けなんて発想は誰にも無かったわ。因みにフォースタスってのはファウストのこと。ラテン語で祝福された、幸福な、と云う意味よ。
流雫:
ファウストにとっては、或る意味とばっちりだよね……。
アスタナ:
元も子もない言い方をすれば、そうね。元々神に見込まれ、目を付けられている時点で不憫なのかもね。見方によっては、神に運命を握られていると言えるから。因みにルナの名前の由来は月だけど、Lunaのスペルに合わせれば正しくはラテン語やルーマニア語なのよ。フランス語はLuneで、Lunaireは正しくは月食だから。
アスタナ:
そもそも、こうして神と悪魔が同じ場所で、対等な感じで会話をすること自体、キリスト教信仰では有り得ないの。神と悪魔の接点と言えば、有名なのは最終戦争アルマゲドンぐらいかしら?だから、キリスト教に絶対服従だった16世紀のドイツから始まったファウスト伝説を、或る意味根底から覆す作品だったのよ。それは後でまた話すわ。