7話。無料10連〜ヒスメナ
猫耳おじさんことダルニャ族のペボット氏がモンスターに襲われているところを助けたが、ややあってこの地に封印されていた守護神と間違われてしまう。助けたお礼に周辺の地理情勢を教えてもらい、付近の港町からエルフの国に行ってみたいと希望する。ペボット氏は不思議な態度で同行を申し出る。旅の準備もあるため一度村に戻ると言う彼に名を聞かれるも、名前が余分な情報として分解されてしまったことに気づく。とっさに自身の名前を「無料10連」と答えてしまうのであった
「ムリョウ・ジュウレンさま。と仰るのですね。」
「あ、ああ。」
訂正したかったが、ペボット氏とタバタくんの「良い名前だなぁ」オーラに負ける。
「荘厳であり、しかし神秘的でもある。奥ゆかしい名前でございますね。」
「ア“ア“」
「そ•••そっか。」
いや、歳末大セールみたいな意味なんだけど。
「ムリョウ様。ジュウレン様。どのようにお呼びすれば良いですか?」
「好きに呼んでくれ。」
不名誉な名前。いや、聞く人によっては嬉しいかな。
俺も嬉しく感じるタイプだしな。
ガチャのチカラを持つ者にはちょうどいい名前かもしれない。
「それでは守護•••ジュウレン様、行ってまいります。」
「うん。よろしく。」
結構日が落ちていたから心配したけど、ダルニャ族は夜に強い(?)から大丈夫らしい。
ペボット氏の馬車を見送る。無事を祈る。
姿が見えなくなったら急に疲れた。
緊張の糸が切れたのだろうか、とても眠い。
タバタくんに寄り添って寝ようとしたら、
枝で器用にハンモックのような形を作ってくれた。
ありがたい。おやすみ。
翌朝。
「さて、タバタくん。」
「ア”ー」
「聞いていたと思うけど、俺は旅に出る事にした。」
「ア”ア“」
「もう気付いてるかも知れないが、その旅にキミは連れて行けない。」
「ア”ア“••••••」
タバタくんが非常に寂しそうだ。
まあ待ってくれ。今生の別れにはしないよ。
「でも、いつか俺はここに帰ってくる。だから、ここに俺とキミの故郷を建てよう!」
「ア“ア“!」
タバタくんの表情がパッと明るく•••はならないが、嬉しそうだ。
「この草原はどの部族の領地でもないって言ってたから、
俺らが何か建てたとしても文句は言われないはずだ。」
とはいえ、
「けど故郷って言っても、何をしよう。家を建ててもキミは住まないよね?」
デカイし。木だし。
「ア“ー。」
タバタくんは俺に枝を巻きつけると、どこかに運び始めた。
何か思いついたことがあるのかな。
やがて、そこかしこに生えているツフの木の前で降ろされる。
じゃれるように手を引くとツフの木の幹に俺の手を添える。
この体勢は•••。
「万物ガチャを使えってこと?」
「ア“ー」
「••••••ああ! 仲間を増やせってことか。」
そうだよな。留守番するにしてもタバタくん一人じゃ寂しいし、
俺だって帰ってきた時は賑やかな方が嬉しい。
よしよし、とりあえず目標は10体だ。
木に向かって万物ガチャを発動させる。
•••全然うまくいかない。
いや、万物ガチャは正常だ。いろんな木を引けている。
現在はバライという黄色い木の前で休憩中。
途中で白樺とか欅みたいな、知ってる樹木もあったが、
木をモデルにしたモンスターが全然引けない。
全然というか1体も。
おそらく、ガチャで引ける木の種類に対して、木型モンスターの種類が少なすぎるんだと思う。
ガチャで狙って引くということを意識した事がないけど、難しいものなんだなぁ。
提案してくれたタバタくんが申し訳なさそうだ。
欲しいガチャは、普通はピックアップとか待つんだっけ?
•••ん?ピックアップガチャ?
少し閃くものがある。
改めて万物ガチャを発動させるが、呪文のように唱える。
「木型モンスターピックアップガチャ。」
ポンッ!
★バライの木を消費して、ガイアウッド:赤を手に入れました。
手応えあり。モンスターだ。
両手でも囲えないくらいの太さの幹に、ギョロリと目が一つ。
手のように動く細い枝が左右に二本。
見上げると紅葉した葉が茂っている。
ザ・木型モンスターといった雰囲気だ。
口がないから、着ぐるみのように手を振ってアピールしてくる。
★ガイアウッド:赤 属性:善 特別な効果:葉に解毒および呪い避けあり
ほほー。モンスターだけど、善属性とかあるのか。
「よろしくな。」
幹をぱんぱんと叩くと、両手をわしゃわしゃ動かす。
「こっちはタバタくん。キミの先輩だから従うように。」
後ろを指し示すと、ギョロリと目を動かす。
「ア“ア“」
ガイアウッドは信じられないものを見たように、パチパチと数回瞬きした。
瞬きするのか。
目が口ほどに物を言ってて面白い。
さて、どんどん増やそう。
2体目はウッドファイター。
剣と盾を持った2メートルほどの木で、細身。
夜道で人間と間違えそうなシルエットだ。
ガイアウッド同様に口がないから話すことはできない。
頭はあるが目も鼻もない。
しかし意思の疎通は出来るらしく、タバタくんに連れられて測量のようなことをしている。
連続で木型モンスターを引けたし、ピックアップは有効らしい。
ピックアップガチャがあるなら試してみたいことがある。
次のツフの木に手を当てる。
「レジェンドデスイビルウッド確定ガチャ。」
•••何も起きないな。
万物ガチャが発動しないのは初めてだけど、そんな気はしてた。
流石に確定ガチャは無理か。
ラインナップの検証もしてみたいが、ガチャに対するワクワクが減るのは避けたい。
続けるとしよう。
「木型モンスターピックアップガチャ。」
ポンッ!
★ツフの木を消費して、樹木精霊ヒスメナを手に入れました。
「あらあら、随分とお若い•••。いえ、初めまして。」
美しい女性が姿を現した。
人に見えるけど肌の質感が木だ。
あと足がない、そのまま植わっている。
ほとんど想像通りのドリアードだ!やったぜ。
「俺はジュウレン。よろしくな。」
「うふふ。」
握手しようと手を差し出すと、手を取って甲をゆっくりなぞる。
余裕の笑みを見せている。
「とってもお若い手をされていますのね。可愛らしい•••。」
可愛らしいって•••。
ただ手を触られているだけなのに、何か吸い取られそうだ。
話題を変えよう。えーっと、
「キミは俺と言葉が通じるけど、樹木とも話せたりするのかい?」
「うふふ。もちろんですわ。旦那様。」
相変わらず手の甲をくすぐられているが、無視。
「それは良かった。おーい、タバタくん。」
ヒスメナの肩越しにタバタくんを呼び寄せる。
ウッドファイターと何かをしていたようだ。
「彼との話の通訳を頼みたいんだ。」
タバタくんがワラワラと駆け寄ってくる。
「ア“ア“ア“」
ヒスメナは余裕の表情でタバタくんに振り返る。が、
「ヒョ、ヒョエェェェェェェッ!」
女性の顔芸を初めて見た。あまり見たくなかったな。
ジェットコースターに初めて乗った人みたいだ。
「槐殺しの呪いの邪樹木•••。まさか存在するなんて•••。」
えんじゅごろし?
レジェンドというだけあって、言い伝えとかあるのかな。
「ア“ア“•••」
タバタくんは俺の手に触れているヒスメナの手を払う。
万引きしようとする手を咎めるような叩き方だった。
やきもち?
「わ、わかっていますわ!ですから。ちょ、ちょっとやめてくださいまし!」
タバタくんがヒスメナの腰あたりに枝を巻きつける。
余裕の笑みはどこへやら、必死に暴れるが抜け出せない。
そのままズボッと根ごと引き抜かれてしまう。
「ひいいい!」
そして俺の前に仰向けに置かれる。
収穫された根野菜みたいだ。
「もう•••枯れてしまいたいですわ•••。」
ヒスメナが両手で顔を覆っている。
どうしたものかと思ったが、タバタくんが次の木へ誘導してきた。
放っておけと言わんばかりだったので、しばらく放置することになった。
お読みいただきありがとうございます。
小野塚歩です。
1話ごとの長さはどのくらいが読みやすいでしょうか。
もう少し長くても問題ありませんか?
次話もご期待くださいね。