表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界ではガチャは無料らしい  作者: 小野塚 歩
7/12

6話。この世界を知る〜お名前は?

自分の能力で意図せず呪いの木を現出させてしまうが、味方であった。木にタバタくんと名前をつけ、護身用の杖を作ってもらったりする。そのあと、付近を通りがかった馬車がハイエナのようなモンスターに襲われていたため、ハイエナをタバタくんが殲滅。馬車の持ち主、ペボット氏に感謝されながらも、大地の守護神と勘違いされる。

「この周辺の地形がわかる地図を見せてほしい。」

色々曲解したペボット氏がさらなる誤解をする前に頼んでみる。

「もちろんでございます! 幸いわたくし商人でして、この辺りは庭のように•••」

そこまで言うとペボット氏は横転した馬車を見て、言葉を失う。

「ああ、タバタくん、悪いんだけど馬車を戻してあげられるかい?」

「ア“ー」

タバタくんが枝をまばらに伸ばしてに馬と馬車とを持ち上げる。

よいしょ。といった雰囲気で馬車を立たせる。

ペボット氏が深々とお辞儀をした後、馬車に駆け寄る。

地図を探しに行ったのだと思うが、馬車の点検も兼ねているかもしれない。

少し待つかな。


「ア”。」

タバタくんがおもむろにウツボカズラを差し出した。

今度は木の実っぽいものが入っている。

そうだった。食べ物の採取をお願いしたんだった。

「こんなに? ありがとう!」

栗っぽい実や、薄皮のある実だけが入っている。

わざわざ堅い殻を外してから入れてくれたんだな。

一つ一つの気遣いがとてもありがたい。

ドングリとかは苦いって聞くけど、感謝してちゃんと食べよう。

試しに一つ食べてみる。ほのかに甘く、花の香りがする。

普通に美味しい。

例のウツボカズラ水に似た味だと思って気付いた。

木の実がやや濡れている。

木の実のほかに小さな花びらも入っている。

「もしかして、食べやすいように漬けてくれたのか?」

「ア“。」

「キミは気遣いの天才だなぁ。」

「ア”ア“ー」

タバタくんイチャイチャしてるとペボット氏が戻ってきた。



広げた地図を石で押さえる。

「じゃあ、周辺の国と情勢。あと歴史を教えてほしい。」

どのような国であれ、歴史的な背景を無視しては理解できない。

将来どこかに住むにしても、その判断材料にしたい。

「わかりました。わたくしも伝え聞いた話ですのでご了承下さい。

まず、貴方様を含めた7柱の守護神様が眠りに就かれたあと、夜を司る女神様がーー」

「待った。」

「は、なんでございましょう?」

「歴史はここ十年くらいで。あとは自分で調べる。」

「失礼いたしました。ではーーー。」


ペボット氏の説明は非常にわかりやすくて助かった。

この地域には国は多数あるものの、勢力は3つ。

まず、今いるここは27部族連合という勢力に含まれる。

名前の通り27の部族が集まっているが、見た目も主義もバラバラ。

他の勢力の侵攻があり、それを防ぐために団結しているらしい。

次に27部族から東にある巨大な湖を挟んで向こう岸。

石でできた遺跡に暮らすエルフの勢力がある。エルフか。

自称エルフ神聖国。

エルフは魔法に長けており、魔法は神の子孫である証だとか。

しかし、27部族にも僅かながら魔法を扱える種族がいるらしい。

だから神の子孫も自称。

最後に3つ目の勢力。鬼だ。

先の二つの勢力から北にある長い山脈。その向こう。

ここからでもうっすらと見える山のことだろうか。

そこに鬼の住む国がある。しかしエルフが王として君臨している。

通称、公国。3勢力で最も強いらしい。

「鬼の国なのにエルフが王なのか?」

「ええ。かつて神聖国に双子の王子がおりまして、片方は神聖国の王に。

もう一方は公爵の地位にありましたが、領地を出て北の山へ。

それまでバラバラだった鬼をまとめ上げたのだとか。」

「へぇ•••。鬼はやっぱり強いのか?」

「はい。魔法は全く使えませんが、強靭な肉体を持ちます。

先ほどのレッサーファングとも素手でやり合えるとか。」

レッサーファング?ああ。ハイエナのことか。


27部族は始めは30部族だったという。

しかし、鬼たちが国家として侵略を開始。

1部族が滅びると、水棲可能な2部族が湖に逃げ住む。

こうして鬼の侵攻を防ぐために、残りの27で団結した•••と。

鬼たちはエルフの領域にも侵攻している。

27部族とエルフ神聖国は、公国の侵攻を防ぐために協定が結ばれた。

今は27部族とエルフ、対して鬼という勢力図だ。

なるほどな。

大体の説明を聞いたあと、一つ気になった事があった。

ここまでの話にニンゲンという言葉がなかった事だ。

人間について聞いてみたが、知らない種族だと。

俺と同じ種族だと言うと、目覚めた守護神は俺が最初だと返ってきた。

そういう意味じゃないが、言いたいことはわかった。

ペボット氏は猫耳があるだけで、人間に近い。

しかし彼は自分をダルニャ族だという。

俺はこの世界にたった一人の種族。なのか?

「これからどうなさいますか?」

種族について考えていると、ペボット氏から質問が投げかけられた。

•••どうしよう。ここまで目的もなくノープランだったから、

何をしたいとかはあんまり考えてない。

エルフを見てみたくはあるけど、そういうことでもないだろうし。

ふと思う。本当に自分以外に人間はいないのか。

もし居れば、会ってみたい。

よし。決めた。

「世界を見てまわることにするよ。」

俺の答えに何を思ったか、ペボット氏がほうと息を吐く。

そして何かを悟ったような顔。

「やはり、そうなさいますか。」

「やはりとは?」

「伝承にあった通りでした。守護神様はやがて己の守った世界を巡られ、その価値を正義で裁かれる•••と。」

「•••なんだって?」

「記憶が未だ戻らぬとしても、ご自身の使命は覚えておいでなのですな。」

マジかよ。ちょっとその伝承考えたヤツ出てこい。

万物ガチャで別の伝承に変えてやるから。

「そ、そういうわけだから、まずはエルフの国に行こうと思うんだけど。」

地図を見る。現在地は27部族領内で湖寄りの場所。

「このイシズマの街から行くのが一番近い道になるのか?」

伝説が目の前にある事に感動していたペボット氏だったが、急に真面目な顔になる。

「イシズマの街•••ですか。」

「うん。何かマズいか?」

「いいえ、問題ございません。ですが、わたくしをお連れくださいませんか?」

ペボット氏に同行を提案された。

守護神様と一緒だわーい。という雰囲気ではない。

どちらかといえば、死地に向かうような態度。

深く聞きたいけど、何かの覚悟を決めた顔に追求できない。

まぁガイドがいれば旅が楽になるのは間違いない。

「わかった。よろしく頼むよ。」

「ありがとうございます。重ねてで申し訳ないのですが、もう一つお願いしてもよろしいでしょうか?」

「うん?」


ペボット氏は旅の支度や道具を準備したいから、一度ダルニャの村に戻りたいと申し出ててきた。

村に歓迎しますので一緒にどうぞと提案される。

ダルニャ族には興味があるけど、住民に囲まれて守護神様と呼ばれるのはごめんだ。

ここで待ってるからいいよと返す。

「それでは、数日中には必ず戻りますので。」

「ああ。ここで待ってるよ。いなかったら名前を呼んでくれ。

俺は気が付かなくてもタバタくんはわかるから。」

「は。あ、いえ。守護神様のお名前を伺っておりません。」

「そういえばそうか。俺の名前は••••••。」

•••あれ?

俺の名前は■■ ■■。

再び顔のない彼女の言葉が蘇る。

『余分な情報は分解されて、忘れちゃうかもです。』

え?俺の名前って余分な情報だった?マジかよ。

割と大事な事じゃない?

しかし。

自分の名前も忘れてしまったということは、

■■■の名前は、自分の名前と同価値だったと思い至る。

何か少しだけ救われた気分だ。

きっと忘れた事すら思い出せない事はたくさんある。

それでも忘れてしまったことを覚えているのだから。

■■■との思い出が煌めきのようにーー。

「あの。」

急に現実に引き戻された。

ペボット氏がやや心配した顔をしている。

随分と待たせているらしい。

■■■のことを考えてたら顔が笑っていたらしい。

そんな自分がなんだかおかしい。

ってそうじゃない。

なんでもいいから思いついた言葉を言わないと!


「むっ無料10連ッ!」

この時から、この世界における名前が決まってしまった。

お読みいただきありがとうございます。

小野塚歩です。

次話もご期待ください!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ