4話。新しい世界〜呪いの大樹
自分のチカラ、万物ガチャから生まれた少女リリィの助力を得て、次の世界に渡ることとなった。彼女と契約を交わし、ビデオレターを撮り、思い残すことをなくした。そうして新しい世界へと旅立った。
木がまばらに生えた草原に『彼』は倒れていた。
行き倒れではなく昼寝といった様相。
木陰は過ごしやすく日差しが心地よいのだろう。
しかしこの草原で人間の姿を見かけることはない。
凶暴なモンスターの縄張りに含まれているからである。
故に、周囲の街を行き来する旅人は草原を迂回し、街道を通る。
彼の目覚めがあと2時間遅ければ、
モンスターのエサになっていたかもしれない。
「•••ハッ。」
どのくらい眠っていただろうか、
さっき眠りについたような気もするし、
数年単位で眠りについていた気もする。
自分の体を見る。ジーンズにシャツ。こんな格好してたか?
「オレはいったい•••?」
ガツンと頭を殴られるような衝撃が走る。
そして思い出す。
「ここが次の世界•••?」
一見なんの変哲もない地。
いや、見覚えのない場所であることは間違いないのだけど。
「そうだ!万物ガチャ!」
近くの石を拾いあげる。
ポンッ!
★廃灰石を消費して、ソベン鉄鉱石を手に入れました。
良かった。うまく使える。チカラは紐付いたままだ。
引き当てた鉄鉱石を凝視すると文字が浮かび上がる。
★ソベン鉄鉱石 特別な効果:なし 価値:比重から判断してやや抵
情報解析の性能も問題なし。
このチカラが使えるなら、■■■との契約も無事だ。
•••アレ?
脳内で顔のない人物が自分を見上げる様子が浮かぶ。
『もしかしたら、■■■の事は忘れちゃうかもしれません。』
「嘘だろ。」
信じられないことが起きている。
大事な•••とても大事な人だったはずだ。
とても大事な人なのに思い出すことができない。
家族•••兄弟だっただろうか?いや。知り合ったのは短い時間。
友人でもない気がする。向こうが友人とは思ってなかった。
恋人だった?その可能性は捨て去れないが、違和感がある。
「■■■•••。ごめん。忘れてしまった。」
呼べない名前を言葉に出す。
気づかないうちに涙が頬を伝う。
自分がわからない。
喩えるなら、あまりにも映画に集中しすぎて、現実に戻っても映画の続きにいるような。
「どうしたら•••。」
忘れるということがこれほどショックだとは。
拠り所をなくして途方に暮れそうになる。
しかし。
『必ず追いつきますから、待っててくださいね。』
記憶の中に残る言葉が、俯くことを許さない。
彼、いや彼女だろうか。
■■■との再会の約束に叱咤される。
そうだな。
また会えることを信じて、進まなくては。
■■■と会った時に恥ずかしくない自分でいよう。
「よし!がんばろう!」
言葉に出して気合を入れる。
もしかしたら。
ひょってして■■■は神様だったかもしれない。
それはないか。思い出がフレンドリーすぎる。
とりあえず、付近にあった石ころを万物ガチャで引きまくる。
ポンッポンッポンッ•••
とりあえず武器、身を守る道具を手に入れるためだ。
というのも、先程遠吠えのようなものが聞こえた。
こんなところでオオカミの群れにでも遭遇したら終わりだ。
とりあえず投石用の黒曜石でも引き当てて、
その辺の木の枝で杖でも作れば無いよりはマシになる。
その中で、この世界特有の鉱物なのかは分からないが、便利そうな石を引けた。
“魔石”だ。
石に魔法が詰まっているらしい。
魔法の存在が簡単に手に入る事に驚いたが、
すんなりと魔法を受け入れている自分にも驚いた。
敵らしい敵に出会う前に魔石の使い方に慣れておこうと思う。
とりあえず気になる石を6個ほどポケットに詰める。
本当はもっと持ち歩きたいが、すでに穴が開きそうだし、痛い。
内訳はこんなかんじだ。
アメジスト•••閃光の魔法が入っている。
エメラルド•••風の魔法が入っている。
魔金鉱•••特別な効果はないが希少価値が、中の上だった。
硅銀鉱•••同上。
斜光石•••黒曜石のようなものだと推測した。
ベルライト鉱石•••これは後述。
驚いたのは、情報解析が宝石の価値を低いと判断したことだ。
実験のために水の魔法の入った宝石を投げてみたら、
バケツをひっくり返したような水の塊を吐き出した後、透明な水晶になった。
他の宝石も魔法が発生した後に水晶だけが残る。
ここで仮説だが、この水晶はバッテリーのような役割で、
魔法を入れることができるのではないだろうか。
そして中身の魔法に応じて宝石になるとか?
魔法が使えないから確証は得られないが、一番自信のある仮説だ。
それなら中の魔法が宝石の価値になるから、価値が低くても道理だ。
そしてもう一つ。初めての体験があった。
ベルライト鉱石。
ガチャで引いたものは基本的に情報解析で調べる。
★ベルライト鉱石 失敗:対象の存在が高位であるため解析不可能。
これはゲームでいうところの隠しアイテムではないだろうか?
後で使うから今は使えません系のヤツ。
だとすれば希少価値は高いはずだ。
いつか森の賢者に「おお、その石は•••!」とか言われるために持っておく。
次にするべきは武器の入手だ。
結論として杖を持つ事にする。
丈夫な棒というのはそれだけで便利だし、
振り回すだけでいいから武術の心得がなくても扱える。ハズだ。
早速、近くに落ちている棒を杖にするべく手に持つ。
木の枝を万物ガチャで杖にすればいいだけだ。
ポンッ!
木の枝が•••別の木の枝になった!
そりゃそうだ。
仮に“木の枝ガチャ”があってもラインナップに杖は入らない。
目論見が外れてしまう。さて困ったぞ?
どうやって杖を手に入れよう?
いや杖にこだわる必要はないか。少し考えよう。
うーむ。ピンチだ!
空腹だ。腹が減ってきた。
杖に関していろいろ試していたら、思いのほか腹が減る。
空腹は少しなら耐えられるが、待っていても治るものではない。
時間を経るごとに状況は悪化してしまうのだから、早めに行動するべきだ。
辺りを見渡すが、草と木ばかりで何もない。
どこかに街でもあれば別だが、見える範囲に人の生活圏はない。
木ばっかりだ。
せめて木の実でもーーーと閃いたぞ。
木の実がないなら万物ガチャで実のなる木を引いてしまおう。
目の前の木に手を当てる。
みかんの木とか引きたいな。
ガチャは狙って引けるものではないが、希望を持つのはいいことだ。
ポンッ!
★ツフの木を消費して、レジェンドデスイビルウッドを手に入れました。
人って驚きと恐怖を同時に味わうと何もできなくなるんだな。
8メートルはあろうかという曲がったヤナギの木が出現する。
ただし、あちこちに人の顔のようなコブがある。
「ア“ア“ア“•••」
コブが声にならない声を発している。
憎しみの呪詛のような声。
どう見ても呪いの木だし、どう見てもモンスターだ。
見上げるほど高く伸びた枝が、自分の遥か後ろまで垂れている。
無数にある鞭のような枝の一本でも簡単に俺を絞め殺せそうだ。
グニャリと捻れてコブ•••というか顔の一つがこちらを見る。
向こうは顔の形をしてるだけだから、見ると言っても目はないが。
目が合ってしまった。気がする。
★レジェンドデスイビルウッド 失敗:対象の存在が非常に高位であるため解析不可能。
凝視したせいか情報解析が発動する。
ですよねー。しかも、鉱石と違って”非常に“高位って何さ。
獲物の品定めでもしてるのか、こちらの様子を窺っている。
死を覚悟する。
最近、死を覚悟すること多くない?
すまない■■■。死因は呪いの木です。
ぐうう•••。とお腹が鳴る。こんな状況で元気なもんだ。
「ア“ア“!」
こちらの空腹を察したのか、ぐにゃぐにゃと身をよじる。
どこからともなく枝の一本が伸びてきた。
ウツボカズラ?のようなものが枝に巻かれていて、目の前で静止した。
もし話せるなら「どうぞ」とでも言わんばかりに。
思わず受け取る。ウツボカズラの中には液体が入っている。
•••飲めと?
食虫植物の消化液だよな。
ゲームでも毒の代表格みたいなヤツなんだけど。
★不明な液体 毒:なし 特別な効果:身体能力の向上 希少価値:中
情報解析が危険はないと判断している。
ええい、こういうのも冒険だ!
思い切って飲んでみる。
粘度のない薄い蜂蜜のような味と喉越し。
「うまい。普通に飲める•••ぞ?」
「ア“〜!」
こちらの不安を知ってか、呪いの木は返事をする。
きっと「そうでしょう、そうでしょう。」言ってる気がする。
ここまできて、大きな勘違いをしていたのではないかと気付いた。
もしかして。
コイツ。
味方か?
そういえば、
ガチャから出たキャラが敵って、あり得ないよな。
お読みいただきありがとうございます。
小野塚歩です。
お楽しみいただければ幸いです。
一話ごとの話の長さをどの程度にしようか迷う日々であります。
次話の投稿は近いうちに行いますが、少しお待ちください。
ガチャのピックアップ内容が変更になるまでくらいには投稿いたします。
ご期待ください。