3話。次の世界〜膝枕
万物ガチャから生まれた少女リリィに、元の世界に帰る話をしたら泣かせてしまった。慰めつつ、これからの話をすること。
次の世界に行くための話をしようと提案。
了承したリリィの目はまだ少し赤い。
「結論から言うと、そのままでは次の世界には行けません!」
「行くために何か条件があるのか?」
「いいえ。何かが必要なのではなくて、まるまる全部は持ってけないって意味です。」
「ああ、そういう意味か。」
「行けるのは魂とそれに紐づいた情報だけです。」
「ん?」
さっき聞いた話だよな。死ぬと魂が隣の世界で再構築とかなんとか。
「結局は死んだ時と同じってことか?」
死ぬのはちょっと勘弁だな。
「いいえ。死んでないけど魂だけになるんです!」
「どういうこと?」
いいですか? とリリィが人差し指を立てる。
「死んだ状態は、魂が眠っている状態なんです。なので次の世界に行く際に自我や記憶が分解されて、別のものに再構築されても気付きません。
でも、生きた状態なら魂が起きてて、記憶をはじめとした情報は自分のものって認識してますから分解に抵抗できるんです。」
「ああ、物理的なもの以外は持っていけるってことか。」
「その認識であってますけど、余分な情報は分解されて、忘れちゃうかもです。」
「余分な情報?」
「時間的に浅い部分にある記憶とか、それほど重要に思ってない情報とかです。」
「なるほど?」
まあ、余分というくらいだし、忘れても問題ないのだろう。
会話していて思うが、リリィは妙に詳しいよな。
仮に“そういうもの”なんだとしても。
悪魔が皆こんなに詳しかったら、もっと世界の行き来があるんじゃないだろうか。
日本では見かけないだけで、異世界の人とか結構いたのかな?
せっかくだから聞いてみる。
「たぶんですけど、リリィが詳しいのは特別だと思います。」
「そうなのか?」
「一つはリリィが情報解析に寄った性能をしてるからですけど、
それよりもリリィがここで創造られたから、というのが大きいです。」
さっきの話じゃないが、リリィは構築される際にこの環境の情報が取り込まれたのだという。
その証拠かは分からないが、リリィは次の世界の情報はもちろん、前の世界にある日本のことも知らなかった。
話を戻そう。
「実際、余分な情報として分解された記憶は忘れるんだよな?」
「その通りです。」
「どの程度忘れるんだ? 流石にこの万物ガチャは忘れたくないんだが。」
「それは大丈夫です。そのチカラは魂に紐づいた情報ですから。」
良かった。せっかく手に入れたしな。
リリィが、でも、と続ける。
「もしかしたら、リリィのことは忘れちゃうかもしれません。」
「なんだって?」
それは、なんか嫌だ。というかちょっと待ってほしい。
「リリィも一緒に行くんじゃないのか?」
「一緒に行きたいですけど、無理だと思います。」
「何か事情があるのか?」
リリィはふるふると頭を横に揺らす。
「単純に魂の経験値の差です。
ご主人様は、世界を循環する魂ですから強度があります。
それに誘拐とはいえ、前の世界から移動に成功しています。
その事実は非常に大きなメリットです。
リリィは悪魔ですけど、そういった経験が何もないですから、
ご主人様に比べて魂が絹豆腐くらい脆いです。
今のままじゃ世界を渡る時に存在を維持できずに、豆腐どころかおからになっちゃいます。」
小さくうなだれる。それにしてもリリィは豆腐好きなのかな。
さっきも豆腐バーガーに興味示してたもんな。
余計なことを考えてしまう。
「でもでも、リリィがこっちに居ることのメリットもあります。」
ぱっと顔を上げると自慢げに微笑む。
「ご主人様が次の世界に行くためのサポートが出来ます!
それに、今は一緒に行けなくても、絶対追いかけますから。」
何かをはぐらかされている気もするが、従う事にする。
リリィがそれで良いと判断しているなら尊重したい。
無条件で信頼してしまうんだよな。わからないが。
「わかった。次の世界に行く事にする。リリィ、手伝ってくれ。」
「はいっ!」
とても良い笑顔だった。
次の世界に行くための準備を開始する。
「まずは、魂と記憶の結びつきを強化するために、リリィと契約しましょう!」
「すでに主従契約とかが結ばれてるんじゃないのか?」
「それはリリィが勝手に従ってるだけで、証明する方法がないです。ですから魂に刻む情報としての契約を結びます。」
「ふむ。」
「これはお互いのチカラを相手に分け与えることで成立します。」
「チカラってことは、万物ガチャか?」
「はい。けど、契約によってチカラが減退することはないので安心してください。」
「そっか。リリィは何を分けてくれるんだ?」
「リリィからは情報を解析するチカラを。これによって、
ある程度までの物質や生命体の情報を解析できます。
ご主人様の次の世界での新しい冒険に持ってこいです!」
「おっ!それは便利だな。」
偉いぞーと頭を撫でてみる。
「えへへ。契約は上位者が条件をつけて相手を縛れますけど、
ご主人様はリリィに何か制約させたいことはありますか?」
「いやないよ。自由にしなさい。」
「はーい。じゃあ、ちゃちゃっと契約しましょう。」
「うん。何をすればいい?」
「目を閉じて、心を静かにしてください。で、リリィにチカラを分けることを宣言してください。」
言われた通りに目を瞑る。心はもともと落ち着いている。
「リリィに万物ガチャを分け与える。」
「ご主人様に情報解析のチカラを以て返礼致します。これがその証です。んっ。」
唇に何かあたたかいものが触れ、すぐに離れる。
それをきっかけに全身に血が巡るような感覚。
目を開けると少しだけ紅潮したリリィがいる。
「うまく行きました!見ててくださいね」
リリィは床に落ちているペットボトルキャップを拾うと、
両手で水をすくうように持つ。
「むむむ•••。えいっ!」
ポンと音がして、リリィの手には四角く穴の開いたコインが置かれていた。
「できました!ご主人様、これを集中して見てみてください。」
言われた通りに見つめると、文字が浮かぶ。
★不明な硬貨•••材質:銅 特別な効果:なし 重さ:約3g 価値:極めて抵
「おお!」
「見えましたか?それがリリィの情報解析です。」
しばらく互いにチカラの使い方を慣らそうと提案したが、
リリィは万物ガチャを連続では使えず、時間をおく必要があるらしい。
「次にご主人様には“遺言状”を書いてもらいます!」
「遺言って•••まるで死にに行くみたいじゃないか。」
「抵抗があるでしょうが、正しい方法なんです。
遺言を書いて、前の世界との繋がりを心の中で断つことで、
ご主人様が前の世界に引きずられるのを防ぎます。」
「そう•••。」
理論は理解したが、それでも抵抗はある。
「ちなみに、ご主人様が遺言状だと認識していれば、内容はなんでもいいはずです。」
「あ、そうなの?」
だったら問題ないかもしれない。
遺言状はビデオメッセージにする事にした。
抵抗感がないしリリィは問題ないと言ってくれる。
スマホのカメラモードを動画で起動する。
自分の顔が画面に映るのはやや恥ずかしいが、
最初で最後となれば覚悟も決まる。
「父さん、母さん。姉貴。今までお世話になりました。
一足先に次の世界で暮らす事にしました。
迷惑ばかりかけて後悔することも多かったですが、
やり直したいとは思いません。
今までの人生を皆んなに感謝しています。それじゃあー」
「ストップ、ストーップ!」
何故か画面にリリィが割り込んでくる。
「リリィのこと、何も話してくれてないじゃないですかー!
どうもー!ご主人様のご家族の皆様ー!リリィです。
ご主人様にお創造りいただいて0歳と8時間になります。
次の世界ではリリィがお世話するので安心してくださいね。
ご主人様を立派に育ててくださいまして、ありがとうございました!」
「リリィが映って問題ないのか?」
「大丈夫ですっ!ご主人様とリリィは魂で繋がった間柄ですから。」
「まぁ、それもそうか。」
誰に見せるわけでもないし、いいか。
動画撮影を終了にして、保存をかけておく。
ちなみにスマホは常に圏外。クセでデータ通信をOFFにしてある。
「これで問題ないかな?」
「ご主人様が遺言状と認識できれば大丈夫です。」
確かに、録画の前と後で自分に変化があったような気がする。
少なくとも、次の世界に行くことを当たり前と認識している。
「次は何をしたらいいんだ?」
「これで準備は終わりです。あとはリリィが膝枕するだけです。」
なるほどなー。膝枕なー。
次の世界に行く方法は極めて単純なもので、眠ればいいだけだった。
肉体が眠った状態は、この空間では大きく作用するらしい。
もはや難しいことはわからないが、リリィが言うならそうなんだろう。
なので膝枕。リリィのももに寝かされている。
これはリリィがやりたいだけなんじゃないのかー?
しかし、眠って起きたら次の世界なら、ここで別れる事になる。
ちょっとした不安がある。
仰向けに寝かされた状態で話しかける。
「リリィは後からちゃんと来てくれるよな?」
「もちろんですよー。寂しいかもしれませんが、少しの辛抱ですよー。」
額にリリィの手が触れる感覚がある。
前髪をいじられているようだ。
「わかった。待ってるよ。」
「はいっ!契約を辿って会いに行きますからね」
「ああ。留守番をよろしくな。」
「あはは、違いますよー。
リリィがご主人様の居るところに帰るんですから。
お留守番はご主人様の方ですー」
「そうだったな。いい子にして待ってるからなー•••」
ーーーーーーーこうして、意識を手放した。
お読みいただきありがとうございます。
小野塚歩です。
次話は物語的には進みませんが、すぐに投稿します。
お楽しみいただければ幸いです。