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異世界ではガチャは無料らしい  作者: 小野塚 歩
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2話。リリィ〜帰りたい?

悪魔に目をつけられた青年は、あらゆるものをガチャにして引ける能力を埋め込まれる。悪魔にその能力の対価を請求される最中、誤って悪魔そのものをガチャとして引いてしまう。新たに引いた悪魔はシモベを自称する少女だった。

「えーっと。改めてだけど、もう少し詳しく自己紹介してもらってもいいか?」

「はいっ!」

少女はクイズに正解したかのような笑顔で頷く。

「私はリリィです。ご主人様のシモベとして創造(つく)られました。

種別はサキュバス下位3位で、たぶん情報解析の能力があると思います。きな粉のおもちが好物な気がします。

サキュバスですけど、さっき創造(つく)っていただいたばかりですので、まだ•••その•••。ですので最初はご主人様が•••」

やや早口で自己紹介をしていたはずだがモジモジし始める。

•••最後の方は聞こえなかったが、敵ではないことはわかった。


リリィと会話しながら状況の把握を始めることにする。

まず第一に、先程まで状況を支配していた存在、クル・エルについてだ。

「クル・エルがどこに行ったか、知らないか?」

「それは何ですか? 生き物ですか?」

リリィは同じ悪魔であるクル・エルを知らないどころか、人名であることも認識していなかった。

リリィに、リリィが出現するまでのあらすじを伝える。

「•••ご主人様のチカラが“消費した”と記録しているなら、それは世界からの消滅です。何をやっても今日が昨日にならないように、その人はリリィと引き換えになったんだと思います。」

リリィが見た目には似合わない真面目な顔で、話を続ける。

「ご主人様が心配されてる“対価”ですけど、問題ないと思います。

通常、悪魔は自分のチカラをより弱い存在に与えます。

与えられた存在がチカラを得て膨張したら取り込むためです。

聞く限り、ご主人様は貰うだけもらって踏み倒しちゃったので、プレゼントみたいなものですね。」

よかったですね。と付け加える。


とりあえず一番の不安は解消された。ということにしておく•••。

次に知りたいのはこの真っ白な世界のことだ。

「この場所はどこだかわかるか?」

「リリィも来たのは初めてですけど、ここは“世界の廊下”って呼ばれる場所だと思います。」

世界の廊下?

「前の世界と次の世界が近くにありすぎると、ぶつかっちゃいますから、その緩衝材みたいなものです。」

前の世界と次の世界?

「世界を支配するレベルの存在なら、通過できるそうですけど、見たところ何もないですね•••ってご主人様?」

非常にスケールの大きい話を聞いた気がする。

どうしたんですか? と覗き込むリリィに尋ねる。

「前の世界と次の世界っていうのは?」

「えっ?」

「えっ?」

「ええと、言葉を間違えちゃいましたか? 生き物が死ぬと出現先になる、隣の世界のことです。」

「いや、なにそれ•••。」

「ええっ!? 常識とばかり•••。」

リリィがびっくりを全身であらわす。

いちいちの動きがかわいらしい。

確かに小悪魔の名に恥じない振る舞いだ。


リリィに世界に関する情報を教えてもらうことにする。

少し長くなると前置きされたので、そういえばとカバンからチョコパンを取り出す。

万物ガチャでパンの種類を変えながら話を聞く。

リリィの声にポンポンとコミカルな合いの手が入る。

チョコパン→ヤキソバパン→葉っぱパン(?)→白芋パンと来たところで、豆腐バーガーを引き当てる。

リリィが非常に興味を示し、話が中断されてしまった。

豆腐バーガーはリリィに与えることにした。


リリィ曰く、生き物は死ぬと隣の世界に行くが、元の状態は維持できない。

魂に深く結びついた情報、才能とか、魂に刻む契約とか以外は分解されてしまう。

魂の周辺情報が分解、再構築された状態で、

次の世界に新しい命だったり、自然発生する存在として出現するらしい。

世界が全部でいくつあるかは不明だが、前後の順番は決まっているそう。

順番を逆流することはあり得ないし、一巡することがあるのかもわからない。

「そういう情報ってどうやって知ったんだ?」

「さぁ•••? もくもく」

「さぁ? ってわからないのか?」

「リリィを創造したのはご主人様ですし•••。ご主人様に分からないならリリィも分からないです。もくもく」

「そりゃそうか。」

豆腐バーガーを溢さないよう一生懸命食べる。

食べながらでも質問にはしっかり答える。

リリィは自分に出会う前の記憶が存在しないらしいし、

知識は持ったものとして生まれたなら“そういうもの”なんだろう。


リリィとこれからの話をしてみる。

「元いた世界には帰れるのか?」

「えっ?」

「ホラ、死んだら次の世界に行くけど、生身なら方法があるのかなって。」

「生き物が世界の順番を逆に移動するのは、可能か不可能かで言えば•••可能です。けど」

もう戻れない気でいたから、戻れるなら儲けものだ。

クル・エルに呼び出された形だったし、悪魔なら転送とかできるのか?

「じゃあ元の世界に帰る手伝いを頼んでいいか?」

「でもそれは、世界の枠組みから外れた超存在にしかできないことですっ!」

こちらの言葉を遮るようにリリィが否定する。

「ご主人様を元の世界に戻すなんて弱いリリィには無理ですよぅ•••。」

やはり実質不可能と考えるべきだな。

そうすると他の選択肢は、と思ったところでリリィが言葉を続ける。

「ですが•••ご主人様がどうしても帰りたいなら•••」

言いにくいことがあるのか、途中でうつむいてしまう。

「ご主人様のチカラでリリィを。•••リリィを“消費”して、代わりにもっと強い悪魔が•••れば•••しれません。」

最終的に消え入るような声で呟くが、何を意味しているかは伝わった。

全く考えになかった方策だし、聞いても実行する気にならない。

割とリリィを気に入っていると思う。

生命体に対して万物ガチャを使う気にはならないのもある。•••クル・エルは事故だったが。

こちらが沈黙しているのをどう受け取ったかは分からないが、

意を決したように顔を上げる。

涙をいっぱいに溜めた瞳は、すでに少し赤い。

「まだ貧弱でっ、ご主人様を元の世界に送ることはできません。

 でも頑張って、頑張ってそれを叶えるくらい強くなりますからっ。

 ですからどうか、どうかもう少しだけおそばに置いてください•••っ!」

リリィの血を吐くような懇願。

こんな思いをさせてしまった事に胸が痛くなる。

ああ、これはこちらの責任だ。

万物ガチャを持つ自分が、帰ることに意欲的な姿勢を見せれば、

彼女がこの考えに至ることは当たり前だ。

そんなつもりはないと初めに表明しておくべきだった。

すでに堪えきれなくなった涙を零しながら、言葉を待つリリィを見つめる。

なるべく優しい声を心がける。

「一緒に別の方法を考えようか。」

言葉の意味を理解したのか、目を見開く。

「•••っ!」

胸に飛び込んで、すがるように泣くリリィをなだめるのにそれなりの時間がかかった。



「本音を言うと、元の世界のことは殆ど諦めてた。」

「ええっ!リリィは自分の存在価値の心配までしてたのにー!」

むー。と口を尖らせる小悪魔。わるいわるいと頭を撫でる。

「それでですねご主人様。次の世界に行ってみる気はありませんか?」

「奇遇だな。ちょうどそれを聞きたかったんだ。」

お読みいただきありがとうございます。

小野塚歩です。

次話もすぐに投稿しますので、お読み頂けませんでしょうか。

楽しんでいただければ幸いです。

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