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1章 1

金髪碧眼エルフ娘に俺は思わず聞きかえしていた。


「それが俺をわざわざ異世界召喚した理由?」


球体状の部屋で天井にはモザイクアートタイルが張られており、壁面はぎっしりと詰まった本棚で構成されている。魔術師の書斎という感じだ。


「そう、あなたが純潔者だから。わかりやすくいうと、童貞だからよ。だからあなたを召喚したの」



俺の名は氷見凛。

25歳ニートで、ちょいオタの童貞である。


スロットでバイト代を溶かしてからの帰り道、ふつうに夜道を帰っていたところふっと記憶が途切れ、気づいたらこの椅子に座らされていたのだ。

完全にアブダクション案件である。


レナと名乗った金髪エルフ美少女は大きな胸をふるふると震わせながら説明を続けた。純潔者は重要なんだ、とかなんとか。


「いやしかしこの胸、結構な眼福だな…」


と俺。


「突然何言ってんのあんた…ってどこ見てんのよ!」


俺がさっきから胸の膨らみを凝視していることに気づいてさっと離れるレナ。


「あ、いや…ごめん。俺、たまに考えてることが口に出てしまうんだ。気にしないで続けてくれ」


と俺。


これは事実である。


このおかげもあって他人はあまり俺に寄り付かず、俺は25年間純潔を守り続けられたのだ。


「はあ…まあいいわ。とにかく本題に戻るね」


レナは姿勢を直してから説明を始めた。


「この世界では男性は純潔のまま21の誕生日を迎えると強大な魔力を持つの。これは魔王ウルムトがこの世界にかけた悪趣味な呪いのせい。だから全ての男性は21の誕生日までに童貞を捨てることが義務づけられているの」


「なんだそりゃ? なんのためにそんな呪いをかけたんだそいつは?」


と俺。意味不明である。


「魔王、っていうか魔族全員そうだけど、彼らは狂ったユーモアのセンスを持ってるのよ。彼らにとってはこの呪いがおかしくてたまらないみたいね。その呪いに気づいた当初、汎人類は純潔者たちの魔力を魔族駆逐に使おうとしたんだけど、魔族には全く効果が出なかったのね。で、彼らはどうしたか」


レナは肩をすくめた。


「魔王の思惑通り、汎人類同士で高齢純潔者を集めて戦争しだしたのよ。100年前くらいのことだけど、汎人類の人口はその第一次純潔戦争のせいで半分くらいまで減ったと言われているわ」


レナは少し悲しそうな表情をした。


「その戦争を契機に”童貞殺し”も生まれた。純潔魔法に真正面から戦いを挑むと甚大な被害が出るから、それを避けるための刺客ね。純潔者の寝室に忍び込み、手練手管を使い誘惑して脱童貞させ無力化する…いわゆる”童貞殺しの服”が生まれたのもその頃ね」


「ちなみに参考までに聞きたいんだがそれってどういう服なんだ?」


「純潔者の誘惑に最適と言われている服装よ。こんなものね」


と言ってレナが手を振ると画像が中空に現れた。魔法のようだ。


「こんな感じのもの。対純潔者兵器として当時は最も効率がいいと言われたものね」


そこに映し出されたのは”例の服”だった。腕と脇が露わになり嫌が応にも胸の膨らみが強調されるあれだ。ちなみに俺も好きだった。


「なるほど…少しずつ世界観がわかってきたような…」


「リン様はこれ好き? もちろん好きだよね? 純潔者さんはこういうの好きなんでしょ?」


とニヤニヤ笑いながら聞いてくるレナ。


「まあ嫌いではないが…」


突然の俺を舐めきった態度に若干腹はたったが、俺は素直に認めた。


「だよね。あと”童貞殺し”は大抵黒髪の清楚系女子がやるの。純潔者さん好みのね。いまは全ての男性に対して21歳になる前の脱童貞が義務づけられているけど、たまに拒否したり逃げ隠れる純潔者がでるのよ。その場合は、”童貞殺し”の出番ね。大抵の純潔者は最初は抵抗するけど、結局すぐ脱童貞して無力化されるわ」


「まあ確かにこんな子が来たら俺も脱童貞したいけどな…」


俺は正直な感想を述べた。というか、むしろお願いしたい。


「だめよ」


と言って、レナは俺の方にぐっと向き直った。表情に圧が有る。


「だめ、だめ。それは絶対にだめ。純潔者じゃないあなたにはなんの価値もないから、絶対に童貞は捨てないで。なんのためにあなたを呼んだのかいまからもう少し説明してあげるから」


レナはまた手を振って、違う画像を空中に読みだした。この世界の地図のようだった。


「私たちがいるのはここ」


と言ってレナは地図の上半分を占める大きな大陸の北西部を示した。


「この港に面したティルティウスの街にいるの。そして魔王軍の居城はここ」


地図の右下、南東部に大きめ島があり、その中心部に城のようなマークがかかれている。


「私があなたを呼んだのは魔王軍を討伐して欲しいから。少なくともきちんとした休戦協定を結んで、できれば共存の道を探りたいから。そのためにあなたの純潔魔法の力を貸して欲しいの」


レナは胸元の大きく開いたドレスを着ており、俺に向かって屈み込み胸元が強調される姿勢をとった。


「いい? リン様の力、私に貸してくれる…?」


と少し潤んだ瞳で俺を見上げてお願いしてくる。はっきり言ってレナは相当な美少女だ。また可憐な見た目に反して胸のボリュームはかなり大きい。俺には刺激が強すぎる光景に目眩を覚えながら、


「わ、わかったよ。やるよ、できる限り」


と俺はよくわからないながら、力なく答えた。


レナはすぐに身を起こし胸元を隠すとにんまりと笑い、


「はい、引っかかったねー」


と言って笑い出した。


「な、なにがだよ?」


と言いながら俺は赤面する自分を感じていた。


レナは笑いをこらえながら答えて、


「やっぱり、リン様は正真正銘の純潔者だね。これは”童貞殺し”がやる初歩的な技術。こうやって誘惑されてあっという間に脱童貞させられて、純潔魔法使いは無力化されるんだよ」


俺は言葉も出なかった。


「リン様の童貞は探知されにくいようにあたしの魔力で守るけど、それでもこれからいろんな勢力が”童貞殺し”を送り込んでくると思うから、リン様は細心の注意を払ってね。リン様、さっきの写真への反応からして典型的な純潔者だと思うから。もし”童貞殺し”に直面したら迷わずに私を呼んで」


いや、確かにレナが可愛かったし、守ってやりたいと、思ってしまった…


「まあ、それはこれから気をつけるとして、最終目標は魔王軍の討伐。私は天才魔法使いだけど、リン様の純潔魔導は鍛えていけば私の魔法なんて軽く超えちゃうと思うから、一緒に頑張っていこうね」


とレナ。


「すまん、まだよく飲み込めてないんだが」


と俺。


「なんでレナはそんなことしたいんだ? レナが天才魔法使いなのはわかったが、なんで魔王軍倒したいの? あと俺が純潔魔導とやらを使えるとして、魔王軍には効かないんじゃなかったっけ?」


「最初の質問、なんで私が魔王軍を倒したいかってことだけど、わたしにはそうするだけの十分な理由がある、ってことだけ今は覚えておいて。私はエルフで生きている時間も長いから、いろいろあるの」


レナの目にギラリとした輝きが帯びるのを俺は見逃さなかったが、とりあえず今は流すことにした。


「次の質問だけど、リン様は特別な純潔者だから、リン様の魔法は魔族にも有効。なはずだよ」


「いやそこは言い切れよ」


「多分、大丈夫。まあ近いうちに試してみればいいよ。もし効かなかったらリン様死んじゃうかもだけどね」


と言って笑うレナ。


「いや全然笑えないんだが」


「そう? ドキドキしていいんじゃない? まあでもリン様は別の世界線からきた純潔者だから、魔王の呪いは完全には効かないはずなの。私はそれなりに天才魔法使いで、ここはかなり研究したから正しいはずだよ。この場合、純潔魔法が使える、ってとこまでで呪いが止まって、魔族には効かない、って呪いは無効になってる。はず」


「いやだから、その”はず”ってのはやめろって…俺は命かけてお前の研究成果の検証なんかしねーぞ」


「あはははは。まあ私は天才魔法使いだから、ちゃんと魔族にも効く純潔魔導師になれる人を召喚したんだよ。純潔者の中でも適性がある人を選んだつもり。でも死んじゃったらごめんね」


レナはニヤニヤしながら俺を見ている。


「こいつ基本的にSキャラなんじゃないかな…」


と俺。


「は? あ、今のも心の声? っていうか、わざと?」


といって笑うレナ。


「いや、ごめん、心の声だよ」


「でも確かにそうかもね。だってあたし、リン様が寝ている間にちょーっとだけ呪いかけちゃったから」


俺の腹がすとんと底に落ちていった感じかした。


「あ、え? 呪い? ってなんの? 」


と俺が言った瞬間、レナがさっと手を振ると青白い光が放たれ俺の身体を途轍もない激痛が駆け巡り俺は悲鳴をあげ椅子から転げ落ちのたうち回ったが、すぐなんの余韻もなくそれは終わった。


「わかった? これは”純粋苦痛”って魔法なの。もっともっと長く、断続的にしたり痛みを深くすることもできるし、絶対に気絶しないようにすることもできる。私が心でそう思うだけでリン様がどこにいても即座に苦痛を発生させる、そういう呪い」


「なななな、何でそんなことを俺に向かってするんだよ!」


俺は純粋に恐怖しながらレナを問い詰めた。こいつ、何者だ?


「なんでって、リン様が万が一、私の意に沿わないことを始めた場合に備えてだよ。リン様は強大な力を持つんだからそれくらいの担保は必要でしょ」


「そんな…それじゃ、それじゃまるで俺はお前の奴隷みたいじゃないか」


っていうか孫悟空じゃねーか!


「えー? ああ、そういうこと…フフフ」


といってレナは熱っぽい視線を俺に向けてくる。


「リン様はそういうタイプの人なのね…奴隷になりたい、虐げられたい…みたいな? 私、リン様が奴隷だなんて一言も言ってないのにね」


と言って、じっと俺を見つめてくる。


「違う違う、断じて違う! っていうか勝手に解釈するな!」


「ならいいですけど」


と言ってフフフと笑うレナ。思ったよりこいつ悪魔なんじゃないだろうか。


「それともう1つあるの」


「今度はなんだよ」


レナの声色は明らかにこの状況を楽しんでいた。


「リン様が万が一、”童貞殺し”の魔の手にかかって純潔を守れなかった場合、自動的に今の100倍の苦痛がリン様に襲いかかります。だから絶対に変なことしないようにしてね」


俺は口をあんぐり開けた。いやそんなん、死ぬだろ!


「でも、安心してね。純粋苦痛は感覚だけで実際にどこかが傷ついたりってことはないから。痛みのせいで発狂しちゃうかもですけどね」


と言ってニッコリ笑うレナ。


「どう考えてもお前も魔族の一員としか思えないんだが」


と言った瞬間俺の身体をまた激痛が駆け巡り、波を打つように寄せては返し俺は、


「痛いいいいいいいっいいいったいいいい!」


と絶叫してのたうち回り、またなんの前触れもなく痛みはやんだ。


「そうそう、あと暴言は謹んでくださいね。私も乙女ですから」


と言ってあははははと笑うレナ。いやもうどう考えてもお前はドS悪魔最終形態だろ、と思ったが痛みはもううんざりなので、静かにわかりましたとつぶやいた。


「まあ、まずは冒険者としてクエストいくつかやってみよ。それから魔王軍討伐のこととかはまた考えていけばいいよ」


と、突然まともな対応に切り替わる。


「わかったよ、そうしよう」


と俺は答えた。


正直言って何が何やらまだわかってないが…やるしかない。というか、まずはこいつについて行く以外どうしようもないしな。


「ところで最後に1つ質問していい?」


とレナ。


「なんだ?」


「あの、素朴な疑問なんだけど」


レナは笑いながら言った。


「リン様の世界には純潔魔導師って存在しないんだよね?」


「いや、いないよ。っていうか魔法自体存在しない」


レナは不思議そうに聞いた。


「だよね…じゃあ自発的に純潔を守ってたってことだよね? なんで? なんでリン様は25年も純潔を守ってたの? 何のために?」


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