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世は一局の碁なりけり

脚本です。

ここでの登場人物


安藤輝三  帝国陸軍大尉 歩兵第3連隊第6中隊長

桜井徳太郎 帝国陸軍少佐





〇 回想 陸軍第三連隊 舎前 (東京麻布  昭和10年1月)

  木枯らしが吹いている

  部隊 整列している

  安藤 前に立っている


  安藤   「諸君 おはよう! この度 この名誉ある殿下中隊の中隊長を拝命して 私は心の底か

        ら感激している 天皇陛下から大切な諸子をお預かりすることに対し言い知れぬ責任と

        喜びを感じるものである」

  兵達 真剣な表情で聞いている


  安藤   「諸君 誠に不徳未熟な男だがこの中隊長を助けてほしい どうか くれぐれも宜しく

        頼む・・・」

  兵達 少し表情が緩む


  安藤   「中隊長としての統卒方針は軍隊における中隊の本質からして団結と士気の二つに尽きる

        団結なくしては中隊の存在価値はなく 士気なくしては戦闘に勝ち抜くことは出来ない

        これから諸君と一心同体となって第6中隊の栄光ある伝統を守り名実ともに天下無敵の

        精強中隊を錬成してゆきたい」

  兵達 気迫ある表情で安藤を見つめている


  安藤   「重ねて この中隊長をよろしく頼む!」


〇 中隊長室 深夜

  安藤 在隊者の身上調書に目を落としている


〇 食堂 朝

  兵達 朝食をとっている

  安藤 笑顔で兵達に話しかけている


〇 舎前 昼

  安藤 教練の指揮を執っている


〇 練兵場 夕

  安藤 兵に銃剣道を指導している


〇 居室 夜

  兵達 就寝している

  安藤 その一人一人の寝顔を眺めて呟く


  安藤   「この者達の家族は 餓死 心中の寸前にあるのに 権力者達は のうのうと富を増やし

        私利私欲に走ってる 果たして 天皇陛下は この実情をご存じなのか・・・

        もし ご存じならばこんな状態を放置せれるはずはない! 純粋素朴なこの兵達が心置

        き無く奉公が出来るような世の中にせねばならない それには陛下を取り囲んでいる

        黒雲を排除しなくては・・・ それには 昭和維新しかない・・・」


〇 山王ホテル ロビー (東京赤坂 昭和11年2月29日)

  安藤 窓から外を眺めている

  桜井 銃剣を構えた兵に取り囲まれてロビーの中央に座っている

  キャタピラを回す金属音がする


〇 山王ホテル 前

  銀世界

  1台の戦車が姿を現してホテルの構内に突っ込んで来る

  安藤 玄関から飛び出して来る

  

  安藤   「ひけるものなら ひいてみろ!」

  安藤はそう叫びながら戦車に駆け寄る

  数名の兵隊も叫び後に続く

  戦車 ビラを撒いて引き返して行く

  プロペラの音がする

  安藤 空を見上げる

  飛行機 晴れ渡った青空に現れる

  太陽の光を受けたビラがひらひらと落ちて行く


  安藤 ビラを拾う


  ビラには

  一、今カラデモ遅クナイカラ原隊ヘ帰レ 

  二、抵抗スル者ハ全部逆賊デアルカラ

  三、オ前達ノ父母兄弟ハ国賊トナルノデ皆泣イテオルゾ

  二月二十九日 戒厳令司令部


  ホテルの正面に設置された大型スピーカーから男の声が響く


  声    「兵に告ぐ 勅命が発せられたのである すでに天皇陛下の御命令が発せられたのである

        お前達は上官の命令を正しいものと信じて 絶対服従をして誠心誠意活動してきたので

        あろうが すでに天皇陛下の御命令によって お前達は皆復帰せよと仰せられたのであ

        る この上 お前らがあくまで抵抗したならば それは勅命に反抗することとなり 逆

        賊とならなければならない」

  安藤 軍刀を握り締めてじっと聞いている


  声    「正しいことをしていると信じていたのに それを間違っていたならば 徒らに今迄の行

        がかりや 義理上からいつまでも反抗的態度をとって 天皇陛下にそむき奉り 逆賊と

        しての汚名を永久に受ける樣なことがあってはならない 今からでも決して遲くはない

        から 直ちに抵抗をやめて軍旗の下に復帰する樣にせよ そうしたら今迄の罪も許され

        るのである お前達の父兄は勿論のこと 国民全体もそれを心から祈っているのである

        速かに現在の位置を棄て帰って来い 戒厳司令官 香椎中將」


  ホテルの東方にアドバルーンが上がる

  「勅命する 軍旗に手向うな」と書かれた時字幕が垂れ下がっている

  

  安藤 穏やかな表情で青空に浮かぶアドルーンを眺めて小さな声で歌う

  

  ああ人栄え国亡ぶ

  盲たる民世に踊る

  治乱興亡夢に似て

  世は一局の碁なりけり

  世は一局の碁なりけり・・・








原作: 奥田鑛一郎   「二・二六の礎 安藤輝三」より

脚本:浜昭二

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