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源氏秘恋  作者: 世宇
18/22

十八 柏木

 柏木の容態は坂を下るように悪くなり、好転の兆しも見えぬまま年を越えた。

 多くの才に恵まれた我が子の命を危ぶみ、父である前太政大臣と母である北の方は気も狂わんばかりに嘆いていると伝え聞く。穏やかで長男らしい寛容さもある柏木は兄として慕われ、父の命を受けた弟たちが各地から僧や行者を次々に邸に召し出しているらしい。中には怪しげな者もいるとの噂だが、子を思う前太政大臣としては藁にもすがる思いなのだろう。

 三の宮とは未だに秘かに文を交わしているようだが、私は気づかぬふりを続けた。


 春の夕昏、俄かに三の宮は産気づき、一晩の間、耐え難いほどに苦しみ続け、射し昇る日の光に導かれるように子を産んだ。

「若君さまのご誕生でございますっ」

 誇らしげな女房の声に私の心は沈む。娘であれば邸の奥深くで育て顔を見る者も声を聞く者も限られるが、息子となればそうはいかない。

 私は龍神を父としながら帝の皇子と偽り、冷泉帝に父であると虚言も告げた。嘘に嘘を重ね、今日からは他人の子を我が子としなくてはならない。光の君と称えられながら私はいつも偽りとともに生きている。

 臣籍へ下りながら太政天皇に准ずる地位にまで昇り、高貴な姫宮との間に子にも恵まれた。真相を知らぬ人々には、世俗の栄華を極めた世にも稀なほどに幸福な人生に見えるのだろう。けれど、私にはただ一つの想いさえ許されなかった。ただ一人想う人はすべてを忘れ、祈りの中にいる。

 無事に出産を終えても笑み一つ浮かべない三の宮に代わり西山へ若宮誕生の知らせを送れば、喜びに満ちた文が返ってきた。子をよすがとし三の宮との仲が深まるよう願う流麗な手蹟から私は目を背けた。

「本当にお美しい若君さまでいらっしゃいます」

 女房が白絹に包まれた赤子を差し出してくる。拒めもせずに受け取れば、産まれ落ちたばかりでありながら顔立ちがひどく整っている。

「……この香りは」

 腕の中から、伽羅に似た芳香が薫る。

「若君さまでございます。不思議なことにそのお肌から香りを漂わせていらっしゃるのでございます。きっと天から格別に愛される御子なのでございましょう」

 祝福か、それとも呪いか。胸のうちで問えば、何も知らない無垢な瞳が私を射抜いた。


 六条院の主である私の子の誕生を祝い、それぞれの町から競うように祝いの品々が届き、産屋(うぶや)の儀式は盛大に開催された。

 五日目の夜には、前斎宮の中宮の主催で公式の行儀として祝宴が開かれ、七日目には今上帝による祝いの席が設けられた。太政天皇に准ずる私と上皇の姫宮であり今上帝の妹宮との間に産まれたとされる子のため、私は幾つもの祝宴を開いたが、祖父にあたる朱雀院が好む管絃の遊びだけは一つとして催さなかった。


 か細い身体で出産を経験した三の宮は半月近く経った今も伏せっている。私は三の宮のもとで夜を過ごさず、昼間の見舞いだけを続けた。

 気分はどうかと問いかけ、間を隔てる几帳の隙間から三の宮をのぞき込むと、横になっていた三の宮は枕から頭を上げ、私を見上げた。頬が痩せ、首が折れそうなほどに細くなっているが、その視線にはこれまでにない強さがあった。

「源氏の院」

 静かな迷いのない声だった。私は几帳を押しやり、上体を起こした三の宮と向かいあった。まっすぐに私を見つめる眼差しに迷いはない。

「わたくしは出家いたします」

 幼く、周囲の言いなりのままに過ごしていた姫宮とは思えない大人びた様子に驚く。

「……出家などと、一体何を言い出すのか。母となった身で出家など、どうしてそのようなことを……」

「どうしてかは、源氏の院こそご存知のはず」

 毅然とした様子に戸惑いながらも考えを巡らせる。このまま正室としておくよりは望みのままに髪を下ろさせた方がいいのかもしれない。夫の死後、仏門に下る妻が称賛される一方、夫が存命にも関わらず妻が出家すれば妻に見限られたとして夫はこの上ない不名誉に見舞われる。今なら病を出家の理由にできる。

 この先も私は三の宮と柏木を許せないだろう。そんな私を夫とする日々は三の宮にとって茨の上に座すようなものに違いない。正室である三の宮が出家すれば、紫の上を名実とも六条院の第一の人として扱うこともできる。

 しかし、誰よりも幸せになるようにと願い、地にありて天のごとくと謳われる六条院へ降嫁させた三の宮が俗世を捨てるとなれば、朱雀院はどれほど残念に思うだろう。無事に子が産まれ、その子をよすがに仲を深めてほしいと今も願っているだろうに。

 五十の賀で対面した院は年を重ね僧形であっても変わらずに優美だった。

「身体が弱っている時は心も弱くなるのでしょう。ゆっくり休めば、つまらぬ考えも消えるもの。薬湯を用意させましょう」

 女房に言いつけたそれを私は手ずから三の宮に飲ませた。三の宮は拒まず薬湯を口にはしたが、その顔には確かな意志を宿していた。


 幾日か過ぎたある夜、事前の知らせもなく朱雀院が六条院を訪れた。驚きと恐縮とともに出迎えれば、優美な顔に苦笑を浮かべる。

「三の宮が一目私に会いたいと泣き暮らしていると聞いてね。産後の肥立ちもよくないようだし、このまま生き別れては未練ばかりが残ってしまう。出家した身でありながら、親心に負けて山を下ってしまったよ」

 忍んでの外出のために正式の法服ではなく、位を持たない一介の僧侶のような墨染めの衣を纏っている。清貧な姿がかえって気高く見え、理想的なまでに美しい。清らかなその姿は俗世で足掻く私の目には痛みを覚えるほどに眩しく映る。

「これといった病を患っているわけではないのですが調子が優れぬまま出産を迎え、無事に子を産んだものの、……さまざまなことが重なり、このような事態とあいなりまして」

 言い訳がましい言葉を連ねながら、寝殿の奥へ案内する。

「このような御座(おまし)にて誠に申し訳なく存じますが」

 御帳台の前に几帳を置き、敷物を用意し、院を通す。三の宮は几帳の向こう側で女房たちに身なりを整えられ、その後で床へと降ろされた。三の宮の用意が整うのを待ち、院は几帳をわずかに脇に寄せた。側に控える私には院の横顔は見えるが、三の宮は几帳の影になっている。

「三の宮」

 慈愛に満ちた声の後、院は瞳を潤ませながら微笑む。

「加持祈祷をする僧のような姿でありながら、わたしにはまだそんな力はないけれど、あなたが一目と願った姿だから気の晴れるまでよくご覧なさい」

「お父さま」

「泣かなくていい。わたしはここにいる。あなたに会いに来たのだよ」

 朱雀院が腕を伸ばす。三の宮の涙を拭っているのだろう。

「お父さま、……お父さま」

「母となったのに、まるで小さい頃に戻ってしまったようだね。この世には悲しみも多いけれど、わたしは父としていつもあなたを思っている。何も心配しなくていい、あなたのためになら、わたしはどのようなことでもするつもりでいるのだからね」

「……では、どうか、どうか、わたくしを尼にしてくださいませ。このままではとても生きられそうにありません」

 三の宮が院に直訴するとは思っていなかった私は驚き、院もその横顔を強張らせている。(たれぬの)の向こうから、三の宮のすすり泣きが聞こえてくる。

「どうか、お願いでございます、お父さま、どうか」

「……何と、何という思いがけないことを…… 出家を望むとは尊いけれど、あなたはまだ若い。若いうちに焦って出家などしては、かえってその後に過ちなども起こしかねないものだよ」

 戸惑いながらも穏やかに宥める院にも三の宮は嗚咽を返すばかりで答えない。

 少しの後、院は側に控える私に顔を向けた。

「病を得た身でこれほどまでに望むのならば出家をさせたいと思う。どうだろうか」

「病気のために気が弱まり覚悟も定まらぬまま申し上げているだけでございましょう」

「病のためによくないことを望むのであれば、構う必要はないが、出家をしたいと望むその志は尊い。このままこの望みを聞き流し、万が一にも病の果てに儚くなれば、悔いとも胸の痛みともなるだろう」

 静かな、けれど、有無を言わさない声だった。優美に整った顔には私への恨みではなく、正しいことを正しく行おうとする強さを宿している。

 上皇である院の意志に太政天皇に准ずる私が背けるはずもない。そうでなくても父として三の宮を心から慈しむ院と比べ、正室として迎えながら院や帝を畏れ体面だけを取り繕ってきた私とでは三の宮への思いの強さも深さも遠く及ばない。

 私を見つめる院の眼差しには怒りも恨みもない。ただ失望だけが満ちている。誰よりも幸せになるようにと願い降嫁させた六条院での日々が幸福とは遠いと聞き、胸を痛めながらも産まれた子がかすがいとなればと祈っていた院は三の宮に母となった喜びさえもないと知り、私に落胆している。

 ただ一人に見限られた。底無しの闇のような絶望が私を包む。

「三の宮、父として、あなたの気持ちはよく分かった」

 何も言えず、ただ一人の横顔を見つめることしかできない。

「わたしがこちらへ出向いた今日、あなたを出家させよう」

 考える間もなく私は几帳を押しのけ三の宮へ詰め寄った。

「どうして、どうして私を見捨てるような真似をなさるのですか。そのような弱った身体では勤行も難しいのだから、薬湯を飲み、きちんと食事をして、それからゆっくりと考えればいい。その頃には出家しようなどとは思わなくなっているはずだ。出家したいなどと気の迷いに決まっているっ」

 言い募る私を三の宮は涙に濡れた瞳で見つめた。ひどく老成した眼差しに浮かぶのは明らかな拒絶。それでも足掻かずにいられない。

「なぜ私を置いて仏の許に参ろうとなどお考えになるのです。あなたは太政天皇に准ずるこの私の妻なのですよ。地にあって天上のごとく美しいと讃えられる六条の女主人であるあなたに世の無常など縁遠いはず」

 三の宮を翻意させるために言葉を尽くす。

「あなたは私の第一の人となり、中宮さまにも劣らぬ暮らしぶり。あまたのものを手に入れられながら世を捨てようとなさるとは。お望みならば、どのような財宝でもこの私が用意して差し上げるのに」

 言い募れば、三の宮は緩く首を振った。

「蓬莱の玉の枝も燕の子安貝も求めません。わたくしの願いはただ一つ、仏の道のみでございます」

 降嫁の夜から今日まで三の宮は何も望まなかった。初めての、そしておそらくは最後の願いが出家とは、どうしても受け入れ難い。

 三の宮を翻意させようと言葉を尽くすうちに夜明けが近づいてきた。院は足掻く私を見据え、口を開いた。

「源氏の院、出家の後、時期を見て三の宮はわたしが父院からいただいた三条の邸に移らせる。そうなっても貴方には引き続き後見をお願いしたい」

 静かな声で私の望みは断ち切られた。


 病治癒の加持祈祷のために集めていた僧の中で、地位も徳も高い者ばかりを呼び入れ、父である朱雀院の目の前で三の宮は髪を下ろした。長く艶やかな髪を切り仏の道に入るための戒を授かる三の宮を、院は涙とともに見守る。横顔を伝う涙を見れば、目の奥がひどく痛い。

 こんなはずではなかった、私は院の願いを叶えようとしただけだ。こんな涙を流させるつもりなど微塵もなかった。院が格別に慈しむ三の宮を正室に迎え、六条院の誰よりも幸福にするはずだった。三の宮を通じ院と確かな(えにし)を手に入れられるはずだった。

「出家を果たしたのだから病もきっと癒えるだろう。少しずつでいいから念仏を唱えるようになさい」

 夜が明けきらないうちにと帰り仕度をし、院は三の宮に優しく言い聞かせた。三の宮は出家のためにすべての気力を使い果たしたかのように俯いている。

 院がここを訪れるのは今日で二度目。一度目は帝の行幸と院の御幸が同時にあったあの秋の日。太政天皇に准ずる位を得て、紅葉に彩られた六条院へ冷泉帝とともに朱雀院を招いた。院の皇子である東宮に明石の姫君を入内させ、太政天皇に准ずる位を得て、あの日、私は栄耀栄華の極みにあった。

「夢のように心が乱れ、秋の御幸のお礼も差し上げられぬままにこのような事態になりまして、……日を改め西山にお伺いさせていただき、今日のお詫びを申し上げたく思います」

「三の宮を貴方に預け、わたしは安寧のうちに暮らしていた。世を捨てた身となったが、この先も三の宮をお見捨てなきよう願いたい」

 冷やかではない口調がかえって耐え難く、顔さえも合わせられず俯く。

「私が至らぬばかりに、お詫びの申し上げようもございません」

 深く頭を下げ、去っていく背中を見送ることさえできなかった。


 三の宮の出家を人づてに聞いたのか柏木の病はますます重篤なものとなり小康も得ず予断を許さない日々が続いている。

 今上帝は才あふれる寵臣を惜しみ、病快癒を願って柏木を権大納言に昇進させた。日を置かず柏木を見舞っていた夕霧は誰よりも早く昇進の祝いに駆け付けた。

 幼なじみでもある従兄弟との語らいの後、柏木は泡沫のように儚く逝った。

 柏木の死の知らせが六条院に届いた時、私は三の宮とともにいた。満開には早い桜を眺めたまま、三の宮は何も言わずに頬を濡らした。


 春の終わり、私は六条院の春の町の寝殿の南面で薫の五十日の祝いを執り行った。女房や乳母たちが華やかに着飾り、薫の前には贅を尽くした美味の数々が並び、人々が浮かれ騒ぐ。

 実の父の喪中であるにも関わらず豪奢な宴が晴れやかに続く中、私は無造作に几帳を脇にどけ、三の宮のごく近くに腰を下ろした。拒むように顔を背けられ、鈍色の衣に重ねた上衣の背中を流れる髪を見つめる。艶やかな髪を惜しんだ僧が長めに削ぎ残したため後ろ姿だけでは尼とは分からないほどだ。

「このような墨染めの衣を目にするとは悲しいことですよ。この六条にあなたを迎え、誰よりも大切にしようと誓ったのに」

 言えば、三の宮が振り向き、私を見据えた。

「世を捨てる以外にわたくしの生きる道はございませんでした」

 あどけないばかりだった三の宮は強くなった。その強さを与えたのは、私でも薫でもなく柏木なのだろう。

「病床の柏木はあなたの出家にさぞ落胆したことでしょうね。生きる甲斐を無くしてしまったのかもしれない」

 痛みを抉るような言葉にも三の宮は動じない。

「わたくしが髪を下ろさずにいても、あの方は生き延びたいとはお思いにならなかったでしょう。罪を背負って生きるにはあまりにも清らかな方でしたから」

「まるで私の性根がねじ曲がって汚らわしいでも言いたいような口ぶりですね」

 五濁悪世(ごじょうあくせ)で足掻く私を、仏の道を得た三の宮は静かな表情で見つめる。

「この世に生きる限り人は誰もが罪を背負うもの。わたくしはこの命の続く限り、あの方のために経を唱えます」

「……柏木は幸せ者ですね」

 誰からも惜しまれる命と引き換えに、ただ一人の心を得た。

「私も柏木の供養は欠かさないつもりですよ」

 言い置いて、私は三の宮のもとを離れ、祝いの席へ戻った。血筋も容姿も選び抜いた乳母たちを呼び寄せ、赤子への接し方を説いた後、薫を抱き上げる。私を誰かも知らないまま、にこにこと笑いかけてくる。

 産まれた直後は肌からの芳香を放っていたが、日ごとに薄れ、今は乳の匂いしかしない。女房たちは残念がっているが、私はこれでよかったと思っている。香を纏うのは、恋を覚えてからでいい。それまでは私の末子として何不足なくどこまでも幸せに育てばいい。私とつながりはなくとも、三の宮を通じ朱雀院の血を受けている。幸福にはできなかった母の分までこの子には幸多い日々を送らせたい。

 丸々として白い、餅のような頬を指先で突けば、猫の子のような声で笑う。夕霧の幼い頃を思い出すが、似てはいない。明石の女御の皇子たちは父である帝に似て貴やかであるが、この子ほどには美しくない。雅やかな目許は父から受け継いだのだろう。実の子をその手に抱くこともなく逝った柏木を思う。生きていれば、太政大臣となった父にも劣らぬ栄華を手にできただろうに、ただ一つの恋のためにその身を滅ぼした。愚かにも哀れにも思うが、幸せとも言えるのかもしれない。

 とりとめもなく考える私の腕の中で薫は楽しげに笑い声を上げていた。


 柏木の死後、夕霧は死の床で頼まれたからと夫を喪った二の宮が住む一条邸に足しげく通っている。ひたむきすぎるほどに心を尽くし、亡き友の遺言に応えるためだけではないだろうと噂されている。

 夕霧の正室は亡き柏木の妹である雲居の雁。夕霧が二の宮を望めば、なさぬ仲の姉と妹が夫を同じくする事態となる。それでなくても、姫宮でありながら臣下である柏木に降嫁した身で二度目の婚姻など褒められるはずもない。

 (こころざし)も高く分別も備えていながら、柏木は恋情を抑えきれずに三の宮を求めた。雲居の雁の他には惟光の娘である典侍(ないしのすけ)のもとに通うだけの夕霧は、色好みな父とは違い実直だと人々に認められていたが、世間の誹りにも構わず一条邸に通い続けている。

 高貴で麗しく、多くの才に恵まれ、双璧と讃えられた二人が求めるのは、どちらも朱雀院の姫宮。双璧とは唐の古い書物に書かれた瑕疵のない一対の宝玉が由来であることを思えば、皮肉めいた気持が広がる。日と月、一対の龍珠はすでに人の手にはない。けれど、私の想いは消えず、夕霧も二の宮を諦めはしないだろう。

 なよたけの姫は罪を得て、罰として月の都から地へ堕とされた。地で時を過ごした後、不死の秘薬を残し昇天した。帝は姫のいない世を憂い、薬を燃やした。天の薬は失われ、姫は地に悲しみだけを残した。

 私が誰よりも求めるただ一人はすべてを忘れ、私が得たのは悲嘆だけだ。それでも、求めずにはいられない。恋とは抗えようもないもの、柏木も夕霧も同じなのだろう。


 夏になっても柏木の死を嘆く声が続いた。趣味よく、穏やかで思慮深くもあった柏木を身分の上下なく多くの人々が惜しみ、帝も管絃の遊びのたびに楽の才に満ちた権大納言の名を口にする。儚く逝った若者を懐かしむ声が止まぬまま秋が過ぎた。

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