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湯湧温泉の赤とんぼ

作者: おじぃ

 石川県の県庁所在地、金沢かなざわ市。北陸地方最大のマーケット規模を誇る都市。中心街の香林坊こうりんぼうにはオフィスビルやデパートもあり、停留所にはバスが次々と到着。驚くほど栄えている。


 けれどそこから少し離れれば、もう山の中。


 その静かな山中にこじんまりと佇む金沢の奥座敷、湯涌ゆわく温泉。


 古くは画家で詩人の故、竹久夢二たけひさゆめじが愛し、近年ではアニメ作品の舞台として親しまれている。


 やや急な舗装された斜面を上ると、森の中にパッと開けた玉泉湖ぎょくせんこ


 湖というよりは、沼といったところのやや大きな水たまり。


 そのほとりに張られたロープで向かい合う2頭のトンボ。そこそこ赤い小型のトンボと、真っ赤な中型のトンボ。両者ともおすで、老いて翅が傷んでいる。


「やぁ、真っ赤だね。大きいからって、僕を食べないでね」


 首を傾かせ、中型のトンボと意思疎通を図る小型のトンボ。トンボは肉食、共食いもする。普段は蚊やハエなど、いわゆる害虫をよく食べる。


 つまりトンボが減ると害虫が増えて、デング熱や脳炎などの疫病が蔓延しやすくなる。


「もうそんな元気はないよ。蚊や小バエを食べるので精一杯さ。少し寒くなってきたね」


 小さいトンボ同様に、首を振って意思疎通。


「そうだね、やることやったし、僕にもう悔いはない」


「そうか、良かった。僕もだよ、1500分の1になれたよ」


 水中で卵から幼虫、ヤゴとして孵化ふかし、やがて羽化うかしてトンボになり、子孫を遺せる確率はおおよそ1500分の1。ほとんどが天敵に喰われるなどの事故に遭い、老いるまでは生きられない。


「奇跡だね、恐怖だらけの生涯だったけど、いまは幸せだ。やりきった達成感に満ちあふれているよ」


「あぁ、まったくだ。じゃあ、最期は僕に喰われるかい?」


「それは勘弁してくれ。じゃあ、お達者で」


「あぁ、お達者で。次会うときは空のずっと上だ」


 こうして2頭は別れを告げ、それぞれ別方向へ飛び立った。


 また会うときを少しだけ、楽しみにしつつ。

 お読みいただき誠にありがとうございます。


 中型のトンボはショウジョウトンボといって、全身真っ赤ですが、実は赤トンボの仲間ではございません。どちらかといえばシオカラトンボなどに近い種類です。


 小型のトンボの種類は覚えていませんが、赤トンボの仲間でした。

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