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噂話は苦い毒


 昼も過ぎて、藍晶宮に上がった六白は無表情に困っていた。鮮やかな袿を纏った女官たちは美しい笑みと声で驚くべき速さで六白を囲んで雑談を始めたのである。採寸に来たはずなのに、少し待っていてくださいねと部屋に通され畳に座った瞬間の出来事であった。


 普段、閉鎖された場所で暮らす彼女達は噂話が好きな上に物見高い。大方、あまり見かけない珍獣か何かだと六白のことを思っているに違いない。


「六花様が舞役となられて、私共は本当に楽しみにしていますのよ」

「麗しい男性の舞なんて眼福ですもの」

「勿論、衣装も気合を入れて縫いますからね」

「でも、思っていた以上に細くていらっしゃるのね、皆さま見て、この手首」

「ほそーい! というか指が細くて綺麗だわ」

「節だってなくて滑らかだし、どこぞの姫君かと思いますわね」

「もしかして、私たちの桂袴もお似合いになるんじゃありません?」

「絶世の美女でしょうね〜!」


 ここまで六白の発言はゼロ。完全に綺麗な着せ替え人形の扱いだった。しかも女装をさせられそうになっている。確かに男性としては細身の部類だが、身長は女性の平均より遥かに高いし、身体も骨ばっている。女性に見えるはずもないだろうと考えているのだが、目の前の彼女達には関係なさそうだった。

 なんだか複雑な気持ちになってはいるが、しかし、ここで腹を立ててはいけないことは重々承知している。女性をむやみに怒らせてはならない。しかも集団だと尚更。男性には想像もつかない、えぐい報復が待っているのだ。

 なので、下手に出るしかない。


「皆さま、あまり触られると恥ずかしいです…」


 困ったように苦笑すれば、六白のたおやかな雰囲気と相まって、か弱い美青年が恥じらうように見える。勿論、そのことを分かって本人もやっているのだが、何故か女官達は頰を染めていけないものを見た表情をする。


 演技しすぎたんでしょうか……。


 その方面にいささか鈍い六白は、彼女たちが

「え〜〜、こんなに清らかそうなのに困った顔はちょっと淫靡……」なんて心の中でざわめいていることに全く気づかない。頭の中に疑問符を浮かべていると、一人が話題を変える。


「六花様は雷牙らいが様のお屋敷に滞在なさってるんでしょ?」

「ええ! そうなんですか!?」

「お二人は幼馴染と聞きました」

「そうです。よくご存知ですね」


 雷牙とはラディのことだ。雷を操るのが得意な為にそう呼ばれている。


「お二人が一緒なんて素敵〜! 絵になるわ」

「想像だけでうっとりしちゃう」

「あ、でもお気をつけになった方がよろしいですよ」

「何故ですか?」

「雷牙様のことをお慕いしている者は沢山いるのです。雷牙様はお優しいですから、邪険にされないのをいいことに男女関係なく近づくものに威嚇してくるんです」

「あれは面倒ですよね〜」

「そこまで酷いことはしないから、公に注意できないのも、分かってやってるって感じがします」


 嫌なことを聞いた。

 確かに異性受けはしそうだと思っていたが、そこまでこじれたことになっていようとは。どうせ誰彼構わず甘い顔をしてるんだろう。困った男だ。


「教えて頂いてありがとうございます。充分気をつけたいと思います。それから皆さんは嫌な思いをしませんでしたか? もしそうなら、友人として申し訳なく思います」

「六花様、お優しい〜」

「私たちはそうならないように上手くやってますから大丈夫ですよ」

「でも六花様に心配してもらえるなら、ちょっといいかなと思ってしまいます」

「その気持ちわかる〜」

「自分を無闇に傷つけるのはよろしくありませんよ。どうぞ、ご自分を大切になさってください」


 微笑んで見せれば、きゃあきゃあまた騒ぎが大きくなる。夕方までに、採寸を終えて戻れるんだろうか、と不安を感じた。


「それで、そろそろ本題に入りたいのですが……」

「ああ、そうですね」

「急かしてしまって申し訳ないのですけれど、夕方までに終わらせたいのです」

「勿論、問題ありません。すぐに済ませましょう。さ、皆さまーー」


 その一言で、女官達が動き出す。ようやく始まったことに一安心して、指示に従う。

 上衣や袴を脱ぎ、小袖のみになった六白の周りをわらわらと彼女らが取り囲み次々と測っていった。瞬きを幾度かした間にほぼ終わったらしく、ああ、これだけの手際の良さがあるからお喋りに興じてられるのだなあとぼんやりと考える。


「ん?」


 その中で、こちらに近くことなくじっと見つめるだけのものがいることに気づいた。手に何か持っている。……手鏡、か? それをかざす様にこちらに向けていて、はて、と首を傾げた。


「あの、すみませんが。あそこの彼女が持っている鏡は何でしょうか? 」

「え……? ちょっとあなた、仕事を手伝わないのなら他所へ行きなさい」


 真面目そうな女官が険しい表情で、手鏡の女を追い払い、それを見ていた他の人たちが騒めく。


「申し訳ありません、気になさらないでください。それより、既に布地はありますから、当ててみてもよろしいですか?」

「ああ、はい……」


 答えを貰う前に話題を変えられてしまい、なんとなく違和感を覚える。

 他者の不可解な行動は、いざこざの兆し。

 しかし、目まぐるしく動き回る彼女たちの動きを止めてまで聞くことがではない様に思えて、追及の手を諦める。


 もう兎に角、無事に終わって帰れたらそれで良しにしようーーーー。

 ため息を小さく吐いた。

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