7話 『少年S』
死ぬ・死なない以前に。まず、古賀の小説には突っ込むべきところがある。読んでいる途中で、私は思わず呟かざるを得なかった。「コレを提出したのか、オマエは」
だって、みんなでワイワイ楽しく批評会をするための小説にしては、余りにも古賀の性癖がダダ漏れしすぎていないか……? なぜか私の方が、居た堪れなくなるのだが。
しかし、彼女は全く何も気にしていない様子であった。だから、私も深く考えることをやめる。こめかみを押さえながら、静かに頭痛が治まるのを待つ——。
小説のあらすじは、一言で示すと「小さな鳥籠の中で美しい少年を飼うオッサンの話」であった。系統としては、光源氏が紫の上(当時、9歳の女の子)を自分の色へ染める話に近い。
が、やはり決定的な違いは登場人物が2人とも男性であることだ。しかも、ラストはオッサンが情事の中で少年の首を絞めてしまう。美少年は永遠に育たない。
グロテスクでエロスな描写が面白くはあるのだが、悩ましかった。読み終えた私は思わず呻く。「SM怪奇ファンタジーギャグ小説だな、コレは」
私の口にした言葉が意外だったらしい。古賀がベッドの中から、ぼそりと呟いた。「いや、SM現代純愛物シリアスのつもりで書いたんだ」
見解の相違。実際のところの書き手と読み手の関係なんて、そんなものだ。必ずしも読み手は書き手の意図する通りに読めるわけではない。
むしろ、SMは合致したということの方が驚きである。2人の意見が揃ったところで、必然的に話の方向性はSMになった。
「描写はいいと思うけど」と、私はパソコンの画面を見返す。そして、率直に感想を述べる。「主人公のオッサンが終始Sなのが、面白みに欠けないか?」
「……確かに」と、のそのそ古賀が起き上がる。ベッド横の炬燵の定位置につく。とことん話し合うつもりらしい。彼女を横目で見ながら、私は言葉を続けた。
「そもそも、このオッサンのキャラがイマイチわからん。毎晩のように折檻されるにも関わらず、なぜ言動は常にSなのか」
「……相変わらず、痛いところを突いてくるな」
「最後は、ドM的快感で終わった方が良くない? 美少年に服従させられて、屈辱的。でも……、それがイイ! 的な」
どうしたらもっと古賀の小説が面白くなるか。今や私は真剣に考え始めていた。しかし、ふと違う考えが頭をよぎった。
——面白くなったところで、果たして。この小説の需要はあるのだろうか?