6話 新参者vs.古参者
今まで書いてきた文章の何がどうでも良いことだったのか。無責任だと思われるかもしれないが、ひとまずは読者の判断に任せるとしよう。
読み返してみると自分の文章が全く意味を成していない。ありがちなことだ。だから、続きを書いていくことができない。これもまた然り。
しかしながら、小説が書けない理由としてはナンセンスだ。つまらない。読み返すと書けなくなるのであれば、完結するまで読み返さなければ良いのだから。
もちろん、いずれは省みなければならなくなるかもしれない。でも今は、振り返ることをしない。『私が小説を書けない理由』は、そんな程度のものではないはずだ。
……ともあれ、古賀の小説のことである。
古賀は基本的に面倒くさがりな性格をしている。炬燵は年間を通して出しっ放し。洗濯物は1つとして畳まない。部屋の隅の物干し用ハンガーにかかっているものから使う方式を採用している。
——ほとほと呆れた奴だ。が、小説に関しての古賀は常に驚くほどのマメさを発揮した。
彼女は自分の書いた小説の全てを5段階評価に分けて、フォルダに保存している。ファイル名には完結した日付と提出先、5位までのフォルダ内の順位を記載していた。
そもそも、適当に保存している私とは大違いだ。デスクトップに貼り付けられた古賀が未評価の最新小説の姿を見るたびに、しばしば私は複雑な気分を味わった。
どうも彼女のパソコン内の小説という小説は、天からの采配を待ち構えているような感じがした。次々と現れる新参者に古参者が言う。「お前には負けんッ!」
新参者は最初こそ緊張が伝わってくるほどにガタガタと震えるが、やがて前を向いて抜刀する。ダッと地面を蹴る。走り出す。全力で立ち向かっていく。「そのクビ、いただきますよッ!」
自らの意識下で、自らの小説同士を戦わせるとは。ダラダラ書き続ける私よりも古賀の方が何だかんだ言って、やり手なのかもしれない。
——いや、全ては私の妄想に過ぎないのだが。
ともかく、私は新参者を見つめた。なるほど。センテンスは長めで流麗。谷崎潤一郎が好きな古賀らしい文章で綴られている。始まりは決して悪くない。
文章量は1万字。主人公はオッサンだった。そして可愛いらしい息子が出てくる。古賀にしては珍しい系統の話だ。
現時点では、どちらかが死ぬということだけがわかっている。私は心して読み進めていった……。