4話 古賀圭子という人物像。
実際のところは、図書館司書だろうが美容師だろうが学校の先生だろうが、いとも容易くなれてしまいそうな女……、古賀圭子について記す。
私が古賀に初めて出会ったのは、大学1年生の春である。必修講義の室内で、彼女は当たり前のように私の真後ろの席に座っていた。
——もし。私の名前が倉橋で、彼女の名前が古賀でなかったならば、出会うことはなかったのかもしれない。
しかし、人見知りをする私のことだ。自分から知らない人に声をかけていくのは、苦手である。最初は同じ空間にいても、あまり積極的に古賀と関わるつもりはなかった。
……そもそも。古賀とは友達になれる気がしていなかった。古賀を私と同じ大学生なのだと認識することは、極めて困難なことだったからである。
驚くべきことに、彼女の顔は1つ1つのパーツが整いすぎていた。黒目の大きい二重瞼、筋の通った上向きの鼻、形の良い厚めの唇。挙げ始めたらキリがない。
彼女の笑顔は見たことがないほど、美しく清らかだった。そして、綺麗な歯並びにはピアノの鍵盤の整列のような正しさがあった。
スタイルは長身で細身。それでいて、グラマラス。出るべきところが、きちんと出ている。外見上の欠点という欠点が何1つ見当たらない。
むしろ、オレンジブラウンの艶やかな髪の1本1本さえも完璧であるように、私には思えていた。断言する。私から見た彼女は話しかけることが、ものすごく躊躇われるほどの美人であった……!
しかし結果としては、後に唯一の私の友人になってしまう。なぜか絶世の美女の方から、私が事あるごとに話しかけられたからだ。
——まぁ、最後尾の席だった彼女にしてみれば。たぶん退屈な時に、一際話しかけやすい位置にいたのが私だったのであろう。
出会いとは、いつも運命的なものだ。運命的なものしか、出会いと認識されないからかもしれないが。
話しかけられれば、無視するわけにもいかない。例えば絶世の美女が大きな黒い瞳で自分を見つめていて、自分は女であるにも拘わらず内側から異様な緊張感が生まれていたとしても。
幸いにも、私と彼女には揺るぎない共通点があった。文学部に所属していて、小説を書く側の人間であるという点だ。だから、話題には困らなかった。
読んでいる小説や書いている小説。自分自身の小説観や、他人の小説観。話していく過程で、私は首を傾げ始めた。「アレ? 古賀って結構ヘンかも」