3話 ド初っ端からベロベロ会。
「ク・ソ・が」
唯一の私の友人、古賀が忌々しげに言った。端整な顔、柔らかそうな唇、風鈴のように涼しげな声音。彼女の外見や雰囲気からは、似合う要素が全くもって見当たらない言葉である。
私は少し、どきりとした。思考が停止しかけそうになった。まるで私の口にしたかった言葉が、彼女の口から出てきているような気がしたからだ。
——現実的に考えてみると、あり得ないことなのだが。
だから、「まー、まー、まー、まー」と私は回らない口で古賀を軽くあしらう。それ以上、話を聞く気にはなれなかった。
「呑め、呑め」とグラスにハイボールを追加で投入する。注ぎ込まれたお酒を見つめると、彼女は美味そうに呑んだ。「余は満足じゃ」とでも言いたげな空気が辺りに漂う。×3。
私たちは短い時の狭間で同じことを3回も繰り返した。ついに、古賀が笑い出す。「ははは。まぁ、私の話を聞けよ」
黒目の大きい瞳が、じろりと私を見る。凄い目力だった。思わず凝視してしまう。古賀と目が、合っている。意図することなく、私が聞く体勢になってしまう。
「なぜ、人が死ぬ小説を書いてはいけない?」
さらりと、前髪を掻き上げながら彼女は言った。聞いた途端、ホッと私は胸を撫で下ろす。
彼女と私の思考は繋がっていない。当たり前のようでいて、当たり前のようではないことだった……。良かった。本当に良かった。
調子が戻ってきた私は「聞けよ、って言っておいて私に質問するんかいッ!」と盛大に突っ込んだ。彼女は再び、お腹をよじって笑い出す。「確かにッ!」
ところで古賀が陽気になるのは、だいぶ酔っている証拠である。こういう時の会話は前に進まない。そもそも成立もしない。言葉の並びでは成立しているように見えても、寝て起きたら覚えていないのだ。
毎週月曜日の真っ昼間に、決まって私は古賀の部屋に押し入る。2人きりで、お酒を酌み交わす。そして、週のド初っ端からベロベロになる。
私と古賀が成人した日から続く習慣である。最初は憂鬱な月曜日を満喫してやるぜ! 週の初めからダラダラしてやるのだ! という共通の志のようなものがあった気がする。
が、今ではだいぶ違っている。呑まなければ、私たちの週は始まらないのである……。
「いよいよ、図書館司書になるしか道がなくなってきたな」と私は珍しく真剣な表情を取り繕った。不意打ちを食らった古賀が聞いてくる。「何でだっけ?」
「いや、他に月曜休みの仕事ってあったっけ?」
「え、美容師?」
「な・れ・な・い・だ・ろ」