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30話 絶世の美女が、かっこいい。

 古賀に謝るべきことは3つあった。1つめは、食べ散らかしやら空き缶タワーやらを、そのままにして帰ったこと。2つめは、玄関にレモン味の飴を撒いたこと。3つめは、バハムートを止めたこと。いろいろ、やらかしている。


 スライディング土下座をしている間、私は何かを試されているような気分になっていた。「それで?」「後は?」などと、どんどん話をするように古賀が促してくるからだ。謝りながら、私は不安になってきた。何か、他に謝るべきことを忘れているのではないかと……。


 月曜日の真っ昼間らしくない、重苦しい空気が流れていた。一通り、話し終えたところで古賀が呟く。「なんだ、そんなことか」


 そして、私が持ってきた紙袋の方を気にし始めた。予想外の反応に、拍子抜けする。「……そんなこと、だったか?」「あぁ、そんなことだ」絶世の美女は、いたずらっぽく笑う。


「まず、部屋のことだが。そもそも君が訪ねて来てくれなかったら、腐海の森になっている」

「………」

「それから、恋人とこじれた云々はどうでもいい」

「………」


 いや、良くないだろ。いい加減にしろ。そう思ったが、口を挟める立場ではなかった。これだからモテる人間は……。心の中の私は、立場を忘れて僻む。古賀の言葉が続く。


「その程度でこじれるなら、その程度の関係だったってことだ」


 しばらく、私は口が利けなかった。ものすごく、古賀が輝いて見えたからだ。字面だけ見ると突き放すようにも思える言葉には、優しさが滲んでいた。表情と口調が、その程度の関係ではないと言っていた。


 危うく古賀に惚れかけた。だから、全力で否定する。恋人がいる同性の友人を好きになってしまい、辛い。この小説は、そういう小説ではない。この小説は、そういう小説ではない。この小説は、そういう小説ではない。


 コンビニの袋から明太子のおにぎりを2つ、取り出す。ローテーブルに置く。ひどく緩慢な動作になった。チーズケーキの紙袋を覗いている古賀に、私は言い放つ。「まずは、おにぎり! デザートは後で!」


 ついでに、缶チューハイも取り出す。プルタブに指をかける。古賀の方は見ない。否、見ることができなかった。「グラス、グラス!」と言いながら、古賀が台所へ向かうスリッパの音だけを聞いた。


 古賀の部屋で独りになって、だいぶ落ち着いてきた。そもそも絶世の美女がかっこいいことは、前から知っていたはずなのだが。不意打ちを食らってしまったようだ。

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