14話 小塚雅史先輩という人物像。
微妙に突っ込みづらい点があるうえに、付き合いも深いわけではない。多くを語れるほど見知った人物ではないのだが。一応、小塚雅史先輩について記す。
——思い返せば、ひと月ほど前。とあるゼミの日のことだ。いつものように何気なく私が講義室の扉を開けると、同じゼミに所属している人間の数が増えていた。何のこっちゃ。
初めての3・4年合同ゼミの日を、私が完全に失念していた結果である。誰が3年で誰が4年かすら判断のつかない空間に、いきなり理由もわからないまま放り出されていた。
いや、まさか。すでに何回か顔を合わせていた3年ゼミ生の顔を1人も覚えていなかったとは……。さすがに衝撃的である。正直に白状すると、私には誰が増えたのかがわかっていなかった。というよりも一瞬、講義室を間違えたのかと考えるレベルであった。古賀は同じゼミでないことが、悲しい……。
人見知りは例のごとく、立派に発動していた。こっそりと、私は入り口付近の席に座って縮こまる。そして、1歩も動けなくなった。それからは教授が来るまで、ただ漫然と室内の景色を眺めている風を装った。
具合の悪いことに、ゼミの講義室の机の配置はコの字型である。だから、実際のところは誰とも目を合わさないように注力していた。
——しかし、そのような状況の中でも一際目を引く人物がいたのである。2メートル近い身長のせいであろうか。田舎町から見える遥か彼方の鉛筆塔のごとく。あまりにも、座高が高すぎるッ……!
机の下に収まりきらず組まれた足は、なおも収まりきらず盛大に横へとハミ出していた。姿勢も行儀も悪い。思わず私は、彼の顔を伺ってしまう。
ひょろ長い男の顔は一面、ニキビだらけであった。赤いプツプツから私は日本列島の山々を連想しかけたのだが。タイミング良く教授が講義室に入ってきたので、連想は遮断された。
後々の自己紹介によって、この日本列島顔の男を小塚雅史先輩だと私は認識したのである。ちなみに、外見のインパクトが強すぎた。だから、出会った時の格好はサラリーマン風走り屋スタイルだったかどうかの記憶がない……。
でも、私が小塚先輩を自己紹介で覚えたように。私もまた小塚先輩に覚えられた、らしい。小塚先輩は講義が終わった後に私の机の前まで来て、話しかけてきた。
「人手を探してるんだ。お前さん、サークルもバイトもしていないらしいな。ちょっくら小遣い稼ぎしないか?」




