12話 終わらないヘッポコな歌。
今日の夜の空には、痩せ細った月が浮かんでいた。色は青白くて、体調が悪いように見受けられる。あまりにも三日月が不健康そうだったので、私は思わず話しかけてしまった。
「大丈夫か? もしかして、キミもストレス痩せ?」
「………」
もちろん、三日月からの返事は当たり前のようにない。いや、当たり前ではあるのだが。儚くとも絹のような優しさを含む月明かりであるだけに……少々、空しすぎた。
恋人に振られることが、精神的に大きなストレスを与えることは周知の事実である。だから、状況的には私の心が痛むのも仕方のないことなのかもしれない。
今の私は、非常にセンチメンタルな気分なのである。それでも、私は自分に対して心の中で毒づいてもいた。「たかが恋人に振られたくらいで、悲しみすぎだろッ!!」と。
しかし、恥を忍んで書くならば。暴飲暴食を繰り返しまくっているのにも関わらず、私の体重はどんどん減り続けていた。いつか風に飛ばされてしまうのではないか、と思うほどである。
しかも、結果的に自分が消えてなくなってしまうのであれば。それも良いかと考えていた……。いや、やっぱりダメだ。質量保存の法則は、いずこッ!?
鬱蒼とした木々に囲まれた大学の裏側。狭い坂道を下りながら、私は口笛を吹くことにした。気分転換である。現実逃避とも言えるかもしれない。
これ以上ないくらいのデタラメなメロディが、知っている曲へと繋がっていくことはなかった。心の赴くままに不規則なリズムで、ひたすら我が道を突き進んでいく。
やがて、お気に入りのフレーズを私は見つけることができた。何度か繰り返して、反芻する。思いつきにしては悪くない。
空を見上げながら、適当に歌詞をつけてみた。
次の文章である。
***
お空にむかい、伸びた草
お空ばかりを見てたから
自分のかたち、知らないの。
***
口笛を吹くのも歌うのもやめて、広小路通に出た。そこそこ通行人が増えてきた後も、頭の中ではメロディが流れ続けている。
「知らないの。」で終わったかと思うと。「お空にむかい、」と始まってしまう無限ループ。結局、歌が鳴り止まない。それしか頭になかった。
地下鉄の駅に着いても、状況は変わらない。黄色いライン入りの電車がホームに滑り込んできた。私は両開きの扉から乗る。それから。吊り革の数を目で追いながら、気を紛らわせた。