10話 芸術的建造物の作り方。
言うまでもないことだが。日常的に『バハムート』の力を必要とする人間は、ちょっとやそっとのことでは起きない。
放っておいたら、明日の昼頃まで惰眠を貪り続けてしまう可能性があった。きちんと古賀が時間通りに起きられることを願いながら、私は『バハムート』の設定をいじる。
火曜日は1限からだ。大学裏のアパートに住んでいる古賀は、8時半に起きれば間に合う。慎重に針を合わせた。間違えたら、古賀の遅刻が確定してしまう。
本当はシャワーでも浴びて、コーヒーでも飲んでから来られるような時間にセットしてやりたいのだが。目覚めた時に余裕があるのは危険だ。絶対に二度寝してしまう……!
私は『バハムート』を炬燵の上に戻した。爆音という意味では枕元に置いた方が効果的かもしれない。が、ベッドから距離があることも大事だろう。
すぐに止めることができない位置は譲れない。何しろ『バハムート』の技は一撃必殺であるがゆえに、防がれてしまうと後がないのだ。
ところで、たかだか目覚まし時計1つのことで試行錯誤を繰り返しすぎなのではないか? 不意に笑いが込み上げてきた。私は慌てて、噛み殺す。
——しかし、寝坊されてしまったら。また思考し直さなければならない。頼む。頼むから起きてくれ、古賀……。
ちらり、と視線を向けた。常夜灯の明かりで橙色に染まる部屋の中。絶世の美女は布団を足元に押しやったまま、スヤスヤと眠っている。
ふと、嫌な予感がした。目覚まし時計が『バハムート』ならば今、足蹴にされている布団は確か『リヴァイアサン』ではなかったか……?
——まさか。古賀は『リヴァイアサン』にも『バハムート』にも勝つつもりなのか!? そんなところで、俺の睡眠欲TUEEEをされても困るぞッ!!
半ば強引に、私は布団を引っ張ってかけ直した。途中から私の妄想が混じってしまっているような気もする。でも、焦っていた。
刹那。今度は、とんでもないものを発見してしまう。私は戦慄した。ずっと背を向けていた壁側に、見たことのない建造物が屹立していたのだ。
一言で示すと、空き缶タワーである。しかし、ヌッと浮かび上がっている姿が妙に立体的すぎた。思わず声に出して、独りで突っ込んでしまう。
「呑・み・過・ぎ・だ・ろ」
本当に怖いのは、自分に何の記憶もないことであった。忘れかけていたはずの頭痛に見舞われる。静かに私は、こめかみを押さえた。