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遥か彼方の女

作者: とんてんてん
掲載日:2018/02/12

 彼岸の花。

常世とあの世の境に咲くその花は美しくも毒を持つ。



 蒸し暑い季節だ。

梅雨のこの時期はいつも気が滅入る。

ふうと一息をついて、僕は眼を開けた。

体中の汗が気持ち悪くてとても寝ていられない。

僕は寝ていた布団から立ち上がって、庭へと出た。

庭には、木工細工の家業をやっている関係上多くの木材が積んであった。

僕はその一つに腰かけて、拝借してきた薄荷タバコを吸う。

気持ちのいい清々しい空気が肺を満たして、少し心が落ち着く。

夜は深く、空には星々が踊っていた。

独りぼんやりと眺める。焦点は次第に合わなくなっていく。


 気付いたら、隣に女が座っていた。

艶やかな黒髪の細面の女だった。

「こんばんは。いい夜ですね」

女はそう言ってほほ笑んだ。

僕は一つ頷いた。言葉が出なかったのだ。

「最近、お仕事の方はどうなのですか」

そう女が聞いてきたので、僕は頷いて、黙りこくってしまった。 

女は静かに笑っている。見慣れたままの姿だった。

「なんとかやっているよ」

僕はようやくそう言った。おそらく3呼吸分は優にすぎていただろう。

女は良かったと言って笑みを強くした。

ああ。そうだな。よかったよ。

僕はそう言って無理矢理笑った。

「そうだよ。笑いなよ。君は昔から笑うのだけは上手かったんだから」

女はそういって、いたずらっ子の昔の儘の顔で笑った。

「そうだったかな」

僕は再び、笑った。

「そうだよ。ずっと君の傍で一緒に笑っていたかったけれど・・・。ごめんよ」

彼女は済まなさそうに笑った。

「謝らないでよ。君はずっとここにいるさ」

僕は溢れそうになるものを抑えて笑った。

それじゃあね。

そうして、僕と女の久しぶりの会話は終わった。

今度は、彼岸の花が咲くころに。

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