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ダブルイメージ  作者: ナメゐクジ
第1章
8/29

第8話「恐怖心の根源」

そろそろサブタイの縛り辛くなった

街中で、一人の男が周りの人々を無理矢理退かしながら、必死の形相で走っていた。


「待てえ!!!」


それをランスティンが必死に追いかける。

だが、このままだと追いつけないのは目に見えている。

ランスティンは道を変え、先回りをし始めた。


男は路地に入り、後ろにランスティンがいない事を確認し笑みを浮かべる。


しかしその直後、ランスティンが男の先にあったフェンスを飛び越えて男を捕まえた。


「うわっ!」


「捕まえた! 訊きたい事があるんだ! 着いて来てもらうぞ!」




ーーーーーーーーーーーーーーーー




午後6時36分


アルゴラのアップデートまで、残り24分


日がもうすぐ完全に沈む。見上げる空は紺色に染まっていた。

そんな中、お父さんとおじさんは、数人のドラゴンスレイヤーを引き連れて管区外へと出ていた。

後ろでは二台の種類の違う装甲車がおり、さらに狼型のロボットが三体着いてきている。


「この辺りに、例のドラゴンが?」


「あぁ、ランスティンさんが言うにはな」


おじさんとお父さんは辺りを警戒しながら、持っている銃を握り締める。

因みに僕は、おじさんの視覚と聴覚をフェアリーの魔法で共有してもらい、今の状況を理解している。


……にしても、ドラゴンスレイヤーの数が異常に少ない。

アップデートの間の見張りがいるから、それに人員を取られてしまったんだろうか。


「しかし、本当に良いのかリベッジ。お前はもう引退したのに…」


「まぁな。これも乗りかけた船だ。1日限りの復帰にしてやる」


おじさんはそう言うが、おじさんがお父さんに着いてきているのは、恐らく僕に情報を提供する為だろう。

いや、おじさんの性格からしてさっきの理由もあるかも知れないが…。


「……あと30分も無いな。早くドラゴンを探さなければ…」


その時、奥の方にある森で音が聞こえた。

おじさんはすぐにそれに気付き、銃を森の方へ向ける。


誰か来る…。


おじさんの目を通して、僕はそれを感じ取った。


そして案の定、森の奥から一匹のドラゴンが姿を現した。

そのドラゴンの体色は赤紫色。もしかするとこいつが…。


「体色は一致する…。あのドラゴンか?」


「さぁ? 俺達も実物見た訳じゃないからな。大体、実物見たところで体色以外は区別がつかん」


確かにお父さんの言う通りだ。

よっぽどドラゴンに興味が無い限り、人間がドラゴンの顔を見分けるのは不可能だろう。

僕なら見分ける事はできるが、生憎僕もその警察署を襲ったドラゴンを見た事がない。


だけど、あのドラゴンが僕達の追ってるドラゴンかどうかは、意外と簡単に分かった。


【あらぁ人間がこぉんなに。なにぃ? 今更ワタクシの魔法に気付いた訳ぇ?】


ねっとりとした思念が、僕達全員に伝わってくる。

このメスドラ…俺が苦手なタイプだな。


「テレパシーか…。お前が恐怖の病を生み出していたドラゴンだな!」


お父さんは臆せず、その赤紫色のドラゴンに問いかけた。

赤紫色のドラゴンは、爪を弄りながらゴミを見るかの様な目でお父さんを見下す。


【恐怖? いやぁねその言い方。あれは恋よ。ワタクシの魔法は「恋の病」。恋をした者と永遠の時間を過ごせる最高の魔法なのよ?】


「恋だと? ふざけた事を。寧ろ逆だろ」


いいぞお父さん。そのふざけたキモいメスドラやっつけちゃえ。


【嫌いも好きの内って言うでしょお? ワタクシはね、平和主義者なの。ここで退いてくれたら、見逃してあげるわぁ?】


「それは無理だ」


おじさんもこのドラゴンに嫌気が刺したらしい。

すぐにおじさんは、このドラゴンにレーザー銃を放った。


「グオォ!!!」


突然のレーザーに、赤紫色のドラゴンは野太い声をあげて後退りをする。

人の手に収まるとはいえ、あのレーザー銃は対ドラゴン用だ。威力を舐めてちゃ困る。


……いや、別に僕が撃った訳じゃないけどね?


【……へぇ…そんな事しちゃうんだぁ? いいわよぉ? なら、相手になってあげるわぁ】


そう言い、赤紫色のドラゴンは翼を広げて空へと舞った。

お父さん達ドラゴンスレイヤーは、一斉にそのドラゴンに銃口を向ける。


【殺した相手の名前知らないと、死んでも死に切れないでしょうねぇ? だからワタクシの名前、教えてあげるわぁ? ワタクシは愛の導き竜(キューピッド)。素敵な名前でしょぉ? じゃあこれで…心置きなく死ねるよなぁ!!!】


キューピッドは、突然口調を変えてドラゴンスレイヤーに突っ込んできた。

ドラゴンスレイヤーの放つ攻撃を次々と交わしながら、的確に一人また一人と殺していく。


しかし愛の導き竜(キューピッド)か…。ふざけた名前しやがって。誰だよこいつにこんな名前付けた奴。控えめに言って脳みそねぇんじゃねぇの?


しかし、ふざけた名前の割にはこいつ中々強いな。どんどんドラゴンスレイヤーが殺されていく。


こうなると…


「グオオォォォォ!!!」


キューピッドがもう一匹現れた。

きっと、ドラゴンスレイヤーの誰かがキューピッドに対して恐怖したんだろう。


「怖がるな! 怖がれば奴の思う壺だ!」


【怖がるなぁ? それは無理な相談なんじゃないかしらぁ?】


お父さんの言葉を嘲笑いながら、キューピッドはまた一人ドラゴンスレイヤーを掴んで宙を舞う。


【恐怖という感情は、生き物が必ず持つ感情よぉ? それを抑えるなんて不可能。だから…】


キューピッドは、ドラゴンスレイヤーを掴んでいた手を離した。

そのまま落ちるかと思えば、なんとドラゴンスレイヤーは逆に宙を浮き始めた。


【てめぇらはオレには勝てねぇんだよ】


途端、宙に浮いていたドラゴンスレイヤーが落下した。

大方、あのドラゴンスレイヤーは「高所からの転落」に恐怖したんだろう。その為、さらに高く浮いて転落死したんだ。


恐らく、この場にいるドラゴンスレイヤーは全員キューピッドの病にかかってる筈だ。


このままだとドラゴンスレイヤーは全滅だ。

今すぐ僕もこの場に行きたい。でも…


「平気よアピアス…。お父さん必ず帰ってくるからね…」


「う、うん…そうだねお母さん…」


そう、僕は今入院中だ。

しかも、ベッドの隣にはお母さんがいる。

これでは僕が魔法を使って、キューピッドのところに行く事ができない。お母さんをなんとかする方法を今考えているが、どうにも上手く思いつかない。


困ったなぁ。お母さんにバラす訳にはいかない。でも、これだとお父さん達が死ぬ。しかもアルゴラの機能が低下すると、その不安からキューピッドの魔法が街中で発動してしまう。

今でも何処かで、キューピッドの魔法の犠牲者が出ている筈だ。


一体…僕はどうすれば…。


【バニッシュさん】


頭の中でフェアリーの声が聞こえた。

僕はフェアリーの方へ意識を向ける。


【バニッシュさんは、どうしても人間を守りたいんですか? 何の為に?】


【何だ? 突然…】


【訊いてみたくなったんです。どうして…ですか?】


僕はフェアリーの質問に黙り込んだ。

「僕自身人間でもあるから」…そんな理由で、フェアリーは納得するのだろうか。

そもそも、本当にそれだけなのだろうか。


【……分からない…。そんな事あまり考えた事なかったな…。俺が人間でもあるから…しか出てこない…】


【……それは違うと思います】


【なに?】


意外なフェアリーの言葉に、僕は驚いた。

一体何が違うというのだろう。


【あたしはバニッシュさんの事が大好きです。だから、バニッシュさんの事は分かってるつもりです】


まぁ、ストーキングするぐらいだしな。


【だから分かるんですよ。それだけの理由じゃない。他にあると思うんです。例えば…誰かの為とか】


【誰か…? 家族とか?】


【それもあると思いますけど…動物園の戦いで、バニッシュさん途中で目が変わりましたよね。何でですか?】


そっか。あの戦い、フェアリーは見てたんだったか。

しかし、あの時僕は何を言われたんだっけか。


僕は、頭の中で動物園の事件を思い出す。


《あんな弱く醜い生き物、救ったところでどうなるんですか?》


《我々に泣いている人間だっていたじゃないですか。あんな馬鹿面見せる奴等に生きる資格があるとお思いですか?》


タイタンの言葉を思い出した時、僕の頭の中に泣いているリーシャの顔が浮かんだ。


そうだリーシャだ。


僕は、リーシャに認められたいのだ。


僕は…俺はリーシャを傷付けた。

俺はそれが辛かった。俺のせいでリーシャが泣いているのを見ていられなかった。

自業自得なのは分かってる。自分勝手なのは分かってる。だけど、自分を本当に許せなかった。


俺は僕と融合した事で、こんな気持ちになるのが嫌だった。


こんな事なら僕はあの時、俺に殺されておけば良かった。

こんな事なら俺はあの時、僕を殺しておけば良かった。


そんな時だ。火事現場に遭遇したのは。


罪滅ぼしになるかは分からないが、人を助ければ、少しはこの心の痛みは治るだろうか。

英雄になれば、俺はリーシャの心の傷を癒せるだろうか。


ただの自己満足でしかない。勝手な考えだ。


でも僕は…俺は、そうでもしないと生きていけなかった。そうでもしないとリーシャに会えなかった。


そうだ…僕は…俺は……


【……あぁ、そうだな。お前の言う通りだフェアリー。俺には、守りたい奴がいる】


【……ですよね。だと思いました。じゃあ、バニッシュさんは休んでてください】


【は? 何で!? 俺もすぐに…】


【人間が目の前にいたら来れないでしょう?大丈夫です。代わりに…】


その時、おじさんの視界を通して僕は信じられないものを見た。


キューピッドの前に、もう一匹のドラゴンが現れたのだ。

そのドラゴンは美しい桃色の鱗を纏った雌のドラゴン。


そう、彼女は…


【代わりに、フェアリー(あたし)が戦いますから】




ーーーーーーーーーーーーーーーー




まさかあたしが、人間の為に戦う事になるなんて思いもしなかった。

でも、今はそんな事に浸ってる場合じゃない。


あたしは、目の前にいる赤紫色のドラゴン・キューピッドを睨む。


【なぁに貴女ぁ? まさか、人間の味方何かしちゃう気ぃ?】


【別に? そんなんじゃありません。あたしはただ、貴女を倒すだけです】


あたしは緊張しているのを悟られない様に平然を装う。

戦うのなんて、久し振りだ。


【それを…人間の味方してるって言うんだよこのアマァ!!!】


ひっ!?


あたしは迫ってきたキューピッドを、飛んで避けた。

このドラゴン、リベッジって人間の目から見てたけど、何だか怖い。本当にあたしと同じ雌なの?


【逃さないわよ!】


キューピッドがいきなり飛んで、あたしを捕まえた。

あたしはバランスを崩し、キューピッドと一緒に地面に転がり落ちた。


痛い…。やっぱり…戦いなんて慣れない…。


【やめろフェアリー! 死ぬぞ!】


頭の中で、愛しのバニッシュさんの声が聞こえる。

駄目ですよバニッシュさん…。貴方の声聴くと…また体に力が漲っちゃうじゃないですか…。


「グオォ!」


あたしは、精一杯声を出してキューピッドにタックルした。

でも、キューピッドはあたしより力があって、あたしは簡単になぎ倒されてしまう。


【フェアリー! くそ! 俺も…】


【駄目ですバニッシュさん!!!】


何とかしてここに来ようとするバニッシュさんに、あたしは今までで一番強い思念を送った。


【そんな事したら…バニッシュさんは…その守りたいものの側にいられないじゃないですか…】


あたしは立ち上がって、キューピッドをまた睨む。

キューピッドは、呆れた様にあたしに溜め息を吐いた。


【呆れるわねぇ。そんなに人間が好きなのぉ?】


【違いますよ。あたしが好きなのは…】


あたしがテレパシーで話してる最中だと言うのに、キューピッドはあたしの頭を蹴った。


今のは結構効いたかも…。頭がちょっとくらくらする…。


【あらぁ? もう終わりぃ? 何よ情けないわねぇ? そんなに弱いなんて…ホント…バッカみたい…】


バカ…。うん…そうかも…。

あたし…結局何も…。


「バウバウ!」


ん?


狼の鳴き声が聞こえたと思うと、あたしを飛び越えて三匹の狼が一斉にキューピッドに飛びついてきた。

違う。あれは…狼のロボット?


【人間の兵器だ!】


頭の中に、バニッシュさんの声が聞こえる。

あたしは振り返り、後ろにいた人間の方のバニッシュさんのお父さんを見た。

その人はあたしと目が合うと、しっかりと一度だけだけど頷いた。


まさか、あたしが目に入っていたドラゴンだと分かって…?


【何よこのガラクタぁ! 離れなさい! 離れなさいよぉ!】


キューピッドはいきなりのロボットの攻撃にたじたじだった。

ロボットは、本当に機械なのか疑うほど動きが速く、そして三機とも抜群のコンビネーションを発揮してる。


【凄いだろ? 撹乱用狼型ロボットのケルベロスだ。他にもドラゴンスレイヤーってすげぇの持ってんだぜ?】


自分達の対策用に造られたものにも関わらず、バニッシュさんは子供みたいにとても嬉しそうだった。ふふっちょっと可愛い。


その間に、人間は何やら銃をキューピッドに向けている。

それにしても、さっきまでキューピッドの魔法に苦戦していたのに、今の人間には恐怖に怯える様子が無い。一体どうして?


「撃てぇ!!!」


人間の方のバニッシュさんのお父さんの命令で、人間が一斉に銃を放った。

銃からはレーザーじゃなく糸が…確かあれ、ワイヤーって言うんだっけ? それが飛んできた。


「グウゥ!?」


ケルベロスに気を取られていたキューピッドは、正に人間の狙い通りにワイヤーが腹に刺さった。

その数は…えーと…8本。


「グルルル…グゥ! ガアァ!!!」


あれ? キューピッドのテレパシーが届かない。


あ! もしかしてあのワイヤーの先に魔断石でも仕込んでたのね!

魔断石なら、魔法どころかテレパシーも使えなくなるし、人間もやるわね。


でも、あのワイヤーはドラゴンの力なら簡単に取られてしまうと思うんだけど…。


と思ったら、バニッシュさんのお父さんが大きな鉄の塊に乗り始めた。アレって車って言うんだっけ?それにしては随分大きいけど…。


【フェアリー、キューピッドがワイヤーを外さない様に動きを止められるか?】


バニッシュさんの声が聞こえる。

どうやらバニッシュさんは、何が起きるか知ってるみたい。


【分かりました!】


あたしはキューピッドの後ろに回り込んで、キューピッドを羽交い締めした。

キューピッドはものすごく暴れて、何度か外しそうになったけど、あたしは精一杯しがみつく。


すると、バニッシュさんのお父さんが載っていた車が変形し始めた。

形は人型だけど、全身真っ黒で上半身に比べて下半身が少し寂しく見えた。人間はこれをスレンダーって言うのかな。


両腕には剣が装備されている。ううん。あれは剣じゃない。えーと…チェーンソー! そうチェーンソー! まだ動いてないけど、すごく痛そうで、如何にも「ドラゴンを殺す為に造られたロボット」って感じかする。

オマケに、胸の辺りに大きな穴が空いてる。何だか、あそこからレーザーとか飛んできそう。凄いそんな気がする。


変形し終わったロボットは、顔にある横棒みたいな赤い目を光らせた。何だか…変な目だなぁ。


【対ドラゴン用変形人型ロボット・ゴーレムだ。フェアリー、もういい! 離せ!】


【は、はい!】


あたしはバニッシュさんの言う通り、キューピッドを離して空中へ待機した。

ゴーレムは背中のブースターを起動させて一気にキューピッドに迫る。

キューピッドも、ワイヤーを外してゴーレムに鋭い爪の攻撃を繰り出した。

対ドラゴン用と言っても、やっぱりドラゴンの爪の攻撃は効くみたいだった。ゴーレムは少し火花を散らしてすぐに右手のチェーンソーでキューピッドの腹に傷を入れる。


キューピッドは、空かさずゴーレムと距離を取った。

流石に接近戦は危険だと思ったみたい。


【うっ…人間が調子乗らないで! 人間は、黙って怖がってればいいのよぉ!!!】


「黙って怖がる? それは無理だ!!!」


ゴーレムから、バニッシュさんのお父さんの声が聞こえる。

そう言えば、その人間が操縦してたの忘れてた。


「確かに死ぬのは怖い!!! でもな…大切な人が死ぬのはもっと怖いんだ!!!」


その言葉に、あたしはハッとする。


「怖がってばかりじゃいられない…。大切な人を守る為にはなぁ!!!」


ゴーレムの胸にあった穴が、黄色く輝きだした。

あたしだけじゃなく、キューピッドも何かを感じ取ったみたいで、キューピッドは空へ飛んで逃げようとする。


させない!


あたしは、空かさずキューピッドを捕まえ、そのまま一緒に地面に落ちる。


【離せ! 離しなさい! 貴女も死にたいの!?】


【死ぬ気はありませんよ! だってあたしも…】


あたしの頭の中に、バニッシュさんの顔が過ぎる。


【大切なドラゴンの為に戦ってるんです! だから…死ぬ訳にはいきません!!!】


あたしはキューピッドと無理矢理に目を合わせる。

そしてすぐに魔法を発動させた。

少々時間はかかったし、キューピッドが暴れるからどうなるか不安だったけど、何とかあたしはキューピッドの視界に入り込んだ。

そしてすぐに、適当に目に入った人間の死体の視界と共有させる。

つまりキューピッドに広がる視界は…。


【あぁ! 見えない! 見えないぃ!!! 何も! 何も見えないぃ!!!】


あたしはキューピッドの方向感覚を失わせる為、ゴーレムのいる方へキューピッドを押した。

そしてあたしは、ゴーレムの攻撃から避難する為に空へ飛ぶ。


【何も見えない! 何も聞こえない! 何も臭わない! 何も感じない! 何も! 何も!!! 嫌! 嫌ぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!】


あ、そうそう。オマケに死体の五感全てを共有させたわ。

だから音や匂いで状況を判断しようとしても無駄だから。それに、触覚も無いから今空にいるのか地面にいるのかも分からないと思うし。


その間に、ゴーレムのチャージが完了したみたい。

ゴーレムは、何も感じずにパニックを起こすキューピッドに狙いを定める。


「今度は…お前が恐怖に苦しめられる番だ! 行けぇ!!!」


ゴーレムの胸の砲門から、巨大なビームが放たれた。

あたしは、わざとキューピッドにかけた魔法を解除させる。


【! 見え……あっ】


感覚が戻って安心した直後、キューピッドはビームに気付いた。

でも、ビームはどう考えても避けられない距離まで来ていて、キューピッドはものの無残に放たれたビームに全体を包み込まれた。


ビームの威力は予想以上に大きくて、あたしは相当驚いた。

その威力は地形を抉り、キューピッドは彼方先まで吹っ飛んでいた。

遠目でしか見えなかったけど…アレは多分死んでるわね。


チラッと人間の方を見ると、リベッジって人間は腕時計を見ていた。

あぁ確か…時間制限があったんだっけ。


「丁度、午後7時だ。何とかなったな…」


その人間がそう言うと、ゴーレムからバニッシュさんのお父さんが出てきた。


「あぁ…あと…」


そう言いバニッシュさんのお父さんは、あたしに目を向ける。

他のドラゴンスレイヤーも一緒にだ。


あれ? もしかしてこれ…あたしも狩られる?


「……助かった」


え?


バニッシュさんのお父さんは、あたしに対して頭を下げた。

予想外の行為に、あたしは困惑する。よく見ると、リベッジ以外のドラゴンスレイヤーも驚いているみたい。


「今日はあんたのおかげだ。でも、勘違いするな? 今日だけは特別だ。今度…俺達の街で暴れたら容赦はしない。それを…バニッシュだっけか? そいつにも伝えてくれ」


バニッシュさんのお父さんはそこまで言ってゴーレムを車の形に変形させた。

他のドラゴンスレイヤーもその車やもう一台の多分変形機能は無いだろう車に乗って去っていった。


最後何か警告されたけど…あたし褒められたの? 人間に? え? 何か…変な感じ…。


あたしは困惑しながら、地面に降りてしばらくボーッとしていた。


【いいなぁ…俺なんて褒められた事ねぇよ…】


バニッシュさんのボヤきが聞こえた。


でも、あたしはそんな事に気付かないほど放心状態だった。




ーーーーーーーーーーーーーーーー




午後8時43分

何処かの研究施設


白衣を着た男が、スーツ姿の中年の男性と共に白い廊下を歩いていた。


「アルゴラの改造は無事完了しました。各地で起きていた死亡事件も、ドラゴンスレイヤーの活躍で解決しています」


スーツ姿の中年の男性は、白衣を着た男の報告を聴く。


「首謀者のドラゴンは?」


「残念ながら死亡。そして、死体も持ち帰る事はできませんでした」


それを聴き、中年の男性は足を止めて白衣の男を見つめる。


「何故だ?」


「場所が管区外だからです。管区内から近ければ話は別ですが、離れた場所からドラゴンの死体を持ち運べません。人員も足りませんでしたし、そもそもその間に他のドラゴンに襲われたら…」


「なるほど。ドラゴンの価値の分からない馬鹿がやりそうな判断だ」


中年の男性はそう言って再び足を進める。


「アルゴラはどうだ?」


「はい、順調です。現在スキャンの範囲を広めております」


「反応したのは何人・・だ?」


「38人です。まだまだエリアは広めてますから…もっといるかと」


二人の男は広場へ出た。


そこには幾つものモニターが設置されており、さらには監視カメラの映像なのか、外の街の様子が映っているものもあった。


「ドラゴンの件はどうします? 今までの様にアルゴラのセキュリティーに穴を空けておきますか?」


「いや、市民にアルゴラがアップデートされたと信じ込ませる為に、少しの間はセキュリティーを完全にしておけ。ドラゴンが来れなくなるのは私も寂しいがな」


直後、中年の男性のインカムに通信が入る。


「はいレクサーです。えぇ…えぇ大丈夫です。計画は順調です」


中年の男性…キャップス・レクサーは、通話中に幾つもあるモニターの一つを見た。


「えぇ…予想以上にいますよ」


それは何かを探知するレーダーで、上の方には数字で43と書かれていた。


レクサーはさっき白衣の男から聴いた数字よりも上がってる事を確認し、不気味に笑みを浮かべる。


魔術師ソーサラーは…」

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