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ダブルイメージ  作者: ナメゐクジ
第1章
6/29

第6話「大迷宮の悪夢」

今回は主人公の出番が少ないです。

こういう話も書きたい時もごく稀にあるんですよ。


あ、後ふと見たら、何とこの小説に評価してくれてる方がいました。あぁなんと光栄な事か…。これで僕のモチベーションも上がったりするってもんよグヘヘへへ


ジオは現在、ダイアンド警察署にいた。


信じられない事に、ここにいきなり赤紫色のドラゴンが現れて暴れまわったというのだ。


辺りはめちゃくちゃに破壊され、所々に血が飛び散っている。

アルゴラのアップデートが明日に迫っているというのに、こんな大事件が起きるなんてとジオは溜め息を吐きそうになる。


「でも…ランスティンさんが無事で良かったです。最初は心配しましたよ」


溜め息を我慢して、ジオは隣にいた自分と同年代ぐらいの男にそう言った。


「まぁ、なんとか…。あと、昨日はありがとうございます」


「いえ、私が来た時にはドラゴン達はいなくなってましたし…。そもそも、私達がもっとしっかりしていればリーシャちゃんのところにドラゴンは…」


ジオは、申し訳ない気持ちで一杯だった。

今隣にいる刑事の名は、ランスティン・ムールリット。

ジオの息子であるアピアスの幼馴染、リーシャの父親だ。


「ジオさんは来たドラゴンを退治するのが仕事でしょう?だから謝らないでください。ジオさんに責任はありません」


「そう…言って頂けるとありがたいのですが…」


ジオはそう言ってから、再び辺りを見渡した。

ここに突然現れたという赤紫色のドラゴン。奴は一体何者なのだろうか。突然現れ、突然消えたというが、赤紫色のドラゴンの魔法だろうか。

もしそうなら、そのドラゴンはあの黒いドラゴンと同じ魔法の可能性がある。奴も突然現れては突然消える。

もしそんなのがまた現れたのだとしたら、それはかなり厄介な事だ。


アルゴラのアップデートが完了したとしても、こんなワープをするドラゴンを探知する事など出来るのだろうか。

ジオは、不安で頭が一杯になった。




ーーーーーーーーーーーーーーーー




ものすごく暇だ。


僕はベッドで横になりながら、真っ白な天井を見つめていた。


僕の手の骨折がよっぽど酷いものだったらしく、僕は手を固定されて入院する事になった。

入院自体は融合した直後にもしたし、身体検査もその時受けている。

理屈はよく分からないが、その時の身体検査で特に何も言われなかったという事は、僕がドラゴンと融合している事は検査ではバレない様だ。今回も結果は同じで、みんな僕を「普通の人間」として接してくれている。


お見舞いに来てくれたお母さんは、一度家に帰っている。

多分、僕が暇で死んでしまわない様に何か持って来てくれるんだろう。と言っても、今の僕の手で出来る暇潰しが何なのか、僕には想像はつかないけど。


確か、入院期間は6週間と言っていたか。


つまり1ヶ月は余裕で越すんだな。僕はドラゴンの治癒力があるから、多分それより早く完治しちゃうんだろうけど、実際は何時までここにいなくちゃいけないのだろう。


明日のアルゴラのアップデート。上手く行けばいいなぁ。


僕は、明日のアップデートが上手く完了する事を祈った。

その直後、僕の目の前に宙に浮かぶ目玉が現れた。


「うわあ!?」


僕はびっくりして声をあげた。

この目玉の事は、バニッシュと融合した事でよく知っている。でも、この目玉は僕が俺と融合した事を知らない筈だ。

なのに何故ここに…?


【……ねぇ人間】


目玉は僕を怪しむ様にジロジロ見ながら思念を送ってくる。

僕は心臓をバクバクとさせながら、その目玉を見る。


【貴方…バニッシュさんの何?】


何と言われましたも…。本人というか何というか…。


僕は質問の答えに迷ったが、どうやら彼女は僕の正体に気付いていない様だ。

なら、話を逸らす事もできるはず。


「え、えっと…いきなり…何の事か分かんないんだけど…」


僕は一先ずそう答えてみる。


本当は思念で話す事も可能だけど、こっちが意識的に思念を送ると「何でテレパシー使えるの?」と訊かれてしまうかもしれない。


だから僕は、敢えて口でそう言ってみた。


言葉が分からなくても、同じ内容の事が脳に現れる。

彼女は、それを感じ取って話すはず。


【貴方は、ドラゴンのこと何か知ってるんじゃないのって言ってんの!? 分かる!?】


どうやら、ちゃんと通じた様だ。

というか、こいつちょっとイライラしてきてる。何か怖い。


「い、いや…別に何も…」


【嘘よ! あたし見たんだからね! 貴方の持ち物が、バニッシュさんの住処にあったのを!】


僕は一瞬何の事かと思ったが、すぐにハッとした。

彼女と再会した日、僕は自分のリュックを住処に隠していた。

もしかすると、狩りでの留守中に彼女はそのリュックを見つけていたのかもしれない。


【最初は人間が侵入したのかと思ったわ。でも、バニッシュさんがまた消えた時に疑問に思った。だって、バニッシュさんと一緒にその人間の物まで無くなってたんだから!】


まさかこいつ…それでずっと人間の街に目を飛ばしてたのか? 執念って怖い…。


【あれは誰の物だろうってあたし、隅々まで人間の街を調べたわ。そして昨日! 遂に貴方を見つけた! しかもバニッシュさんまで!】


そうか。確かに昨日、動物園で僕はあのリュックを背負っていた。

あの瞬間を彼女に見られていたのか。おじさんやタイタンに集中し過ぎてて気付かなかった。


「で、でもさ! 僕と同じリュックなんて他にも沢山…」


【言い逃れは無駄よ! だって、貴方からほんのりとバニッシュさんの匂いがする!】


やだこいつ怖い。全部調査済みかよ。


【さぁ正直に吐きなさい! 貴方はバニッシュさんの何!? バニッシュさんは何処!? さっさと吐かないと、ここをぶっ壊してやるわよ!】


「ちょっ…! それは困るよ! やめ…」


その時、僕は女性の足音と匂いを感じた。お母さんだ。お母さんがここへ戻ってきたのだ。


「やばっ…! ねぇ! お母さんが来ちゃう! 早く隠れて!」


【はぁ? 嫌よ。どうしてもいなくなって欲しいってんならさっさと…】


妖精フェアリー!!!】


俺はイラっとし、咄嗟に彼女・フェアリーに対して思念を送っていた。

と言っても、姿はアピアスのままだ。


【……え? 今…】


フェアリーは目を見開き、人間の姿のままの俺を見る。

正体がバレてしまったが、仕方がない。


【フェアリー! 俺の目に入れ! 頼む!】


フェアリーは信じられない様に、未だに俺を見つめ続けていた。




ーーーーーーーーーーーーーーーー




「まさか、こんな事になるなんて…」


ジオは頭を悩ませていた。

隣にはランスティンがいるが、現在ジオがいるのは警察署ではなかった。

ジオは現在、ダイアンド市の路地にいるのだ。


「ホントですね。またあのドラゴンが出てくるなんて」


ランスティンはそう言い、血塗れの男の死体を見つめる。


「貴方から連絡が来た時は驚きました。本当に、あの赤紫色のドラゴンがこの男を?」


「えぇ、しっかりと目撃しました。そしてそのドラゴンは…」


「この男を殺すと姿を消した…か」


ジオは参った様に呟いた。

また突然姿を現し、姿を消した。やはりこのドラゴンは、かなり厄介そうだ。


「この男の、身元分かりますか?」


「もちろん」


ジオの質問に、ランスティンはすぐにそう答えた。

そして、ずっと男の死体を見つめていたランスティンは、ジオの方に振り返る。


「彼は無断で管区外に出た闇商人の一人です。一度逮捕されたらしいんですが、例の騒ぎで逃げ出していて…」


「それで追っていたら、ドラゴンに遭遇したと」


「まぁ、そんなとこです」


ランスティンの説明に、ジオは考え込んだ。

そしてジオは、頭の中てある仮説を立ててみる。


「赤紫色のドラゴンは、この男を追っていたんでしょうか?」


「さぁ…私には何とも…。でもだとしたら、何故ドラゴンはこの男に執着を?」


「分かりません。ランスティンさん、この男について、他にももっと調べてもらってもいいですか?」


「分かりました。私にできる事であれば、協力しましょう」


「助かります」




ーーーーーーーーーーーーーーーー




「本当に平気なのアピアス」


「うん! 全然大丈夫だよ。だから家に帰ってて!」


お母さんは少し不安気だったが、僕はそろそろ一人になりたかった。

だから僕は、少々無理矢理にでもお母さんを帰らせる。


「何かあったら連絡しなさいよ?」


「分かってるって!」


そう言って、お母さんは病室から出て行った。

お母さんの足音が遠くなっていくのを確認すると、僕は大きく溜め息を吐く。


「もういいよ〜…」


僕がそう言うと、目の前に再び目玉・フェアリーが現れた。

フェアリーは、訝しげに僕をジロジロと見る。


【……どういう…事ですか? どうして…貴方からバニッシュさんの思念が…】


【僕がバニッシュだからだよ】


僕の思念に、フェアリーはますます混乱する。

まぁ、これは話さないと混乱するだろう。何せ、僕自身も混乱する話だから。


僕はフェアリーに全てを話した。


僕、アピアスのこと。僕と俺が融合したこと。そして、人間を守っていること。全てだ。


話を聴き終えると、フェアリーは信じられない様に目をパチクリさせていた。


【え、えぇっと…つまり、人間とバニッシュさんが融合していて…。貴方は人間だけどバニッシュさんでもある…】


そう。


【理由はバニッシュさんにも分からず、嫌々仕方なく…本当に仕方なく、心を広くして人間を守ってやってると…】


そこまで言ったかな。まぁいいや。そうそう。



【………出て行け人間】


はい?


【バニッシュさんから出てけ! 早くバニッシュさんを解放しなさい!!!】


フェアリーは、急に僕にそう言って詰め寄ってきた。

あれ? こいつ話理解できてる?


「ちょっ、ちょちょちょちょっと待って!!! 解放しろとか言われても無理なんだって!!! 言ったろ!? 僕にも理由は…」


【ならば殺す】


「怖い!!!」


駄目だ。どうやらフェアリーはまだ僕の状況が理解できてない様だ。

もう一度説明しなくては。


「だから! 僕は確かに人間だけど! バニッシュなんだって! ややこしいと思うけど分かってよ!!!」


【分かってるわよ! 貴方がバニッシュさんを閉じ込めてるんでしょ!?】


「違う違う!!! 一緒!!! 一緒なの!!! 僕も俺も一緒なの!!! アピアスもバニッシュも一緒なの!!!」


【……なるほど…。そういう事ね…。分かったわ人間】


あぁ良かった。ようやく分かってくれた。


【じゃあ殺す】


「分かってねぇ!!!」




ーーーーーーーーーーーーーーーー




ランスティンは警察署で電話を切り、頭を抱えた。

事態はどんどん悪い方向に進んでいる。

それだけは確かなのだが、具体的に何が起きているのか、ランスティンには分からなかった。


「ランスティンさん」


警察署に、ジオが入ってきた。

ランスティンは立ち上がり、まず握手を始める。


「ランスティンさん、例の被害者の件。何か分かったと言っていましたが…」


「えぇ、彼を追っていた捜査官を見つけたんです。その捜査官なら、何か知ってると思って今連絡を取ろうとしたんですが…」


「ですが?」


ランスティンの意味深な言葉に、ジオは嫌な予感がした。

そしてそれは、見事に的中してしまう。


「ひったくり犯を捕まえようとして刺されたんです。数十カ所も刺されて…その後死亡しました」


「そ、そうか…」


「今、別の捜査官を探しています。でも、さっき一人の捜査官の連絡がつかなくて…」


またもや嫌な予感がする。


だが、そう考えても仕方がない。今は、とりあえずランスティンを信じるだけだ。


「分かりました。また、何か情報があれば」


「わざわざ来て頂いたのに申し訳ございません…。私も他の方面で調べてみたりするので…」


その時、ヤケに周りが騒がしいことに気付いた。

ランスティンは一度ジオに謝ってから、近くにいた警官を捕まえる。


「一体どうした?」


「実は…警察病院で事故が」


「事故?」


「看護師がヘビに噛まれて亡くなったんです」


「ヘビに?」


「はい。でもそのヘビ、目撃者によれば突然消えたらしくて…」


警官の証言に、ランスティンは顔を顰めた。

突然消えるヘビ。まるで、あの赤紫色のドラゴンと同じだ。


丁度その時、ジオにも連絡が入ってきた。


「どうした?」


『隊長、事件です。人が亡くなりました』


「赤紫色のドラゴンの仕業か?」


『それが…分からないんです。ドラゴンの姿が確認されなくて…』


「なに?」


『落ちたガラス片が巨大化して、それに人が刺さったんです。ドラゴンの魔法の可能性があるので、我々にも一応調査が…』


「すぐ向かう。場所は? ……分かった」


ジオは部下から事件現場を聴き、通信を切った。

そしてランスティンの方へ向かう。


「ランスティンさん」「ジオさん」


同時にお互いの名前を呼び、二人は固まった。

少し間を置いて、ジオがランスティンに話を促す。


「警察病院で事故が。看護師がヘビに噛まれて亡くなったらしいんです。問題は、そのヘビが突然消えたこと」


「消えた?」


「えぇ、まるであの赤紫色のドラゴンみたいでしょ? ジオさんのお話は?」


「人が巨大化したガラス片に刺さって死亡した。明らかに人ができるもんじゃない」


「……別のドラゴンが、現れたって事ですか?」


「恐らくそうでしょうね。全く…アルゴラのアップデートの前日に何でこんな…!」


次々と起こる事件や事故に、ジオは少しイライラとし始めた。

一体何が起きているというのだろうか。まさかドラゴンが、アルゴラのアップデートを聞き付けて、アップデートが始まる前に総攻撃を仕掛けてきたのだろうか。

もしそうだとしたら、遂に人間とドラゴンの全面戦争が始まってしまう。

一体、人間の未来は何処へ向かってしまうのだろうか…。




ーーーーーーーーーーーーーーーー




周りにゴミや商品が散らばるコンビニの前で、警官とドラゴンスレイヤーが忙しなく動いていた。

ここは、ジオが先ほど呼ばれた事件現場だ。


「名前はトール・ライデン。21歳、学生。コンビニで買い物をして、ちょうど帰宅するところだった様です」


ジオは共に捜査してくれた警官から、死亡した人間の情報を貰う。

ジオは「ありがとう」とお礼を言い、ブルーシートに被せられた遺体が運ばれるのを見つめる。


担架から、ライダースーツを身につけた腕が垂れ下がっている。


落ちたガラス片が巨大化する。


明らかに人間業ではないが、だからと言ってドラゴンの仕業とは断言できない。

だからこそ、警察と一緒に捜査しているのだが、十中八九これはドラゴンの仕業だ。


その時、突然ジオのケータイが鳴った。

ランスティンからだ。


「ランスティンさん?」


『ジオさん? 先ほど言っていた連絡が取れなかった捜査官なんですが、亡くなってました』


「何ですって?」


『アナフィラキシーショックです。ハチに刺されたらしく、発見された時には既に亡くなっていたと』


「一人なら兎も角、二人も同じ事件の捜査官が…」


『何か…怪しいですよね…』


「……分かりました。引き続き、捜査をお願いします」


『はい、任せてください』




ーーーーーーーーーーーーーーーー




ランスティンはケータイを仕舞い、状況を整理する。

だが、何度同じことをしてもさっぱり分からなかった。


「うわあああああああああああ!!!」


すると、取調室にいた警官が、悲鳴を上げて出てきた。

何事かと、複数の警官と一緒に取調室に行くと、取調を受けていた若い男性が徐々に老化していくではないか。


「な、何だこれ…!」


「ガッ…アッ…タ……タス……ケ……」


老人に変わっていく男は、そのまま筋肉も消えていき、最終的にはミイラとなって死亡した。

突然の出来事にみんなは顔を青くしながら、さっきまで取調室で一緒にいた警官を見つめる。


「! ち、違う! 俺は何もしてないぞ!」


警官は動揺しながらそう叫ぶ。

動揺するのは当然だ。いきなり目の前の男がミイラになっていったのだから。

だが、状況的にこの男は怪しすぎた。一人の別の警官が、その警官に銃を突きつけ始める。


「違うって! 俺はこいつを尋問してただけだ! 確かにカッとしてたけど、それは仲間を殺されたからで…それにこいつ…認めようとしなかったんだ! だからあいつに…」


その時、銃声が鳴りこの警官の左胸に血が流れた。


ランスティン達は、咄嗟に拳銃を突きつけていた別の警官の方を見るが、彼は銃を撃った形跡は見られず、彼自身も酷く動揺していた。


だが、何故か撃たれた警官はそのまま何者かに撃たれ続け、そのままその場に倒れた。


「何が……起きている…」


ランスティンは、血塗れで息絶えた警官を見てそう呟いた。

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