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ダブルイメージ  作者: ナメゐクジ
第1章
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第5話「悲劇の動物園」

動物園の動物とかって、ストレスが溜まらない様にその動物の性格に合わせて一頭にしたり多頭にしたりする場合があるらしいですね。人間にも同じ事してくれよ

「次のニュースです。本日、ドラゴンスレイヤーは領域侵犯探知装置アルゴラのアップデートを開始する事を発表しました」


あ、それ今更やるんだ。


僕は支度をしながら、率直な感想を浮かべた。

お昼のニュースは、そのままアルゴラの説明に入っていく。


領域侵犯探知装置アルゴラ。


その名の通り、人間の管区内に入ったドラゴンを探知する装置。

でもアレ、本当に機能しているのか怪しいところだ。

今までドラゴンの侵入を許したどころか、あのルーザーさえ何回も突発してる。


えっ? 俺? 俺はほら、優秀だから。あれが機能してようがしてなかろうが関係ないから。


まぁ兎に角、アルゴラのアップデートで侵入するドラゴンが本当に少なくなればいいけど、そう上手くいくものか。

もちろん、アルゴラがちゃんと働いていれば嬉しい限りだ。僕もドラゴンと戦わずに済むんだから。


マンハッタンおじさんと再会して一週間が経ったけど、その間に四体ものドラゴンを追い返してきた。


そういうドラゴンが俺を見て言うのは「ドラゴンの全滅を企む裏切り者」。正直言って、もううんざりだ。

誰だよあんな身も蓋もない噂広めた奴。満身創痍の状態で殴らせろ。


ピーンポーン…


僕が一人そんな事を考えていると、家のインターホンが鳴った。

僕は時間なんてテレビで分かってるのに、思わず反射で左腕につけていたデジタル式の腕時計を見る。


「アピアスー! クリント君来たわよー!」


「分かってるってー!」


僕は荷物をリュックに詰め込み、すぐに玄関の自動ドアのロックを開けた。


「よっ」


クリントは元気に、そして軽い挨拶をした。




ーーーーーーーーーーーーーーーー




僕とクリントは、マンションの一室の前で待っていた。

しばらく待つと、ドアから僕のよく知るショートヘアーの女の子とその子のお母さんが出てきた。


「久しぶり! リーシャ!」


僕は彼女を安心させる為に、精一杯の笑顔を見せる。

この女の子の名前はリーシャ・ムールリット。

僕とクリントの幼馴染で、三人でよく外で追いかけっことかして遊んだものだ。

いっつも僕がビリだったけど。


「ア、アピアス君…クリント君…ひ、久しぶり…」


僕の笑顔とは正反対に、リーシャは暗い顔をして顔を下へ向けてしまっていた。

僕はそんなリーシャを見て悲しくなるが、これでもまだ元気な方だ。


「あぁ久しぶり。リーシャ、外出てくぞ」


「あ、じゃあオバさん! リーシャお借りしますね!」


「うん…お願いね二人共…」


リーシャのお母さんは、自分の娘だけじゃなく僕達まで心配してる様子でそう言ってくれた。

リーシャは、クリントに無理矢理手を引っ張られてマンションのエレベーターに向かって行っている。


あぁヤバい。僕も追わないと。


僕は二人の後を走って追いかけた。


リーシャがこうなってしまったのも、僕の責任だ。

僕は出来る限り、リーシャに楽しんでもらおうと改めて心に誓った。


……それにしても、しっかりと僕を追ってるな…。マンハッタンおじさんは。




ーーーーーーーーーーーーーーーー




僕達三人は、近くの動物園で遊んでいた。


ヒゲの様な二本の触手の生えた象、尻尾が二つに分かれた目の大きい白い猿、翼を四つ持った青く美しい鳥…珍しい色とりどりの動物が檻の中で元気な姿をお客さんに見せている。


あ、あの猿クシャミした。可愛いなぁ。あ、あのウサギ食ったら美味そうだな…じゃなくて可愛いなぁ。


時々入るバニッシュモードを抑えて、僕は可愛らしい動物の姿を見物していた。

クリントも興味深そうに色々な動物の姿を見て楽しんでいる。


さて、本命のリーシャはというと……


「リーシャ! ほら見て! あのキリン! すっごく大きいよ!」


「う、うん…そうだね…」


だ、駄目だ…。


精一杯動物を見せようとしているのだが、反応がものすごく薄い。

一応見てくれてはいるし、返事はしてくれるのだが、どうにも元気が無い。

いや、酷い時はずっと寝てるから、これでも元気な方なのは分かってるんだけど…。


「……ちょっと疲れたね。あそこで休もうか。ねぇ、いいよねクリント」


「え? あ、あぁ。そうだな」


少しうるさ過ぎたのかもしれない。

僕はそう思い、ベンチを指差してそこにリーシャを座らせた。

僕とクリントは、リーシャに飲み物を買ってくるといい自動販売機がある方へ二人で一緒に歩いていく。


「リーシャ…やっぱりあのままか…」


「うん…動物あんなの好きだったのに…」


「動物だから、駄目なのかもな」


「……そっか…。動物は逆効果だったのかな…」


クリントと話しながら、僕まで少し暗くなってしまった。

確かに考えてみたら、クリントの言う通りかもしれない。動物は逆効果だったかも。


「おい、お前まで落ち込むなよ」


「でも…リーシャがああなったのも…」


「お前の所為ってか? んな訳ねぇだろ。寧ろ逆だよ逆。お前のおかげで、アレで済んでんだよ」


クリントはそう励ましてくれたが、それでも僕の罪悪感は消えなかった。


何だか、少しの間だけこの空気から抜け出したい。

僕はガラス張りの動物の檻へと顔を向ける。僕の予想通り、ガラスから僅かに反射してマンハッタンおじさんの姿が映った。

おじさんもそれに気付いたのかすぐに隠れたが、これで話しかける理由を作る事ができた。

僕はわざとらしく、おじさんの方へ振り返る。おじさんは見事に建物の陰に隠れているが、大体の位置は分かっている。


「ごめん。ちょっと僕用事が」


「え? おい!」


「大丈夫! 動物園から出たりしないから! すぐ戻るよ!」


僕はクリントにそう言い、おじさんが隠れたと思われる建物の方へ走って行った。

思った通り、そこにおじさんはいた。おじさんは別に何の言い訳をする気が無かったのか、僕に見つかるや否や帽子を深く被り直して溜め息を吐く。


「おじさん…何でここに?」


分かりきってはいるが、僕は敢えて質問してみた。

おじさんは、参った様に僕を見る。


「調査だ。言ったろ? 例のドラゴンを調べてるって」


「ここに…あのドラゴンがいるの?」


「………困ったな…」


おじさんは小声でそう言った。

いや、困ってるのは僕の方なんだけど。


「アピアス君。単刀直入に訊くよ? キミは…」


僕は、おじさんの言葉に緊張して唾を飲んだ。

おじさんが次に放った言葉は…。


「あの黒いドラゴンについて、何か知っているんじゃないかい?」


「僕が……ですか?」


やっぱりそうだ。

でも、流石に正体までは分かっていないみたい。この点は少し安心した。

でも、まさか本当に僕と俺の接点に気付くとは。侮れない。


「あぁ、キミは黒いドラゴンに食われかけた。でもキミは現に今生きている。そして、そのキミを襲ったと見られるドラゴンが、今度はキミの住む街で人助けをし始めた。何か怪しいと思わないかい?」


「い、いえ? 別に…」


僕は平静を保とうとしたが、どうにもそれは苦手な様だ。

それに確かに、これは怪しまれても仕方ない気もする。

でも、僕にだって言い返せる事だってある。


「と、というか、あの黒いドラゴンが僕を食べたドラゴンと同じだなんて確証は無いでしょう? もしかしたら竜違いかもしれませんよ?」


そう、僕を食べたドラゴンの姿を見た人間は少ない。共通点は体色だけで、体色なんて同じドラゴンは何匹もいる。ドラゴンを毛嫌いする人間には、ドラゴンの顔の区別なんてつきようが無いだろうから、別にこれは苦しい言い訳でも何でも無いはずだ。


「確かにな…。でも、キミを襲ったドラゴンの目撃者なら、ここに二人いるだろう?」


それを聞いて、僕は目付きを変えた。


「確かにドラゴンの区別は色以外だと付きにくい…。だけど、一応訊いてみる分には…」


「やめてください」


「……ん?」


僕の声に、おじさんは驚いた様に僕を見る。

僕は、無意識に鋭い眼光でおじさんを睨んでいた。


「特に…リーシャには」


「リーシャ…あの…女の子か?」


おじさんは、僕の眼光に驚きながらもそう言った。

僕は、無言で頷く。


「リーシャにとってあの事件は…忘れられないトラウマなんです。僕は生きて帰ってこれたけど、リーシャは心に深い傷を負った。だから…」


僕は一歩、おじさんの前に出た。


「リーシャの前で、ドラゴンの話は絶対にするなッ!!!」


僕の威圧感に、おじさんは怯んでしまっていた。

これで僕の正体が分かってしまう可能性があったけれども、リーシャがまた傷ついてしまうよりは全然マシだ。

おじさんは少し考えたあと「分かった。すまなかったな」とだけ言い、その場を去っていった。


……本当は、リーシャの話をしない為におじさんと話す筈だったんだけどな…。

僕は自分の選択に後悔し、二人が待っているであろうベンチへと向かった。


その時、突然嫌な予感がした。


この匂い…まさか!


僕が気付いた直後には、灰色のドラゴンが動物園に着地していた。


そんな…よりによってこんな時に! しかも此処に現れるなんて!


「グアァァァァァァァ!!!」


灰色のドラゴンが咆哮を上げると、何と彼の尻尾が二回りほど大きくなった。

そして、その巨大な尻尾を振り回し、動物の檻ごと周りを破壊していく。


どうやら、あの巨大化が奴の魔法らしい。


僕はすぐに近くのトイレに駆け込む。

トイレの中に誰もいない事を確認し、僕は空かさずさっきまでおじさんと話していた場所へと転送した。

もちろん、姿を僕から俺へと切り替えて。


俺の出現に灰色のドラゴンは気付いて、俺の方を睨む。

そしてその灰色のドラゴンから送られるテレパシーの内容は、もう聞き飽きた例のアレ。


【貴方が…我々に害を為す裏切り者ですか…!】


【うるせぇ。そのデタラメな噂は聞き飽きた】


悪いが今日は加減してやれる余裕はねぇ。

きっと今、リーシャはドラゴンが暴れてると知ってパニックを起こしている筈だ。

リーシャを救う為にも、こいつを早く片付けなければ。


俺は灰色のドラゴンの背後にワープし、一気に翼を折ってやろうとした。だが、奴はそう簡単にやられてはくれなかった。


【甘い!】


灰色のドラゴンが、俺の脇腹に尻尾の一撃を食らわした。


「ガアァッ!」


あまりの衝撃に、俺は声をあげて地面に倒れる。

起き上がってからよく見ると、また奴の尻尾が巨大化していた。


クソッ…巨大化して威力がデカくなってやがんのか…。


灰色のドラゴンの尻尾は、元の大きさに戻っていく。

そして、灰色のドラゴンは俺に向けて笑みを浮かべる。


【油断しましたね、私の名は巨人(タイタン)。自身の一部を巨大化させる事ができるのです。どうです? さっきの攻撃は効いたでしょう?】


あぁ効いたよ効いた。

畜生、何だか喋り方もムカつくぜ。無性にイライラする。


でもあいつの魔法の特性上、あいつは近距離タイプのドラゴンの筈だ。

これは圧縮弾を撃って何とかやるしかねぇ。


……何て思ってたら、奴の顔が巨大化した。


あぁ…そうだね…。そんな使い方もできるよね…。


「ガアァ!!!」


俺の予想通り、タイタンは巨大化した顔から炎を吐いてきた。顔が巨大化したという事は、炎を放つ口までも巨大化したという事だ。

もちろんそんな口から放たれた炎は、とても広範囲で長距離なものだった。


俺は後ろへ下り続け、何とかその広範囲の炎を避けた。

周りは正に火の海で、俺とタイタンの間には大きく火が燃え続けている。


あぁもう。何でこう、みんな遠距離も近距離もできるんだよ。俺の勝機返せよ。これだからドラゴン退治は嫌いなんだ。


でも、これでチャンスは無くなった訳じゃない。


俺は豆粒サイズの圧縮弾をひっそりと形成する。そして、タイタンに向かってそれを放った。


何かが来ることを察したタイタンは、両翼を巨大化させ、それで自身の体を包み込んだ。

圧縮弾は巨大化された両翼に命中し、大きな衝撃波を放つ。


よし!


本来ならこれで、大きなダメージが入る筈だ。

そしたら一気にこいつを転送して……。


と思ったけど、現実はそう甘くないらしい。


確かに圧縮弾は命中した。

しかし、タイタンの両翼は何も傷一つ付いていなかったのだ。


ま、マジかよ…。


俺はあまりの光景に茫然とした。

そんな俺を嘲笑うかの様に、無傷のタイタンは両翼を元の大きさに戻しながら広げる。


【どうしました? まさか、あれで終わりですか?】


【ち、ちげぇし! まだすげぇのが残ってるから!】


そうは言ったものの、これは完全な強がりだ。

あの圧縮弾は最高威力のものだし、他の攻撃方法と言えば相手の近くにワープして殴るとかそんなワンパターンな攻撃だけ。あとは…いや、やっぱりいい。

でもあいつの魔法の前では、ただ殴るだけのそんなもんは効かないんだろう。どうせ巨大化した腕とかでガードされて、逆にこっちがやられて最悪の場合殺されちまうだろう。


巨大化とかよぉ…それどちらかと言うと死亡フラグの力だろ? ヒーローものとかで敵が最後にやる奴じゃん。

何で俺がそんなのに苦戦しなきゃいけねぇんだよ。クッソ、本当にアルゴラ仕事しろよな…。




ーーーーーーーーーーーーーーーー




「もう駄目…もう嫌…もう駄目…」


「落ち着け! 落ち着けってリーシャ!!!」


クリントはその場でしゃがみ込んで泣きじゃくるリーシャを、避難させようと必死だった。

ドラゴンが暴れているのを遠目で見て、リーシャはパニックになっている様だ。

しかも、追い討ちかの様にかつて幼馴染のアピアスを食った黒いドラゴンが現れたのだから、そのパニックの大きさはとんでもないものだった。


「立てよリーシャ! 早く避難しないと!」


「もう駄目…もう駄目…もう駄目なんだあ……」


明らかにリーシャは、精神が崩壊してしまっている。

これでは駄目だ。このままだと、何れあのドラゴン同士の戦いに巻き込まれてしまう。


「クソッ! アピアスはこんな時に何処いんだよ! あいつ無事なんだろうな!?」


そのアピアスは今正に戦闘中なのだが、クリントはそんな事知る由も無い。

そんな時、二人の前に一人の男が駆け寄ってきた。


「大丈夫か!?」


「あ、いや…それがこいつが動けなくなって…」


「そうか…。分かった、私が運ぼう」


男はそう言って、泣きじゃくるリーシャを背中に乗せた。

男は着ているトレンチコートにリーシャの涙がついても全く気にせずクリントと共に走り始めた。

そのトレンチコートの男・リベッジは、走りながらドラゴン同士の戦いを一瞥した。


その後彼は、アピアスがバニッシュへと切り替わる為に入っていったトイレを見る。


あれから、アピアスが出てきたのを見ていない。そして、彼がトイレに入った途端、彼がその前に立っていた場所に黒いドラゴンが現れた。


リベッジは、それがとにかく気になった。


リベッジは、アピアスとあの黒いドラゴンに何らかの関係があるのではと睨んでいた。

しかし、事態はもっと単純なのかもしれない。もしかすると……


「同じ…なのか?」


「え?」


リベッジの小言に、クリントが反応する。


「いや、何でもない。急ごう」


そう言いリベッジは、止まらず走り続ける。

クリントは、リベッジの事を少し疑問に思ったが、ドラゴン同士の戦いに巻き込まれない様にする為に変わらず走り続けていった。




ーーーーーーーーーーーーーーーー




避難しているクリント達の姿が見えた。

マンハッタンにおんぶされていた所を見るに、やはりリーシャはかなりパニックを起こしたみたいだ。


まぁそうなるよな。ぶっちゃけリーシャじゃなくても、こんな状況パニックを起こしても不思議じゃねぇ。

やっぱりここは、無茶してでも早く切り上げなくちゃいけねぇか。


【どうしました? 全く動きがありませんが…もっと凄いの、見せてくれるんじゃないんですかぁ?】


タイタンの俺を小馬鹿にした様な思念が、頭に伝わってくる。

こいつめ…アレが俺の嘘だって分かってやがるな。余計にムカつく。


【そっちが来ないなら、また私から行きましょうか!】


タイタンの思念が伝わると、奴は自分の出した炎を通り抜けて俺へと迫った。右腕を巨大化させて。


攻撃が来ると感じた俺は、タイタンの接近を右に避けた。


タイタンの巨大化した右腕が、一つの巨大な檻を破壊する。

その檻の中にいたのはライオジャガー。

身体中に斑点模様があるタテガミの生えた肉食動物だった。

ライオジャガーは檻の破壊に巻き込まれず済み、破壊された事によりできた隙間から外へ飛び出した。

ライオジャガーは二匹のドラゴンにパニックになり、何処かへ走り去っていく。


だが、その進行方向が悪かった。


その進行方向の先には、まだ避難し終えていなかったクリント達が。


あぶねぇ!!!


俺はすぐにライオジャガーとクリント達の間にワープした。


「うおっ!?」


突然のライオジャガーとドラゴンの出現に、クリントは驚きの声をあげ、おんぶされていたリーシャは顔をマンハッタンの背中に押し付ける。


俺はリーシャに悪いと思いながら、迫るライオジャガーを尻尾で叩き飛ばした。


ふぅ…これでとりあえずリーシャは無事……


とその矢先、右腕を巨大化させたタイタンが拳を握ってまた俺に迫ってきた。

まだ後ろにいるクリント達に被害が及ぶ為、避ける事はできない。

俺は足に力を入れ、その巨大なパンチを頰に受け止める。


……ッいってぇ…!


やっぱりこいつ、攻撃力が半端じゃねぇ。


【フン、わざわざ人間如きを助けるなんて…本当に変なドラゴンですね貴方は。あんな弱く醜い生き物、救ったところでどうなるんですか?】


………あ? 醜い…?


俺は巨大化した奴の右腕を掴んで、人間の管区外の草原へとワープした。

長距離の移動は暴れられると失敗しやすいんだが、タイタンの野郎が調子乗ってたおかげでワープできた。

こういう油断してるところも何かムカついてくる。


タイタンは、突然場所が草原へと変わった事で少し喫驚していたが、そんなの俺には関係ない。

俺は奴に強烈なボディーブローを食らわせる。


「グゥッ!」


タイタンは突然の攻撃に後退り、俺を睨んだ。

だが、悪いが俺もイラついてんだ。俺だってお前を睨み返してやる。


【醜いって…誰のこと言った?】


【なに…?】


俺は怒りを乗せて奴に思念を送る。

しかし奴は俺の怒りを感じてないのか、それとも純粋に質問の意図が分からないのか顔を顰める。


【もう一度訊くぞ…? 醜いって…誰のことだ…!】


俺はこれでもかと怒りを乗せ、奴を睨みながら思念を送る。

流石に俺の怒りが伝わったのか、奴の額に冷や汗が現れる。


【誰って…そんなの、人間全員に決まってるじゃないですか! 全滅されるのは、我々ドラゴンじゃない! あいつら人間です!】


全員か…。じゃああいつの事も入ってんのか…?


【それに、さっき目に入ってしまいましたが、我々に泣いている人間だっていたじゃないですか。あんな馬鹿面見せる奴等に生きる資格があるとお思いですか?】


【……おい、今リーシャのこと馬鹿にしたのか?】


こいつは先ほど、言ってはいけない事を言った。

前のはまだ許せたかもしれないが、これは完全にアウトだ。


【リーシャ? まさか貴方、人間の名前なんて覚えてるんですか? 相変わらず気持ち悪いドラ…】


奴の話が途中だったが関係ない。


俺は奴の頭を掴んで、地面に叩きつけた。


………殺す。


俺は拳を握り、その中に豆粒サイズの圧縮弾を作り出す。


【な、何を!?】


こいつは状況が理解できてないみてぇだな。まぁいいや。理解させる時間も無駄だ。


俺は圧縮弾が入った拳を奴の顔面に叩きつけようとする。

奴はそれに気付き、両腕を巨大化させて顔をガードした。


悪いけど、それ無駄に終わると思うぞ。


俺のパンチが奴の巨大化した両腕に当たる。

それと同時に、拳の中にあった圧縮弾が爆発した。

俺のパンチと圧縮弾の威力が合わさり、奴の巨大化した両腕の骨は見事に折れる。


「! グガァァァァァァァァァァァァァ!!!」


流石にこの威力は予想外だったのか、奴は悲鳴を上げて自分の両腕を見る。

骨か粉々に折れている為、あり得ないところでぷらんぷらんと揺れている。


【私の! 私の腕があ!!!】


腕だけでギャーギャー言うなよクズが。


俺はもう一度もう片方の拳の中に圧縮弾を生成する。


【! ま、待て! 落ち着け! 落ち着けって! 貴方の言う通りにするから!】


マジで? じゃあ死んで。


俺は今度こそ奴の顔面に拳をぶつけた。


「グガアァ!!!」


俺と奴の血が飛び散り、奴は短い悲鳴を上げる。


【お、お願いです…。も、もう…人間のところには…行きませんから…だから…】


あ、まだ生きてる。


俺は血塗れの拳の中に、圧縮弾を作り出す。

実は俺の手は一発の攻撃でボロボロなのだが、今の俺にはこいつを殺すことしか頭になかった。


【い、嫌だ! ごめんなさい! もうしません! だから…だからぁ!!!】


そこで、奴の思念は途切れた。




ーーーーーーーーーーーーーーーー




僕は一人、動物園のベンチに座り顔を歪めていた。


両手が、ものすごく痛い。


チラリと自分の両手を見ると血塗れで、何本か指があり得ない方向に曲がってたりしてる。

三回目の時、もうボロボロの手で握りしめてたけど、その時点で既に指は何本か折れてたのかもしれない。それぐらい、あの攻撃は危険なものだ。だから、あまりこの攻撃はしたくなかったんだ。


「うっ…これ…治るまでどのくらいかかるんだろう…」


ドラゴンの回復力があっても、これはしばらく治らないだろう。今回は無理をし過ぎたのかもしれない。


僕はふと顔を上げ、目の前に広がる光景を見た。

ドラゴンスレイヤーが、忙しなく動き回って怪我をした人々を助けていた。


僕は普段、戦い終わったらすぐにその場から去るから分からなかったけど、ドラゴン同士の戦いというのは、こうして見ると壮大だった。

この動物園も、しばらくは営業する事ができないんだろうな。


「大変だったな。アピアス」


そう言って僕の隣に座ったのはお父さんだった。

僕はお父さんの顔を見て、一つ質問をする。


「お父さん。リーシャは? リーシャとクリントは大丈夫?」


「あぁ、怪我はないとの事だ。ホント、リベッジが近くにいて助かったよ」


「そっか…良かった…」


二人の安否が分かると、僕は心の底からホッとした。

そんな僕を、お父さんは心配そうに見つめる。


「友達の心配もいいが、お前は自分の心配をしろ。その手…大丈夫か?」


「え、あ…う、うん…。まぁ結構折れてると思うけど…」


「だよな…。すまんな…父さんがもっと早く来ていれば…」


「お、お父さんの所為じゃないよ! これは…僕の所為だから…」


そうだ。これは自分がした怪我なのだ。

あの攻撃の危険性は分かっていたが、どうしても自分を抑えられなかった。だからこれは、正真正銘の自己責任だ。


お父さんはそれ以上何も言えなかったのか、軽く僕の頭に手を乗せて他の隊員と共に作業を始めた。


ドラゴンスレイヤーの作業を見て、僕は心の中で不安になった。


領域侵犯探知装置アルゴラのアップデートは明後日から始まるらしい。


アップデートを開始してから、完了するまでにかかる時間は大体1時間。

その間に、アルゴラの機能は著しく低下してしまうとの事だ。


ただでさえ機能しているか不安なアルゴラが、さらに1時間さらに機能が低下するのだ。


その間に、ドラゴンが迫って来たらどうすればいいのだろう。


僕の手はボロボロで、しばらくは戦えそうにない。

アルゴラのアップデートが上手くいって、本当に仕事をしてくれたら良いんだけど、僕にはどうしても不安で仕方なかった。


そしてそんな不安な僕を、空から何者かが見つめていた。


僕は頭が一杯で気付かなかったが、それはバニッシュの住処で再会したあの目玉であった。

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