春が来る
きっと僕は、果たされた気分でありたかったのだと思う。
きっと僕は、満たされた気分でありたかったのだと思う。
だから僕はあの時、彼女から目を逸らすことが出来なかった。
僕は彼女から何を欲したのだろう。
いつも通りの大学のキャンパス、いつも通りの時間に、いつも通りの講義を受ける。これだけ洗練されたようないつも通りの日常。
小学校の頃から何も変わっちゃいない、リズムを崩さない面白味の無い日常は、既に感覚を麻痺させて生活として成り立っている。
こんな生活にはもうこりごりだ、と考えてるうちに、もう今年で2年生。短大生の僕には今年が最後の学生生活。最後の学生生活も、こんな単調な日々で終わるのだろうか。
普段通りの坂道を下る。明日から僕の最後の1年が始まる。寂しいような、清々しいような、そんな気持ち。誰かにぶつけたいけれど、そんな知人などいない。
ふと、目の前の桜並木が目に広がる。去年もこんな景色を見ていた気がする。ひたすらに綺麗な薄桃色の花。僕には程遠く感じる、春の予感。
きっとこの前観た映画のワンシーンなら、目の前には女の子が僕を見ていて、優しく微笑んでいて……。
その時になって、僕は目の前に人がいることに気付いた。黒くて長い髪、線の細い身体、そして春のようにあたたかな光を眼に映した女の子。
彼女はじっと僕を見つめている。ずっと。
どこかで会ったことがあっただろうか。微かに覚えがある気がする。
彼女は、少し口を開いて少し喋ろうとすると、すぐに口をつぐみ、目を逸らした。
しかし、もう一度彼女は僕の眼を見据えると、こう言った。
「あなたにチカラをあげる。私から、何か1つ奪うことの出来るチカラを。」
初投稿です。