日常【コック長とコック】
日常パート的なやつー
数え切れないほどの窓から日光が差し込み、長く広い廊下を照らしている。
「う~ん、ヒマだなー。テナちゃんはユミにお仕事教えられてるから、ちょっかいだせないし……ユミも無理だからなー」
そんな独り言をぶつぶつと呟くオレはここで名案が浮かんだ。
「あ! そうだ……まだ、面白い子いるじゃん……この時間帯なら、庭のほうかな?」
テナちゃんが来てから、もう五日。彼らも彼女のことはもう聞いているだろう。
これから、何かと世話を焼いてもらわねばユミの負担が増える一方だし。
*
「淡い緑と可憐な花が広がる広大な庭。それを手入れする役職を庭師という。このセスナ邸の庭師の名前は、ピアリ。そして、彼女に想いを寄せてかれこれ六年。グダグダと告白できずにコックの仕事をこなし、仕事の合間に彼女を物陰から見守る(覗き見)彼の名は――――」
「ジーヌ、うるせぇ」
「痛い! 痛いよ! 蹴らないでよ! サジくん!」
連発して蹴りを入れる赤髪で三白眼のコック服をきた青年とその蹴りをお尻に食らう黒髪寝癖のコック長……。
「サジとジーヌさんはホントに部下と上司なの? 逆じゃない?」
「あ、キーさん。ちょうど良かった。サジくん止めてくれないかな? 本当のこと言われて逆ギレしてるんだ」
「キーの旦那。こいつ、いい加減、解任してくれ。ナレーションが、うぜぇ」
「二人共、木陰に隠れて何してるの……? 仕事はちゃんとしてるんだろうね?」
「そのジトっとした視線を俺に向けないでくれ。向けるなら、仕事を全部俺にやらせる似非コック長にしてくれ」
「ひどいなー。全部はやらせてないよ。それより、サジくん? これキーさんに渡してもいい?」
「あ? 何を――――」
オレに見せないようにジーヌさんはサジに写真をちらりと見せた。すると、顔を赤くしたサジがマッハでその写真を奪い取ってビリビリと破り捨てた。
「ああ、データは僕のパソコンに隠しデータとして入ってるから、その一枚を破っても意味無いよ?」
「いつ撮ったんだよ! こんな写真!」
破った写真が地べたに落ちて、なんとなくだが、写真がどんなものだったのか理解した。
……うん。恥ずかしいね~。外で作業中のピアリちゃんを厨房の窓から覗き見してる後ろ姿。
でも、その写真、既にジーヌさんから貰ってるんだけど……面白そうだから黙ってよー。
「ねぇねぇ、サジくんはー、ピアリさんのどこが好きなの~?」
「ここが良いってひと言言ってくれるだけでいいよー」
「旦那、アンタまで促すな。ハァ……昼飯の用意してくる」
左手で頭を抱える『元マフィアの若頭』は厨房に戻って行った。その疲れきった背中に「やーい腰抜けサジくーん」とニコやかに浴びせるジーヌさんはオレが蹴っておいた。
「キーさんまで蹴らないでよ!」
「仕事、ちゃんとしてよ。じゃないと、減給だから」
「え~。そうだ、キーさん。新人が一人入ったんだよね?」
話題をすり替えるコック長にオレはジト目をして答えた。
「入ったよ。テナちゃんっていうんだ。今、ユミに仕事教えられてるよ」
「ふーん……どんな子なの?」
「どんなって……それを知ってどうする気?」
問いかけると「アハハ」と爽やかにいや、黒く笑った。
「やっぱり、弱みを握っておいて損はないと思うからさ! キーさんの弱みはまだ握れてないけど、他の人たちのはバッチリ掴んでおきたいんだ!」
「そんな生きがいのようにキラキラした目をされても……用途が危険だとわかっていて教える人はいないよ」
そんな闇ルート的な会話に気がついたのか、庭師が鎌を片手にこっちへ走ってくる。
「おっと、それじゃ、キーさん。僕は失礼するよ。サジくんの手伝いもあるし」
「本来は、君がサジくんに手伝われる側なんだけど?」
オレの台詞はジーヌさんには届かなかった。『元詐欺師』は都合の悪いことを聞き逃す天才のようだ。
そして、これからオレは、現庭師のマシンガントークを浴びるのであった。
チャンチャン。
次回は三月二六日午前一時でーす