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採点結果【新米メイドの胸中】

 「怖がった? どういう意味ですか?」


 「……殺し屋として貴女が生き、人を殺めた左手(その手)と違い、右手(そちらの手)は未経験でしたね? そちらの手も同じように汚してしまうことを怖がっている。違いますか?」


 テナの両腕はどちらもキーズからの贈り物だ。

 しかし、腕は違えど感覚や意識まで新規になるとは限らない。


 殺し屋として人を殺し、奴隷として(けが)れたモノに触れた腕。

 幼き日に数えるほどではあるにしろ、幸せに触れていた腕。


 対極に位置するもの。

 貴族たちに家畜同然と蔑まれ、慰みものとして酷使されていた頃から唯一安堵できること。


 片腕を幸せと共に置いてこれたこと。


 それは汚すことを拒む理由であり、完堕ちしないでいられた支え。

 そして、今、幸せと共に戻ってきたことに奇跡を感じている。


 「ユミさんって……本当に舐めてますね」


 右腕を抱え、奇跡を噛み締めて笑う。


 「私が今こんな気持ちでいられるのは、キーさんのおかげです。

そのキーさんのためなら、この腕を返り血で汚そうとも構いませんよ。

まあ、人の回想を中断させちゃう空気読めない主人には伝わりっこないでしょうけど……」


 面と向かって言えないが、ユミにも同じこと気持ちを抱いているのが伝わったのか、メイド長はメモに何やら書き始める。


 「私には及びませんが、その忠誠心は+五点ですね。しかし、最後の余計な一言は、-五点です」


 「プラマイ(ゼロ)……最終的に私って何点くらいなんですか?」


 「ご主人様への『暴言』『陰口』『反論』に加えて、素行に『乱暴』、仕事の物覚えの悪さやヒロイン気取りな振る舞い、減点総数、九〇点」


 「どんだけ減点対象あるんですか! 特に最後のなんです?! てか、たったの一〇点ですか……?」


 すっかりツッコミ役が定着した新米メイドの不安が立ち込める中、そんなもの無視して結果を伝える。


 「……これに今のテストでの加点を加えると……合計、六〇点。ギリギリ合格ですね、おめでとうございます」


 「え? 本当ですか!」


 「近い……ええ、アナタには、私と共に後日の騎士団訪問の対処を担当してもらいます」


 気分が上がってユミに詰め寄った分離れて、あっけらかんとするテナ。


 「あ、そういえばそんな話でしたね……すっかり忘れてましたよ」


 と、ここで一つの疑問がテナの脳裏をよぎる。


 「ん? でもなんで国の騎士団なんかがキーさんのとこに……?」


 「……これは、使用人たちの間で黙殺していることです。心して聴きなさい」


 「は、はい……」


 「この館の使用人たちは元を辿れば、アナタのような奴隷や裏社会の関係者がほとんどです。中には、他の貴族に仕えていた者も、買われそうになっていた者もいます」


 「は、はぁ……それで?」


 「要は横取りです。このご時世、奴隷が貴族の所有物なのはアナタもご存じでしょう?」


 「ええ……嫌というほどに」


 「……(苦い顔になるのも無理ありませんね)。ご主人様に救われた者もいれば、恨みを持ち、あることないことを吹聴する下賤なブタもいます。

 例えば、『セスナ邸の主人は、腕の立つ奴隷を集めて乱を起こす気だ』と」


 「本当なんですか……?」


 「間違いではありませんよ」


 「えっ……」


 「と言っても、ご主人様のお考えについては私から言うことではありません。貴女なら、直接聞けるでしょう」


 「キーさんはなんで私に……その、良くしてくれるんですか?」


 「私から言うことではありません。

とにかく、先程言ったようにご主人様の噂を真に受けた愚か者どもが定期的にこの館を訪問するのです。

私たちの役目は、愚か者どもの強行を抑制すること。よろしいですね?」


 「ユミさん、なんか怒ってますか?」


 「勘違いです」


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