戦闘終了【辛口な採点】
バトルって大変で文字数やばい
瞬きほどの時間だった、ユミが目を閉じたのは。その一瞬にテナはまたユミの懐に潜り込んだ。
だが、それでも、ユミに動揺は無い。さっきと同じように逆手から持ち替えられたナイフを警戒しつつ、カウンターを決めようと右腕でナイフを腕ごと弾き、左の掌底を胸元へ発射するが。
「……っ(かかった!)」
弾かれる前にナイフを持っていた左手から握力を〇に。
ナイフは押し出されるように手の内からユミの眉間へと吸い込まれる。
「……(この程度……ですか)」
掌底を中断し、失望したナイフを見送るように首と身体を左へ捻り、顔を素通りするテナの第一の刃。
次の刃は既にターゲットの死角に忍んでいる。
「あっ!」
気付き驚くビアリと得意げな顔をしたジーヌ。
それもそうだろう。
「包丁ッ……⁉」
ユミが身体を捩った左、つまり、テナの右側。
その腕に握られた日の光を反射する刺身包丁が、ターゲットの視野の限界と白髪に隠れながらも、徐々に殺意を纏った切っ先が接近する。
自分が殺されかかっていたとしても、ユミは満足気な顔でいて。
「ふっ……(キーの見立て通り、ですね)」
顔を通過し、宙を飛ぶナイフに右手の紙を投げて貼り付ける。
錬成陣から発せられる光がナイフの刀身を極細く、長く、ニードルへと一瞬にして形を変えた。
空中のニードルはナイフだった時よりもユミの手元近くにあり、それをキャッチしたユミは迫りくる包丁に物怖じせず、テナの首へ突いた。
「「っ‼」」
ほぼ同時。
包丁はユミの服の左胸部分をかすって止まり、ニードルは首を貫く前で寸止めされた。
「ね、ビアリ、どっちが勝った?!」
「同時だ。相打ちってところか……」
「お前ら、すっかり観客だな。ほら、コーヒー。それと……ジ~ヌ!」
ティーカップを腕組みしているビアリに渡すと、サジは黒い寝ぐせ上司に常時より低い声色で詰め寄る。
「うわっ、顔怖い、怖いし近いよっ!」
「てめぇ、キッチンから刺身包丁持ち出したろ……?」
「な、なんのことかなー……」
「コーヒー淹れるついでに昼飯用に魚捌こうと包丁探してたら、テナがエプロンの内側から包丁を抜き出したのが見えたんだよ! お前、アイツに渡したろ!」
「そういえば、ここに来る前にあの青い女と話してたな」
「ちょっ! ビアリサン?!」
「目撃者もいることだし、その辺のこと詳しく訊かせてもらおうか? 来い‼」
「く、苦しいっ! 後ろ襟掴んで引きずらないで、サジくん! 絞まる、クビ絞まるからぁぁ‼」
二人のコックは叫びを残しながら、キッチンへと消えた。
そして、残されたバイオレンス庭師。
「さてと、うるせぇのも消えたし……仕事に戻ろうかしら」
ネクタイを締め直して、エンジェル庭師へとバトンタッチ。鼻歌混じりに仕事道具を取りに倉庫へ。
三人のじゃじゃ馬も居なくなり、お互い凶器を止めたまま制止しているメイド二人は、どちらからとも無く手を引いた。
ポケットから出した紙にニードルを突き刺し、入口の門に投擲すると、抉れていた門の一部はパズルのピースのようにピッタリと埋まった。
そして、恒例の採点ターイム。
「今の攻撃、三〇点です」
「ハァ⁉ 辛口過ぎませんか! ユミさんだって、少しやばいかも、とか思ってましたよね?」
ムキーと怒りをまき散らす新米にユミは静々と首を横に振る。
「テストとはいえ、あんな風に怖がった殺意、合格点に値しません」
含みのある言葉に元殺し屋は怪訝な眼差しを、前から刺さる哀愁の視線と交差させた。
次回は四月二四日の午前一時です。