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夢と大波



 ───ねぇねぇ、おとうさまっどのうさぎさんがいいかな?ピンクのかな?こっちのきいろのがいいかな?あっ、このおおきいのもかわいいね!



 ───沢山あるんだなぁ、リリアはうさぎさんが欲しいのかい?ほら、こっちには犬も猫も有るんだよ?



 ───うさぎさんがいいの! おかあさまがよんでくれたごほんにでてきたの!とってもやさしいうさぎさんでねっそれでね、しあわせをとどけてくれるのっ!



 ───ハハハっそうかそうか。なら、リリアにとびきりの幸せを届けてくれるうさぎさんを探そうな。




 初めての宝物だった。


 初めて、お父様と一緒に悩みに悩んで選んだ物だった。

 初めて一人で眠る夜、抱き締めながら眠った。いつでも一緒に過ごした大事な大事な、一番最初の宝物。



 懐かしい、夢。

 懐かしくて、温かい筈の夢なのに、私にとっては悲しい夢だ。


 もう、既にこぼれた思い出達は、だいぶ褪せて冷たくなっているから。










 「リインちゃんどうしたの?なんか元気ないみたいだね?」



 朝のラッシュが落ち着いてきた頃に隣でお会計をしていたメイシーさんに聞かれて、驚いて思わず顔に手をやってしまった。



 「そんなに顔に出てます、か?」


 「顔に出てる訳じゃないよ、雰囲気が落ち込んでるみたいだなと思って。大丈夫?」


 「ちょっとだけ、その、夢見が悪くて………でも、心配して下さって嬉しいです」


 「はうっ私が癒された…………」



 頬擦りをしてくるメイシーさんにされるがままに、強く手を握り締める。

 

 何を沈む事があるというのだろう、こんなに温かい人達に囲まれているのに。


 早く仕事に慣れて、二人の為に何かお礼をしたいと思う。もちろん、システィリアさんにも。



 「リインちゃんは、明後日の花祭り初めて?」


 「はい、どんな事するんでしょうか?」


 「そうねぇ。花の形の食べ物食べて、親しい人に花をあげたりもらったりしてこの街が花で溢れるの。華やかだし、騒げるしで大盛況で稼ぎ時って感じかな!今年はリインちゃんもいるから、飛ぶように売れちゃうわねっ」


 「なんだが、凄そうなお祭りですね。私、あんまりお祭りって行った事がないから楽しみです」



 花で溢れるって、素敵だなぁ。

 親しい人に花をあげる、か。ガルドさん達にあげたいなとか、当日時間がもらえたら買いに行こうと考えて益々楽しみになってくる。


 それに、お祭りなんて本当に1度だけ行ったきり、屋敷から僅かに聞こえる歌や喧騒を感じるかメイリーデが楽しげに話す祭りの様子を聞かされるだけだったから。



 「じゃあ、沢山売って目一杯遊び歩きましょう。お兄ちゃんと私と私のダーリンのフィーロと!紹介したかったのよ~、フィーロは銀細工師でね今は花祭りに向けてちょっぴり忙しくて最近会ってないのよねぇ。だから、当日は二人で着飾りましょうね!」


 「あ、私、着飾るような服とか無いです………」


 「うふふ、大丈ー夫!私の貸すからとびっきりの美人さんにしてあげるわっリインちゃんのその可愛い猫ちゃんみたい目を存分に可愛くしちゃおう!腕がなるわ~!」



 楽しみにしててねとウインクをするメイシーさんに、もし兄姉がいたらこんな感じなのかな、なんて。


 




 客足も疎らになった午後に、明日作る花祭り用の材料を確認していたガルドさんがさっきから唸っている。

 

 メイシーさんは近所に配達に行ってしまったので、ガルドさんが唸っているのを聞いているのは私だけ。ちょっと前に居たお客さまも紅茶と最後のサンドイッチを掻き込むと足早に帰ったから。準備忙しいんだなぁと目を丸くしたのだ。



 「あの、ガルドさんどうしたんですか?」


 「ん、……………悪いんだが、あんたお使い行ってきてくれるか?まだ街を歩いてないとは思うんだが、俺はこれから仕込みに入らないと明日間に合わなくなるから」


 「お使い、ですか。あのっ地図を書いてくれますか?」


 「おう、ちょっと待ってろ。近くではあるが気を付けるんだぞ、花祭り用の包装を受け取ってきてくれ。この紙が注文用紙だから、無くすなよ?」


 「はい、しっかり受け取ってきます!」



 これに入れて帰ってこいと大きなカバンとお店までの地図、注文用紙を受け取って初めてのお使いにいざ、出発。



 「気を付けて行ってこいよ」


 「頑張ります、ええと、行ってきます」


 「ああ、行ってこい。待ってるぞ」



 ちょっとだけ手を振って、行ってこいの言葉を噛み締める。待ってくれる人が居るだけで、こんなに嬉しい。


 足早に2つ奥の通りの一番東側のお店へ、逸る気持ちを抑えながら向かう。


 

 ガルドさんお手製の地図は分かりやすく目印を書いてくれているので、迷う事なくたどり着きショートヘアの似合うお姉さんに挨拶をして包装用の物を受け取る。

 花飾りのついた紐と花弁が散りばめられた紙袋を大事に鞄に仕舞い、お姉さんにお礼を言ってガルドさんが待ってくれている止まり木へと帰るべく、無事に受け取る事が出来てご機嫌で帰路についていた。




 「…………………リリア?」




 今朝の夢の中にいた、その声を掛けられるまでは。


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