そわそわ日和
起きてきたガルドさんに何してんだと言われるまで抱擁は続きましたが、元気を補充してるのよ!と胸を張るメイシーさんに、私も元気をもらっている気がするなぁとひっそりと笑った。
「あの、ガルドさん。おはようございます」
「ああ、おはよう。今日もよろしく頼むぞ、さっきの様子じゃ通りの連中も構いに来るだろうしな」
「み、見てたんですか?!その、皆さんとても好意的に接してくれるから、嬉しくて」
「……そう言う可愛らしい反応が余計に皆、構いたくなるんだろうな」
朝食の準備を始めたガルドさんに挨拶をしたら、どうやら表でのやり取りを見ていたらしい。
悪い事ではないのに見られていたと分かるとちょっぴり恥ずかしいのに
「ちょっとお兄ちゃんたら、リインちゃん真っ赤にさせちゃって口説いてるの~?万年仏頂面のお兄ちゃんが女の子口説くなんてっ!奇跡かしら!」
なんて言って、にやついて扉から顔を出すメイシーさんにもう湯気が出るんじゃないかと思いましたよ。 ガルドさんは無言でメイシーさんの頭を叩いてましたけど。
今日も朝はのんびりとテーブル席で過ごす方も居たけれど大半の方々は持ち帰りだけど昨日よりも買っていく量が多くて中々忙しかった。
昨日は、そうでもなかったけれどこれが普通なんだろうか?お昼を前にしてショーケースの中は殆ど売れてしまっているのを、空いたテーブルを拭きながら疑問に思った。
「ガルドさん、いつもはこんな感じで朝は忙しいんですか?」
「ん、いや昨日がいつものだ。普段はあんなに買わねぇしな。3日後に、花祭りが有るからな朝に昼飯まで買って作業しながら済ます奴が多いから、この時期は大体今日みたいな感じだ。うちの店は前日に花型のクッキーやら飴やら作って準備するんだがな、それなりに量を作るから忙しくなるぞ」
「ええと、私お役に立てるでしょうか?包む作業もメイシーさんの倍はかかってしまいましたし……」
売っている丸いクッキーの包装も私がリボンの結びや傾きなんかを気にしていたら一つ終わった時には、隣でメイシーさんが既に5つ終わっていた。
凝り性なんだねぇと言ってくれたが、殆どをメイシーさんにさせてしまい半泣きになったもの。
「心配ない、昨日からよくやってるよあんたは。だから、そんな顔をするな」
そう言ってまたふわりと笑うガルドさんに意識を持っていかれた。
だから、笑うと同時にポンッと頭を軽く撫でられたのにはちょっと時間差で気付いて、朝同様、いやそれ以上にボンッと私は真っ赤に染め上がる。
「っ!!?あ、あああああのっ頑張って、お手伝い、しますっ」
ガルドさんには他意はないのかもしれないんだろうけど、色々な経験が圧倒的に少ない私にはハードルが高過ぎる。
ドキドキする心臓と赤い顔をどうにか落ち着けようと深呼吸を繰り返した。
「お兄ちゃんたら、まぁた口説いてるの~?今まで彼女なんて影も形もなかったのが嘘みたいね!口説き魔だなんて知らなかった……って、お兄ちゃん痛い!」
「またお前は。その口を少しは閉じろ、こんな奴が好きなフィーロの気がしれん」
「私のフィーロはお兄ちゃんよりも広ーい広ーい心と深~い愛情があるのよ!失礼しちゃう!そんな意地悪なんてリインちゃんに嫌われちゃうんだからねっ!!やーいお兄ちゃんのばかー!」
「お前じゃあるまいし、それはない」
なんて、私の目の前で繰り広げられるやり取りも、自分を落ち着けるので一杯一杯でよく聞こえていませんでした。
忙しかった今日も無事終わり、ベットに腰掛けて1日を思い返す。
飛んでいくシャボン玉が綺麗だった事、撫でられた事が嬉しいような恥ずかしいような、ふわふわした気持ちになる事。遅めの昼食のオムライスがやっぱり美味しくて堪らなかった事。
最後の宝物の本を取り出して、するりと撫でる。
物語のリインのように歩き出して、温かい人達に出会えて、思い描いていたよりも何倍もキラキラとした日が訪れていると幾度も撫でては、自然と笑みが溢れる。
「私に、顔を上げる力をくれてありがとう……」
囁くように呟いた言葉に、答えるように本が輝いて見えたのは気のせいじゃないと思える位、今が楽しい。
花祭りなるものも、どんな風に街が変わるのか楽しみだと思いながら欠伸が出て、もう寝ようと目を閉じた。
が、ふとガルドさんの笑顔が浮かんで、そわそわした。