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無事に決まりました



 カウンター席が4つに二人掛けのテーブル席は3つ、それとショーケースがありパンやサラダなんかが並んでいて持ち帰り用の商品だろうか、手軽でいいなと思う。ショーケース横にあるクッキーも気になる所だけど、今は今後がかかってるお話の最中だ後にしよう。



 「名前はリインでいいんだよな?」


 「はい、田舎から出てきたんです。昨日夕暮れ前に案内所に着いて、システィリアさんにお世話になってそれでこちらを紹介して頂いたんです」


 「接客を任せたいんだが、経験はあるか?」


 「いえ、初めてで……家では、その裁縫というか手芸ばかりで。あの、やはり経験がないと駄目でしょうか……?」


 「いや、経験が無くとも大丈夫だ。あんたが、一生懸命なのは少なくともあれだけ必死な挨拶されりゃ分かるしな。ただ、妹と二人で営業しているからあんたが入っても、あまり多くは休みをやれないかもしれないがそれでもいいだろうか?」


 

 働かせてもらえるのなら、休みなんてなくとも構わないし些細な事だとよろしくお願いしますと返事をした。


 

 「ガルドだ、よろしく。でだ、俺は主に調理全般を担当している、接客は妹に任せっきりなんだが、今買い出しで出てるんだ。直ぐ帰ってくるとは思うんだが……そうだな、先にあんた用の部屋案内するから来てくれ」

 


 カウンターの横の扉から先が居住スペースらしく大柄で足の長いガルドさんがスタスタと行く後ろをちょっぴり慌てて着いていく。コンパスの差と言うのを

ひしと感じながら。羨ましい………。

 

 扉の先にはお手洗いと洗面台、後は掃除道具等の収納があり、奥に二階へ行く階段があった。

 二階は4部屋有り、奥がガルドさんの部屋と妹さんの部屋、そして手前の部屋を一つ私に使わせてくれるとの事。荷物を置いてうちの制服だと渡されたエプロンを着けて、ベットと小さな棚と机が置かれた部屋に何だかまた頑張ろうと思えた。ガルドさんやまだ見ぬ妹さんと仲良く出来たらいいなとお店の方に降りた。





 ふわっとバターのいい香りが私を迎えたと思えば、カウンターの中に入ったガルドさんがフライパンを振るっていた。



 「ガ、ガルドさん、あの、私っ先ずは何をしたらいいでしょうか?」



 様になるなぁと少し見惚れてしまったが、ふいに視線を寄越したガルドさんにわたわたとしてしまう。あまり、人と関わる事が無かったしあの頃はずっとあのままだとどこか諦めていたのも相まって、こう……何ともない事でも焦ってしまう自分がちょっと情けない。



 「ん、じゃあカウンターに台拭きあるだろ?それでテーブルとか拭いて、そのあと椅子に掛けてあるテーブルクロスを準備してくれるか」


 「……えっと、はい。これですよね?頑張ります!」


 「おう、頼んだ」



 カウンターの端に置いてあった白い台拭きを手に取り、テーブルを拭き綺麗な青色のテーブルクロスを掛けて、そのまま大きな窓に目をやるとこちらを見つめる女の人が居て、短い悲鳴が出た。



 「ひゃっあっあ、あああのガルドさんっ窓、窓に、ひ、人がっ」


 

 持っていた台拭きを両手で握り締めて固まったまま窓に張り付いている女の人と見つめ合っていると、料理を中断したらしいガルドさんが傍に来て、そして溜め息をついた。



 「すまんな、あれが妹だ。…………おい、いつまで張り付いてるんだ。さっさと入れ」


 「お兄ちゃんっ誰その子?!なんて可愛いの!!も、もしかしてついにお兄ちゃんに彼女が………!!」


 「馬鹿かお前、求人出してただろうさっきシスティリアが連れてきたんだ。しっかり教えてやれよ」



 お店の扉を開けてガルドさんに声を掛けられた妹さんは凄い勢いで駆け込んできて、何やら興奮ぎみに詰め寄っていて私は相変わらず固まって見ているしかできない。



 でも、その雰囲気が二人は仲良いんだなと分かる。心の奥がちくりとした気がするけれど、それは今追うべき痛みではない。幼少時からの棘はこうして何気ない時に私を刺すのだろう。


 いつか本当に、自分の中で完全に昇華する事が出来るだろうか………。




 「おい、大丈夫か?」


 「へっあ、大丈夫です。その、ちょっとだけ、びっくりしてしまいました……」


 

 台拭きを握り締めたまま考えていたせいか、ガルドさんが覗き込むように屈んで声を掛けるまで気付かなかった。

 

 何でもないと誤魔化しながら返事をしていたら、ガルドさんの後ろから声がしてくる。



 「お兄ちゃん!私にもっ私にもその可愛い子を紹介してえぇぇぇっ!!私も愛でたいっ貴女お名前は?」


 「あ、リ、リインと言います!ご指導よろしくお願いしますっ」


 「まあ、安心して!手取り足取り教えるからね!こんなに可愛い子が来るなんて求人出して良かった~!あっ、私はメイシーよ。よろしくね、リインちゃん!」



 肩口で切り揃えられた茶髪がよく似合う、太陽のような人だとぎゅっと両手を握ってよろしくねと笑うメイシーさんに私もつられて笑った。


 その後、長い抱擁は痺れを切らしたガルドさんがメイシーさんの頭を軽く叩くまで続いたのでした。


 

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