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これからの道は



 街に着いたのは、陽が落ちて暫く経ってからだった。


 明日の準備で至るところに出ている屋台に昼前には無かったしきっと明日は凄いんだなぁと驚いてあちこち見ていたら、明日はかなり賑やかだぞとガルドさんが教えてくれた。



 「ああっリリアちゃん!!おかえりっ、お兄ちゃん迎えにやったけどそれでも心配だったわよ!もう~大丈夫だった?泣かされなかった?張り手のひとつ位はぶちかましてきた?もうっ心配した!心配したのよぉぉっ」


 「わわっだ、大丈夫ですっちゃんと言え、言えました!」


 

 お店に入った途端にメイシーさんにぎゅうぎゅうと抱き締められた。事の顛末を報告したら、頑張ったわねとより抱き締めて褒めてくれる。

 それにくすぐったい気持ちになり思わずにやけてしまいそうになってしまう。



 「こら、扉開けっぱなしでいつまで抱きあってんだ。閉められないだろ」


 「やーねー。リリアちゃん聞いてよ!お兄ちゃんたら袋詰めも破いて話にならない位だったのよ?本当に溜め息も鬱陶しいし、迎えに行かせた私に気が利くなありがとう位言えって言うのよね!そんなんだから女の気配なんかないのよ!!はっでも今はリリアちゃんが居るもの!がっちりしっかり捕まえて私と可愛い姉妹になっもが!!」


 「頼むから、もうその口閉じてくれ………」



 がっと口を鷲掴みされたらしいメイシーさんが呻くその下で、私もメイシーさんの胸で息がしずらくて、ひっそりともがいていたけれど。



 カウンターにメイシーさんと並んで座り、ガルドさんは晩ご飯を作るべく卵を割っている。

 袋詰めされた明日用のクッキーがショーケースの前の大きな篭に山盛りになっているのを見て、手伝えなくてごめんなさいと謝れば明日の方が大変だから気にしないで、来年は一緒に準備をしようと二人は笑ってくれた。

 出来上がったオムライスも凄く美味しくて、自然とニコニコしてしまう。


 それにああ、帰ってきたんだなって思えて、私も頑張りますと笑い返した。




 「両親や妹がこれからどうするのか、気にならない訳じゃないんです。けど、私はこれ以上何か関わる事はない、かなって………。あの人達に求めるものは何もないですから。ただ、本当のお母様の事を聞きたい、それだけは知りたいなと……だからもう少し落ち着いたら、お父様に手紙を書こうと思って。それに、名前も置いていこうと思うんです。一から始めようとあの屋敷を出たから…………これからは『リイン』として生きていきたい」



  ガルドさんが淹れてくれたミルクティーを飲みながら、自分の思いを話す。


 両親と妹がどんな選択をするのか、少しは気になるけれど、それで私が何かをしたりとかはない。そうなんだなと思いはすれど、あの人達の事が心を占めてしまう事はないだろうなと思う。

 もう、私とあの人達とは歩く道が違う。

 私の中では、済んだ事だから。


 名前も、迷ったけれどあの屋敷を出た時の思いは今も変わらない。

 どうしても手放せないのはあの本だけだから、ずっとおかしくなりそうな私を支えてくれたのは。…………リリアと名付けてくれたお母様やお父様は悲しむのかもしれない。けれど、それでも置いていこうと決めたのだ。



 胸元に下がるお父様からもらい受けたペンダントをぎゅっと握り締めると、頑張りなさいと背中を押してくれているように思え少し安心する。


 

 「うん。リイン(・・・)ちゃんがそう決めたなら、私達はそれでいいと思うわ。たまに間違えてリリアちゃんって呼んじゃうかもだけど許してね!」


 「そうだな。………自分の中で過去に出来たのなら、明日からきっと笑えるだろう。それに新しい門出が、花祭りなんていいんじゃないか?」


 「あ、お兄ちゃんの癖に良い事言うじゃない!」


 

 新しい門出、か。


 そう言われると改めて、始めるんだなと思える。

 パチリと器用に片目を閉じるメイシーさんとミルクティーが熱いのかフーフーと息を吹き掛けているガルドさんにまたお世話になります!と意気込む。

 


 明日が来るのがこんなに楽しみな日がくるなんて、ほんの少し前まで思いもしなかったとかみしめて、最後の一口を飲み込んだ。











 通りの建物は見渡す限り花で飾られ、街行く人達の頭には彩り鮮やかな花冠が乗せられて服装もどこかしらに花模様。子供達は片手に花で一杯の篭を持って配っていて、私も『幸せをどうぞ』なんて言葉と共に黄色の花を一本もらった。お店の前に簡易的な台と日除けに大きなパラソルを立てて、今日の為のクッキーを並べて、ちらっとお店の窓に映るおめかしした自分を見て、少しだけ気恥ずかしいかもしれない。


 朝日が昇る少し前からメイシーさんと二人おめかしの為に早起きをした。いつも三編みを右に流していた髪も高い位置でポニーテールになり、軽く巻かれてふわふわとしているし、サイドは編み込みもして花のバレッタが可愛くて。メイシーさんはとても器用にセットしてくれて、鏡に映る自分が自分じゃないみたいで色んな角度で見つめたりしてはしゃいでいたら抱き締められたけれど。

 ふわりとした青色のワンピースは、胸元のフリルとカフスボタンが可愛くて動く度に広がる裾に気分も上がって。自分も女の子なんだなって。私よりはしゃいで妖精さんみたいっ可愛いー!と興奮しているメイシーさんもオレンジ色のワンピースと、編み上げられた髪にフィーロさんからのプレゼントらしい銀細工の大きな薔薇のバレッタが輝いていてメイシーさんこそ妖精さんみたいだと思った。



 早朝からの身支度を思い出しながら、台の飾り付けをしていれば、大通りから聞こえてくる音楽に、メイシーさんとガルドさんがさあ忙しくなるぞと教えてくれ、それを聞いてエプロンの腰紐をもう一度しっかりと結び直した。




 「お姉ちゃん、クッキー2つ下さいな!」


 「わしは3つ頂こうかの」


 「お、可愛い娘発見!いいね~俺さ大通りで靴屋やって」


 「はいはい、次の人~!お兄さんにはうちのお兄ちゃんが手渡してくれるからー、はい横にずれて!リインちゃんっクッキーまた補充してくれる?」


 「ほらよ、幸福が降りてくればいいな?リイン、補充終わったら俺と代わってくれるか?店の中に置いてる追加のクッキー持ってくるから」


 「はいっもうちょっとで代わりますねっ」


 「私も2つ頂戴な!」


 「こっちは4つ下さーい!」


  

 私の予想を遥かに上回るお客様の波に、必死に二人の指示を貰って動くが目が回りそう。見渡す限り人だらけで凄い光景だけど、それに驚く暇もなく次々と列をなす人に、補充しても補充してもすぐ台の上は空になるから忙しいなんてものじゃない。


 だけど、花で溢れる景色や笑顔で歩く人達を見ていれば凄く忙しくても、自然と私も楽しい気持ちになってくる。

 

 

 「よし、売り切れでーす!ありがとうございました!ん~、今年はあっと言う間に売り切れだわ。リインちゃんも頑張ったわね、ありがとう」


 「お役に立てたなら、嬉しいです」


 「もう!はにかみ笑顔が眩しいわっ、ささっ午後は皆で遊びましょう!片付けしちゃって、お化粧し直してから練り歩くわよ~」


 「片付けは俺がやっておくから、お前達は先に準備してこい。リインも、頑張ったな、助かった」


 「まあ!お兄ちゃんの癖に気が利く~!じゃ、準備しましょ?朝よりもっと可愛くするわ!!」



 ふんふんと意気込んだメイシーさんに連れられて朝同様、少し崩れてきていた髪も直してもらい、お化粧も自分では使わない色をのせられて、出来上がった顔はいつものきつい印象になりがちな顔が、柔らかく見えて凄い凄いとはしゃいでしまった。

 自分でしても、最低限失礼のない大人しいものしか出来ないから、今度時間のある時に教えてもらえないかななんて思いながらまじまじと鏡をみたりして。

 


 準備を終えて二人でお店に降りたら、カウンターにガルドさんともう一人、ふわふわとしている長めの黒髪の人が座っていて、即座に隣に居たメイシーさんが走り寄ったのを見るにあの人がフィーロさん、なのだろうか。

 ぽかんと、見つめ合って頬を染める二人を見ていたら、ガルドさんが私に手招きしてくれて、漸く動き出せた。



 「リイン、こっちにこい。それにこいつらはいつもこうだから気にするな、ほらこの黒いのがフィーロ。うちのお転婆を貰ってくれる有り難い奴だ、若いが銀細工師としての腕は確かだぞ」

 

 「やあ、君がリインちゃんだよね?僕はフィーロ。2つ奥の通りで工房を開いているから、今度メイシーと遊びにおいで。まあ、ガルドさんとでもいいけどね!割引きしちゃうよ!」


 「まあ!それいいわねフィーロっリインちゃん今度お兄ちゃんと行ってみるといいわ!素敵な指輪とか見繕ってもらうといいわよ、勿論私とも行きましょうね?」


 「え、あの、えっと、その、はい行きたいです?」



 紹介されたフィーロさんとメイシーさんの気迫になんだか押されてよく分からないまま返事を返したけど、一緒にお店においでってお誘いだよね。メイシーさんの髪飾りも素敵な物だから、楽しみだなと思う。

 やけに盛り上がる二人にやれやれと呆れたような顔をしているガルドさんに、楽しみですと言えば、少し驚いた後に近い内になと言ってくれた。



 「ほらほら、じゃ出発しましょ!フィーロっ私今年はミリーのパイ買いたいのよ、そろそろお店始める頃だから急ぐわよーっ!お兄ちゃん達も後で噴水の所で会いましょー!」


 「はははっそんなに急がなくても予約してきたから………って、お二人共ーまた後程~」



 フィーロさんの手を引っ張り駆けて行ったメイシーさんの速い事、速い事。あっという間に見えなくなった。

 

 残された私とガルドさんはと言えば、なんとなくお互いに目を合わせて。


 そして、ふいに笑った。



 「くくっよし、俺達も行くか」


 「はいっあ、……あの、あんなに沢山の人混みって初めてで、服の裾でいいんです。そのっ掴んでいてもいいんですか?」


 

 そう言えば今日のこの人混みでは、不慣れな私でなくともはぐれてしまう位だから必然的に私は迷子になってしまうと、恥ずかしながらガルドさんにお願いしてみる。



 「そういうのを下心無しにあんたはやってんだろうなぁ」


 「………?あの、駄目だったらいいんです。頑張ってついていきますから」




 なにやら溜め息をつきながら私を見るので、駄目なのだろうかと撤回していたら、ガルドさんが一歩近付いてきて、次の瞬間には右手が繋がれた。



 「裾じゃなくて、手を繋げばいいだろ」


 「え、あああのっその!」


 「…………その格好あんたによく似合ってるぞ。綺麗だ」


 「へっききき綺麗って、あのっそそそのっ」


 「ははっほら、行くぞ。祭はこれからがメインだからな」



 手を引かれ花祭りの人混みに入っても、しっかり繋がれた手が離れる事はなく、それに私の顔も熱が中々引かなくて。


 待ち合わせの噴水前で踊っている人達を見ていたらメイシーさんとフィーロさんが来て、そのまま私達も連れて踊りの輪に加わり踊ったり。花を噴水に浮かべて願い事をしてみたり。



 なんて素敵な時間なんだろうか。



 これから先に、キラキラした日常が待っているみたいだな、なんて沢山の花で埋め尽くされた噴水を四人並んで眺めた。






 大事で大切な本と譲られたペンダント。

 私の手に残った物は少ないけれど、新しく歩き出す勇気と優しくて温かい居場所を見付けられました。 


 例え、また私の手をすり抜けようとしても私の手ごと包んでくれる。


 そんな人達に出会えたのです。




これにて一応終わりです。

駆け足にまたなりまして、温かい目で読んで下さると助かります。


ここまで読んで頂きありがとうございました。


時折、番外を上げるとは思います。

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