白衣の天使
キミのもとへ行く前に、少しだけキミと過ごした思い出を
振り返る時間を下さい。
振り返り、キミを思い、キミのことだけ考えて
僕はキミのもとへと行きたいのです。
キミは僕を待っているのでしょうか。
今の僕にはわからないけれど、待っていると信じています。
もしかしたらキミはどうしてここに来たのと怒るかもしれません。
会いたかったと涙を流すかもしれません。
もしかしたら行き場所が違って会えないかもしれません。
それでも良いのです。少しでもキミに会える可能性があるのなら
僕は運命に身を任せ、行動に移します。
目を閉じれば昨日の事の様に思い出せるキミとの出会い。
初めてキミと会ったのは三年前でした。
僕がお世話になっている精神科でキミは
看護師として働いていましたね。
白のワンピースに身を包み、ポケットにはピンク色のリボン柄のボールペン。
ナースキャップについたヘアピンも同じくピンク色のリボンでした。
白衣の天使、という言葉がぴったりでした。
昔も今も照れくさくて言えなかったけれど、あの病院で
一番輝いていたのはキミでした。
「初めまして。私、今日から配属になったんです。」
「どっ、どうも……。」
「それでは、またお待ちしております。」
「あっ、あのっ。」
「なんでしょう。」
この時は少しだけ後悔しました。
もともと僕は人付き合いがあまり上手ではなく
自分から声をかけることは絶対にしないのです。
呼びとめておいてなかなか話さない僕が話すのを
キミは優しく微笑んで待っていてくれましたね。
僕はとても嬉しかったのです。
「クッ、ク、クラシック、が、お、お、お好きなんですか。」
「はい、好きです。
特にピアノのコンサートにはよく行きます。」
「や、やっぱ、り。」
「どうして当てられたんです?」
「そ、その、手に、も、も、持ってる、ブランケットはっ、
と、とある、ピ、ピア、ピアニストの、コッ、コンサート、限定のっ
ブランケット、だっ、だから。」
「ええ、そうなんです!」
「こ、今度の、いっ、一年半ぶりの、ソロコンサートには
いっい、い、行くのですか。」
「それが残念なことにチケットが取れなくて。
会場もこの近くだし、行きたかったんですけど……。」
「そっ、それは、ざ、ざん、ざん、残念です。
よ、よ、呼びとめて、す、すみ、すみませんでした。」
「いえ、全然かまいませんよ。
お話できて楽しかったです。」
どもりまくりの僕に嫌な顔を全くせず
優しい微笑みをかかさず話をしてくれたキミ。
病院をでると僕は、足早に家へと向かったのでした。