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セメント、盛り。

セメント・モリ…

(死を記憶せよ)

「はんた~い!」

・・・「立ち退き反~対!」

「ア、アンタ正気か!はやく出てけよ!」

「ここは代々ワシの一族の所有地、貴様らショッピングモールなんぞの圧力には屈さん!出て行くのは貴様らのほうじゃ!」

「何言ってんだジジイ!第一ここは海なのっ。誰の所有地でもないから・・・!」

「理屈ばかり抜かしおって、この若造めっ!ワシの一軒家はテコでもショベルでも動かんわ!かかってくるがよい…」

「アンタ、一軒家って・・・ただのイカダ船じゃんか」


ゴゴゴゴゴゴゴ・・・


「もう工期が迫ってんだ!アンタが動かんならもう、強行策しかね~からな!知らないぞ」

「知らん知らん。聞こえん振りでもしておくわ…」

「オイ、冗談はいいから!はやく、はやく、はやくーーー」


・・・・・・


とある埠頭にて・・・


「いや~、聞きしに勝るロマンティックな夜景だね・・・」

「周りが夜景に囲まれて、素敵♡」

「連れて来てよかったよ。来年にはもう、この埋立地はショッピングモールになってるはずだから、今がこの海の夜景としての最後の夏だと思うから・・・」

「もう!モリオっちったら~、女性をオトすテクすっごいじゃん・・・女ったらしがバレバレだよ~~」


ふたりのバカップルは歩きながら妙ちきりんな会話をつづけた。オトコであるモリオは半年間の長期スパンでずっと会社の同僚のオンナであるセメコをじわじわと口説き続けた・・・

あと一息。ふたりはまさにいい感じであった。


「なにいってんのさセメコちゃん、キミ以外には脇目もふらないよ・・・」


「きゃあーーー」


「ど、どうしたの?うあああ!」


何があった?セメコは青ざめている・・・


「ブルブルブル・・・」


「ア、アンタ。何やってんだよ!」


「あ~?ウルサイ、ど~やら、部外者がまぎれこんどるようじゃな・・・」


「答えろよ!アンタは一体何者だ?」


「いやいや・・・それはオマエのほうじゃろ」


上半身が喋っている・・・

脂ぎった血色の良すぎるスキンヘッドの・・・ジジイといってよい年齢か?


「アンタ、何で埋まってんだよ!」


「はあ~?」


なんというか・・・

年齢的にはもう老齢であるが、異常に肌ツヤがよく、そして口調が明らかにオカシイ・・・なぜってヤンチャ盛りの若造みたいな口調だから。


「なによコイツ、キモイんだけど!」


当然のリアクション。

若いオンナは慄えから覚め、冷静にコンクリートに埋めたてられたジジイを侮蔑した、もうすでに、半年間温め続けた、モリオに対してのムードもへったくれも消滅・・・


「そうだ、それに・・・アンタ・・・ジジイ?」


「なんやねん、失礼な若造め」


「どうして急に関西弁!・・・ここ、関東だぞ!」


「出身は九州やねんけど、仕事で3年間関西に住んどるうちに関西弁伝染ってもうてん・・・」


「若造だ!アンタは思考回路が若造!」


「は~ん?ワシ何歳やと思ってんねん!85やで」


「絶句!」


「ねえ、アンタ頭オカシイんじゃないの?」


「セメコちゃん今更?」


「るっさい、アンタもアンタでキモストーカー決定!」


「えっそりゃないよ~汗汗」


「一個質問していい?」


「なんじゃ?」


「アンタずっとここに埋まってんの?」


「ああ…またその質問か?」


「慣れっこ!」


「その答えは簡単じゃ、ここが埋め立てられた三ヶ月前の金曜」


「曜日指定してんじゃねえ、そんで第何週の!」


「・・・たしか第二週じゃったかな」


「13日?まさか13日じゃないよね・・・?」


「オカシイでしょ、なんで埋め立てるからってアンタが埋まってしまう必要があるわけ?」


「フン、若いもんにはわからんじゃろうて、抵抗じゃった、この場所は代々ワシの先祖から続く一軒家があったからのう・・・ショッピングモールなんぞに屈してなるものか、という体当たりの行動よのう・・・」


「それって若者特有の向こう見ずだよねえ、むしろ若いひとにしか理解できないヤツだよねえ・・・?」


「るっせえなあ!」


「出たよ若造言葉・・・それにここってさあ、海じゃんか?一軒家ってオカシイっしょ、俺が知る限り昔っから海だし・・・それに」


「次から次に口数の減らんヤツだ」


「いやいや原因アンタだからね!アンタさ、出身九州なんでしょ?代々続く家が関東の埋立地ってどういうわけよ・・・?」


「地殻変動じゃ」


「意味分かんねーよ!」


「てかアンタきもッ!」


「セメコちゃんそりゃないよー・・・」


「てかアンタもただのストーカーなんだからちゃんづけとかやめてよね、キモいから!」


「キモイはよしてよセメコさん」


「お主、柔軟性にもほどがあるっ!」


「てかキモいの前提で聞いたいことあるんだけどさあ」


「えっ?キモいってどっちのことじゃ?」


「勘がいい野郎ね、アンタと、アンタよ」


「えっどっちも?」「えっどっちも?」


「声が揃っててますますキモいわね」


「なんですと!」「なんですと!」


「そんで・・・右のキモい方?」


「はいっ!」


「返事がよすぎてますますだわ。ところでアンタ、埋められたままならロクに食べたりできないんじゃ?その割に醜いほどまるまる太って・・・どういうわけ?謎よ謎・・・教えなさいよ・・・?」


「はあ、そんなことじゃったら」


ひゅっ!


ぽちゃん!)))


シュビビッ!


「え?釣り!」


「ん~引きが強いのう・・・」


「アンタ、釣竿なんてどっから出した?」


「ほう見えんかったんか?ここに収納棚があってな」


指差すジジイの後方・・・


「嘘をつくな!そんなもんどこにも見えないじゃないかっ!」


「そ~れい!」


シュババッ!


「はっ?糸・・・切れてんじゃん?見事に地球釣ってたんじゃないの?」


「ちっ、ワシとしたことが」


「えっ?マジだったの?」


「ネチネチとウルサイやっちゃ・・・男じゃったら白ふん巻いてモリで一突きしてみんかい?」


「うっせえ、上半身にだけは言われたくねえ!」


「ふんっ!」


「まあまあケンカはおよし。それより、なんか裏がありそうね?」


「ふん、浅ましいのう。実はその通りじゃ」


「当たってんの!」


「黙れ!まあ良い・・・正直に話そう。ワシかて、空腹過ぎて死ぬ寸前じゃったわい。動けんからのう・・・」


「自業自得だろ、それ」


「減らず口が、舌を抜いてやるわ!」


「その距離アンタに届くわけ?」


「むぅ~、中々鋭いのう・・・あなどれんわ」


「見くびってんじゃないわよジジイ」


「ぐはっ・・・」


「まさかフナムシを食ったんじゃ・・・」


「お主にしては惜しいところをついてきたな、若造」


「ニアピンかよ!」


「サスガは同類ね、通じ合ってるわよ」


「セメコさん、同類はよしてよ・・・」


「こっちのセリフじゃ!それより若造!」


「・・・なんだよ?」


「蛇とカエルがにらみ合いをするじゃろ」


「するじゃろって、んなもん見たことあるわけねーだろ!」


「いいや、する!実際この埋立地で見たからな」


「見たのかよ!」


「それでじゃ、にらみ合った蛇とカエルをごっそりワシがかっさらっていったわい・・・まさしく漁夫の利じゃぞ」


「テメエは漁夫じゃねえ!ただの捕虜だ」


「キモいわねえ、食べたの?」


ジジイ、ドヤ顔。ほっぺに突き指を立て、肌ツヤの良さをアピール・・・


「おええ、吐きそう・・・」


「アンタカエルも蛇も毒が回って死んじまわなかったか?」


「フン、毒にも薬にもならんかったわ!」


「じゃあダメじゃん・・・」


「むう、冷静なやつめ・・・かなわんわ」


「アンタがバカなだけよ」


「そうだそうだ!」


「調子に乗りおって、貴様にだけは認めておらんからな!」


「そうよ、アンタだって馬鹿じゃん」


「ガクッ!」


「まあ、皆までいうたらロマンがなくなるがな、実を言うとそんな拾いもんだけでは餓死しとったじゃろう。しかし、げっそりとやせ細ったあの時じゃった。ついに見かねた人々が、ボランティアで食いもんを恵んでくれるようになったのじゃ」


「だからそんなに太ってんのか・・・動くこともねえしよ」


「馬鹿にする気か!」


「事実じゃん、認めなさいよ」


「ふん、減らず口とはこのことじゃ、まあよい・・・それにしてものう・・・こうして地中に埋まっておると、妙なもんで、この地球と一体化したような気分に包まれるんじゃ」


「おいおい、スピリチュアルなこと言ってんじゃねえこのワケのわからんジジイめ!」


「辛辣じゃ!でも事実じゃて」


「そうよ、アンタも一緒に試してみたら?」


「なにいうのセメコさん!」


「フン、仲間割れはよさんか」


「何ってんの?仲間は・・・アンタと、アンタよ」


「うぎょへっ!」「うぎょへっ!」


「で、続きはなによ・・・」


「ほう、ありがたや。では話すとするか。セメント・モリ・・・死を記憶せよというラテン語があるじゃろう?」


「何言ってやがるこのジジイ・・・狂ってんのか?」


「ないわよそんな言葉!」


「ふたりしてっ!まあいい、それよりじゃ。ここは海を埋め立て、ショッピングモールになるという・・・」


「それが何だ?」


「この下には死体が埋まっておるぞ・・・ザックザックとな」


「はあ~~?ジジイキモッ」


「今度ばかりは早とちりしてしもうたようじゃな・・・」


「なによ!違うわけ?」


「違わんわい!考えてもみんか?この日本じゅうでいくつの埋め立てがなされておるか?そうじゃなくともいかほどの巨大ショッピングモールが建ち続けておる??人を殺した悪いやつらがのう・・・建設中の巨大な商業施設の地下に死体を埋めてしもうたらどうなる・・・?」


「・・・」


「そうじゃ、日の目を見ることはないぞ。その施設が倒産せん限りな」


「絶句」


「アンタ、そんな大掛かりな犯行、うまくいくと思うわけ?」


「いいや、うまくいくさ。建設会社ごと買収してしまえばなおのこと・・・」


「ジジイ!俺たちを怖がらせて楽しんでるだけじゃねえのか!」


「そんなことあるかいな!見える、ワシには見えるぞ!地下に転がった大量の死体がのう・・・」


「大量だったんだ・・・」


「そうじゃ、大量じゃ。そしてオープンを迎えたショッピングモールの床の上を、大勢の人々が踏み鳴らしている・・・主婦は我さきに走り回り、コドモたちは無邪気にはしゃぎ散らす・・・地面を揺らす振動は・・・地下に眠った複数の死体のまるで揺りかごじゃ」


「・・・」


「コンクリートの下には、死体が埋まっている!・・・どうじゃ?詩的とは思わんか?」


「何言ってんだジジイ!梶井基次郎の『桜の樹の下には』のまんまパクリじゃねえか!なにが詩的だ!」


「パクってんじゃないわよジジイ」


「パクっておらんわ!オリジナルじゃぞ・・・」


「往生際悪りぃやつ!」


「すみませ~ん・・・差し入れ・・・お持ちいたしました!」


「うわっ、こんな性悪ジジイに差し入れなんて・・・」


「ほう、待っていましたよ」


「消化にいいものを・・・と思いまして、お粥を・・・」


「なあにしてけつかるん!ワシャまだ食べ盛りじゃぞい」


「85だろっ!」


「肉じゃ肉!脂っこいもん以外受け付けるかいなこの時分・・・」


「なんちゅう罰当たりだっ!」


「すみません・・・今後気をつけます・・・」


「ふん、今後はないじゃろう!」


「そ、そんな・・・もう一度チャンスを!」


「ジジイ飢え死にしちまうぞ!で、目を覚ませよボランティア!」


「あんたさん、あんたの代わりなんぞ掃いて捨てるほどいるんでな、このような失態を経て、もう二度とチャンスなど与えてなるものか!」


「二人とも目を覚ませ!ただお粥を恵んだだけだからな・・・」


「ばっかじゃないの?お粥、冷めないうちにみんなで食べましょうよ?」


「え?でも・・・」


「いいのよこんなジジイなんてほっといてさ。さあ、涙を吹いて・・・」


「・・・はいっ!なんだか・・・勇気が出てきました!」


「何言ってるの?それはお粥を食べたあとでしょ?」


「・・・はいっ!そうですね、食べましょう!!」


「はあ~、優しいなあ・・・やっぱり素敵だわセメコちゃん」


「ちゃん付けしてんじゃないわよ!馴れ馴れしい」


「はい、すみません・・・つい」


「もう二度目はないから、覚悟しなさいよ・・・」


「トホホ・・・」


「あれ?」


ボランティアは気づいた!

よって皆はボランティアのおかげで急死に一生を得ることとなる・・・・・・


ガラガラガラガラ・・・・・・

「う~うぎゃ~~基礎工事はまだ、続いとったのかの~~~う!!!」

セメント、盛り。

ショッピングモールの下には、ジジイの死体が埋まっている。


藍羽あかりさんの作品へのオマージュです。

『セメントになった少女』は前衛的な読み味の良作です。

よろしければ皆さんお読み下さい。

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― 新着の感想 ―
[一言] 読みました! 久しぶりになろうに来たら、すごく分量増えてボールが帰ってきましたね。驚きました! なんというか、すごく愉快な作品でした。
2015/08/08 18:55 退会済み
管理
[一言] タイトルがキャッチー。見事に釣られた。 前書きを読み、「死を記憶せよ、って尤もらしいこと言ってんじゃねえ!」と、まずツッコミ。 元ネタとなった作品を読んだ上で読みました。 全然、別物! こ…
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