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モメルが転送された植民地惑星は、出現理由も不明な化け物によって物資争奪戦が始まっていた。状況把握をする彼らに、通信傍受によって、新たな情報がもたらされる。

 ホワイトボードを前に記述しながら、アンマンが続ける。

「モメルが加わった事で現状を改めて確認しよう。

 この星は元々、俺達みたいな訳ありの連中が送り込まれた監獄だ。で、植民地開拓民としての作業を行う事でポイントが課され、一定額を稼げば地球に戻れるはずだった。だな?」

「ええ」

「地球でタコ部屋に押し込まれるよりはマシだったでしょうね。食事も出るし」

 へヴンとルーが言う。ポイントの事はモメルにはあまり重要性が感じられなかった。何しろもうそのシステムがないばかりか、物資争奪の最前線に放り込まれた一般人でしかない。

「そして、そのシステムが駄目になった。地球への連絡を取るには、化け物との遭遇を避けながら、『ステーション』と俺達が呼んでいる場所へ辿り着くしかない」

「あの」

 挙手したモメルを全員が見た。ジミーが訊ねた。

「どうした、モメル」

「質問しても?」

「OKだ。何を聞きたい?」

 モメルの問いかけに、アンマンがジミーから引き継いで訊ねる。

「『ステーション』の状況として予測出来る事ってありますか? 例えば、騒ぎが起きた時にアナウンスが流れたとかで、行動の優先順位とか決められないかなと思って」

「なるほど、モメルは到着してこれだもんな。研修すら受けていないんだろ?」

「はい。

『行けば分かる』

としか言われてません。研修についても今、知った所なんで」

「俺もだった。何だか派遣のバイトを思い出すな」

とマッソン。メイルも

「だな。嫌な思い出ばかりだぜ。数千円で命を張る事がザラだった」

「流れと言えば、作業中にアナウンスで、トラブルが発生した為の作業停止と、各ブロックへの撤収を口うるさく言ってたわ」

 へヴンが肩をすくめて言う。

「送り込まれておいて何なんですけど、ここではよくある事なんですか?」

 モメルの問いかけにアンマンが言った。

「監獄としては、作業停止を求められる事はほとんどない。勝手にグループが出来てるが、それで発生する揉め事は普段、看守が鎮圧するからな。その後、『ステーション』からの連絡は途絶えたまま、誰ともなしに物資の争奪戦が始まった。全体で6ブロック、1ブロック辺り150人程が詰められていたはずだが、そこで英語を話せる奴らとそうでない奴らに分かれてしまった」

「どういう事ですか?」

「母国語を話せる奴らからしてみれば、俺達は同じ様な姿をした赤の他人で、ギャング的な組織を形成していた奴らからすれば末端でしかないのさ。俺もそれまでは仲介役をしていたが、あっさりお役御免で置いてきぼりにされ、今ここにいるって訳だよ」

 ネットでしか見た事のない人間関係で、モメルにはイメージが難しかったが、言葉にして聞いてみた。

「接客業で言う客と店員の立場みたいな?」

「そう、まさにそれだよ。母国語を話せる奴らとそうでない奴ら、話せる奴らがお客様さ。

 今回の事態になる前にもそれぞれの間でカーストが出来ていたが、お客様気分の奴らが自分達だけで固まっちまった」

「バカな奴らだぜ。救援が来るまで余計に身動きが取れなくなるだけさ」

 マッソンが答え、メイルが吐き捨てた。

「で、奴らの中で魔女狩りが始まっている所だ。モメル、呆れた話さ、自分達の中で怪しいと思われる奴同士を殺し合わせ、ガンガングループの全体的な人数を減らして行ってる」

 モメルはため息をついた。彼からしてみれば予想通りだった。

「何ていうか……バイトで本部から無茶な売り上げ目標を突き付けられて、バイト同士の空気が悪くなるのとさして変わらないかも」

 ルーが口笛を吹き、へヴンが頷いた。

「全くだ」

「言い得て妙だな。建設的な流れになる事は極めて少ない」

 マッソンに続いてメイルが言う。彼らは息の合ったコンビらしい。

「俺達は偶然、自分達の通信端末を装備したまま集まる事が出来た。モメルの腕にもあるだろう」

 アンマンがヘルメットと左腕の通信端末が付いていると思われる場所を指摘した。

「それぞれのブロックの通信の傍受は出来る。モメルもチャンネルをコピペしておいてくれ。もし孤立しても会話を傍受すれば、どちらに行けばいいかの目安にはなる」

 使用方法をルーが教えてくれる。今、彼らが装備している宇宙服のグローブ越しで問題ない、スマートフォンと同じタッチ入力らしい。

「情報以外の装備ってありますか?」

「現状我々が使える自衛の武器はほとんどない。自殺や暴動回避の為に凶器になりそうなものは作業場の外へ持ち出せない様になっているし、化け物が火達磨になったのも、そいつが機材を破壊して通路を閉鎖しちまった際の出火によるものだ。偶発的に火を起こす事も難しい」

 何かが閃いた気がするが、言葉にするのは難しい。現状の質疑応答を優先する事にした。

「化け物を具体的に目撃した人はこの中では誰ですか?」

 モメルとルー以外の全員が挙手した。

「様子を照らし合わせた方がいいわよね」

「だな」

 目撃した面々による外見が箇条書きで成されたのを撮影、画像保存する。モメルとしては、バイトでは好きになれなかった記録方法だが、今はペンも何もないので、これが一番正確だろう。記憶や発言は記録しておかなければ、揉めた時にすぐ水掛け論になる。


 ルーがホワイトボードを眺めながら、怪訝そうな声を上げる。

「宇宙服と融合してた……?」

 マッソンが返答する。

「ヤー、そうだ。順番としては奇声を発したかと思ったら……何だ、あれだ、海老反りして、両肩が脱臼したみたいな音がした。それだけでも見てて気色悪いのに、宇宙服ごと身体は胴の辺りから、逆関節になった指や腕も伸びまくって行った。

 俺達の着てるこれは着用前は大雑把なサイズだが、着用後の調整モードでジャストサイズにしなければ安全性がお留守になっちまう。それを引き伸ばして、薄気味の悪いタイツみたいになりやがったんだ」

「ヘルメット部分はクワガタみたいに変形した。ハサミの奥となる中心部が縦に裂けて、そこから青い舌が伸びて唾液を垂らしてた。映画みたいに床が解けたりはしなかったけれど」

 ジミーが挙手した。

「浴びた奴なら見た。眠気と無気力さを強めるみたいで、自分では這う事さえ出来なくなってたよ。運んで逃げようとした奴ごとやられちまった」

「それは……捕食しやすくしてるって事?」

 ルーの問いかけにアンマンが呟いた。

「いや、食ってるのかは分からん。見た限りでは、そいつの身体のどこかにクワガタの頭部分に当たる鋏が食い付く形で結合して行く、と言った方が正確かな。イメージとしては身体が人間の脊髄、逆関節になった肩から指先までがあばら骨になる感じで、長くなる。それまで鋏部分だった所は結合して、捕まった奴の頭の先にまた鋏が出来ていた。それで巨大化するのかもしれん」

「いやだ……」

 ルーがうめく。

「静かに」

 不意にメイルが手をかざし、告げた。

「スキャンしてみた連中の話を傍受した。スピーカーにするか?」

「いや、同時ログ公開モードに。音で誰かに気付かれる可能性がある」

「分かった。ルー、モメルに視界展開モードを教えてやれ」

「分かった」

 説明と実践の後、モメルの視界にチャットログの様なものが展開した。慣れないとくたびれそうだ。

『リサイクルブロックを投げ付けた奴がいるらしい』

『噴霧したとの報告例もある』

『それで化け物は活動を停止した。有毒性のある泡を吐いたが、宇宙服を着てる分には自分から触れなければ問題なし』

『今に至るまで六時間が経過したが、動く気配がない』

『リサイクル炉は依然として稼働中。リサイクルブロック貯蔵庫の入り口である各ブロックの看守がそれぞれ登録していた網膜認証のドアは破られているので、それを巡っての争奪規模が拡大する事は明白』

 新たな疑問。

「リサイクルブロックって何ですか?」

 アンマンが答える。

「生活環境において必ず出る生ゴミ、トイレで用を足したものや、何らかの理由で死んだ奴らを分解、ろ過した後で加工した物資だ。白いレンガ状で、基地の至る所で使用されているエネルギーでもある」

「色々混ざってますけど、別物なんですね?」

「そうだ。何たって、減りつつあるとはいえ900人の出すものだ、活用出来るものは何でも使うさ。何かしらの病原体が含まれていたとしても、加工工程の段階で確実にウイルスやアレルギーの原因になるあれこれは死滅する。

 まあ、『ステーション』の連中の受け売りだがね」

 ルーが口を挟んだ。

「気分を悪くするかもだけど、非常食としても配給されるわ。味のしないクッキーみたいなものなの。

 私達は基本的に勝手に死ぬ事も許されないから、『許されなかったから』になるけれど、食欲がない時でもそれの摂取は厳守だった」

 ジミーがため息をつき、それから呟いた。

「現状はそれを入手する事が最優先になりそうだな」

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