POWER 04
――あぁ、またこの夢か
棺を囲む人々
手には白い花を持ち、棺の中を覗きこんでいる
泣きたければ泣きなさい
何時かは来る日だと分かってはいました、でも
母の嗚咽
彼女はこの三年後、あの家に僕を捨てた
――父は廃棄屋だった、そしてクエイクに巻き込まれて死んだ
廃棄屋は仕方ないんだ
拾い屋みたいに高価な防具やオペレーターは付けられない
可愛そうに、まだ八歳だぞあの子は
だから所帯なんて持つなと
僕も白い花を手に取り、黒い列に並んだ
列は短く、並ぶ人々はそっけなく、僕の番は直ぐに来た
――父の死は純粋に悲しかった、だから僕は修繕屋になった
四人、廃棄屋の月平均での死者だ
修繕屋になるといい、そして減らしてやるんだ
こういう悲しみは無くさないといけないよ
棺の前に立つ
僕はその淵にそっと手を掛け、中を覗き込もうと……
棺の中に父の死体は無く、代わりに八人の見知らぬ男の死体が入っていた。
全ての屍は、真っ黒な瞳で僕を見ている。
僕は思わず棺から離れる。
棺が傾く。
中の死体が式場に散らばる。
潰れた死体だ。
クエイクで潰された、八人の男。
列に並ぶ人々が僕に群がる。
僕の手足を掴み自由を奪う。
死体がゆっくりと起き上がる。
彼らに瞳はない、代わりに黒い穴が、底の見えない闇が二つ。
死体はゆっくりと僕に近づく。
……お前達は罪を犯した……
「ガザさん? 起きてガザさん」
男の夢はそこで途切れた。
そっと眼を見開くと、目の前には一人の少女が立っていた。
「起きてガザさん。ごめんね、今日は私が遅れちゃった」
彼女は悪戯っぽく言うと、小さな舌を少し出しておどけてみせる。
少女はそこからいつもの様な楽しい会話を始めたかった。
始まると思っていた。
でもそうはならなかった。
男は静かに立ち上がると、絡みつく彼女をそっと突き放した。
「エルエル、聞きたい事がある、正直に答えてくれ」
それは今まで彼女が聞いたことも無いような、冷え切った声だった。
「え……何? どうしたのガザさん」
ガザはゆっくりとリベットガンを構え、その銃口をエルエルに向けた。
「お前、本当に予知してたのか?」
少女が眼を見開いた。目元に浮かんだ狼狽の色が瞬時に顔全体に広がった。
ガザは続ける。
「本当に『崩れる』場所を『言った』のか?」
「そう……だよ? どうしたの、ガザさん……」
そう言う彼女の顔から、みるみる血の気が引いていった。
「嘘だろ」
「やめてよガザさん、そんな事言わないでよ……」
エルエルは男の腕にすがり付こうしたが、彼はそれを無造作に振り払う。
「お前、『言った』場所を『崩した』な」
昨日ウサギが僕に見せたデータ
それは月別の「クエイク」の発生平均値と、ここ三ヶ月のクエイクのデータだった。
明らかに増えていたのだ。
この三ヶ月、あきらかにクエイクの発生件数が多かった。
そしてそれは、丁度エルエルが予知した分の数だけ、平均値より多かった。
彼女は予言なんてしてない。
予言をしてるかのように見せかけていただけだ。
彼女は言った場所を崩したのだ。
彼女はクエイクを故意に引き起こしていたのだ。
――ごめんなさい
ぽつりと少女は言った。
「ごめんなさい……ごめんなさい、ガザさん」
そこからは、まるで堰を切ったかの様に言葉と涙が溢れた。
ごめんさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい
彼女は泣いていた、涙をぼたぼたと流しながら、彼に言葉を届けようとしていた。
「ごめんなさい。私は、寂しかったから……ずっと一人ぼっちで寂しかったから……あなたの側にずっと居たかったから……」
エルエルはそう言って、縋る様にガザを見た。
同情して欲しかった。/
理解して欲しかった。
許して欲しかった。
抱きしめて欲しかった。
愛して欲しかった。
――だが彼の瞳には、彼女が望んだような感情は何一つ無かった。
死体の様に無感情な眼球が、少女を冷たく見下ろしているだけだった。
「お前、僕に人殺しをさせたな」
銃の照準が、彼女の胸を指す。
「ガザ……さん」
彼はなんの躊躇いも無く、引き金を引いた。




