Oh Yeah
『この仕草をやると彼女の反応が変わります』
結果は教えないよ。どーなるかなんて答えてくれない。ただ、動けば人は変わってくれるようだ。相手も自分も何かしら変わる。
「御子柴ー!お前の言っていた通り、ツイッターに一工夫したらよ。年下の可愛い子ちゃんとリアルデートが成立しちゃったぜ」
「当たり前でしょ(アカウント教えたし)。私がモテる女だからね」
「いやー、見くびっていたぜ。一工夫するだけで彼女ができるなんてよ。次は川中さんと会話できる方法を教えてくれ。アカウントでもいい」
ツイッターやらLINEやら。SNSからの出会いがやってきた男子高校生。
御子柴の紹介で、とある女子高の生徒と友達になれた相場がいた。とても可愛いく、ツイッター上であるが話が上手くて、ちゃんとお喋りをしてみたくなった。デートの日も、時間も、場所もバッチリ決めて約束の日まで鼻を伸ばす相場。
「嶋村ちゃーん!マジで俺にも彼女ができたぜ!ツイッターに一工夫したら、女子大生とリアルデートが成立したぜ」
「私は動画製作部だし!シナリオを描くのが得意なのよ」
「サイコーだぜ!今度はここから結婚までのシナリオも書いてくれよ。もしくは、川中さんと付き合えるシナリオだな」
同じ頃、同じ学校、同じクラス。相場と同じくSNSで知り合った女子大生とリアルデートを成立させた舟がいた。
大人の色香に惑わされたかのような、顔で女子大生の顔写真を拝んでいる。男子高校生となれば親密な男女の行動にテンションが上がるのは当然だ。
「御子柴の話術で、デートまでできるなんて」
「嶋村ちゃんのトーク力で、デートまでできるなんて」
デートという魅力に、財布にあるバイトで貯めた金を見つめる二人。奮発するには絶好の機会だ。
小悪魔共の悪戯とは知らず…………。
デート当日。
「デート15分前。まだ、彼女は来てないみたいだな」
舟 虎太郎は大人の雰囲気を出しているようで、子供っぽさが残る学生姿。休日に学生服を着てやってきたのには理由があり、『私、男子高校生がとっても大好きでーす!○×高校の学生服を見てみたいでーす』などと、ツイッター上に送られたからだ。
「デート15分前。まだ、彼女は来てねぇみたいだな」
相場 竜彦はサングラスを掛け、ワイルドっぽさアピールしているようなタキシードっぽい服を着てやってきた。これにも理由があり、『あたし、大人の雰囲気を持っている方が大好きです。サングラスを掛けたカッコイイ男の人が好きです!』などと、ツイッター上に送られたからだ。
相手の好みに合わせるのは確かに正解だ。しかし、それを知らない者達にとっては2人共怪しい雰囲気があった。駅前で待っているにしても恰好があるだろう、特に相場だ。まったくカッコよくない。
「あ?……お前、相場か?」
「!お、お前!舟!どうして、学生服で駅前にいるんだよ!?」
2人共、理由を知らなくても駅前で、同じ場所で待ち合わせていたら気付くものだ。奇抜な恰好で待っている相場に舟は少したじろいでいた。
「なんだよ、その恰好」
「ふん!驚くなよ!俺の勝負服だ!」
ダセェし、かっこ悪い。似合わねぇー。サングラスの雰囲気がしょぼ。
「そーゆうお前はどうなんだ?休日に学生服なんか着て、頭でも鍛えたいつもりか?」
「俺も勝負服だ!いつも着ている正装こそ、様になるだろ」
ただの学生じゃねぇか。発想が馬鹿だよなー。お前の頭は馬鹿だろ。
2人共、互いを馬鹿にしながらも来てくれる彼女を待つ。デートと言わないのは邪魔されたくないことと、いつかは駅前から消えるだろうという予測であった。
彼女がやってきたらどうやってあいつを追い払ってやろうか模索している両者。
約束の時間まで目を合わせずに、他人の振りをしながら駅前で暇を潰す。そー見せかけておいて考え事ばかりであった。時間が経つたびにデートにドキマギしている。
約束の時間から5分後。
「なんだ?おかしいな」
ほぼ両者が同じ事をぼやきながら、ツイッターを確認する。来るはずの彼女からの連絡もない。遅れるなら一言ぐらい言ってほしい。そして、同じ行動をしたことで気付いた二人。
「おいおい、相場。お前も人を待っているのかよ?まさか、女か?約束の時間でも過ぎたか?」
「ふ、ふん!そーゆうお前はどーなんだよ。友達にシカトでもされたか?」
彼女が遅れてくるなんてこいつの耳にでも入ったら!お前、それ騙されてんだよ!!って笑われかねない。
いや、そんなわけない!彼女はなんかの理由で遅れているだけなのさ!彼女を信じろ、俺!!来た瞬間に相手を馬鹿にしてやる。
ほぼ同じことを考える相場と舟である。そして、残酷にも時は進んで行く。
約束の時間から15分後。
「……こーなったら、こっちからツイートするか」
また、両者。ほとんど同じタイミングで自分から連絡を入れてみる。しかし、連絡が返ってくることはなかった。
連絡を待っている間。2人共、嫌な冷や汗を流しながらお互いを冷たくにらみ合っていた。
おいおいおい。そんな目で見るんじゃねぇ。今、恥ずかしい気分なんだよ。もう30分もここにいるんだよ!この恰好で!しかも、デートだって気分でいたんだぞ!ついさっきまで!もし、あいつにデートなんてない!お前は騙されているだけだ!なんて、勘付かれたらしばらくは恥ずかしい弄りばかりを受ける。耐えろ!きっと彼女が来るって願いながら待つんだ!
また同じことを考えながら、無言で待ち続ける相場と舟。
約束の時間から30分後。
「来ない」
ひょっとすると、俺は本当に騙されているんじゃないか?もしかして、あいつは俺が騙されている事を知りながら心の中で笑っているんじゃないか?なんて奴だ。くっそー。かといって、ここで帰っていいのか?あいつがずーっと睨んでくるんだ。何かがおかしい気がするんだ。ようやく騙されたことに気付いたか、馬鹿じゃねぇーのお前って、帰る間際に叫ぶつもりか!あいつなら十分にありえる!だったら俺は1%の可能性でもいいから、彼女が来る事を期待するぜ!
また同じことを考えながら、無言で待ち続ける相場と舟。
約束の時間から1時間後。
おいおいおい。お前、いつまで人を待っているんだよ!いい加減、帰れよ!俺は騙されているって分かってるから!帰ってくれ!俺は騙されてましーた!なんてお前の前では言い辛いから帰ってくれ!もう騙されてる奴を見てても楽しくないだろ。ちょっと、涙目になってきたよ。
また同じことを考えながら、無言で待ち続ける相場と舟。両者共に涙目で堪えている。
約束の時間から2時間後。
「連絡が来た!?」
不気味なことに、同時に舟と相場にツイートが来た。
『今、駅の向かい側のカフェからあなたの姿が見えました!カフェに来てください!』
「うおおおぉぉっ!」
「2時間も待った甲斐があったーー!!」
2人は同時に同じ方向へ走っていくことに違和感を抱かなかった。ようやく待っていることが終わって嬉しいのだ。そのご褒美が女性とのデートならなんだっていいのさ。駅の向かい側のカフェへと勢いよく突進して、入店する2人を待っていたのは……。
「あ、来た来た。彼等が私達のお金を払うからね」
「そーゆうことでー!じゃー」
「ずーっと見てましたよ。カメラに収めました」
「あははは。とっても面白かったです」
御子柴、嶋村。その2人の友達である川中と迎。この4人が丁度会計をしているところであり、4人が食べた一覧の伝票は息切れしている相場に渡されたのであった。
「は?御子柴に、川中さん!?」
「嶋村ちゃん。迎まで……」
分けが分からない。ボーっとしながら、4人が店を出て行ってしまう。
渡された伝票に目をやる相場と舟。そして、店員さん達が男2人を睨んでいた。お昼時でレジが込み始めるだから。
「あ!」
気が付いた時、御子柴と川中が一緒に外を走ってバスに乗り込もうとしていた。一方、嶋村と迎は駅の中へ逃げていた。二手に別れて完全に追跡から撒く気だった。
「畜生ーー!お前等、グルだったのかよーー!!ふざけんじゃねぇぞ、御子柴!」
「覚えとけ、嶋村ーー!」
「お客様!早くお金を出してください!込んでいます!」
「割り勘だぞ。舟!」
「はぁっ!?相場が伝票を持ってるだろ!お前が全額払えよ!!」
もう小悪魔共に出会いを懇願しないと誓った舟と相場であった。