第一話・地獄の相撲部高校生活
思いつく限りのタグを乗せまくって、もう頭空っぽにして兎に角バカ全開で書いてます。三が日までは毎日うpる予定。マジご都合主義全開ですがよろしくお願いします。
「うぉっら一年! 気ぃ抜いてんじゃねぇぞぉぉ!!」
鬼より怖い勝山先輩。
高校二年生にして184cm132㎏、小山のような巨体は現役の関取と並べても遜色ないほどだ。
雪駄に浴衣で街を歩けば、外国人が「OH~! ヨコズナ~! ドスコイ~!」とカメラを構えるほどの偉丈夫。
高校相撲全国大会ベスト4の実力者で、既に角界の幾つもの部屋から声がかかっている。
「ハズだ、ハズ! しっかり脇の下に手ぇ差さんかぃ!!」
「一息ついてんじゃねぇぞブタマロ! 下から押し上げんだよ下からぁ!」
「脇が甘ぇんだよ!!」
肉の弛んだ109㎏の僕は、土俵でぶっ倒された。
痛い――口の中に血と土の味が広がった。
「おォらぁ終わりかコラァ!? とっとと立たんかぃ!!」
四つん這いで必死に喘ぐ僕の背を、先輩が容赦なく踏みつける。
「……うぉっす!」
一月末。冬の早朝。
県立野川原高校相撲部の部室は吐く息は白く、だがもう寒さは感じない。
肺は焼け付くほど燃え上がり心臓は今にも爆発しそうだ。
全身が痛みで悲鳴を上げ、目尻に涙が浮かぶ。それでも僕は闘志を燃やして立ち上がる。
「も……もう一丁! お願ぃしまぁっす!」
正直、今すぐ辞めたい。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
子供の頃は別に嫌われ者ではなかった。潰れたダンゴっ鼻、分厚い唇。
デブだし客観的に見ても不細工ではあったが“醜く”はなかったと思う。
女の子は「可愛い」「可愛い」と言われ続けると本当に可愛くなるという。有名な俗説だが、それに科学的根拠があるのかはまでは知らない。
だが――その逆はどうだろうか?
「不細工」「不細工」「醜い」「汚い」「毒男」
そう言われ続けた男子は? 女子は?
多分――本当に醜くなる。ソースはまさに僕だ。
桐ケ谷琢磨呂。
父親に、「どんな時も切磋琢磨し、一生懸命前向きに生きて欲しい」という願いを込められて付けられた名だ。
でも……琢の字が豚に似ている。
だから、僕のあだ名は「ブタマロ」だった……。
小学校に上がる頃にはもうそのあだ名で呼ばれていた。けど――その時は別に辛くはなかった。
学年やクラスに一人はいる肥満児、というのが僕のポジションで、人気者ではなかったがイジメなどはなかった。授業で「豚」が何かの題材にされた時は、真っ先にクラス中が僕を囃し立て、僕も「ブタっつ~なよぉ~~!」なんて言いながら笑っていたものだ。
……が、時の流れは残酷だ。
小学校高学年になると不節操な食生活が祟り、一気にニキビや吹き出物が溢れ出してきた。
無邪気な時を過ぎれば、僕は太っちょな笑い者ではなく、「醜い嗤いモノ」となってしまったのだ。
ナイーブな時期だ。少し荒れた時もあった。小学校五年生から卒業までは、結構イジメられたし随分殴り合いの喧嘩もした。所詮小学生の喧嘩だが。
中学に入り、イジメられたくない一心で柔道を始めた。柔道部は居心地が良かった。
その頃になると男子と女子ははっきりと“区別”され、女子はわざわざ醜いモノを進んでからかったりしなくなったからだ。中学ともなれば校則も厳しくなり、目に見えるほどのイジメは少なくなった。まあ顔はともかく僕のガタイが良かったのも原因だが。体格の良い僕は部内では結構強かったのだ。
上下関係も緩く和気藹々と柔道部で汗を流し、中学時代は闇が多めでも辛い想い出というほどではなかった。
15歳。薔薇の高校生活。
僕の体格は176cm109㎏とさらに太さを増し、ついでに吹き出物も増し、漫画研究会やアニメ部などにでも入ってのらりくらりと高校生活を満喫する筈だった。
相撲部に捕まった。
もう問答無用で入部させられた。
中学の柔道部ははっきり言って温かった。全国大会などまるで眼中無く、顧問も緩く、受け身の稽古をしている時間よりダベってた時間の方が長かったくらいだ。
が――野川原高校相撲部は、全国でも有数の強豪校。ましてや年々部員が減る一方とあっては、109㎏で運動部経験アリ(遊びみたいなものだったのに)の僕を逃がすはずがなかった。
毎日の朝練に部活。何度辞めたいと言ったかわからない。んなもん三年の耳にでも知れたら容赦なく“根性入れ”だ。「続けます」と言うまで“愛の鞭”と言う名のリンチ。
しかも中学からの友人は一人も野川原には進学せず、部活の忙しさから疎遠になってしまい……僕の高校一年はあっという間に冬休みを終えていた。
キーーンコーーンカーーンコーーン……。
四時間目が終わった。
僕はオタク趣味繋がりの、クラスで最もヒエラルキーの低い面子と一緒に昼食を摂る。運動部に所属していてレギュラーだからといって(相撲部は定員割れ寸前)、スポーツメングループに入れるハズもなし。
僕は未だに苗字に君付けで呼び合う、一方的に昨夜の深夜アニメの萌ヒロインの話をしてくるだけのオタク二人と机を合わせて食事をとり、早くも放課後の部活が憂鬱になっていた。
日はどっぷり暮れている。
時刻は20時を回り、ようやく今日も部活が終了した。
今日もずっと怒鳴られっぱなしの蹴っ飛ばされっぱなしだ。地獄だ。
相撲部では唯一の一年繋がり、山田は自転車通学なので、一緒に部室を掃除して校門で別れた。
来年新入部員を三人以上入部させないと、「シメられる」。
ガチ先輩はまだ二年。夏の大会が終わるまでは部活に顔を出すし、もしかしたらその先も。
冷静に考えて、僕が高校生活を自由に満喫できるのは、三年になってからということだが、相撲部にはよくおっかないOBが顔を出すので、結局僕の高校生活は灰色どころか真っ黒のままなのだろう。
ただでさえ不細工なのに、今ではもうすっかり投げられすぎて耳が変形し、さらに不細工15%増量だ。
ほとほと……嫌になる。
本当なら不思議系の部活か軽音部にでも入って人気者になりモテモテ……は、ありえないけど、それでもオタクな文系の温い所で、「あ~あ毎日退屈で御座るなぁ~」などとこぼしながら薔薇の高校生活を楽しみ筈だったのに。
今日も体中が痛く、寒さが身に染みる。
駅前まで200m足らず、ビル街。
四車線の歩道をのそのそと覇気なく歩きながら、交差する車をうらめしそうに眺める。
帰宅するまばらなサラリーマンに混じって、巨体を縮めて溜息しか出ない。
僕はスマフォを取り出し、最近クセになっている遺書書きを始めた。
『遺書:もし僕が不慮の事故で死ぬことがあっても、他意がない場合なら加害者を責めないでやって下さい。賠償金もいりません。葬式などは最低限、慎ましく安上がりで納めて下さい』
太っちょな指が走り、文字を打ち込み続ける。
……いや別に意味はない。最近「自殺」という言葉がよく頭をよぎるけど。
誰だってこんな厨二っぽいことを経験したことがある……だろう? 多分、同意してくれ。
『お父さんお母さんありがとう御座いました。毎日美味しいものを食べさせてくれてありがとう。親父は厳しい所もあったけど、これでも尊敬しています、お袋は僕の好物の豚カツを一杯食べさせてくれてありがとう』
……文才ないな~僕、ラノベ作家になる夢は諦めるべきだな。
まあ一種の逃避でありストレス発散方法だ。
もう遺書を書くのは30回は超えた。新しいのを書く度に古いのを消し、これも一応保存しておく。
……『僕の厨二遺書』なんてタイトルのラノベはどうだろう? 毎日厨二な主人公が日記のように遺書を書き、「こいついつになったら死ぬんだよ?ww」と読者につっこまれながらほのぼのとした高校生活を送る……需要ないか。
明日も5時半起きだ。
朝練は6時半からだけど、一年は6時15分までには入室して掃除を終えていないと「説教」される。
また溜め息が出た。白い。
せめて明日の朝までは考えないようにしようと、歩きながらスマフォを弄る。お? 「なろうぜ」でブクマしている作者さんが新作うpってる!
不細工な男が不慮の事故で異世界に飛び、そこでイケメンに生まれ変わりチート能力で無双しながら美少女エルフを何人もハーレムしていく痛快ハーレムファンタジー。PVは500万を超えていてランキング常連の人気作家だ。
早速歩きながら新作を読むことにする。
僕も生まれ変わったら、「なろうぜ」でハーレムラノベを書きたい。ご都合主義上等、「やれやれ」って言いながら苦戦や挫折とは無縁の、出会う美少女全員初見で好感度MAXメーターふり千切った俺TUEEEE!!な、
転生トラックで異世界に飛ばされて魔法使って、
ヒロインは金髪エルフのロリっ子で、勿論お姉さんやお嬢様にお姫様、ツンデレクーデレ人妻あらゆる属性を全部網羅するのだ。
僕だって異世界で、
最強チートで無双して、
転生トラックに轢かれて――、
――――その瞬間、僕は死んだ。
……ナニを言ってるのかわからないかもしれないけど、僕だってわからない。だからここからは少し神の視点で顛末を語らせて頂く。
駅が目の前のビル街。そのビルの一つから、失恋で飛び降りたOLが自殺を図ったのだ。
その下を、丁度僕が通りかかった。つまり……それだけだ。
八階からの飛び降り、僕は即死で――なんとその女性は僕の脂肪を下敷きに、一命を取り留めた。
僕のスマフォには遺書が残されていた。
まさに、「備えあれば憂いなし」だった。
――――こうして僕――桐ケ谷琢磨呂16歳の人生は突然終わりを告げ、だが僕の物語は終わりはしなかった。
僕が目覚めた時、そこは剣と魔法のファンタジー世界。
エルフがいてゴブリンがいてオークがいて、
ドラゴンがいてお姫様がいて冒険や魔法学園がある、夢にまで見たファンタジー。
ただちょっと……美的感覚が地球での常識とは、ちょっとだいぶあべこべな異世界。アールドワース。
そこで僕の無双物語が始まったのだから――。