蟻を踏みしめて
買いだめしていた缶詰もラーメンもない。
あまりの空腹に耐えかねて、僕は外に出た。
外出するのは何日ぶりだろう。
太陽の眩しさに目が眩みそうだ。
下を向きながら歩いた。
ほんの200メートル先のコンビニが、とてつもなく遠く感じる。
蟻がちょこちょこと歩いていた。
舗装されたアスファルトの、どこに巣があるのだろうと感じたのだが、深く考えるのはやめた。
僕は、蟻をよけない。
だからと言ってわざと踏んだりはしない。
僕は僕の歩幅で歩く。
そこに蟻がいるかどうかは、別の話だ。
昔、「蟻をよけて歩く」と言った友人がいた。
今となっては友人でもなんでもないのだが、
彼がたまたま見かけて救われた蟻よりも、知らず知らずに踏みつぶした蟻のほうが多いだろう。
それを批判したりしない。
彼の歩幅であり、彼の人生だ。
でも一つだけ言えることがある。
僕は彼よりも、多くの蟻を見てきた。
踏みつぶした蟻も、生き残った蟻も、彼よりも、確実に多く見てきた。
今日も、蟻を踏みながら、僕は歩く。