笑顔の魔法
笑顔の魔法 閑凪
俺の学校には不思議な行事がある。
それは文化祭だ。いや、正確に言おうか。俺の学校では『文化祭』イコール『生徒による行事』ではなく『教師による行事』なのだ。
普通、文化祭というのは“生徒が模擬店を開いたり、生徒が弾き語りかなんかを披露したり、生徒が企画、運営、その他色々な準備を、生徒自らの手で要領良く仕上げるものである。生徒が主体となって、何かを大成させるものである。・・・・・・そこで黙っておれの話を聞いているお前の学校だって、そうであろうよ。
しかし俺の学校は違う。違和感がありすぎて仕方ない。まあ、落ち着いて聞いていろ。
俺の学校は全校生徒六五〇名、教員が四〇〇名の計一〇五〇名で構成されている。
違和感を覚えなかったか。こんなに教師がいる学校なんて、見たことが無いと思わなかったか。そんなの入学当初は知りもしなかったね。・・・・・・入学から2カ月経った頃、廊下に掲示されていた貼り紙を見て多少呆れたくらいだけれども。その時はまだ、こんな馬鹿げたはずが無い。いくらなんでも、教師が学校の人口の約半割を占めているなんておかしい。これはきっと入学して間もない俺達を学業に励ませるための裏の秘策なのではないだろうかと、そう単純に思っていた。
そんなはっきりしない気分を抱えたまま迎えた、7月のある日。俺は宿題を家に置き忘れてしまった。
(これはしくじった。先生に言いに行かねば・・・・・・)
こんなことは入学してから初めての経験で、職員室がどこにあるかすら分からなかった俺は、よく弁当を一緒に食っている友達に付き添ってもらうことにした。勿論、彼も職員室の場所など知らない。じゃあどうやって辿り着くかって?そんなの決まっているじゃないか。担任の後を着いて行くんだよ。頭いいだろ?・・・・・・俺の友達。
職員室に到着。しかし、職員室に見えない。
これはまさに、大型のクラスルームではないか。
ばっちり開けられたドア。中で話す賑やかな声。室内には机に向かう教師。大きな黒板。まるで年齢制限の無い大きな学級を見ているような気分になってきた。
俺たちは中に入る気力が無くなり、そのまま教室に引き返すことにした。
迎えた文化祭当日。なぜか生徒全員が体育館に集められた。何故か全員、片手なべとエプロンを持参して。
ステージ裏がなにやら騒がしい。これから一体、何が始まるというのだろう。
すると次の瞬間、いきなり照明が消えて辺り一面真っ暗になった。
慌ててついつい上を見上げてしまう生徒。つられて見てしまう生徒。俺は後者の方だ。
ポンッ。ポンッ。カンカンッカンッ。
どこからか、何かが膨らむ音が聴こえてきた。金属を弾いたような音も同時に鳴っている。それから、顔の上に何か香ばしいものが降ってきた。
小さくて、ふわふわととても軽い。
これは・・・・・・・・・・・・
「ポップコーンだ!!」
誰かが叫んだ。うん。確かに、ポップコーンだ。
「今日はめいっぱい、弾けてくださいね!!!!」
そう言って、ピエロに扮した大勢の教師が、ギャラリー全体を取り囲んで歌い始めたのだ。
『いつまでも子どもの頃の夢を忘れないっていうのはなんか幸せですよね』
『楽しいことは、みんなで楽しみましょう』
『私たちの作戦・・・・・・ちゃんと伝わってますかね?』
『伝わってますよ。ほら、その証拠に・・・・・・みんなこんなに笑顔だ』
『そうですね』
鍋の底をはねつけながら、ポップコーンが一粒、床に落ちた。
ピエロの囁き―――教師総勢四〇〇名の狙いは、一体何だったのだろうか。
俺はその答えをまだ出せていない。