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Brother Memory

作者: 郡司侑輝

  

   

「今日はドライブに行くか?」


 六つ上の兄貴・篠原(しのはら) (ゆう)が久し振りに私をドライブに誘った。

 私・篠原(しのはら) 美穂子(みほこ)はこの春から晴れて華の女子高生とやらだ。兄貴は私のその受験勉強中、いつもは煩くしていたけど、気を遣って兄貴は友達から借りた小説に読み耽け、私の勉強が終わっても尚読み続けていた。

 四つ上の兄貴・篠原(しのはら) (とし)の場合はその時 「明日も仕事がある」 からと言って直ぐに寝ていた。

 兄貴達は私の受験勉強に差し障りの無いように励んでいた。

 受験勉強から解放され、合格の結果が届いてから数日が経った今日。上の兄貴が久し振りに私をドライブに誘った。


「…明日仕事じゃ無いの?」


 私は明日の兄貴の仕事があるのかどうかが気になって問う。でも兄貴は 「心配するな」 と言って車を玄関まで運んだ。そういえば夕べ上の兄貴は二日ほど休みを貰ったと言っていた。

 兄貴の車の後部座席に私は座り、シートベルトを締めた。


「目的地は?今日は何処に行きたい?」

「別に何処でも?あ、でも兄貴の好きな所は御免だから」

「こいつぁ手厳しいや」


 アクセルを踏む兄貴。少し粗い発進で車を走らせた。

 そういえば行き先を決めてなかった。っていうか、兄貴に言い忘れていた。けど兄貴はバックミラー越しに私を見、そして視線を前に戻した。


「高校生になるんだから、それに必要な備品買いに行くぞ」

「何でアンタが言うんだよ…、偉そうに…」

「俺はお前の兄貴だからだ」


 変にドヤ顔で威張る兄貴に少しの殺意をわかせるが、労力の無駄だと思い腹の底に押し込めた。こんな兄貴でも殺したりでもしたら犯罪だし、こんな兄貴のせいで自分の未来潰したくないし。

 車は順調に走り、隣町のショッピングセンターに到着した。

 お母さんから貰ったと兄貴から手渡されたメモ用紙を手に、私は必要な物を見付けに店内を歩く。


「必要な物ってもなぁ……ボールペンとかシャーペンは大丈夫だけど、ノートは仕方ないか」

「授業量マジぱねぇから……しぃごぉ…七冊以上は必要だぞ」

「元男子高校生の意見は聞いてない」

「や、経験者の意見って必要だと思うんだがね、俺は」


 その後順調に新学期に備えた買い物は終わり、時計を確認すると時刻は十二時の手前を指していた。そういえば、おばあちゃんからお昼代もらってたっけ、兄貴って。


「婆ちゃんが昼食って来いって昼飯代貰ってっけど……何食う?二千円で」


 貰ってたよこの兄貴。

 昼飯は兄貴に任せると(ロク)な店にしか行かなそうだし……しょうがない。私が行き先を決めてあげるか。


「ファミレスでお昼にしようよ、早く行かないと満席になっちゃうよ」

「了解了解」


 ショッピングセンターを出発した兄貴の車は、すぐ近くのファミリーレストランに止まり、中に入って定員に導かれて空いているボックス席に座った。

 定員がオーダーの仕方を述べ、立ち去り、私は買ってもらったばっかりの携帯電話を操作する。ニュースは見る気もしないし、昔馴染みの友達にメールするしか無かった。兄貴は携帯を広げず、メニューを広げていた。

 兄貴は私の分の注文を聞き、オーダーを開始した。


「御注文はお決まりですか?」


 ウェイトレスが言った。


「ドリンクバー二人分に、アサリのボンゴレビアンコ一つに、クリームパスタ一つで」


 兄貴が言うと、ウェイトレスは復唱し伝票を置き、ドリンクバーへ直行する兄貴。最初にコーヒーカップを手に取り、ブレンドコーヒーを選択して席に戻ってきた。猫舌の兄貴は先に熱い飲み物を用意しておかなきゃ温かいコーヒーすら飲めないから。

 少ししてボンゴレビアンコとクリームソースパスタが運ばれてきた。

 少し冷めたコーヒーをお供にボンゴレビアンコを攻略に入った。


「あぁ、旨い。アサリうっま」

「はいはい美味しい美味しい」


 半分ほど食べた頃だろうか、奥の方の客席で見覚えのある人が何人かいた。小学校の頃からの女友達数人だ。外出先で知り合いにばったり出くわす事が苦手な私は、どうすればいいのか解らなくなり、気付けばドリンクバーに行けなくなっていた。

 私の目線はずっとクリームソースパスタにだけ向けられている。兄貴は席を外すかの様にドリンクバーへと歩いてった。コーヒーの入ったカップはまだ半分は残ってるから、ジュースでも取りに行ったんだなと納得した。

 でもこれで幾らかはマシになった。兄貴と一緒に居るところを友達に見付けられちゃ堪った物じゃない。色々とからかわれるだろうし、兄貴はどうせ「妹がいつもお世話になっています〜」とか言うだろう。絶対。

 案の定、私の友人達は私の事に一切気付かないまま店を出て、兄貴は座席に戻り新たにコーラの入ったグラスを食べかけのボンゴレビアンコの隣に置いた。兄貴は去って行った私の友達に気が付いた様子で私に声をかけた。


「…友達、居たんだな」

「あれじゃん?入学前の御祝い会」

「暢気だね」

「アンタに言われたく無いし」


 それから数分が経って、会計を済ませた私達は兄貴の車に乗り込んだ。


「他に何か用事はねぇか?」

「無いから。そんなの良いから聞かなくても」

「じゃ直帰で」


 帰路に着く車は快調とは言わず、信号での足止めが何回かあった。兄貴は特に問題無いと言うような顔して運転に集中していた。

 長くなりそうだと思う私だが、こう言うときの時間潰しになる物を持って来て来なかった。下の兄貴は酔いやすいから本は持ち込まなかったし、兄貴は他人の運転する車に乗るとすぐにお眠だ。携帯ゲーム機を持って来るんだったと私は少し後悔し、窓の外の流れる風景を眺めていた。

 ラジオからは民放と言えば良いのか、そのラジオ局の番組は流行りのアイドルの歌や、クラシックを流していた。

 そういえば、兄貴の車にはCDが積んであったっけ。でも私の趣味に合わないし別に良いや。

 20分は経っただろうか。もうすぐ家に到着する。


「今日のドライブ、どうだった。美穂子」

「事故らなかっただけマシ」

「おぅ……かなり手厳しい評価だなぁ。免許取って三年ぽっちじゃしょうがないか」

「さぁほら黙った黙った」


 手の平を叩きながら私は兄貴の車から下車する。

 買い物に行く時には私は必ず後部席に座る。荷物の出し入れが楽だから。特にこれと言った明確な理由は無い。小学生の時はお母さんの運転でよく助手席に座って、たまにお母さんと喧嘩したのをよく覚えている。お父さんやお爺ちゃんの時もたまに助手席だけど、上の兄貴に関しては取り立ての時からずっと後ろだった。それ程兄貴に嫌気がさしたからかとたまに思う。

 玄関のドアを開き、私は階段を上がり2階の部屋へ荷物を置くため直行する。

 幼稚園の頃から、この部屋はかれこれ十年近く使用している。人気アーティストのCDや、漫画が数冊入った本棚、衣装箪笥、小学生の時から使用している学習机にベッド。見慣れた家具の配置の中で、私は適当にCDを選んでラジカセにセットし、ヘッドホンでそれを聴いた。

 高校生になったら、バイトして携帯音楽プレーヤーを買おうと決めている。だが、その際兄貴かお父さんにパソコンでやってもらうしかない。兄貴なんて二の次ではなく、五の次程度で充分だ。

 そういえば、いつから私は兄貴を嫌っているんだろう?

 幼少期に我が儘通していたという事に関しては、渋々認めるとして……、反抗期になって……。

 駄目だ、結論出来ない。

 そもそもあの兄貴を意識する時点で間違っているんだ。今まで何度死ねと言い放った事か。その度あの兄貴は(スルー)していた。

 でもなー、これ友達に聞いてもらった日には私はブラコンのレッテルが貼られちゃうし……、慧兄さんなら何とか……出来ない。


「―――飯だってのが聞こえなかったのか?」

「っ、馬鹿兄貴?!っていうか、勝手に入ってくんな!!」

「何時間音楽聴いてんだ。も、飯だっつの」

「ノックぐらいしてよ!何?常識も知らないの?!」

「したけど反応なかったから強行突入した。それだけだ。はよせーって、おかんゆーとったぞ?」

「言われなくても行くわボケ」


 本当に何時間CD聴いてたんだろ私。下に下りたら先に箸を付けていた慧兄さん達(兄貴含め)が居た。

 晩御飯のメニューだろう唐揚げを頬張った兄貴が、私の方へ振り向いて言った。


「はよ食え。飯が冷める」











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