日常01
阿のユーザーに転載しました。
俺は俺が嫌いだ。
これでは語弊を招くかもしれないな…。
心身ともにではない。忌むべきものはこの肉体だ…。
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ピピピピ、ピピピピ。朝からご苦労なことに目覚まし時計は叫んでいる。俺はほぼ反射的にそれを止めた。
朝が来た。またしても、『苦痛』が昇ってきたようだ。
引き籠りなのではない。そして、起きるのが苦手でもない。ただ、日の光が苦手なだけだ。
ベットから出るのは苦痛だが、さっさと起きなければ学校に遅刻してしまう。
掛布団の中でもぞもぞと動き、枕に顔を埋める。
「はあ~~」
長い溜息を一つする。意を決して、俺はベットから這い出た…。寝不足の体は、重いし、怠いし、疲れる。
まだ寝ぼけている頭を起こし、目を擦る。そして、備え付けの姿見の前へと行く。
「うわぁ!スッゲ~寝癖だな」
両手でいつものセットに戻そうとするが、濡らさないと無理だな…。水系の魔法を使えたら良かったのだが、生憎だが俺には使えない。
諦めて、学園のブレザーを着る。欠伸を噛み殺しながら、姿見に映る自分の姿を見る。また、背が伸びたか?先日、裾下げを行ったばかりだと言うのに、またしても足り無くなっていた。これは、新しく買った方が良案ではないのだろうか…。
「サ~イ、起きなさい!もうカケル君の迎えが来ちゃうわよー!?」
一階から大音量の声が聞こえる。口うるさいい母上からの忠告だ。朝っぱらから、そんな音量を出して疲れないんだろうか?
俺は、二階の自室から一階のリビングへと移動する。階段の中腹から香ばしいパンの匂いがしてきた。作ってもらって何だが、朝食は白米が好かったな…。
「おはよう、サイ。返事くらいなさい」
キッチンでせっせと家事に勤しむ母上。専業主婦は俺には絶対に向いていないな。感謝感謝。
「おはよう、母さん。精進はするよ…」
俺は宛がわれている席へと移動し、着席し、目の前の朝食を眺める。
メニューは、パン、サラダ、ベーコンエッグ、野菜スープとトマトジュース。特にオリジナリティーが感じないが……まあ旨そうだな。一品を除いて…。
そんなことを考えていると、母さんが俺の前に腰を落ち着かせた。
「さて、食べましょうか。いただきます」
「…いただきます」
そして、母さんと俺は二人合わせて合掌。この世界には、食べる前に手を合わせるのはうちの家族だけだろう。何でも、先祖代々の伝統だそうだ。
俺は家の伝統全般が嫌いなことだ。それでもなお、一緒に行うのは、目の前に坦々と朝食を食す母さんがいるからだ。母さんは、生活態度が以上に厳しい。だから、もし俺が合掌をしなかったら、ブチギレていたことだろう。怖いし、疲れるだけで、得がない。そんなメンドーなことは、俺の好き嫌いに反していても、しない。
母さんと俺は二十分程度、朝食に使った。もちろん、食べ終わった後の合掌も必ず行った。
そして、俺は寝癖との戦闘が始まった。洗面台の前に立ち、必死でいつものセットに戻そうとする。
十分程度だろうか、何とかマシなものになった。普段とは若干違うが、まあいいだろう。省エネを信条として掲げている俺に、無駄な労力を使えというのが無理な話だ。
学校に行く準備をし、退屈しのぎにテレビのニュースを見る。強盗、殺人、災害。と、世の中は良いことが少なすぎる。まあ、関係ないか…俺には。
インターホンが鳴った。朝早くにインターホンを鳴らす人間は、アイツくらいなものだろう。それを分かってか、母さんも何の反応も示さない。
「いってきます…」
「いってらっしゃい」
俺は用具が入ったバックを持ち、玄関から外へ出た。
「ようっ!サイ。相変わらず、眠そうだな?」
「ん、ああ」
俺と同じ制服を着て、だらしなくワイシャツのボタンを上から二つ開けている男が扉の前にいた。勇者カケルだ。
同じ学園の生徒であり、俺の親友でもある男だ。身長は俺よりも若干低いぐらいで変わらず、金髪、碧眼をしている男だ。顔は整っていて、十分イケメンの分類に入り、女子からもモテることであろう。一部の性癖さえなければな…。
「なぁ、サイ。ニュースみたか!?ユイちゃんがドラマの主演に抜擢だってよ!今からでも楽しみ過ぎる!くぅー!!」
カケルは、アイドルオタクだ。それも、極度のロリコン…。
「あっそ。興味ない」
「もう~何でユイちゃんの好さが、サイには分かんないかなあ~」
分かりたくもない。
「あ!サイって熟女好ぶふぁ!!」
親友が訳分からんことを言い出しそうだったので、思いっきり腹パンさして頂きました。斜め45度の急斜角からの腹パン。スカッと決まった。
親友が道路で、ピクピク痙攣しているが…ほっとこう。さあ、学園に行こうか。俺は学園に向けて歩き出した。
あ…カケルは驚異の回復力で、あの後すぐに復活した。もう少し、力を入れるべきだったかな?
俺とカケルは、他愛のない話をしながら通学路を歩く。自転車でも十分な距離なのだが、俺たちは毎日この道を歩いて登校している。
暇なんで、この世界について適当に話をしておこう。
この世界には、魔法と科学がどちらも存在している。まあコイツ等の共存経緯は長いから、後で誰かにやってもらって…。話してたら疲れる。
世界には、多数の種族が入り混じっている。ここで代表として挙げられるのが、魔人と人間の存在だろう。
魔人は魔力量と身体能力が共に高く、感情が昂りやすい。対して人間はこれと言って抜きんでた能力当は無いのだが、裏を返せば弱点が無いのだ。それに、繁殖力が異常に高い。だから、力では魔人。勢力では人間と他の種族を圧倒している。
したがって、何度か戦争も起きたのだが、今では全種族が穏やかに生活している。まあ、平和に慣れ、善からぬことをする人も世の中にはいるがな…。
俺たちは淡々と学園に向けて歩く。
ふと、後ろから俺たちと同じ学園の生徒が、俺たちの横を追い抜いた。別に走らなくても、遅刻にはならないだろうに…。
「あれ?サイじゃん!おはよう、相変わらず眠たそうね?」
俺たちを追い抜いた生徒は、女子だ。それも顔なじみの。
「ああ、リムリスか…」
「おいおいおい。俺には挨拶が無いのか?クソ女?」
隣の友人が、挨拶もなしに喧嘩を売る。
「あら?変態キモ男もいたんだ?気持ち悪くて見えなかったわ」
「んだぁと!クソ百合女が!!」
「あら、本当のことでしょう?か弱き幼女に欲情する変態に気持ち悪いって言って何が悪いのかしら?」
「悪いに決まってるだろう!?俺は変態じゃない。騎士だ!!」
「それこそ、変態が言うセリフだわ!気持ち悪い!!」
よくもまあ、朝から他人を罵倒できるものだ。それにしても、“ロリコン”と“百合”は互いに否定しないのな…。
この女の名前は、魔王リムリスだ。腰まで伸びている黒髪に、血のような眼を持つ魔人の少女だ。背は女子の割には高く、年上のお姉さんって感じの毒舌美人だ。しかしながら、天は二物を与えずと言う。リムリスは百合だ。女子が女子を好きという、“あれ”だ。俺の周りには、性格破綻者しか居ないのだろうか?
閑話休題。
この二人は仲が悪い。このように、朝から互いに罵詈雑言を浴びせあう。喧嘩するほど仲が良いと言うが、コイツ等が、平和に話ているのを見たことが無い。二人の名字から来る争いなのだろうか?“勇者”と“魔王”。思慮に欠けているか…。
まあ二人が仲が良かろうと悪かろうと、俺には関係ない。よって、放置する。先に行くとしよう。
「……?…!」
「…!……!!」
百メートルくらい歩いても、まだ二人の罵り合いが聞こえる。というか、先ほどから一歩も動かず、罵倒し続けている。
まあ俺はそんなことは気にもせず、あることについて考えていた。それは、リムリスは何故走ってたのかということについてだ。
俺の記憶では、リムリスは部活動や委員会などには所属しておらず、朝早くに学園に行く用なんて無いはずだ。では何故だ?う~ん。明確な解答が見えない。まあ、俺には関係は無いか…無駄な思考をしたものだ。
しかし、これは俺にも関係があった。
「ねえねえ?急がなくても良いの?」
突如として現れたリムリスからの通達。瞬間移動でもして来たみたいな登場だな。
「急ぐ必要は無いだろう?十分に間に合うぞ?」
「へぇ?知らないの、サイ?今日は集会があるんだよ?」
集会。俺たちの学園の集会は特殊であり、通常の登校時間よりも早く登校する必要がある…。
「……マジで?」
「「マジで」」
…お前も何時現れたのだ?…カケルよ。
「ん?…あれ?お前は知っていたのか?」
「もちろん、知っていたが…何か?」
「何か?…じゃねぇだろうが!!」
腹に蹴りを入れた。
「リムリス、走るぞ!」
「…ん、了解」
リムリスはゴミを一瞥し、共に学園へと走り出した。
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学園“ユートピア”。中高一貫であり、全種族の学生が通うことができる学園だ。国が運営しているだけあって、学費は安く、人も多い。
普段の朝の学園だと、様々な学生を見ることが出来る。朝から勉学に取り組み自習を行う者。魔法の練習する者。科学の実験で失敗し、教員と一悶着を起こす者。部活動の朝練に励む者。
見ていて飽きないほど多数いる……普段ならな。
今は、誰一人として居ない。 俺たちは、絶賛遅刻中なのである。
したがって、俺たちは広大な敷地を誇る学園の中を駆け抜ける。……一年以上通ってはいるのだが、この広さには納得できない。
俺としたことが、“らしく”ないことをしたな。
集会の情報なんて当の昔に発表されていたはずだ。その確認を怠り、俺は朝からカケルに暴力を振り、全速力のダッシュをしている。ホントに無駄なエネルギーを浪費した。省エネを信条として掲げる俺の行動ではない。本当にどうかしている…。
まあカケルへの暴力は、ストレス発散には丁度いいのだが…。
集会を行っている大講堂が見えてきた。
大講堂は、高等部の生徒だけではなく、中等部の生徒まで収納することができる。まあ、集会の他に多数の行事を此処で行う。
あと、少し着く!と息巻いていたのだが、俺とリムリスは何かと衝突し、後方へと飛ばされた。
「キャッ!!」
リムリスは悲鳴をあげ、後方へと尻餅をついた。俺は反射的に受け身をとることに成功し、転ぶことはなかった。
「何だこれは?魔法か?」
「イッタ~イ。もう何なのよ、此れ?」
尻を摩りながら、リムリスも呟いた。
俺たちの行く手を防ぐ“それ”は、大講堂までの一本道の中腹に存在していた。
俺はそっと“それ”に手を付けた。低反発枕みたいに手が“それ”に沈んで行くが、すぐに跳ね返される。
“それ”は透明な“何か”だ。大講堂の周辺を透明な膜みたいなもので、覆われていた。
「此れは……中級魔法の『光の加護』だな」
「誰がこんな所に、魔法を付与した……って、お前いつ追いついたんだ?」
魔法の分析をし、俺の横で腕を組むカケル。
「親友よ…。俺はな…。幼女の居る所に俺は湧く!!!」
変態の座右の銘など聞きたくもない。
って、湧く?地面から生じるのか?ヤバい…コイツは何とかする必要があるな。
「俺に今日の集会は中等部の生徒も来ると、神のお告げが来たのだっ!」
神よ。お前も、変態か?
「お前は、集会の存在を知っていたのに、中等部参加は知らなかったのか?」
まあ、カケルが知っていたら、俺の家から走っていただろうがな。
「がはっ!!それを言わないでくれ!ああ~幼女と合法的に触れ合えるイベントなのに!!」
何故、吐血する!?そこまで、お前を苦しめるのか?…中等部と触れ合えないだけで……。
「まあ、諦めろ。此の結界は、壊せそうもないし。終わるまで、寝てようぜ?」
人生諦めが肝心だ。無駄なエネルギーの消費は抑えたい。
俺は、道から外れた一本の木を指した。良い具合に朝日が当たり、昼(?)寝には丁度良さそうだ。
「俺は諦めない。諦めたらそこで試合終了だ。俺は己の限界まで力を使い、此処を突破する!」
カッコいいことを言っても、所詮は幼女のため…。
「あっそ。まあ、頑張れ」
俺はこの場から退避し、木の幹へと寄り掛かり観測に徹するとしよう。
「あら、珍しいことでもあるものね?私も変態と同意見よっ!」
おっ!リムリスも参戦。
「へっ!俺としても不本意だが、利害一致だ!やるぞっ!!」
「待ってなさい!今からお姉さんが、遊びに行くわよ!」
「「すべてはユートピア(幼女)のために!!」
お~犬猿の仲の二人がハモった。
<実況>見てください!会うたびに罵倒を浴びせあう男女が、足並みを揃えて同じ目標へと衝き進みます。スタンドは拍手喝采の渦に埋め尽くされていきます。
スタンドもねぇし、俺一人だが、拍手は送る。
(俺には、迷惑かけるなよ。メンドイからな…)
内心で、注意を促しながら…。
「「魔具召喚!!」」
魔具召喚とは、端的に言うと、己が個人の魔具を呼び出すための魔法だ。
まあ、魔具の説明は誰かにやって貰ってくれ。此れも長い話になる……よって、疲れるから嫌だ。
リムリスの魔具は、二丁拳銃だ。
魔力をそのまま銃弾と使うのも良し、属性魔法を使うのも良しと便利な武器だ。
一方の、カケルは、両手にナックルをしている。
まあ~あれは……。説明不可。カケルの特異体質のせいで、長い付き合いでも未だにその能力は分からない。
閑話休題。
二人の武器にそれぞれ魔力が流されていくのが、見て取れる。
あれ?随分と魔力を流すな、二人とも。そして、目が血走ってる!!
カケルとリムリスが口を開く。
「saintⅴ:雷轟雷撃!!」
「二重詠唱iconⅵ:爆炎!!」
カケルは右腕のナックルに魔法を付与し、それを結界に突き刺す。
リムリスは魔力に属性を付与し、それにアレンジを加えたものを結界へと魔力弾を放った。
刹那に、俺は不味いなと感じた。
問題がそれぞれが放った魔法だ。
カケルは中級魔法を、リムリスは初級魔法をアレンジさせ、中級魔法並…いや、それ以上の攻撃力にさせた。
如何に、中級魔法であり守護に特化した魔法でも、この魔法等に耐えられる訳が無い。そして、更なる禍も想定してしまう…。
二人が放った魔法は、案の定結界を壊した。だが、結界だけでは威力を相殺出来ず、そのまま一直線上にある大講堂へ………。
読んで下さった方、ありがとうございます。
本作品は私(吽)と阿で執筆した作品です。
阿が原案を出し、それを私が文章にしています。
文章で至らない点は多数あると思いますが、御指摘や御指南のほどよろしくお願いします。
内容は………阿の好きなように進んでいくと思います。ですので、私は知りません(笑)
不定期更新になると思いますが、宜しくお願いします。