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Change Ring  作者: 桜香 辰日
第四話 ~アウトドアって一人一つは嫌な思い出ありませんか?~
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第四話 Ⅲ

 天国に居ないお爺ちゃん、お婆ちゃん、お父さん、お母さん。

 合宿初日。今、俺はその合宿場所であるルブールの森へと向かう馬車の中に居ます。

 まだ目的地のもの字も見えませんが、早くも心が折れそうです。

「……………………」

 早朝、先生達に連れられ、学院の正門の前には大型の馬車が23台。内20台それぞれに2班分の道具と班員計10名が乗り込み、後の3台には教師達と食料や医療器具などが乗っている。

 エルの心が折れそうなのは、馬車に乗り込んだメンバー達がかもし出す空気が原因である。

 馬車に乗るのは班毎なので、勿論もちろん班員であるアマンシオとガロとサルバが居る。

 これだけでも気が滅入るのに、エルを心配したロウェン達が乗り込んできたのだ。

 心配してくれるのはありがたい。しかし、ピリピリしていて風船が今にも破裂しそうな上に胃にズシンとくる重い空気を作るのは止めてくれないだろうか。

 おかげで溜息すら吐けないし、何だか息もし辛い。

 気をつかってくれた手前で申し訳ないけれど、一緒に乗るならジョルジオの班が、というよりジョルジオに乗って欲しかった。彼は処世術に長けている。きっと最低でも溜息を吐ける空間にしてくれただろう。

 まぁ、ロウェン達とジョルジオ達以外の班なら、親の権力をかさに着たアマンシオ達の言葉にやられるから、今の雰囲気でもまだマシな方なのだろうけど。

 と思う以外に自分の心を軽くする道が無い。

 こんな中で、落ち着きなく左右に視線を振りながら両隣に座っているユウキとラポは癒しである。男に癒しというのもあれだが。2人共、そんなんじゃ残り4時間を乗り切れないぞ。言ってやりたいが言えない。

 案の定、1時間後にグッタリと疲れた2人はエルの癒しにならなくなった。


◇◇◇◇◇◇◇


 馬車の中で揺られて5時間。エルの目の前には大木の群れ、ルブールの森があった。

 周りはゾンビの様に緩慢な動きをする生徒達ばかり。

 馬車が初体験というのはまれであるが、長時間乗るのは初体験な人は多かったらしい。

 教師達はその光景を呆れも笑いもせず動いている。毎度の事なのだろう。

 ところで、人間の集中力は普通30分程度しか続かないらしい。5時間ずっと集中し続けるなんて余程よほどの事がなければ無理な話である。

 こんな事を言ったのは、馬車での長時間の移動に耐性があるはずのロウェンとマリアが潰れているからである。

 ついでに言っておくと、一緒に乗っていたナディアとソフィア、ユウキとラポ、アマンシオにガロにサルバは体と心の両方に疲労という名の避けられない攻撃を受けており、ロウェンとマリアより重症だ。

 そして、限られた時間と詰まっているスケジュールはすでに重いダメージを受けた生徒達の体と心が回復する余裕をもうけてくれないのである。

「全員、集合!」

 ほらな。

 休憩時間の終了を告げる無慈悲な宣告に、再びのろのろとゾンビな動きを見せる生徒達。

 仕方無いなぁ、と苦笑いを見せる教師達の前に全員が集まり、これからの予定を確認する。

「今から班毎にテントを張る。やり方は講習で教えた通りだ。場所は今いる辺り、では始めろ」

 各班に支給されたドーム型のテントは1人用と4人用、または2人用と3人用のセットのどちらか。

 基準は男女比。全員同性であれば2人用と3人用のセットになる。

 エルの班は全員男なのでこのセットだ。当然ながら、組み合わせは2人用がエルとラポ、3人用がアマンシオとサルバとガロである。

 レクチャーはここに来る前の講習で学んでいるので戸惑う事は無い。真面目に講習を受けていなくても周りを見ていれば出来る。

「ラポ、手伝ってくれ」

 指示された後、さっさと自分達の支給品の下へ歩いて行き、テントを引っ張り出して地面が平らな所を選び手招きする。

「うん」

 馬車の影響でまだ地面が揺れている様な感覚がするのだろう。やや覚束おぼつかない足取りでラポが近寄ってくる。

「これ持っててくれ」

「分かった」

 ポールを十字になる様にテントに通し、四隅の金具へ差し込み固定する。

 それを更に地面と固定させ、シートを掛ければ完成だ。実に単純である。

「おい。終わったんならこっちもやれよ」

 一段落したので休んでいると、後ろから耳に入れたくない声が掛かる。

 無視するのが一番だが、そうするともっと面倒な事になるので仕方なしに振り返る。

 視界に入って来たのはポールも通されていないテントと、その脇でだらしなく地面に座り込んでいる班員3名。

 こちらに目を向けているのはアマンシオだけだ。

「自分達のテントは自分達で張れと言われたと思うんだけど」

 エルの咎める文句は棒読みだ。

「班長の俺がやれって言ってるんだ。言う通りにしろ」

 班長命令(・・)ね。

「……」

 これ以上相手をするのも返事をするのも無駄に思えたから、無言でチャチャッとラポと作ってやる。

 ただし、地面は凸凹な場所を選んだ。

 俺は甲斐甲斐しく何から何まで優しく世話を焼く執事では無い。

 もっとも、そんな出来た執事がアマンシオに仕えるかどうかははなはだ疑問であるが。

 ああ、胡麻摺ごますり目的なら有りるな。

 そこまで考えて、我に返った。

 不味い。戦っている訳でも無いのに軽くスイッチが入っていた。

「……落ち着け」

 自分に言い聞かせるだけの、誰にも聞こえない小さな囁き。

 前に傾けていた首を後ろにけ反らせる。

 雲一つ無い快晴。

 心を占めていた嫌な感情と自分がちっぽけになり、感覚が広がっていく様な気がする。

「ふぅ」

 改めて思う。


 3日って、長い。


 お読みいただき、ありがとうございます。


 一ヵ月以上も休んでしまいました。申し訳ないですm(_ _)m

 恐らく今後もこんな風になっちゃいそうです。

 気長にお待ちいただけると嬉しいです。

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