第一話 Ⅷ 上
お久しぶりです。
第一話 Ⅷ 上、お楽しみいただければと思います。
神官部の部室は魔術科と魔具科校舎の間に建っている生徒会棟にある。
エル、ロウェン、マリアの三人はそこを目指して歩いていた。
「隠すつもりは別にないんだが……、バレると思うか?」
少し悩んで二人に尋ねる。
「どうだろうなぁ……」
ロウェンは腕を頭の後ろで組んで言う。
「神殿に来たことがないなら大丈夫だと思うけど」
上の方に視線を向けながらマリアが言う。
「神官候補生だったらアウトだな」
「そうね。色を変えてるけどさすがに騙せないと思うわ」
(騙すって……)
別に騙すつもりは全くないのだが。
(いや、あまり変わらないか)
苦笑する。
どちらにしろ自分のことを隠そうとしている部分は同じだ。
そして、話すのも嫌、隠すのも嫌という矛盾した気持ちが自分の中にある。
(我儘だな)
神官候補生とは神官になる前に神殿で経験を積んでいる者のことで、神官見習いと呼ばれることもある。
簡単に言えば、神官のヒヨコだ。卵ではなく。
神官候補生は、体術や剣術などの戦闘訓練をしたり、仕事の手伝いをしたりすることで神官に必要なものを身に付ける。
その中には魔術も入っている。
その為、神官候補生は他者より早くチェンジリングを潜ることが多い。
三人が学院の入学式より前にリングを潜っていた理由がこれだ。
魔術を学んでいるのなら学院に入る必要がないじゃないか、と思うかもしれない。
だが、神殿で見いつけるのはそのほとんどが魔術を使うことであり、知識について乏しい為、魔術学院に入る必要があるのだ。
また、神官候補生は神官の推薦と同じく身内や友人が多い。(つまり、神官候補生ならば神官の推薦を持っているということになる。勿論例外もあるが)
その上、数も多くはないので自然と顔見知りぐらいにはなってしまうのである。
エルの気持ちの落ち込みを察したのか、ロウェンが明るく言う。
「まぁ、なるようになるって。当たって砕けろ!」
告白ではないから、当たって砕けたくはない。
「そうそう。どうせ行かなきゃならないんだから、ズバッと済ませちゃいましょ!」
マリアも元気づけてくれたが、別に相手を切り捨てに行くのではない。
言い回しに少し違和感があったが、心が軽くなる。
二人のこういう前向きな性格には救われると同時に羨ましくもある。
「そうだな。行くか」
暗い感情が消えたエルは笑って言った。
そんな三人のちょっといい雰囲気をぶち壊すものが神官部で待ち構えていた。
お読みいただきありがとうございました。