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Change Ring  作者: 桜香 辰日
第三話 ~引いて欲しくない時に限って風邪を引く~
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第三話 ⅩⅨ

 いらっしゃいませ。

 お楽しみいただけたら幸いです。

 場所は戻りグラウンド。

「何だよこれ……」

 ロウェンが呆然と呟く声が、隣に居るはずなのにまるで遠くで言っている様にマリアには聞こえた。

「1人じゃ、無かったの?」

 予想外過ぎてマリアも呆然と呟くしかない。

 混乱する。

「意味分かんない」

 こんなに人の多い場所で、気配を一切察知されずに現れる事が出来るというのに、何故なぜ今出て来るのか? しかも大人数で。

 今、ここで襲うより、例え結界が張ってあったとしても人が眠る夜か、またはほとぼりが冷めた頃に行動した方が余程効率が良いだろうに。

 ―――今でなければならない理由がある?

 2人して突っ立っていると、黒マントがこちらを向いた。

「考える暇は無いってか?」

 ロウェンの手首にあった黒いブレスレットが剣へ変わり、彼の手に収まる。

「みたいね」

 マリアも白いブレスレットを剣へと変え、構える。

 通り魔がこちらに走り出すと同時に、2人も戦いの渦中へ向かって走り出す。

 走りながら、マリアは前方へ腕を伸ばし、手を開く。

 先ずは牽制。

牡丹ぼたん

 瞬時に魔方陣が展開され、大きな火の玉が現れ発射される。

見た目も大きく、狙いも分かり易い攻撃を通り魔達は容易たやすく避けた。

「やっぱ、あんなのに当たる間抜けは居ないわよねっ!」

 グラウンドは案外狭い。

 通り魔達と空いていた距離をマリアとロウェンはあっという間に詰めた。

 先程の攻撃で足を止めた内の1人にマリアは切り掛かる。

 刃挽はびきのなされた学院支給の武器なので気にしない。

「そりゃそうだろっ」

 同じく通り魔達の中の1人に切り掛かるロウェン。

 剣を振り下ろされた通り魔は飛び退く事でそれを避ける。

「本気で行くわよ」

「当たり前」

 初撃をかわされたマリアとロウェンは背中合わせで言い合い、マリアはその場を動かずロウェンは地を蹴った。

 再びマリアの掌に魔方陣が現れ火の玉が作られ、発射される。

 その進路上にいた通り魔達は最小限の動きで、火の玉に道を開ける様に避けるが。

「甘いっ!」

 マリアは走り出す。

 誰も居ない地面に着弾した火の玉が、地面にぶつかると同時に爆発。

 近くに居た通り魔を吹き飛ばす。

 <牡丹・星>

 <牡丹>の派生であるこの魔術は着弾と同時に爆発する。

「ハッ」

 一番近くに吹き飛ばされた通り魔をマリアは切った。

「!?」

 彼女の剣は確実に敵を捕らえて切ったが、あまりに軽過ぎる手応えと一瞬で視界から消えた黒いマントにマリアは驚愕する。

 直後、目の前にヒラヒラと舞い落ちる、千切られた様に歪に切られた2枚の紙。

 2枚合わせれば名刺サイズ程になるだろうか?

「……っ。式神っ!」

 自分が驚いた原因を舌打ちする様にマリアは口に出す。

 式神とは、何らかの媒体を用い、魔術にって生物の形を取らせた操り人形である。

 ここに居る通り魔達は全て式神なのだろう。

 ならば、容赦はしない。

「ロウェンッ!!」

 後ろで戦う気に喰わない相棒の名を呼ぶ。

「おうっ!」

 いらえを聞いた瞬間、振り向き様に魔術の火の玉をぶっ放す。

 <菊>

 発射される火の玉は<牡丹>と同じ。

 着弾と同時に爆発するのは<牡丹・星>と同じ。

 だが、<菊>は更に10個の人の拳大位の火の弾丸が火の玉から放たれ、敵を貫いた。

 弾丸が当たると、先程マリアが切り捨てた通り魔と同様に黒い姿は消え、紙となって地面に燃え落ちた。


◇◇◇◇◇◇◇


 地を蹴る動作と一緒に、ロウェンは魔術を使う。

 <フォッカー>

 効果は身体能力強化。

 魔術より剣技の方が得意で性に合っているロウェンは、戦う時には必ずこの魔術を使用する。

 だから練度はかなり高い。

「……!」

 例えば、一歩で急加速するとか。

 止まっていた物が瞬間的に加速すると、その速さが視認可能な速度でも人間の目は対象を見失う。

 一対一だったり相手が魔術で身体能力を強化していたら難しいが、この乱戦の状況下なら背後を取るのは簡単だ。

 黒い布でおおわれた背中をロウェンは左から右へぐ。

「?」

 空振りに近い手応えの後に、視界に映るのは裂かれた紙。

 式神。

 一瞬で答えを導き出すと、ロウェンは直ぐに次の目標へ駆ける。

 視線の先には彼の速さを予測してか、手のエストックを振り下ろす動作を始めている目標。勢いに乗っているロウェンはこのままではグサリと刺されるだろう。

 式神にしては良い判断。

 だが残念。

 ロウェンは態と<フォッカー>の出力を一気に落とす。

 普通なら出力の差に対処できずつんのめって転ぶ所だが、慣れているので転ばない。

 通り魔の腕が振り切れる直前で、<フォッカー>の出力を元に戻す。

 得物を振り切った最も隙が大きい瞬間に、ロウェンは下段から剣を振り上げる。

 切られた白い紙片が宙を舞う。

「ロウェンッ!!」

 背後から気に喰わない相棒の呼び声。

「おうっ!」

 応えると同時にその相棒へと高く跳躍。

 空中でマリアが背を向けている敵の位置を確認。

 魔方陣を展開する。

 <サジタリウス>

 十数本の雷の矢が発射され、黒いマントが焼け焦げた紙へと変化した。

 スタンッ、とマリアの隣に着地し、ロウェンは言う。

「これで大分片付いたか?」

「ええ。残りは他の人達で何とかなってるわ」

 マリアの言葉通り、残りの通り魔も次々とただの紙へと変えられていた。

「先生や生徒達が強いっていうより、通り魔が弱いのね。じゃなきゃこんな一瞬で片付けられないもの」

「式神の数が多かったから、当然だけどな」

 操る数が多ければ多い程、式神の操作は難しくなり動作もにぶくなる。

 ロウェンとマリアは剣をブレスレットに戻した。

 足元の砂交じりの地面の上の、大量に散乱している歪な形の白い紙が風に吹かれた。


 お読みいただき、ありがとうございます。

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